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束の間の平和な日常

最終章、開始します。お待たせしました。


あのエストリンとの戦いの終戦から2週間ほどが経った。


フローレンスでは翌日からすぐに復興のための作業は始まった。

前日は細やかながら戦勝の宴が開かれていたのに、切り替えが早い。


この辺はレースチームにも通じるものを感じるな。騒ぐのはその時まで。終わったらさっと仕事に戻る。

戦争があって海賊が行き来するシビアな世界だからこそなんだろう。

楽しむときは楽しむ。

そして終わったら現実に向き合う。


---


俺達も仕事に戻っている。

とある島への荷物運搬は往復4日ほどで終わった。割と楽な仕事だったな。


「お疲れさま、皆」


アル坊やとニキータ、それにウォルターさん達の事務方が出迎えてくれる。

タラップを船員たちが下りて行って、それと入れ替わる様に何人かの船員や港の係官が船に入って行った。

船員たちは此処で今回の航海の賃金を受け取り、次の仕事がある場合はそのまま契約したりするんだが。


殆どが次の契約のものらしき話をしている。

すぐに次の航海になりそうだな

今回も特に攻撃は無かったが、緊張感を持って夜通し待機はそこそこ疲れる。ローディとグレッグも少し疲労の色が見えた


「疲れている所済まないが……」


「次はいつですか?」


二人きりじゃないから今は敬語だ


「船の整備と荷物の入替が済んだらすぐ出航になる。5日後だ。他の商会の船も混ざってになる。よろしく頼むよ」


「余裕ですよ、そう、この俺なら」


ローディが威勢よく言う。グレッグはやれやれって顔をして頷いた。

しかし、なんか仕事が途切れないな


「休んでちゃだめですかね」


ここしばらくは襲撃も無くて平和なもんだ。

それになんだかんだで皆疲れがたまっている。ローテーションを組んで疲れを抜くのも大事だと思う。


物資運搬の仕事は一度終わるとそのあとは書類の整理だの、代金の清算、飛行船の整備や騎士のメンテナンスとかで暫くは待機時間が発生する。

次の仕事が無い時は待機時間も長くなる。


といっても今は次の仕事は黙っていても向こうからやってくる状態だから、次以降の出航の予定も当分は埋まっているらしいんだが。

そして、待機時間に俺たちの様な騎士の乗り手は、トレーニングしたり体を休めたりする。


休息はトレーニングと同じくらい大事だ。

しかし。


「ダメに決まっているでしょうが。

シュミットの魔女ソーサレス・オブ・シュミットが護衛につくからいい条件で仕事を請けれているんですよ」


ニキータが当たり前だろって言ってアル坊やが済まなそうな顔で俺を見た。

まあ仕方ないのか。


トレーニングの重要性は少しづつ騎士の乗り手に浸透してきているようだ。

だが、休息の大事さが雇用主や騎士団首脳陣に理解されるにはもう少し時間がかかりそうだな。

まったくブラック環境と言わざるを得ない。


---


その話が終わって解散になった。

書類仕事は俺達の仕事じゃなくアル坊や達がやってくれる。この点は役割分担が徹底していて楽だ。


仕事が終わると、ローディはどこかに行ってしまい、グレッグは行きつけの店で一晩飲むのが通例だが。

俺はフェルとどこかでゆっくり過ごすのが定番になっている。


「どうする?ダイト?」


「とりあえず、少し何か食べるか?」


そろそろ夕方で空が赤くなりつつある。少し早いが夕食にしてもいいかもしれない。

そう言うとフェルが嬉しそうに頷いた。


少し歩くと港湾地区と市街地の境目あたりのオープンカフェが見えて来た。

何度か入ったことがある。

店を指さしてフェルを促すと、同意するように視線を返してきた。


---


店内はすこし夕食時には早いからか客はそこそこってくらいの客の入りだった。

俺たちのように仕事を終えた船乗りとか商会の事務方っぽい女の人で三分の一ほどが埋まっていた。


通りを行きかう人達を見ていると普段通りだ。

一応まだ戦後処理の交渉は今も続いているらしいが、ここから見る景色は普段と変わりない。


「今回も結構平和だったね」


「そうだな」


本島は実際の戦闘には巻き込まれなかったから比較的穏当だ。

占領された島のうちいくつかは早々に返還されて其処への物資の運搬が続いている。


そういう島では建物が壊れていたり、騎士の残骸が転がっていたりと、戦火の影響を感じる景色があった。

島同士を結ぶ汽車の線路も一部が壊れていて今は修復作業をしているらしい。


「ただ、しばらくは忙しそうだな」


「そうだね……」


暫くは海賊だのエストリンの正規軍と戦っているばかりで、久しぶりに護衛の仕事をしているなって感じだが……海賊はちっとも現れない。

そういう意味では比較的気楽に過ごさせてもらっている。


輸送船が行きかう状況ってのは海賊としては狙い所だと思うが、意外にも静かだ。

この点はいずれシスティーナに聞いてみたいな。


まあ束の間の平穏であっても、とりあえず何事もないのはいいことだと思う。


---


店の窓際に空いた席があった。

長めのソファーと二脚の椅子が据えられた大きめのテーブル。フェルが先に長めのソファに座った。

フェルに並ぶようにそのまま俺もソファに腰を下ろす。


「え、ダイト?」


フェルがちょっと困ったような顔で俺を見た。


フローレンスは建国者が女性だからってのもあるらしいが、普通に騎士の乗り手に女性がいたりする。

実力さえあれば男女は気にされない。そういう意味では割と男女差のない国だ。

だから女子会よろしくテーブルを女性だけで囲んでいることは珍しくないが。


それでも、男女の関係性に関しては保守的だ。

フェルと一緒にカフェにいるだけなら気にもされないだろうが、隣の席に座るのは恋人仕草とみられるのが普通だ。

だから、普段は隣の席には座らないようにしているが、今日は座った。


「どうしたの……ダイト?」


フェルが体を離すようにソファの隅に寄る。

メニューを持ってきてくれたウェイトレスの子が、なんとなく怪訝そうな視線で俺たちを見るのが分かった。


いつ死ぬか分からない。そして死ぬときは死ぬ。この間の戦いでよく分かった。

次の戦いも間違いなくまたある。生き延びれる保証はない。

それなら、少しでもこいつの気持ちに応えてやりたいと思う。


なにやら周りから見られているような気もする。俺もちょっとは有名になったし。

だが、白い目で見られたとしても、この関係に引け目を感じさせたくない。


「止めとくか?」


そう言うとフェルが首を振って体を寄せて来た。鍛えたちょっと硬くて冷たい指が俺の手を握る。


「……誰にどう思われてもいいんだ……大事なのは一人だけだから」


そのまま肩を寄せてくる。銀色の髪が俺の頬に触れた


「とっても……うれしいよ、ダイト」


---


翌日は完全オフにして、その次の日。久しぶりにシスティーナに会いに行った。


今回の仕事で感じた疑問の確認と久々の顔合わせだ。

あの戦いの以後はこっちは仕事に追い回されていて会ってなかったしな。

何故海賊は襲ってこないのか、ということを聞ければと思ったんだが。


騎士団からあてがわれたシスティーナの宿に行ったら、食堂でお茶を飲んでいた。


「おや、ディートレア」


食堂に入ったとたんに目ざとくこっちに気付いたシスティーナが手を上げて挨拶してきた。さすがだな。

今日も動きやすそうな船員風の服を着ている。


しかし、顔には退屈が滲み出ているのが分かった。

黒歯車結社なるものも今の所は動きは無いし、こいつはそもそも護衛騎士でもないから暇そうだ。


「最近はどうしているんだ?」


「暇ですね。感覚を鈍らせない様に時々スカーレットは動かしていますが。まったく黒歯車結社だかか何だか知りませんが、さっさとかかってきてほしいものです」


相変わらず物騒なことを言っている。

流石に昼から飲む気は無いらしく、焼き菓子をつまみながら大人しくお茶を飲んでいた。


「アランは?」


「騎士団の詰め所でしょうね。なにやらブルーウィルムの自慢話をしているようですよ」


「いいのか?」


自分の愛機の自慢をしたい気持ちは分かるが、あの特殊な戦術や機体の構造がバレるのは不利益じゃないんだろうか。


「彼はもともと護衛騎士志望ですからね。戻りたいと思っているのかもしれません。その場合はブルーウィルムの借金は返してもらいますが」


そう言ってシスティーナがお茶をまた一口飲む。


「あっさりしてるな」


「私達クリムゾンや海賊の事情について話さない分には好きにすればいい。私が口を出すことではありません」


当たり前って感じの口調で言う


「まあ、その辺をうっかり話すようなら死んでもらいますし、クリムゾンを離脱して私の前に立ちはだかるようなら切りますがね」


相変わらず剣呑のことを平然と言うな。


「言ったでしょう?誰と戦うかも、誰を愛するかも、どう生きるかも、好きにすればいい、口出しは野暮と言うものです」


口癖のようにいつも言っているが、こいつの姉の話を知った後に聞くとその言葉の本当の意味を感じる。

ただの気まぐれじゃないんだよな。


「ところで、一ついいか?」


「なんです?」


「全然海賊が襲撃してこないんだが……なんでなのか分かるか?」


今日はどっちかというとこれを聞きに来たんだが。

システィーナがカップを置いて少し考え込むように顔を伏せた。流石にこの質問は答えないかな


「まさか、フローレンスに配慮してくれているのか?」


火事場泥棒はやらないという不文律でもあるんだろうか


「そんなはずないでしょう。私たちを何だと思っているのですか?」


システィーナが言う。


「少し考えればわかるでしょう。同じ航路に多くの船がいるということは、獲物も多いが警戒も強くなる。獲物が多いといって突撃するのはバカです」


「まあ……確かにそうか」


実際飛んでみると分かるが、空はだだっ広い。

結構飛行船は飛んでいるはずなんだが、普通に仕事をしているときは他の船が視界に入ることはあまりない。

だが今は待機時に外を見ていると、他の船のものらしき明かりが見えたりする。

騎士団の警戒も強いだろうし。


「それに今はエストリン領内の方が稼ぎ時でしょうからね。一部隊が大きな損害を受けていますから襲いやすい。士気も下がっているでしょうしね」


性格悪そうなことを知れっと言ってまたシスティーナがお茶を飲む。

……やはりこいつは海賊だな。




とりあえず三連投で行きます。

最終章の最後までお付き合いいただければ幸い。よろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ダイエット色々ありますね ちなみにビリー隊長のは元々軍人さんが短期間でムキムキになる奴ですね この世界でもブードキャンプはあるのでしょうか? [気になる点] 主人公の組織がブラックなのは仕…
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