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二日目夜 つかの間の休息

待っていてくれた方ありがとうございます。

槍騎兵ランツィラーは完全に姿を消してしまった。


ついさっきまで、文字通り死を間近に感じながら戦っていたのに、唐突にその状況が去って、テンションが急に変わる。


とりあえず深呼吸して混乱した頭を整理する。

こういう気持ちは初めてじゃない。レースでトップを走り続け、ゴールを抜けた時に感じたのに似ている。

ただ、その時と違うのは、まだレース継続中ってことだ。敵は去ったがまだ飛ばなくてはいけない。緩んでる場合じゃない。


「行けるか?」


しばらくは重りをつけられてる感じがあったが、次第にそれは無くなっていき、震電はいつものように飛べるようになった。

グラヴィティカノンの効果が切れたんだろう。効果時間は10分ってところだろうか。


アクセルを踏んで旋回し、改めて震電の挙動を確認する。

幸いにもブースターを使ったことによる震電の致命的な損傷はないようだ。

もしこれでどこかにガタが来てしまったらレースどころじゃなかったが。そこだけは幸運だったかもしれない。

ただ装甲の各所からきしみ音が聞こえるのが不安ではあるが。


「まあなんとかなるか……」


しかし、騎士の機動力を殺せるが、10分程度で効果が切れるというグラヴィティカノン。この効果が強いのかどうなのかは悩ましい所ではある。

タイマンでは無類の強さを発揮する武器なことは確かだ。身をもってそれは体験した。


だが、おそらく互いがカバーし合える集団戦では……足を止めてもうまく仕留められる保証はない。

効果時間がさほど長くない上に、弾速が遅く射程が短くカノンに劣る点も多い。消えていった理由もわかる気がした。

それに、当てにくい飛ぶ道具を使って足を止めに行くくらいなら、当てやすい飛び道具で直接ダメージを取る方が、たしかに効率はいいだろう。


騎士の実戦は負ければ命に係わる。

F1とかもそうだが、機体の仕様がある程度似た方向に進歩し、異端の武装は淘汰されていくのは無理はない。


『大丈夫ですか?続行されますか?』


旋回して震電の具合を確かめていると、間に割って入ってきた騎士団の騎士から通信があった


「大丈夫だ。もちろん続行する」


とどめを刺す最高のタイミングで割って入られたので一瞬腹は立ったが。

パイルバンカーを失っていても、こっちはまだグラヴィティカノンの影響下だったし、極端な話、ケリやパンチでも攻撃はできる。

まあ悔しいといえば悔しいが、助けられた、と言えなくもない。


『所で……さっきのは?』


「海賊だ。参加者でもあるが」


恨み事も含めて言っては見たものの、特に反応はなかった。

このレースに海賊が参加していることは公然の秘密のようだし、参加者はルールを守れば海賊であってもOK、ということなら、騎士団員にとってはだからどうしたってことかもしれない


---


震電の挙動を確かめて、改めて旗門フラッグゲートの方向へ機首を向けた。


騎士団の騎士が並走するように飛んでくれる。

最悪あいつが戻ってきても、これなら問題はない。まあ、左手を飛ばされた状態で戻って来たりはしないだろうが。


機動は今のところ問題はないが、厳しかったのはひびが入ったキャノピーから吹き込む身を切るような外気だった。

綿を詰め込んだ防寒着と頭巾、口元を覆うマフラーのようなマスク、手袋と、騎士にのるときは防寒対策はする。

しかし、それはあくまでキャノピーがあって直接外気に晒されていない時の装備だ。


高速で飛行すると、氷のように冷たい風がコクピットに吹きこんでくる。

特に何も覆いがない顔が厳しい。ゴーグルがないから肌や目に冷たさが突き刺さってくるような気がした。指先が冷たいを通り越して痛くなってくる。

実際に飛んでいた時間よりはるかに長く感じる凍えるような飛行を終え、ようやくその日のゴールまで辿り着いた。


---


昨日と同じく、震電をアクーラに着艦させた。

昨日と違うのは、周りには飛んでいる騎士もおらず、甲板もがらんとしていることだ。


『お疲れ様です、ディートレアさん。震電の着艦を確認』


甲板員の声が聞こえる


「一応聞くけど、俺は……」


『ええ、最下位です。現在は14位』


遠回りをしたあげく槍騎兵に絡まれたし、戦闘自体も短くはなかった。

その後のグラヴィティカノンの効果が消るのを待っていた時間もあったし、まあ当然の如く、というところか。


しかし、それでも14位。確か最初は30機近くいたわけだから、半分がリタイアか。

俺も連日手ごわいのに絡まれて、我ながらよくまだ飛べているって話だ。


格納庫に降りると、いつも通り船員が出るのを手伝ってくれた。

暖房のようなものが効いているのか、格納庫の中は少し暖かい。すくなくとも冷凍庫状態だったコクピットに比べると天国だ。手をこすり合わせて指先をあっためる。


改めてみると西洋の騎士の兜のような格子状の頭部装甲の半分近くが切り裂かれキャノピーには大きくひびが入っている。

もし完全にキャノピーが割られたら機体は動いても俺が動けなくなっていただろう。間一髪ってところか。


「このキャノピーは修理してもらえるか?」


「キャノピーの交換は予備がありませんから出来ませんので、ヒビを埋める形での修理になりますね


工具ベルトを着けてキャノピーの様子を見ていた船員が答えてくれる。

交換は無理だが贅沢は言えない。というかあの外気が入り込んでくる状態だと、明日は飛べたもんじゃない。


騎士は基本はワンオフで製造されていて、部品も替えが効かないものが多い。

騎士団の騎士であるフレイヤやレナスは規格化されていて予備部品もあるんだろうが、ここは仕方ない。


しかし、コクピットとかの一定の部品は規格化した方が効率的になって、騎士工房全体にとっても良いと思うんだが。

フローレンスの工房の様子を見る限り、産業革命の中期って感じで、小規模な工房がそれぞれ独自に動いているという感じだ。まだ製品の規格化って段階までは辿り着いていないんだろう。


まあ不便なことくらいは俺じゃなくても気づくわけで、工業ギルドとかは何か考えているかもしれないが。まだ統一には相応に時間はかかるんだろうな。


「それで十分だ、頼めるか」


「ええ。大丈夫です」


「じゃあ頼むよ」


整備担当の船員たちが震電を取り囲んで何か作業を始める。

いつだってああいう裏方がいてこそ俺たちは安心して戦ったり走ったりできる。その点は地球もこっちも変わらないな。


---


一休みして湯浴みをさせてもらった。


こっちでの湯浴みは、お湯を入れた大きめの盥のようなものから、手桶のようなものにお湯を汲んで体にかけるって感じの、シャワーというより行水みたいなものだ。

流石に日本のように湯船につかる習慣はこっちにはない。あっても飛行船内でそんな贅沢は望めない。


一番最後に入ったにもかかわらずお湯が暖かかったのは助かった。

冷え切った体が少しは温まる。


痛む指を湯につけながら今後のことを考えてみるが……正直、この状況になると、どうにもならない。

俺が着艦した時、甲板にさえどの機体もいなかったことを考えれば、13位との差も相当あるだろう……無理に順位を上げに行くより、大人しく完走を狙うべきか。


地球のレースだって、同じポイントなしであっても完走の方がリタイアよりは評価が高い。

なんせメイロードラップはフローレンスでは最高峰のレースだって話だし。初参加で完走、というのもまあ悪い結果ではない。

しかし、ただ完走の為に漫然と飛ぶのもつまらない。


もやもや色々と考えていたが、まあ悩んでいても仕方ない。

頭から熱いお湯をかぶって湯浴みの部屋から出た。


---


用意された新しい服に着替えて食堂に行ったが、広い食堂は閑散としていた。

他の皆はほとんど食事は終わっているらしい。まあ残っている奴が少ないってのもあるんだろうが。


隅の方でアレッタがお茶を飲んでいる。横には昨日と同じく、うず高く皿が積み上げられていた。

話しかけようかと思ったが。大差をつけられてるこの状況では、なんか近寄るのも気まずい。


壁際のテーブルの料理はきちんと補充されているようで、まだ結構な量の料理が残されていた。

湯浴みにかなり時間かけたはずだが、ここら辺はサービスがしっかりしてる。

湯浴みのお湯が暖かかったのも含めて、サポートはしっかりしていてありがたい。


とりあえず、温かいスープやグリルした野菜や肉、パンやチーズを適当に皿に盛りつける。

時間的にはまだ4時くらいのはずだが、緊張状態が続いていたからからか、香ばしいにおいをかぐと急に腹がすいてきた。


システィーナが昨日と同じく、隅のテーブルでワインを飲んでいた。目が合うとグラスを上げて挨拶してくる。

今日は俺も一杯やりたい気分だ。ちょっと酒で体をあっためたい

料理を乗せたトレイを置き、スティーナの前に座った。


「おや、遅かったですね」


「一杯もらえるか?」


「昨日とは違いますね。やけ酒ですか?」


ちょっとイヤミっぽく笑いながら、グラスにワインを注いでくれた。

一口でグラスを飲み干す。酸味と苦みのあるワインが喉を通り抜けていった。


「うるせえ。昨日はお前に絡まれるわ、今日も変なのに喧嘩しかけられるわで散々だ」


今の生き残りのうち、一番タフなレース展開になってるのは俺だと思う。


「マリクでしょう?あいつを退けるとは流石ですね」


「知ってたのか?」


これは二重の意味でだ。

マリクと知り合いなのかって意味でもあるし、俺に仕掛けてくるのを知ってたかって意味でもある。


「あいつは、昨日の食事の時や、今日の出発前にあなたのことをずっと見てましたからね。

なにか因縁があるんだろうとは思っていたのですが」


全然気づかなかった。流石百戦錬磨の海賊。目ざといな。だが……


「……昨日言えよ、それ」


情報があればこちらも対処の仕様があったというのに。


「私は人の戦いに水を差すような野暮はしませんよ。

それにあなたなら生き残るだろうと思っていましたし」


しれっと言って、俺の皿からチーズをひとかけら取って口に放り込む。

全くありがたい評価だが、忠告してもらえる方がよかったぜ。


「そういえば、あいつと面識があったのか?」


スープをスプーンで口に運ぶ。

トマトのような風味と野菜の味がして美味い。温かいスープが胃に落ちて、体が内部からあったまってくる。


「会ったことはありませんが、あいつがどこかの商会の護衛をしていた時に一度戦ったことが有ります。

かなりの使い手ではありましたが、堅実でつまらない戦い方でしたね」


ワインを飲みながらシスティーナがいう。

褒めているようでもあるし、ディスってるようでもある評価だ。


プロとしては、つまらないといわれようと堅実に結果を出すのは褒められることなんだが。戦いを楽しむタイプのこいつには好みじゃないのかもしれないな


「そういえば、お前は今何位なんだ?」


「7位です。今日は2機落としましたよ。

あなたほどではありませんが、なかなか歯ごたえがあった。流石はメイロードラップの参加者ですねぇ」


やたらとリタイアが多いのはこいつのせいじゃないだろうな。


「で、最下位のあなたは明日どうするつもりですか?」


嫌なことを聞きやがるな。

湯浴みの時には結論が出なかったことだが、どうしたものか。

一瞬考え込む。


「ふふ、どうせ最下位で対してやることもないでしょう。明日は私と戦いなさい」


なんとなく、こいつはこう言うかもなって気はしてた。が。


「いやだ」


今のところ派手なダメージはないが、震電にはかなり負荷がかかってるのは間違いない。これ以上の戦闘はできれば避けたい。

が、それ以前の問題として。


「なぜです?もう優勝の目はないですし、私と遊んでも構わないでしょう?」


「もう戦闘は勘弁してくれ」


こいつのラサともう一戦なんてのは、万全の状態でも避けたいってのに。

今の状態だと確実に殺される。


「そうではありません。待っていてあげますから、今度は操縦を競いましょう」


「お前に何の得があるんだ?それ」


7位がダンラスの14位を待つ意味はないと思うんだが。

すこし厚めに切った肉を口に入れてワインを飲む。この世界でも、肉とワインは合うな。少し塩が強めなのが疲れた体に効く気がした。


「私はあなたと競うためにこのレースに参加したといったでしょう?

アレッタに絡んでもよかったんですが、大差をつけられてしまいましたからねぇ

私も明日どうするか考えていたんですよ」


「上位入賞とかは狙わないのか?」


トップとどれだけ離れた7位かは知らないが、7位なら優勝は無理でもまだ上位を狙えるポジションだろうに。


「優勝にも賞金にも興味はありませんよ。レースが終わるころになったら離脱するつもりですから」


「なんでだ?

誰かに雇われるとかいう話は別にしても、賞金位もらえばいいんじゃないのか?」


あまり結果に拘るタイプではないのは俺にも分かるが。

ただ、海賊稼業にも金は要るだろうし、賞金をとれるならそれに越したことはないと思う。


「あなたねぇ……このレース中はさすがに騎士団も私に手出しはしないでしょう。

ですが終わった後にまで何もしないという保証はありませんよ」


呆れたような顔で言われる。

なるほど。海賊の参加を黙認しているとはいえど、最後まで手出しをしないなんて保証はないわけだ。

騎士団もそこまで善人ではない……かどうかは分からないが、こいつが用心するのは当然だろう。

しかし、俺がシスティーナに感心するってのもおかしな話だな。


「まあ、私の正体はバレてはいないとは思いますが。しかし用心はします。

戦いの中で私より強いものに倒されるのは望むところですが、表彰式にのこのこ出て行って捕まって、さらし者にされたあげく処刑されるのは願い下げですからね」


いいながら俺のグラスにワインを注いでくれる。

ボトルはこれで空いたようで、最後のワインの一しずくがグラスに落ちた。


「いずれにせよ、お互いただ飛ぶだけでは退屈でしょう。考えておきなさい」


自分のグラスに残ったワインを一口であおって、システィーナが席を立った。



エタってはいませんので、引き続きお付き合いください。

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