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7大家との会談と新たな責任

ホルスト・バーグマンの襲撃から一夜明けた。


俺たちを狙い撃ちしてきた強襲型機、あれがホルストの差し金であることは確定した。

そうなると、次の問題はどのくらいの規模で準備されてるか、ということになるわけだ。流石に、あの2機だけしかいない、なんて考えは甘いだろう。

そして、今後は俺たちだけを襲うなんていう親切もしてはくれないだろう。


フローレンスの騎士の乗り手で強襲型の攻撃に対応できる奴は多分いない。大規模に飛行船を襲われたら大変なことになる。

もはや、俺とレストレイア工房で対策を考える、というレベルではなくなってしまった。

それなりの権力があるものに話をしなくて対策を講じなくてはいけない。


今の俺が話をできる一番の大物は間違いなくエルリックさんだ。

あんまりそれらしくは見えないが、なんせフローレンス7大家の当主。

彼に話が出来ればそれが一番だ。

ということで、翌日、改めて彼に会うために工業ギルドに来た。


―――


「なるほど、昨日なぜ来なかったのかと思っていたが……それは災難だったね。

だが、まずは君が無事でなによりだ」


受付の人に話すと、エルリックさんにあっさりと会うことができた。

ギルドマスターの部屋には、おそらく各工房から出されたと思われる設計図らしき図面と書類の山が出来ていた。


「くだらない事務の書類は焼き捨てたくなるが、こういう設計図はみるとわくわくするね」


設計図の束をめくりながらエルリックさんは楽しそうであるが、それどころではない。


「それより、ギルドマスター。お願いがあるんです」


「なにかな?あと、エルリックでいいよ」


「もうシュミット商会だけでなんとかできる段階じゃなくなっていると思います。

騎士の乗り手に顔が利く人を紹介していただけませんか。この件の話をしないと」


俺の言葉にエルリックさんが考えむ。


「なるほどね。確かにそうだな。それにせっかくの新武装も実戦で試さないと有用性がわからないしね。協力者は多い方がいい。

おい、誰か」


エルリックさんが呼ぶと、部屋の外から先日の秘書らしき人が入ってきた。


「なんでしょうか?」


「急いで、騎士団と飛行船ギルドに使いをやれ。

ルイとトリスタンに、重大な用件で僕が呼んでいるからすぐ来るように伝えろ」


「わかりました」


秘書の人が頭を下げて出て行った。


―――


待つこと1時間。

エルリックさんと新武装の設計図を眺めていると、ドアがノックされた。


「お着きになりました」


その言葉とともに、2人の男性と1人の女性が部屋に入ってきた。


「いい加減もう慣れたが、相変わらず失礼な男だな、エルリック。

騎士団長を呼びつけるとはいい度胸だ。余程の要件だろうな」


「まったくですよ。私も暇ではないのですがね」


呼ばれてやってきたのは…一人は銀色の豪華なマントを纏った20歳少し過ぎの金髪の美青年だ。

腰には細身のレイピアのような剣をさしており、歩き方や立ち居振る舞いにも武術の達人のように隙が無い。鍛え上げられているんだろうな。という感じだ。


その後ろにはこれまた若い赤髪の女の子。こちらも美人だ。

通った鼻筋と薄い唇、切れ長の青い目と、フェルと同じクールビューティ系。腰には4丁の銃を挿している。直属の護衛なんだろう。


もう一人はおっとりとした感じのちょっと太めの40歳くらいの男だ。

茶色の髪を短く刈り込んでいて、服装も落ち着きがある仕立てだ。誠実そうな印象を受ける。


「紹介しよう、ディート君。

騎士団長のトリスタン・メイロード公とその近衛であるイングリット・ハミルトン嬢。

こちらは飛行船ギルドの副ギルドマスター、ルイ・ロートシルトだ」


知り合いの酒場のマスターを紹介するような口調で騎士団長と飛行船ギルドの実質的な責任者を紹介するのは勘弁してほしいんだが。


フローレンスの大物、話に聞いていた7大家の二人だ。

地球ではしがないテストドライバーだった俺は恥ずかしながら大口スポンサーと直接対面なんてことはなかったが、今の状況はそれこそエンジン供給メーカーとメインスポンサーの最高責任者の会合に押し込まれるの図である。

だがここでは俺はそれなりに名の通った乗り手になっているのだ。卑下することはない。


「こちらはシュミット商会のディートレア・ヨシュア。

君らも知っているんじゃないか?噂のシュミット家の魔女さんだ」


「よろしくお願いします。お会いできて光栄です」


なるべく礼儀正しく見えるように頭を下げる。


「ほう…聞いているぞ。なかなかに攻撃的な乗り手らしいな」


「商会の護衛騎士が海賊の騎士を6機も落としているなんて話はそうはないことですから。しっておりますよ」


2人とも俺のことを知っていた。

名前が知れているのはちょっと誇らしい気分だ。


「今日来てもらったのはほかでもない。海賊の襲撃の仕方が変わるかもしれない、という話があるからだ。

詳しくはディート君から聞いてくれ」


俺は先日の海賊の襲撃、そして昨日のホルスト・バーグマンの襲撃についてをなるべく詳細に話した。


「ホルスト・バーグマンだと?あいつは死んだはずだぞ」


やはり騎士団的にはあいつは死んでいる、ということらしい。セリエが言っていた通りだ。

影武者を立てて逃げたのかどうなのかはわからない。


「今のところ、飛行船ギルドにそういうタイプの海賊の襲撃の報告は上がっておりませんな」


流石に昨日の今日ではまだ襲撃の話はないか。


「だが、こういう危険はある、ということだ」


エルリックさんが言う。


「まあ海賊が何らかの対策を講じてくることはあり得るだろうな。

今までにない戦術で6機も海賊の騎士を落としているんだ。私としては溜飲が下がる、というか、60機でも沈めてやりたいが。

まあそれはともかく、奴らはダニのような連中だが、全員がバカなわけじゃない。甘くは見ない方がいいだろう」


これはトリスタン団長だ。


「で、どうかな?実際に強襲型機と戦ったディート君の意見を聞きたいところなんだが。

どの武器が実践で有効だと思うかね?」


「うーん。エーテルショットガンとグラビティカノン…あとは、これですかね」


待っている間に各工房から上がってきた設計図の説明を受けた。

もし乗り手の訓練期間があれば色々と試しても面白そうな武装はあるが、時間がないというのならすぐになじめる武装でなくては話にならない。


ショットガンは地球でも使われているとおり、近距離の面制圧武器として使いやすい。

俺の震電のようにブレードを展開して切るタイプの武器は近接戦では有効かもしれないが、射撃戦に慣れた乗り手に急に使いこなすのは難しい。

ショットガンの方がまだ対応できるだろう。


グラビティカノンは射程の難があるにしても同じ銃タイプとしてカノンと同じ感覚で使える。

遠距離射撃戦に慣れた乗り手でならすんなり使えるはずだ。


もう一つは、エーテルボムカノンだ。ただしこれは実験中、という注釈が添えられている。

一定の距離を飛ぶか何かに命中すると爆発する弾を打ち出すカノンらしい。

着弾式の爆裂弾みたいなものか。


「これは飛行船に乗せられませんか?」


どちらかというと、これは騎士の武器というよりむしろ飛行船の防御武器になるはずだ。

撃ちまくって爆風の壁を作れば騎士に対しても有効だと思う。


「飛行船でカノンは使用できませんよ」


ルイさんがあっけなく否定する。そういえば現在の飛行船の装備は鉄の玉を打ち出す大砲だ。まったく当たらないらしいが。


「いや、エーテル砂を使った弾頭を使えば飛行船でも使えるだろう。

古い技術だが、実用化はされている。やろうと思えばすぐに作れるぞ」


エルリックさんが言う。そういえばエーテル砂を使った弾でカノンを撃つ、という武器もあったらしいから、それを応用すればいいわけか。


「おい、ルイ。

ロートシルト家でギルドメンバーの飛行船の武装換装に援助金とかはだせんのか?

どうせ積んでおいてもあたりもしない大砲など重りみたいなものだろう。この機会に全部入れ替えてしまえ」


「エルリック君。君はもう少し年上への言葉遣いを学びなさい。あと簡単にいいすぎです」


なんというか、エルリックさの言動は奔放すぎて、横で聞いている俺がひやひやする。


「まあしかし、飛行船自体の自衛力が高いに越したことはありません。

飛行船に搭載することが前提のカノンと弾が製造できるなら、当家でも検討しましょう」


「ふん、初めからそういえばいいだろうに。

ではいくつかの工房を見繕って開発させるがいいな?」


ルイさんが肩をすくめてうなづく。


「まあいいでしょう。

ただ、今すぐできる対策はあまり多くないですね。

新武装を配備するにしても、それなりに製造に時間はかかります。

当面は飛行船ギルドのメンバーにこういう海賊が来る可能性があるから、注意するように促すしかありません」


「騎士団としては哨戒範囲を広げるが、現状ではそれくらいしか対応策はないな。

あまり兵力の分散はさせたくないが、当面はやむを得ん。

その強襲型の海賊の騎士というのについては、結局は実戦でぶつからないと何とも言えんな」


ルイさんの意見はもっともだ。新武装の開発、製造、配備のステップを考えれば、すぐにとはいかない。

トリスタン団長の騎士団の対応の方が当面は頼れるだろう。


だけど、二人とも非常に協力的というか、対応に前向きだ。

強大な権力を握る貴族様、というと自分の家のことを優先するイメージだが、そんなことはない様だ。


「ただし一つこちらからもお前にやってもらうことがある」


突然、トリスタン団長が俺の方を向いて言った。

やってもらうことってなんだ?俺にできることならいいが。


「お前はシュミットの護衛騎士にいろいろと風変りな稽古をつけているようだが、あれを各商店の護衛騎士にも行ってもらう。

練習機を使った飛行訓練もだ。いずれは騎士団にも協力してもらう。

これはロートシルト、メイロードからの命令だと思ってもらう。拒否は認めん」


つまり、俺に騎士の乗り手の教官役をやれということか。


「それだとシュミットの仕事に影響が出るんですが…」


俺の本分はあくまでシュミット商会の護衛騎士だ。

クリス嬢の遺志を考えても、あまりアル坊やから離れたくはないところなのだが。


「仕事の時までやれとは言いません。

ディートさん、あなたがどういうところで、どういう訓練を受けてきたのかは知りません。

ですが、事ここに至っては、シュミット商会の中だけであなたの知識を秘めるのは認められません。

どうしてもというなら、代わりの護衛騎士を派遣するなりして、シュミット商会には便宜を図ります」


「空路の安全確保のために、お前にも協力してもらうぞ」


流石に、こちらは言いたいことをいったけど、協力はできません、というのは通らないだろう。


「わかりました。やります」


「では、そうしましょう。エルリック、君はその新武装とやらの開発を急がせてください。

ディートさん、飛行船ギルドで告知して、騎士の乗り手で貴方の指導を受けたい者を募ります。よろしくお願いしますね」


「騎士団としてはすこし哨戒範囲を広くする。その先は海賊の動き次第だ。

話は終わりだな、俺は戻る。行くぞ、イングリット」


そういうとトリスタン団長が出て行った。ルイさんも後に続く。

いよいよ、後には引けなくなってきた。


―――


「ということになってしまいました。勝手にこんな約束をしてきてしまって、申し訳ないです」


シュミット商会のホールでアル坊やに頭を下げた。

ホールには、ウォルター爺さん、グレゴリー、ローディ、テオ船長、フェル、ニキータと、商会の主要メンバーが集まっている。

セリエはさすが昨日の今日なので、今日は臨時でお休みだ。


ローディはまだ半人前だから俺が航海にフル帯同できなければシュミット商会の仕事に影響が出るのは避けられない。


「いや、気にしないでいい。7大家の3人と会うなんて、望んでもできることじゃない。名誉なことだよ

グレゴリー、ローディ、テオ船長。しばらくは近場の仕事を中心にする。そのつもりで頼む」


「わかりました、店主」


「だがよ、俺たちはどうすりゃいいんだ?

そのお前のやる訓練とやらに参加すりゃいいのか?」


「いや、それよりやることがある。エルリックさんに頼んで新武装を優先的に回してもらうことになった。

費用はギルドもちでアストラとフレアブラスの武装を改良する。そっちに慣れておいてほしい。

あと、いつものトレーニングもやっておくこと」


これが俺の出した条件だ。教官役を務める代わりに、新武装を優先的に配備すること。

試作品の実験台、という見方もあるが、パワーアップは早くできるに越したことはない。


二人にはすでにここ2カ月くらいで、トレーニングのやり方は教えてある。

放っておいてもまあいいだろう。


「どういうのがもらえるんですかね?

俺はここ数年はカノン一本で戦ってますから、新装備っていわれても使えるかどうか心配ですぜ、姉御」


グレゴリーは不安げだ。


「アストラにはグラヴィティカノンですね。当てた相手の動きを鈍らせる効果があるって話です。射程は短いらしいんですけど、感覚的はカノンに近いはずです。

弾速も違うかもしれないんで、違いをきちんと把握してしておいてください」


「カノンと同じ武器ならなんとかなります。わかりました、姉御」


グレゴリーが安心したようにうなづく。


「で、フレアブラスは、左手のブレードをショットガンに差し替える。ただ、撃てる数がかなり少ないらしい。

ローディ、実戦で全弾はずれなんてことにならないようにしっかり練習しとけよ」


「てめぇはいつも一言多いんだよ、この野郎。俺の活躍をみて驚くなよ、ああ?」


こうなった以上は、俺の知りうる知識と経験を伝えていくのが責任の取り方だと思う。

俺のレーサーとしての知識、現代日本のトレーニング手法とかがどのくらい役に立つのか。

わからないが。とにかく、やるだけやってやる



来週末は出張で更新できないかもしれないので、次話は木曜日までに上げようと思います。

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