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帰れないだと!

「なるほど。非常にまれなケースですが、そういうことがあるとは聞き及んでおります。

躯が炎に焼かれ魂が空に帰る時、他の者の体に入ってしまうのだそうです。

こちらの方はそれにも該当しないようですが」


俺と坊やの支離滅裂な説明を聞き終えて、爺やが一応結論を出してくれた。

パニックになった二人の要領を得ない説明を根気よく聞いて場を収めてくれたこの爺さんはマジ有能だと思う。


この爺さんの話を聞くと、こういうことか、俺は地球から魂だけ此処に飛ばされてきた、ということなのか。

まあ俺たちの世界でも神隠しとか、多重人格とか、ある日突然人が変わる、なんてことはなくはなかった。

あれもこういうことだったんだろうか。

しかし、そうなると、俺の元の体はどうなったんだろう。


「ここはいったいどこなんだ?」


「遊覧旅客船、ウンディーネの105船室でございます。一応申し上げますが、最高ランクの船室ですぞ」


確かに家具のそろえからみてそれは分かる。だが聞きたいのはそういうことじゃない。


「そういう意味じゃない、どういう世界か、という意味だ」


「どういう世界、と言われましても。我々の世界は我々の世界です。逆にお聞きしますがあなたの世界はどういう世界なので?」


といわれると確かに俺も地球について一言で説明しろ、と言われたら無理だ。これは無茶な質問だった。


「場所という意味では、フローレンス自治領を出まして2時間ほどとなっております」


地名を聞いても訳が分からないが多分国の名前なんだろう。


「俺はいったい誰だ、というかこの体の持ち主のことだが」


「クリスティーナ・レストレイア。19歳。

半年ほど前に当家で坊ちゃまの身の回りの世話のために雇入れたハウスメイドです。

坊ちゃまが痛くお気に入りになられまして」


坊やの方を改めてみるとまだ16歳くらいに見える。それにしてはなんともマセた話だ。

気に入った女の子をメイドとして側につかえさせるっていう設定は何というか、いかがわしい発想しかできないんだが。そう考えてしまう俺は汚れているんだろうか。


「じゃあこの坊ちゃんは?」


「アルバート・オルレア・シュミット様です。フローレンス屈指の貿易商、シュミット商会の4代目にして我が主です」


「こんな子供で大丈夫か?」


「無論です。あなたがいずこから来られたかは存じませんが、我が主への侮辱は許しませんぞ」


非常に真剣な口調だ。茶化していい雰囲気ではない。


「……失礼した。そういうつもりじゃなかった。申し訳ない」


頭を下げた。なんとも気まずい沈黙が下りる。


「ご質問が終わられたのなら、そちらのことも教えて頂きたい」


「そうだな……俺は吉崎大都、23歳。日本出身だ」


「申し訳ありませんがニホンと言う国は存じません。

ただし世界の果てまで行ったものはおりませんので…見果てぬ場所にそういう国があるのかもしれませんが」


「いや、間違いなく違う世界だよ。俺の世界に少なくともフローレンス自治区、なんて国は存在しない」


違う世界!自分で言って愕然とした。違う世界!

これなら火星か月のNASAの秘密基地に居るといわれる方がまだリアリティがある。


「生業は何をされておられたので?」


「レーサーだ。二輪、カート、四輪、なんでも乗れるぜ」


本当はレギュラーシートを取ったことがないから、レーサーと名乗っていいものか。

どちらかと言えばテストドライバーなんだが、多少くらいは見栄を張っても許されるだろう。


「レーサーとはなんでしょうか?」


「うーん。そこからか。車とかそういうのを速く走らせてそれを競う仕事だ。この世界にも馬車くらいはあるんだろ?」


「なるほど。確かにかつて馬車をより早く走らせることを競う競技があったと聞いたことがあります。

その騎手のような生業があなたのお国にはあったのですな」


「まあそんなところだ、しかしこんな事態なのに、爺さんえらく落ち着いてるな」


「私も正直戸惑っておりますが…私まで慌てましては収拾がつきますまい?」


まったく有難い話だ。

誰か一人が落ち着いた空気を出してくれるとまわりもなんとなくそういう気分になる。おかげで少し俺も落ち着いてきた


「ところでおじいちゃん、あんたの名前はセバスチャンとかいったりしない?」


「申し遅れました。私は、ウォルター・ワイズマン。

先代のオルレアン様、こちらのアルバート様の二代にシュミット家にお仕えしております。

お見知りおきを」


ウォルターもアリだな。糸とか投げたりしないんだろうか。


「戻る方法とか知らないか?俺にも仕事ってものがだな」


「そうだ!あの優しいクリスを返してくれ、こんな野蛮な男じゃなくて」


「申し訳ありませんが、存じません」


まあねそりゃそうだよね、という返事があっさりと帰ってきた。

だが率直に言われるとショックなんで、少しは間を置いて言ってくれるとかいう配慮がほしかったぜ。


「私も話には聞いておりましたが、実際に見るのは初めてでございまして。魔法学院や神殿に行けば文献なども残っているかもしれませんが」


なんてことだ。ということは、俺はこの世界に投げ出され、帰る当てがない、ということなのか。



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