敵機襲来!
ガラスが割られて風が吹き込んでくる部屋からとりあえずホールに移動した。
ホールには船長や客などの主だった者たちが集まっている。
見たところ、船員にも怪我人が結構者でたようだが、死人は出なかったらしい。
海賊の数自体は少なかったようで、奇襲に失敗した海賊はあっさりと制圧された。
恐ろしいことに母船からグライダーのような飛行機具で乗り移ってきたということで、そりゃ大した数も送れないだろう。
上層階への奇襲にかけた、ということか。
海賊の生き残り10名ほどは縛られてホールにほうりだされている。
警備に引き渡すと賞金とかもらえたりする、というのはよくある話だが。こっちの世界ではどうなんだろう。
客はそれぞれテーブルにかたまり何かを話している。
アル坊やはウォルター爺さんと一緒にお茶を飲み、俺はお付きのメイドの顔をして後ろに控えている状態だ。
船長と船員達が何かを話し合っている。海賊の処遇か、それとも今後どうするかとかだろうか。
まあこれで一安心か。
さすがにこの状況で第二波を送り込んでくるなんて無茶はしないだろう。
とそこに
「大変です!!
血相を変えた船員が走りこんできた。
「どうした?」
「騎士が接近してきているようです!一騎!」
ホール内の空気が一気に凍りついたのが俺でも分かったが…
「騎士ってなんだ?アル坊や」
「えーっとですね……あ、あれを見て下さい」
アル坊やが指を指したものは壁にかかった絵だ。
翼をもった俺たちの世界で言うところの中世の鎧みたいなものが書かれている。
「あれが騎士です。人が乗り込んで動かす、空戦用兵器です」
人が乗ってるって、それってロボットか。
文明の遅れたファンタジー世界みたいなのかと思ってたが、案外進んでるな。
「こちらも騎士で迎え撃てばよいでしょう!」
客の誰かがヒステリックに叫ぶ
「……それが先ほどの戦闘で乗り手が負傷しまして」
聞いた感じだとパイロット負傷というところか。なんと間抜けな話だ。
しかしガンダムでもパイロットが打ち合いやってる場面もあったし、パイロットだからと言って一人安全地帯で休んでる、というわけにはいかないんだろう
「なんなんだ、それは!」
誰かが叫ぶ。まあ気持ちは分かる。
「申し訳ありません!
おい!エーテル炉全開。迎撃用の大砲を準備しろ!騎士団の警戒空域まであとわずかだ、全速力で逃げるぞ。」
船長が激を飛ばし、船員たちがあわててホールから飛び出していく。
「船長!逃げ切れるんだろうな!」
「追いつかれたらどうなるのよ!」
広間が騒然となる。
まあ明らかに船側の不手際だし腹を立てるのはわかるが、今責任をどうこう言ってもしょうがないだろうに。
こういうところはあっちもこっちも同じだな。
混乱する船側にたいして形勢が逆転した海賊がニヤニヤ笑っているのがなんか腹立つ。
「怪我をしたって言っても乗れないわけじゃないだろう。そいつに行かせて時間を稼がせろ」
「そうよ!貴方たちの責任でしょう」
船長の後ろにいる細身の男がどうやら乗り手というやつらしい。左手にと右足にけがをしたらしく包帯が巻かれ血がにじんでいる。
なんというか雰囲気が同類というかがレーサーを思わせる。どんな乗り物か知らんが、あの怪我じゃ乗れまい。
ドン!と船全体に衝撃が走った。大砲とやらを撃ち始めたらしい。
客は騒ぎ、船長が必死でなだめようとするが、ホールは混乱の極みだ。
「で、どうなんだ、逃げ切れるのか?現実的に」
「……難しいでしょうな。飛行船より騎士のほうがはるかに足が速い。うまく砲撃で食い止められればいいですが、追いつかれる可能性は高いです。
ウォルター爺さんが冷静にあまり楽しくない事実を指摘してくれる。
「その騎士ってやつは乗るのは難しいもんなのか?船員に控えがいたりとかは?」
「難しいですし、控えは居ません。
操作も難しいですが、最大の問題は……騎士は飛行船なんかよりはるかに速く飛びますから、たいていの人は飛び回るだけで気絶してしまうんです。
乗り手になれるのは本当に一握りですよ」
加速減速のGが掛かって意識がすっ飛ぶ、ということか。
でも、そういうのなら俺ならいけるんじゃね?
「じゃあ俺が時間を稼いでやる。少なくとも俺なら気絶はしないぜ」