震電改良計画
場面転換の関係で少し短め
あと一回行きます。
シャロンとの試合から数日経った。
休戦協定からもうそろそろ1か月は経とうとしているが、黒歯車結社とやらの正体はまだ不明らしい。
大量の捕虜を取ったからそこから情報が得られればいんだろうが難航しているのか。
伝え聞くところによると、騎士自体は接収するが、捕虜自体は身代金と引き換えに返すってことになるようだ。
皆殺しってわけにはいかないだろうが、さりとてずっと閉じ込めておくわけにもいかない。
対応が難しいところだな。
ただ、エストリンは暫く攻撃はしてこないだろう。黒歯車結社とやらは何か企んでいるんだろうが。
相手の正体が分からないというか、こちらから仕掛けられず待つしかないのは少し歯がゆいな。
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震電は改良が施されることになった。
レストレイア工房に呼ばれて久しぶりに顔を出しにきている。
さすがに今回改めて思ったが飛び道具が無さ過ぎるのは不味い。
当たる、当たらないという技術的な話とは別として、その武装をもっているけど当たらない、というのと、そもそも持っていないのでは大きく違う。
それに、まったく飛び道具がないと離れられるとこっちは何もできない。
震電の性能も黒歯車結社には知れてしまっているだろうし、距離をとればこっちは打つ手なし、と認識されているのは不味い。
攻撃手段があると分かれば距離を開けていれば楽勝というわけでもなくなる。
飛行船の護衛をしている分にはローディやグレッグが援護してくれるから必要なかったりもするが。
今度も黒歯車結社と戦うなら、支援なしでの戦いも想定しておくべきだろう。
ただ、カノンでは当てられる気がしない。
ということで今回はガルニデ親方に、当て易い飛び道具をつけてくれという無茶な注文をしてみたが……どうやら何とかなったらしい。
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「よく来たの。ディートレア。相変わらず活躍しておる様じゃな。震電も良い調子だと聞いとる」
「ええ、おかげさまでね」
工房に入ると、肌を刺すような熱気と鉄が焼ける匂いと革の匂いと汗のにおいが噴き出してきた。
すぐにガルニデ親方が出迎えてくれる。
天窓から採光されてそこそこ明るい攻防の中には、何人もの職人が工具を持ってうろうろしていて、あちこちから金属がぶつかり合う音がしていた。
ドワーフを連想させる背が低くて髭を生やしたガルニデ親方は前とあまり変わりはないが。
工房は前より広くなったな。人も増えている。
「商売繁盛してますね」
「お前のおかげでの。お前が手柄を立てるたびにわしに注文が舞い込むというわけじゃな」
「なるほど」
レーサーが勝てば製作者の名は上がる。これは何処でも同じか。
まあ震電にスポンサーロゴは付けてないが、調べれば製造元はすぐわかる。
「注文の品はあれじゃ」
ガルニデ親方が工房の隅を指さす。
そこには震電のものらしい腕のパーツが固定されていた。
全体的なフォルムは変わっていないが装甲が少し膨らんでいて何やら文様が刻まれている。
「で……何が今までと違うんですか?」
「従来のブレードとショットガンに加えて、左右のブレードにエーテルをためてブレードを飛ばす機能を付けた。
威力は普通のブレードで切る並になっとるぞ。ただし連発はできんのでな」
剣を飛ばせるというか、長く伸ばせるような感覚なら結構使える気がするな。
試運転して感覚をつかんでおかなくては。
「しかし、どうやったんです?」
聞くだけでエーテルの消耗が激しそうな感じだ。
それに今までのに比べるとかなりのバージョンアップに思える。
「騎士団が捕獲したエストリンの騎士を解析しての、特に白剣とやらのエーテルを集めて貯める回路が有効じゃった」
レストレイア工房の親方が答えてくれる。あの波動砲持ちの騎士か。
震電の改良については、エルリックさんの肝いりで費用はランペルール家の負担になっている。
そのルートから情報を提供されたんだろう。
「重量の増加は可能な限り抑えたが……調整はするが挙動は変わるじゃろ。あとはそっちでなんとかせい」
「了解」
新しいパーツを着ければ挙動が変わるのは当然。
その挙動の変化を把握して振りまわすのは俺の仕事だ。
「しかし、お前はエースと言えるレベルになったっちゅうのに、注文が少ない奴じゃな」
「そうですかね?」
「お前クラスになれば、もっと騎士に注文を付けてくるもんじゃ」
まあそうかもしれない。
エース格というかエースドライバーは独自のセッティングを要求するのは当たり前だったしな。
それに、ドライバーに合わせた方が勿論成績だってよくなる。
ただ、生憎とこの世界ではそう簡単にセッティングの変更はできない。パソコンのキー一つでエンジンの特性を制御したりはできない世界だ。
素材の制約もあるから、このアーム部分をもっと軽量化してくれ、といっても限度ってもんがある。
無理なものは無理なのだ。
だが、俺はそれがさほど苦にならない。
この辺はテストドライバーとして色んな車に乗ってきた経験が活きている気がする。文句を言う前にそれに合わせるべしだ。
何事も無駄な経験は無いのかもしれないな。
「しかしじゃな」
ガルニデ親方が震電のアームを見てため息をつく
「なにか?」
「このエーテルを収束し保持する回路と言い、姿を隠す幕を張る機能と言い……これを作ったものはよほどの天才じゃぞ。只者ではない」
確かに。
戦術と言う意味では、近接戦タイプの乗り手が出て来たりしていて段々変化しているが、それはあくまで戦術レベルだ。
いわば発想の転換の域を出ない。
それに対して、亡霊シリーズをはじめとした黒歯車結社の騎士の装備は明らかに飛躍した思考をもとにしている上に、それを技術的に実現している。
こういう言い方はおかしいが、ロボットアニメの武装を見ている気分になる時がある。
時代を飛び越える天才というのはいつだって突然生まれてくる。
そう言う奴が作っているのかもしれないが……しんどい敵だってことは間違いないな。




