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鳥かごの中の戦い・下

この声はつい1時間ほど前に聞いた。確かオルゴとか言ったか。

また厄介な奴が。


カノンを連射しながら戦闘機が飛んでくる。

軌道を変えて弾を躱した。騎士のカノンより光弾が小さい。さほど火力はなさそうだが。


『ありがとよ、アンタ』


アンの騎士が姿勢を整えてカノンを構え直した。

デカいウイングに裂けめが入っているのが見えるが、射撃姿勢に乱れがない。


「シャロン!こいつはまだ死んでない!どうにかこっちに来てくれ!」


【無茶言うわね!何とかしてあげるわ!】


≪よそ見してる余裕があるのか!≫


また戦闘機がこっちに向けて弾を撃ちまくりながら突っ込んでくる。

射線から逃れて震電の姿勢の姿勢を立て直そうとするが、追いかけてきた。


カノンの光弾が震電をかすめて飛んでいく。左右に切り返すと視界が歪んで見えた。

何発かかすめたらしく機体がガタガタと揺れる。


「くそったれ」


全速でターンする。体がシートに押さえつけられた。吐き気をこらえる。

視界が白くなって震電が揺れた。

雲に入ったか。状況を把握するより早くすぐにまた視界が広がった。


≪このスツーカからは逃げきれねぇぜ!≫


また戦闘機スツーカが弾幕を張りながら突進してくる。

軌道をそらしてその攻撃をかわしたが、高速ですり抜けた機体が空中で宙返りしてまた向かってくる。

一息をつく間も無い。


『随分粘るね、お嬢ちゃん!』


【やるじゃない!でもかすたっだけよ!】


「大丈夫か?シャロン!」


【あたしの力を示す時よ。簡単には下がれない!】


コミュニケーターからシャロンとアンの声が飛び込んでくる。

いまはあの反射狙撃がシャロンに集中している状況だ。どうにか援護したいが、それどころじゃない。


また戦闘機スツーカが急降下しながらカノンを撃ってくる。

そのまま雲海すれすれまで駆け下りてまた大きく旋回した。


震電とやっていることは同じだ。離脱して体制を整えて機動力を生かして強襲、そして離脱。それを繰り返す。

震電のブレードほど火力はないようだが。

速度に負けているこっちは受けに徹せざるを得ない。優速であるからこそできる戦術だ。


迎え討とうにもブレードを構えると、察したように身を翻す。

こっちの脚じゃ追いきれない。


が。やりようはある。

こっちに唯一有利な点がある。つくのなら其処だ。チャンスは一度だけ。


雲海に沿って飛んだ戦闘機スツーカ雲の間を縫って急上昇する。

上を取って突っ込んでくるな。


震電の姿勢を整えてこっちも急上昇を掛ける。

高高度で宙返りした戦闘機スツーカがこっちを向いた。

急降下してくる。カノンの光がきらめいて光弾が振ってきた。

こっちもアクセルを踏む。


「チャージウイング!」


震電の周りにエーテルの力場が形成された。蹴とばされるように震電が加速する。

何発かが力場に当たって白い波紋が浮かぶ。

戦闘機スツーカの機影が一瞬で近づいた。真っすぐに向かってくる戦闘機スツーカ。衝突を避けようとする本能を抑え込む。


≪バカな?避けないだと?≫


間近に迫った戦闘機スツーカが傾いて軌道を変えようとするが。

衝撃音がして、震電と戦闘機スツーカが真正面から衝突した。


---


交錯して揺れた震電を立て直した。

バランスを崩した戦闘機スツーカが雲海に向かって揺れながら落ちていくが。ギリギリで姿勢を整えて切り返してきた。

今ので失速してそのまま落ちてくれれば助かったが……そう甘くないな。


≪てめぇ、なんて野郎だ≫


恐らくあの機体の唯一と言っていい弱点。あれは被弾に極端に弱い。

騎士だってウイングに被弾すればほぼ戦闘不能となるが、腕や足を失っても戦い続けられる。

それに対してあれは機体全体がウイングのようなもんだ。


≪突っ込んでくるとは頭イカレてんのか?≫


「こうするのが最善だ」


この戦闘機スツーカは的が小さいうえに、回避性能が高すぎるし、純粋に震電より足が速い。

単純な機動力だけなら風精ヴァーユを上回るだろう。


クラッシュを狙うようなこんな不細工なやり方は好みじゃないが、こうする方がいい。

同じ速度でぶつかり合えば落ちるのは向こうの方だ。

そもそもブレードがオーバーヒート寸前だし振っても当たる気がしないから、これしかないともいえるが。


戦闘機スツーカが様子を伺うようにぐるりと大きく旋回した。

プレッシャーをかけるだけでも効果はある。それに恐らく今の戦況なら時間はこっちの味方だ。

不意にアンの舌打ちがコミュニケーターから聞こえた。


『アンタ!逃げな!』


≪なんだと?≫


『フローレンスの騎士が多数近づいて来てる!このままじゃ共倒れになる!』


こっちのサーチにもいくつか反応があった。

フローレンス周囲の掃討が終わって、バートラムかサラが援軍を出してくれたんだろう。

というか、ようやく来てくれたって感じだな。


『アタシの鳥篭ヴォルゲケルフィの脚じゃ逃げられない。あんただけでも逃げな!』


≪だが!≫


『聞こえてるだろ、ディートレア。降参だ。聞きたいことがあるなら喋ってやるから丁重に扱いなよ』


アンが一方的に言う。

僅かな間があって、戦闘機スツーカがくるりと身を翻した。

震電やスカーレットを超える速さで上空に向けて飛び上がっていく。とんでもない機動性だ


≪ディートレア!!必ずこの借りは返す!覚えておきやがれ!≫


コミュニケーターから声が響いて戦闘機スツーカが雲間に消えていった。










・スツーカ


・建造者・黒歯車結社


この世界はじめての戦闘機。

各部に補助推進器をつけることにより、軽量も相まって騎士をはるかに超える機動性、旋回性を生み出している。


くの字型の大型ウイングのような形をしており、ガラス球のようなパイロットシートが先端に張り出している。これにより背後以外の視界を確保している。


金で仕事を請け海賊や商店の護衛をこなした荒くれ傭兵、血風等様々な異名をもっていたオルゴの乗機。

オルゴはとある戦闘で被弾して左手を失い右足も大きな損傷を負ったが、動体視力などはそのままだったため、復帰を望む彼の為に賢人が建造した。


体に不自由があるオルゴが操作できるように、右手で操縦桿を操作し姿勢制御を行い左足で加減速を行う仕様。火器の管制は特殊な義手に左手を接続して行っている。

複雑な姿勢制御を行うため操縦系は極めて精密な構造である。

特殊な操作系、騎士とは異なる機動性と、高機動ゆえの高負荷などの様々な困難があったがオルゴは執念で乗り越えている。


武装は翼の前面に左右2門づつ速射性重視のカノンを装備しており、また後方にも牽制用に二門のカノンを装備している。

ただし後方視界は無いためあくまで牽制用。


火力自体は低いものの、速射力に特化したカノンは完全によけきることは難しい。

また高機動と被弾面積の小ささもあり、当てにくい。


一方で、高軌道の代償として極めて繊細なつくりであり被弾に弱い。

腕や足、胴への被弾があっても戦闘を継続できる騎士と異なり、その形状的に被弾した場合は飛行能力の喪失を意味しほぼ致命傷となる。

もう少し大型の機体にして被弾リスクに備えた方がいいのでは、と賢人は勧めたが、どうせ一度死んだ身だから安全性よりもっとも強い形にしてほしい、という要望もあり、現在の形状におちついた。


戦闘機形状という、この世界の空戦を一変させる鏑矢となりかねない、特殊な機体。

一方で、設計や建造のすべての過程に賢人が携わっており彼以外にはこの機体を作ることはできない。


またこの世界の騎士とは異なる形状であり、操縦が騎士と全く異なる上に黒歯車結社の乗り手からも特殊で異端な機体として認知されている。

このような事情もあり二機目が建造されるかは不明。


ちなみに機体名はドイツの急降下爆撃機シュトゥルツ・カンプ・フルークツォイク・スツーカ由来。

命名は賢人である。




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