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一日目第二区間 岩礁空域突入

第一の旗門フラッグゲートをくぐると風精ヴァーユが一気に加速する。ウイングからうっすら飛行機雲が流れる。

同時に何機かの騎士が震電を追い抜いていった。7機だ。スピードを上げて風精ヴァーユに追いすがる。


頭に叩き込んだコースを思い出す。第二の旗門フラッグゲートへはしばらくはフリーで飛べる区間が続くが、しばらく行くと浮石が多く点在する空域に入るはずだ。

ショートカットで岩場に突っ込むか、安全マージンを取ってそこを飛ばないかが大まかなコースどりの選択らしい。


早速開戦かと思ったが、他の騎士はいまは動きがない。

攻撃OKのルールとはいえど、序盤から乱戦になったりはしないわけだ。

戦闘になれば双方にリスクがある。牽制程度ならともかく、リタイアしかねないような戦闘を初日にはやらかさないのは当然だろう。

ただし風精ヴァーユに対しては別だ。先行逃げ切り型の高機動機を捕らえる最大のチャンスはここってわけか。


7機が次々と風精ヴァーユにカノンを浴びせかける。

風精ヴァーユが猛スピードで高度を下げ、雲海すれすれを駆ける。海面を疾走するボートのように雲が舞い上がる。

俺も海賊との戦いでやったことがある、雲海すれすれを飛んで雲を巻き上げて目隠しする飛び方だ


それを追うように、カノンの光弾が着弾した雲海から水柱のように雲が次々と吹きあがる。

風精ヴァーユには当たっていない。高速で逃げる相手を狙い撃つのはそう簡単じゃない上に……速度が速い。

回避動作で蛇行しながら飛んでいるからかろうじてついて行けているようだが、通常の騎士では苦しいだろう。追う7機がじりじりと引きはなされていく。


「ここで逃がすとまずいぞ」


「なんとか当てろ!」


「行き先を防ぐように撃つんだ!」


コミュニケーターから声が聞こえてくる。声の主はあの7機のどれかは分からないが。

この先の岩場のショートカットルートを飛ばれて先行されるともう追いつけない可能性はある。

7機は連携しようとしているようだがうまく行ってない。


風精ヴァーユが軌道を変えた。雲海から舞い上がる鳥のように、重量を感じさせない速さで高々と上空まで駆け上がる。

上昇速度も尋常じゃない。機動性なら互角かと思っていたが……震電や、システィーナのスカーレットよりも上かもしれない。


俺は近接戦専門だから実感としては分からないが、ロックオン機構なんて便利なものは無い騎士の射撃戦では、下向きの視点を急激に上に振られるだけでかなり戸惑うらしい。これはグレゴリーが教えてくれた。

それをきっちりと実行している。撃つ側がやられて困ることをを知り尽くしているんだろう。

カノンの光弾が空を切る。


「当たらねぇ!」


「速すぎる!」


焦りの声が聞こえる。

しかし、あの飛び方だと体にかかる負荷も半端じゃないはずだ。戦闘機動でわりと似たような飛び方をしているから分かるが、急上昇、急降下は猛烈にきつい。

もちろんシートとか様々なところに工夫を凝らしてあるにしても、俺より小さい体であの飛び方をしているとは。


「すげえな……」


なんとなく口をついて出た。

3年前からあの機体で勝っている、ということは。3年以上前からあの速度域に耐える体を作ってきた、ということだ。

火の精霊人の身体能力があっても、体づくりってのは地味で苦しい作業だ。

トレーニング理論も機材もない世界、試行錯誤しながらやってきたんだろう。しかもたった一人で。敬意を払わざるを得ない。凄い乗り手だ。


風精ヴァーユが上下に高度を変えながら蛇行するように飛び、カノンを躱し続ける。

先頭でレースを引っ張る風精ヴァーユ、それにカノンを浴びせる7機が第二集団、その後ろに俺の震電、それより少し後ろに大集団、というような位置取りになってきた。

後ろは様子見ってところか。


遠目に、白い雲に黒い点が浮かぶ空域が見えてきた。

どうやら、これが浮石の空域か。もとはと言えばコアの鉱山で、採掘が終わったところのなれの果てらしい。

思ったより縦にも横にも広い。浮石空域を上に迂回すればいいんじゃないかと思っていたが。相当の高空を飛ばなければいけない上に、かなり大回りになる。そう甘くはないか。


近づくにつれて、雲に混ざって小さ目の浮石が混じり始めた。

車もそうだが、高速でぶつかれば小さなものでも大きなダメージを負うことになる。

集中して飛んでくる石を躱す。


キャノピーの左側に何機もの騎士が飛び去って行くのが見えた。

後ろの集団の一部がコースを変えたらしい。浮石空域を避けて迂回するんだろう。

風精ヴァーユは迷わず岩場に突っ込んでいく。


「くそ!ここまでだ」


前を行く7機のうち3機が左にコースを変えた。

残りはスピードを上げて風精ヴァーユを追う。


「ここで離されたら終わりだ!」


「行くしかない!」


先を行く4機に震電で並びかける。おそらく此処でほかの騎士の後ろにつくのは危険だ。

風精ヴァーユには追いつけないにしても、ここは並んでおく方がいい。


「行くぞ!」


声を上げて気合を入れる。

飛ぶように迫る最初の岩を避け、浮石の空域に飛び込んだ。


---


先頭は風精ヴァーユ、それの後ろに4機、そして少し遅れて震電が突入した。


浮石地帯は、遠目に見ているとそこまで岩が密にあるようには見えなかったが、飛び込んでみてその恐ろしさが分かった。

騎士の直進の速度は、計ったことは無いしスピードメーターもないからわからないが、体感では200キロ近い。

浮石が文字通りこちらに大砲の砲弾のように次々と飛んでくる。同じ方向を走るレースでは見たことがない光景だ。


海賊との戦いでは、カノンを撃ってくる敵に向けて突撃することはあった。だがエーテルシールドで止められるカノンの弾と違って、浮石は止められない。

文字通り必殺の一撃が飛んできているようなもんだ。

猛スピードで飛ぶように迫る岩を躱す。絶え間なく風切り音がして機体が左右に振られる。

全身の神経を集中して空路の先を読み、左右のペダルに集中して震電のバランスを保つ。


一個避けたらその後ろからもう一個、小さめの石が現れた。

キャノピーに騎士のサイズよりは小さい浮石が迫る。


「あぶねぇ!」


震電を左に倒すように旋回させた。

轟という風切り音とともに岩が機体をかすめる。揺れる機体を立て直す。

ガードレールなしのブラインドコーナーに飛び込むようなもんだ。ラインどりを一歩間違えば無事じゃすまない。心臓が飛び出しそうになる。


このスピードだと飛ばすのに精いっぱいで攻撃どころじゃない。

この空域を飛ぶのはそれも狙いなんだろう。わずかに斜め前を飛ぶ騎士もカノンを撃ちかける気配はない。


前を飛ぶ風精ヴァーユが滑らかな軌道で岩を避けていく。後ろから見ているからなんとか追いかけれるが、先頭に立ってこのペースを作れるかと言えば……おそらく無理だ。

しかし恐怖心てものがないのかってくらいの際どいコース取りだ。岩を1個躱すたびに少しづつ差が開いていく。


後ろから見ていると風精ヴァーユと震電の違いが判る

おそらく出力はそこまで劣っていない。旋回性もカタログスペックでは大して差は出ないだろう。


震電との最大の違いはおそらく重さだ。それがこの速度域での小回りの差につながってるんだ。

戦闘用に装甲を厚くしなければいけない騎士と違って、風勢はレースのみに特化した機体だから装甲が薄く、それが重量の違いになっている。

レースカーに限らず、スポーツカーでは妄執的ともいうべき執念でグラム単位の軽量化を図ることは珍しくない。スピードが上がればあがるほど重さは足かせのように響いてくる。


そしてもう一つの違い。それは手で機体を操作していることだろう。鋭角的にカットするような大胆なラインどりは、手でやる操作ならではだ。

左足のペダルによる姿勢制御はどうしても急に大きく曲がることは難しい。


横から突然何かがぶつかり合う音がした。堅いものがぶつかり合う音、クラッシュ音だ。


「があっ!」


悲鳴のような声が聞こえる。

騎士がバランスを崩してきりもみしながら落ちていくのが視界の端に見えた。ウイングか何かを岩にひっかけたか。


「大丈夫か!」


声を掛けたが返事は無い。

正面衝突とかじゃなければ致命的なダメージじゃないだろうが立ち直れるかは……本人次第か。ああいうのを見ると紙一重のレースだ。

いつの間にか、風精を追っているのは俺だけになっていた。残りの3機は離脱してコースを変えたのか、それとも……


一瞬迷ったが……これはおいかけるのは止めた方が良い。

風精ヴァーユと震電は同じ飛び方は出来ない。である以上、このコース取りは避けるべきだ。

この空域での競争はあいつの土俵だ。分が悪い。


スプリントレースやゴール間近の最終日なら無理もするが、メイロードラップは始まったばかりだ。ここで無理をして機体に損傷を受けるほうがまずい。

耐久レースは離されすぎなければ逆転のチャンスはある。極端な話、風精ヴァーユがミスしてリタイアの可能性も有る。そういう展開はあまり俺としては面白くはないが。

いずれにせよ、勝負どころはここじゃない。スピードを落とし、コースを変えた。


「……賢明です」


コミュニケーターから小さく声が聞こえた。

アレッタだろうか。ペースを落とさず飛ぶ風精ヴァーユが遠ざかっていく。


ここではいったん下がるが、まだ逆転の当てはある。

第二の旗門フラッグゲートを抜けたあとのコースの障害は、情報通りなら雨雲が多い空域のはずだ。

そこなら……震電の方が風精ヴァーユより優位に立てる。











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