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そして、再び出撃の時

あの最後の戦いから1か月ほどが経った。


戦勝記念の祝賀会には参加しなかった。

ケントを倒したのは仕方なかったとはいえ、祝う気にはなれなかったからだ。


敵にも味方にも沢山の死人が出た。

バートラムにパーシヴァル公。騎士団の団員で、俺の訓練に参加した奴の中にも、この戦いで死んだ奴はいる。


最期まで戦ったケント、それに結局死を選んだフィーネ。

救えなかったのか、今も自問するときはある。どうしようもなかったとも思うが。


捕虜は殺すな、という俺の要望は通った。平和の訪れが処刑とセットにならなくてよかった。

捕虜たちはそれぞれその技能に合わせたところで第二の人生を生きるらしい。


こんな経緯もあってミオは正式にシュミット商会に引き取ってもらえることになった。

人格的に破天荒な奴だが腕は確かだ。商会の役に立ってくれるだろう。


サラは武者修行と言う名のモラトリウム期間を終えて騎士団に正式に加入した。

なんでもいきなり六騎隊長に抜擢されるらしい。今回の戦いでかなり六騎隊長にも犠牲者が出たから、その穴埋めっていうのもあるんだろう。


とはいえ、もともと何度も騎士団で戦っていて今回の戦いでも武勲を上げた。

専用機も持っているし、あいつなら立派に勤めるだろう。


シャロンも今回の一連の戦いで大いに活躍した。

あの頑固そうな親父さんも折れたらしく、正式に騎士団に加入することになった。

あのキャラクターは独特ではあるが、もともと騎士団は実力主義の組織だし、戦っている時に物を言うのは腕だけだ。

直ぐにのし上がっていくだろうな。


オルゴは戦闘機スツーカと一緒に投降した。

エルリックさん直属の技師扱いのアンと一緒に、工業ギルドで試験機とかの飛行士をやっている。

処刑されるって話もあったが、エルリックさんがギルドマスターの権限を振り回して無理を通してしまった。相変わらず我儘な人だな。


戦闘機スツーカは解析に回されたらしいが、設計思想も技術もそのすべてがギルドの技師の度肝を抜く代物だったらしい。

これほどの才能が消えたのは技術にとって重大な損失だ、なぜ捕虜にできなかった、なぜフローレンスに生まれなかったんだ、とはエルリックさんの嘆きの弁だ。


ケントが作った騎士は結果的に殆どが失われた。だが残されたあの一機に込められた技術は今後あらゆるところに影響を与えるだろう。

そのすべてにあいつの生きた証が残る。


---


戦争が終わってすぐ、休む間もなく復興が始まった。

今回は二つの島がほぼ焼け野原にされている。資材や人の輸送でやることはいくらでもある。


前の時も思ったが、フローレンスの住人はとにかくタフだ。この世界の住人が、なのかもしれないが。

7大公家の連携も見事で、農業ギルド、飛行船ギルド、騎士団、工業ギルドがそれぞれ連携しながら復興を進めている。


それぞれ有能な人間がいるんだろうな。 

縦割りで連携が今一つな我が故郷の役所にも見習ってほしい所だ。



---


そして今日も俺は飛行船の中にいる。今回は被害を受けた島への石材や工具、食料の輸送だ。

その前は、人員輸送だった……というか、最近休んだ覚えがないな。


船室の外を覗くと、明るい月あかりの中で、少し離れたところを飛行船が陣形を組むように飛んでいるのが見えた。

視界に入る範囲では3隻だが、まだほかにもいるはずだ。


シュミット商会はあの後も他の商店と合併したりしてますます規模が大きくなった。飛行船も10隻まで増えたらしい。

騎士団との直接契約という威光は大きいようだが、今回の戦いで俺が手柄を立てたのも良かったようだ。


アル坊やはあの後も各商店との折衝に忙殺されていて、見事に店主としての仕事を果たしている。

いまやすっかりフローレンスの若手有名店主の筆頭格だ……とはいえ、17歳になったばかりなわけで、俺の感覚的には若すぎる気もするが。

急成長した商会の店主な上に、見た目もいい。近づいてくる女性も多いようだが、あいつはどう思っているんだろう。


ウォルター爺さんはアル坊やの姿や大きくなるシュミット商会を見て嬉しそうだ。

最近はよくシュミット商会の先代の話をしているが、思い出話をして老け込む年じゃないだろ、とは思う。


ニキータは会計の仕事が激増して書類の山に埋もれている。

最初は拡大する商店と倍々ペースで増えていく収入にホクホク顔だったが、仕事も倍々で増えていくせいか、最近は俺を恨みがましい目で見るようになった……だがこれは俺のせいではないと思う。


飛行船が増えるよりも騎士とその乗り手の方が増え方が大きい。

確かに入社希望者は多かった。今は面接や試験をしている段階だ。


いずれはローテーションを組んで休みを取る仕組みを作るつもりらしいが、今はまだそこまで手が回っていない。

ということで、俺やグレッグ、ローディのいつものメンツがフル回転している。

ケガの功名とはいえ、即戦力としてミオが加わってくれたのは助かっているな。


ローテーションを組むのも俺の仕事にさせられそうになったが。

それはベテランの仕事だとか適当な理由を付けてグレッグに押し付けた。


商会が景気が良くなれば問題はなくなる、なんて思っていた時もあった。

しかし現実は商売が拡大しても結局悩み事から解放されることは無い。むしろ処理すべき問題は増えている気がするぞ。

……よかったのか、これは?


というか、最近は休んだ覚えがない。

ゆっくり二人きりになれないのが不満なのか、フェルにはよく睨まれている。

舟に乗っている時は二人きりになることはできないし、船に乗っている間はイチャイチャしようとはしない。

あいつはこの辺は割と生真面目だ。


---


「暇ですね」


「ああ、そうだな」


船底の待機室で休んでいたら、付いてくれている船員が緊張感のない口調で声を掛けてきた。

殆ど休まず飛行船に載ってはいるが、最近は海賊の襲撃が無いのが有難い。


普通ならもう少しピリピリした感じで待機しているんだが、俺も船員たちもすっかり気が抜けている。

一応万が一に備えて防寒着はいつでも着れるようにしているが。


システィーナが言っていたが、空路に飛行船の数が多い時は、獲物も多いが自分たちが補足されやすいということでもある。

今の状況じゃ襲うメリットよりリスクの方が大きいのかもしれない。


「少しお休みになっては?」


「流石にそれは不味いだろ」


とは言いつつも、別にいいかなって気はする。

どうせ今日もなにも起こるまい。硬い長椅子に体を横たえたとこころで、不意に甲高く鐘をたたく音がした。

一瞬何が起きたか分からかったが。


「海賊です!騎士は直ちに出撃を!」


伝声管から声が響いて現実に引き戻された。

マジかよ。

弾かれたように立った船員が腰まで着ていた防寒着を引っ張り上げて襟の留め金を嵌めてくれた。


ドアを開けてハンガーに吊り下げられた震電に飛び込む。


「ご無事で!」


船員の一言の後にキャノピーと装甲が閉められて、いつも通り震電が落下した。


---


震電が飛び出した。

最後に戦ったのは、ケントとの戦い以来だな。一応訓練は欠かしていなかったが、実戦と訓練はまた違う。

気合を入れて行かなくては。


視界の端に3機の騎士の姿が見えた。

グレゴリーのアストラ、ローディのフレアブラス、それにミオの宵猫アーヴェント・ミーツェ


≪姉御!久しぶりですね≫


【鈍ってんじゃねえだろうなぁ、オイ】


[ねえ、ディートレア、アタシにやらせてよ。手柄立てたら店主から報奨金を貰えるんでしょお、アタシが欲しいなぁ]


それぞれの声がコミュニケーターから聞こえる。

こいつらと一緒に戦うのも久しぶりだな。


サーチに感があった。

雲間に光が煌めいた……一機だけか、しかも隠れる様子も無く、真っすぐにこっちに向かってくる。いったいどこのどいつだ。

そう思ったところで。


『やあ、聞こえていますか……此方はクリムゾンのシスティーナです』


コミュニケーターからこれまた久しぶりの声が聞こえた。


---


誰かと思えば……


「いちいち名乗って堂々と接近してくる海賊がいるか」


『いえね、貴方と戦うために何が一番確実かと考えたんですが。

仕事中のシュミットの船を襲うのが一番確実であるということに気付きましてね。やはり思考はシンプルにしなくてはいけません。そう思いませんか?』


システィーナがしれっと言うが。


「……迷惑な奴だな」


そんなことを言っているうちに真っ赤に染められた騎士、スカーレットがキャノピー越しに見えてきた。

右手の蛇遣いサーペンタリウスも前のままだ。完全に修復はできたらしい。

スカーレットが空中でホバリングした。


『さあ、約束通り戦いましょう、ディートレア。

ブルーウィルムも居ますからね。逃げることは考えない方がいい』


システィーナが言う。

どうやらアランのブルーウィルムもどこかにいるらしい。


「前にも言ったが、殺し合いは止めとこうぜ」


『まあそれは構いませんが、全力で来なさい。チンタラ戦っていたら、その船を切り落としますよ』


システィーナが言う。戦いの準備のように蛇遣いサーペンタリウスの刃節がバラけた。


「分かってると思うが、全員手を出すなよ」


軽く旋回させるが震電の感じはいつもと変わらない。

こいつはイメージ通りに動いてくれる。


〈ダイト!戻ってきてね!〉


コミュニケーターから声が聞こえた。

フェルか。


「勿論、大丈夫だ」


『準備はいいですか?』


システィーナが言う。

あいつとやるのは怖さもあるが、心臓の鳴り響く音、少し冷めた頭。広く見える視界。

熱さと寒さが混ざり合うようなレースの前の時のような気分だ。


「ああ、いいぜ!……やろうか!」


一旦この形で完結となります。

完全な形で書き切りたかったのですが、時間が無かったので兎にも角にもエンディングまで描くことを優先しました。こんな形になったことは誠に申し訳なく。

なんとか折を見て、ダイジェストにした場面を描き込んでいきたいと思います。


かなり駆け足で畳んでしまったので、この人のこういうエピソードが見たいとかそういう希望があれば感想欄にでも書いて下さい。

書けそうなら書いてみます。


スーパー遅筆&不定期更新の話に最後まで付き合って下さった読者の方にお礼申し上げます。

感想をくれた方、キャラ募集に応じてくれた方、評価を付けてくれた方、皆さんのおかげで兎にも角にもエンディングまで来れました。

本当にありがとうございます。


あと、この作品のベースにしたオリジナルTRPGのシステムを後日公開します。

小説仕様にあちこち変えてますし、作ったのがかなり前なのでシステムは古い建付けになってますが(というか初代SWの影響がありありと)興味がある方は見てみてください。

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