一日目第三区間 ショウダウン
ラサの右手の大型のカノンから光弾が飛ぶ。あわててかわした。
カノンが見慣れない形をしている、というか、グレゴリーが使っているものより大きい。
銃身が短めだが、銃口が2つある。普通のカノンの下にもう1個大きめの砲口をマウントしているような感じだ。
ゴールに向かおうとしても先を読むように回り込まれてカノンで道をふさがれる。
腹をくくって倒すしかないか。半端に逃げようとして時間を消耗するのも、迷いながら戦って損傷を受けるのも不味い。
こうなった以上は、一刻も早く仕留めてやる。震電の軌道を変える。
「やる気になったようですね」
回り込む軌道の行き先をふさぐように下の砲口から赤い光弾が放たれた。これはさっきの爆裂弾みたいなやつか。急ブレーキをかけて震電を下に逃がす。
予想通り赤い火球が青い空に炸裂し、薄くかかる雲を噴き散らした。爆音がコクピット内まで響き震電が揺れる。
あのまままっすぐ行ってたらあの火球に突撃するところだった。
見るとカノンから薬莢のようなものが落ちていく。
しかし。一定距離を飛んで爆発するグレネードのような爆裂弾、薬莢のようなもの使用。どこかで聞いたことがあるが……
いずれにせよ見たことのない武装だ。どこかの工房の新武装だろうか。
とにかく距離を詰めれるか。アクセルを踏んで突撃する。が、その行く手を阻むようにグレネードを撃たれた。
「クソが!」
軌道を変えると、こっちの動きを読み切ったかのようにカノンの弾が飛んでくる。
シールドで止めることはできるが、エーテル同士の相殺でスピードが落ちた。
「やるじゃねぇか」
こっちもカノンを構えて打ち返す。が。
「話になりませんね。私が目をつぶって打つ方がましですよ」
全く当たらない。まともな射撃戦をするのは初めてだが、我ながらひどい。
ロックオン機構も照準もないマニュアル射撃で、高機動の目標をとらえるのはめちゃくちゃ難しい。しかも利き手じゃない左手だからますます照準が定まらな。左手をカノンにしたのはミスだったかもしれない。
訓練ではそこそこ当たるが、あれはあくまで訓練だから、と実感する。
レースの世界でもそうだったが、やはり実戦とトレーニングでは違いすぎる。実戦できちっと当てれるグレゴリーは大したもんだと感心してしまう。
シビアな実戦、しかも相手はメイロードラップの参加者の手練れの乗り手では不慣れな飛び道具じゃ対抗できん。当たり前の話ではあるが、ローディとは動きのキレが比較にならない。
「ちっ。俺は接近戦専門なんだよ」
突撃しようとするとグレネードで道を阻まれ、火球を上下によけてもその先にカノンを置かれる。完全にこちらの動きが読まれてるな。
軌道上に火球やカノンの弾を置くように撃たれるとトップスピードに乗せて突撃ができない。
いつもなら盾を構えて強引に強襲するところだが、あの火球というかグレネードは、バリアとかならともかくエーテルシールドでは防げない。
しかも、ひらひらと舞う蝶のようにうまく距離を保ってくる。逃げ撃ちのライン取りが上手い。単純な機動力なら震電の方が上のようだがなかなか距離を詰めさせてくれない。
かといって射撃戦では練度の差が歴然だ。カノンの撃ち合いでは勝ち目がない。こちらは当たる気配が全くないが、あいつのカノンの弾丸は震電の近くをかすめてく。
遠距離戦ではあいつのほうがかなり上手だ。
結局、なんとか近距離戦に持ち込むしかないってことか。
……しかし、震電の機動力で近接戦に持ち込んでさえしまえば圧倒的に優位になる上に、今のところ俺の突撃を止めることができた奴はあまりいないから、今のスタイルに甘えてしまっている気がする。
真の強者になるためには、もっといろんな局面に対応できる幅の広さを身につけないといけないな。
まあでも、そのことは後で考えるとして。今はとにかく局面を打破するのが先だ。
今やれることで何とかするしかない。
うまく行くかは分からないが……少しスピードを絞りつつアクセルを踏む。
「あなたの突撃は油断ならないが……今度はどうしますか?」
グレネードを放ってくる。ここまでは想定通り。ここで上下に避ければあいつの思うつぼだ。読みを外す。
グレネードが撃たれたのを確認し、腕をアームレバーから引き抜きキャノピーに突っ張った。
同時にブレーキを床まで踏みつけ、アクセルを抜く。普段の減速はアクセルとブレーキはヒール&トゥのように同時に踏むが、今回は違う。アクセルを完全にリリースしてのフルブレーキだ。
俺の操縦に応えて震電に壁にぶつかったかのように失速した。前に飛びだしそうになる体を腕で支える。
視界が爆炎で真っ赤にそまり、機体が大きく揺れた。
「とまれぇ!」
かろうじて火球に突っ込む寸前で震電が止まった。
完全に失速した震電がふっと沈む瞬間、今度はアクセルを床まで踏みつける。弾かれたように震電が前に飛びだし、今度はシートに体が押し付けられた。
薄くなった火球をシールドを構えて突っ切る。
「よけなかった?いったいどうやって?」
上下左右によけると思っていたんだろう。騎士の高機動戦闘で、ほぼ完全に止まるってのはセオリー外のはずだ。俺もやったことはないが。
震電の並外れた加速能力があればほぼ完全停止状態からでも突撃体制に移れる。
そして。
「見切ったぜ、その弱点」
ラサがもう一発撃ってくる。が、この距離じゃもうあれは有効な武器じゃない。
震電をわずかに上に飛ばして赤い光弾を躱した。後ろから爆音と振動が響く。
ああいう広範囲を吹き飛ばすグレネードのような武器は、射撃直後では起爆しない。さっきから見ていても一定の距離を飛んでから爆発している。
あまり近くで起爆するようじゃ自分をまきこむから当然だが。
「さすが、いい目をしてますね」
カノンを打ってくるがそれはいつも通りエーテルシールドで凌ぐ。
下がりながら撃つラサよりこっちの距離を詰めるスピードの方が速い。赤錆色の機体が一気に近づく。
盾を構えての突撃は俺の必殺のパターンだ。沈めてやる。
「ブレード!」
右手のエーテルシールドがブレードに変化する。
左手のカノンのトリガーを引く。ラサが下がりながら光弾を避け、シールドで受け止める。動きが止まった。
震電を右に振りブレードを振りかぶる。ラサが左手のシールドを上げて攻撃に備える。
貰った!その動きを確認して左に急旋回した。
フェイントをかけて狙うは右手、あの妙なカノンを叩き壊してやる。
「くたばれ!」
右から左に切り抜けるようにブレードを振る。
仕留めたと思ったその瞬間。
ラサがスピンするように動いた。半身のような体制でカノンが機体の陰に隠れ、左手のシールドが震電のブレードを受け止めた。
「止められた?」
近距離でも戦えるのか、こいつ。エーテルブレードとシールドの相殺で震電とラサが離れる。
こいつ、接近戦もかなりできる。この初太刀で仕留められなかったとなると。こいつとここで争うのはまずい。
「接近戦も望むところですよ!」
後ろに吹き飛んだラサのシールドがブレードに変化する。こちらに向かってきた。
「明日にしろ、このバカ!」
操縦席のスイッチをひねった。震電の胸装甲に追加されたヘッドライトが光る。
LEDのハイビームどころじゃない、分厚い雨雲も照らし出すほどの特注のライトだ。真っ白い光がラサの頭部に突き刺さった。
赤茶けた機体の頭部が白く照らされる。
「うっ」
コミュニケーターから悲鳴が聞こえてラサの体制が崩れた。
うまく行った。ここはツキが味方してくれた。アクセルを踏み震電を上昇させる。ついでにカノンを下向きに連射した。
「ぐあぅ!!」
適当にばらまいただけだったが。コミュニケーターから悲鳴が聞こえた。どうやら何発かは当たったらしい、ざまみろ。そのまま水平飛行に移りゴールを目指す。
光で目がくらんだのは一瞬だろうが、こちらの位置をもう一度とらえなおして追うまでにはそれなりの時間がかかる。
ハイスピードでの競り合いではあれば、その10秒程度は決定的な差だ。
「くそっ、まちなさい!」
「誰が待つか!」
ファティマの声がコミュニケーターから流れてくるが。こっちは旗門に向けて突撃する。
俺より先に何機もが旗門をくぐっていくのが見えた。
いまおれは何位なんだ。ていうか、何の恨みであんな場所で絡みやがったんだ、あいつは。
あのままなら2位は行けたってのに。
前を飛ぶ騎士を全開走行で追う、がわずかに届かなかった。
「ちくしょう!」
悪態をついたところで震電が旗門を通過した。
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旗門を抜けて前の騎士を追うように飛ぶ。周りには騎士団のレナスも何機かいて先導するように参加者の周りを飛んでいる。
その先には久しぶりに見る工房飛行船アクーラの巨体があった。その上を何機もの騎士が旋回している。
「旗門通過を確認しました。ディートレアさん。
順次アクーラに着艦していただきます。しばらくお待ちください」
コミュニケーターから騎士団インのものらしい声が聞こえる。
「俺の順位はいくつだ?」
「……たぶん12位ですね。あとで確認してみてください」
12位だと、なんてこった。2位もありそうだったというのに。見ていたらあのラサという騎士もゴールしてきた。
装甲の何カ所かに穴が開いているが致命的な被弾ではなさそうだ、残念ながら。
撃墜はルール違反だから不味いが、戦闘不能になっていてくれれば後腐れがなかったのに。
「やりますね。ライトで目くらましをするとは。あんな使い方もあるんですね」
「てめえにはあとで言いたいことが山ほどあるぞ、この野郎」
「おやおや、私は別にルール違反はしてませんよ?」
コミュニケーターから聞こえるおどけたような口調がまた腹立たしい。
「つーよりだな、手前まさか……」
どうもこいつは会ったことがある気がする。というかあの近接戦の動きには見覚えがある。
続いて問い詰めようとしたとき。
「ディートレアさん、震電を下してください」
騎士団員の声がコミュニケーターから聞こえた。
言いたいことはあるが、今は着艦が先か。
上空を旋回して着艦ラインを整える。甲板員が振る旗を目印に、以前にもやったとおり甲板の真ん中のウォーターマットのようなものを引いた場所に震電を下した。
前に着艦した時は夜で松明以外に目印がなく暗闇の中に落ちるようで怖かったが、今日は甲板全体が目視で来たので降りやすかった。
その後はリフトで震電が内部格納庫に収容される。前のように震電に足場がかけられて、キャノピーが開けられた。
「お疲れ様でした。食事の準備ができておりますのでお休みください」
とにこやかにいった騎士団員がちょっと引いた顔をする。よほど今俺は不機嫌そうな顔をしているんだろうな。
足場に上ると周りには11機の騎士が着座していた。確かに俺は12位らしい。もちろん風精やマリクの槍騎兵もいる。
こうしてなんとも波乱の初日がおわった。




