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強襲型との遭遇

サポート役の船員とチェスのような盤ゲームを指していた、航海4日目、復路2日目。

鐘を打ち鳴らす音が第三層の待機室に響いた。ほぼ一カ月以上ぶりで久しぶりすぎなので一瞬なんだかわからなかった。


「海賊の騎士と思しきものが接近中。!迎撃準備を!」


慌てて俺が立ち上がり、船員二人もそれに続く。


「久々の出撃だな、なんか」


いつも通りベルトを締めながら船員に話しかける。


「戦果もいつも通りにお願いします。風の乗り手に炎の武勲を!ご無事で」


船員が俺が流行らせたGJポーズをして装甲を閉める。


「落とします!」


「いつでもいいぞ!」


一瞬の間があって震電が降下を始めた。


「グレッグ、ローディ、準備はいいか?」


「行くぜ。炎の王の初陣だ、見てやがれ」


炎の王……は自分の名乗りなんだろうか。若いというか、こっちの世界にも中二病があるんだな。


「こっちは大丈夫ですぜ、姉御」


落ち着いたベテランの声は安心感を与えてくれる。血気盛んな若造がいるときは特に。


「敵は恐らく二機です」


飛行船から通信が入る。

数が少ないのに俺たちにつっかけてるくるとは中々にいい度胸だ。


最近は飛行船の気嚢にもシュミット商会の紋章が大きく入っているから、こちらのことは分かるはずだ。

これは俺たちの船に手を出したら痛い目見るぜ、という海賊へのアピールになるというテオ船長の意見だ。


海賊もある意味商売だから、リスクの高い相手には仕掛けてこない。

強力な護衛騎士がついている、ということを知らせることは、敵を避けることにつながる。

まあ、ローディは初陣だ。数が少ないのはちょうどいい。


「ローディ、お前はあまり無茶するな。グレッグの援護をしろ」


「半人前扱いするんじゃねぇよ、相変わらず腹立つ野郎だな」


「グレッグ。いつも通り俺が前に出る。援護を頼むぜ」


「任せてください」


いつも通りに前に出る。援護射撃のカノンの光弾が震電を追い越していく。

敵は二機とも前に出てきているが、そこまでスピードをだしている風ではない。なんとも消極的な動きだ。


攻撃をしてくる気配もない。襲う相手を間違えたことに今更気づいたか?

かといって逃げる気配でもない。


来る以上は此方としては容赦する理由はない。フレアブラスⅡの建造のために借金したらしいし、ここは一機捕獲して借金を一気に返済といきたい。


「シールド、来い!」


シールドで機体を覆い、右ペダルを踏んでスピードを上げる。

二機の内、前に出てきている一機がカノンを撃ってきたが、シールドで防ぐ。


「ブレード!」


2機とも距離を詰めてくるなら一機目を戦闘不能にし、2機目を後衛と挟むのがベストだろう。

一機目は避ける気配さえない。どういうつもりだ?

いつも通りブレードで切り抜けるように飛ぶと、敵もエーテルシールドを展開しブレードを受け止めた。


避けようとする相手も盾で止めようとした敵も今まで何機もいたが、盾で完全に止められたのは初めてだ。

エーテル同士がぶつかり合い、衝撃でスピードが落ちる。


「やるな!」


とその時、その一機の後ろからもう一機の敵の騎士が飛び出した。

短期決戦のはずが計算が狂った。

俺の真上を敵の騎士が通り抜け……背筋が凍った。


武装がカノンじゃない。シールドとブレード。接近戦仕様、震電と同じ。

つまり強襲型だ。やばい。


「グレッグ、一機そっちに行く!俺のと同じ、接近戦仕様だ!打ちまくって距離を詰めさせるな。

飛行船は全速離脱しろ!」


震電をスピンするようにターンさせて船に戻ろうとするが、目の前の騎士がそれをさせてくれない。

カノンを捨ててエーテルブレードでない普通の剣を抜いて振り回してくる。こいつもか。


左手のブレードをシールドに切り替えて切り込みを受けた。

剣と腕の装甲版がぶつかり合い、すさまじい金属音がコクピットに響く。


エーテルシールドはカノンのようなエーテル系の攻撃は止めてくれるが、物理攻撃には弱いということを初めて知った

今まではカノンの弾を防御するだけで、物理攻撃を受けたことがなかったし、そもそもそんな武器を装備している騎士さえ居なかった。


「くそっ」


狭いエリア、低速で足を止めて斬り合うのは高機動型の震電としては悪手だが、離れられない。

加速するための距離をうまく潰してくる。完全に足止め目的か。

最高速、加速性能ともに優秀な震電だが、超至近距離では加速体制に入れない。

足を止めての切り合いでは高機動興趣型の強みが全く発揮できない。


完全にこちらの戦術や騎士の特徴を研究したうえで手を打ってきている。

甘く見てた。

海賊も案山子じゃない以上、いずれは何か対策を講じてくることは分かっていたが、予想より早い。


「姉御、時間は稼ぎますが恐らく長くはもちませんぜ!援護をお願いします」


グレッグからの通信が入る。


「ローディ、前に出て止めるんだ!距離を稼げ。半人前じゃないところを見せろ」


「おう、任せとけや!」


勇ましい返事が返ってくるが、グレッグは接近戦のキャリアがないし、ローディは初陣であてにはならない。

時間はかけられない。


もう損害覚悟で行くしかない。

意を決してアクセルを床まで踏み込んだ。歯を食いしばる。


背中から蹴飛ばされるような加速で震電が前に飛び出し、そのまま敵の騎士に機体ごとぶつかった。今まで使うことがなかった肩の強化装甲でタックルだ。

強烈な衝撃が来た。ラリーのテストをしたときにコースアウトして木に突っ込んだときを思いだす。

4点式シートベルトを締めていても、体がシートから飛び出しそうになる。


ひび割れたキャノピー越しに、敵の騎士が吹き飛んだのが見えた。いまだ。

左足のかかとを踏み込み上に加速する。幸いにも震電に損傷はなかった。頭がくらくらするがそんなことを言ってる場合じゃない。


コイツを落とすべきか一瞬迷ったが、飛行船を援護に行ったときに邪魔されるのは不味い。

急降下で一気にスピードに載せると、ウイングを叩き切った。

まず一機


「今戻る!!」


敵の状況を確かめている余裕はないが、戦闘継続は無理だろう。

目をやると、ローディのフレアブラスがかろうじて敵の抑えてるが、抜かれるのも時間の問題だ。


アクセルを限界まで踏む。空気に押さえつけられるように体がシートに張り付き、血が体の後ろに集まる。メインストレート全開走行の感覚だ。

視界が赤く、狭くなる。雲がいつも寄りはるかに速いスピードで後ろにすっ飛んでく。


前衛で粘っていたローディのフレアブラスが抜かれた。ブレードで切られたらしく、体勢を崩す。

グレゴリーがカノンを撃つが、多少スピードを落とせてもごり押しの突進を止める火力はない。

敵の騎士が最後尾を飛ぶ飛行船に迫る。

此方の方が速いが……届かない。ダメか?


「おらぁ、まだ終わってねぇぞ」


キャノピー越しに、体勢を立当てなおしたフレアブラスが斜め後ろから海賊の騎士にタックルしたのが見えた。

コミュニケーターから耳をつんざく衝撃音とローディの勝鬨が響く。


完全な形ではないが、海賊の騎士が失速する。

その3秒が値千金。


「よく止めた!」


騎士と飛行船がみるみる大きくなってく。

普段はウイングや足を落としに行くが、今は器用に狙う暇はなかった。

一番効果的な場所を切る。


「悪く思うな!」


下から上昇しつつコクピットを狙ってブレードで切り抜ける。

エーテルの刃が装甲とキャノピーを砕く。その乗り手も。

騎士がぐらりと体勢を崩し落ちていく。


安心したのも一瞬、目の前に飛行船。間に合え!アクセルを抜き最大角度で上昇する。

急ブレーキで体が前に押し出され、ベルトが食い込む。

震電が気嚢をかすめ上空に舞い上がった。

切った海賊の騎士が制御を失い雲の海に吸い込まれていくのが見える。

間一髪だった。


「大丈夫ですか、姉御!」


「ああ、大丈夫だ。助かったぜ、ローディ、グレッグ」


「どうだ、オラ。俺のことを半人前なんて言わせねえぞ」


「ああ、いい仕事だ。けがはないか?」


「ちょいと耳がいてぇがどうってことないぜ」


「よし、全員帰投してくれ」


安堵のため息が出た…しかし。大きく回るように飛びながら考える。

……こういう連中が出てきたのは、間違いなく俺のせいだ。


遠距離対応の射撃戦機は盾を持った相手を止める力には乏しい。

今までは強引に突撃してくる海賊が居なかったから、この弱点は顕在化しなかったし、その弱点を突いて強襲するのが俺たちの戦術だった。


しかし、それをやり返された。

こちらは守るべき足の遅い船がある実はこれをやられると圧倒的に不利なのはこっちなのだ。


商会を立て直すために強襲型機を作り、海賊を狩った。うまくいったと思っていた。

だが、俺のやったことはもしかしてこの世界の空戦を変えてしまったんじゃないだろうか。

もし今後海賊がこういう戦術をとってきたとき、俺たちは対応できるんだろうか?

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