前哨戦
長くなったので分けました。あと1話、の予定。
≪食らうがいい!!≫
声とともに、右手から白い帯の様なものが打ち出されてきた。
が、飛んでくると分かっているものを躱せないなんてことは無い。
震電を大きく旋回させてかわす。
光の帯……白の亡霊も使ってきた、いわゆる波動砲だ。
もう一度、光が右腕の砲口に集まってまた波動砲が打ち出されてきた。
鞭のようにうねる光の帯が震電のそばをかすめて消える。
≪どうだ!!あの時のようにはいかんぞ。今度こそ沈めてやろう≫
白の亡霊の波動砲に追い回された時を思い出す。あれは嫌な思い出だが。
あいつは左右の光弾からカノンやショットガン、それに波動砲を撃ってくるという構成だったが……武器の構成をシンプルにした改良型ってわけか。
だが、こっちも馬鹿じゃない。再戦を想定してそれなりにシミュレーションはしている。
火力と攻撃範囲は強みだが弱点も相応に多い武器だ。タネが割れれば攻略法はある。
火力や攻撃範囲は利点ばかり目立つが、それは最高速度が速いマシンのようなものだ。
じゃじゃ馬は扱いにくいと相場は決まっている。
ただ、当たれば痛いのは間違いない。
それにこの武器を振り回されると周りに被害が出る。短期決戦でさっさと終わらせる。
断続的に撃ってくる波動砲をよけつつ機会を待つ。
≪どうした!!逃げてばかりだぞ≫
視界の端に射手の編隊が見えた。これがチャンス。
それに重なる様に軌道を変えた。短く途切れた光の帯が飛ぶ。
≪貴様!わざとか?≫
慌てたような声がコミュニケーターから響く。
射線上に味方がいる。この状況ならお気軽に大火力の飛び度具を振り回すことはできない。
「その武器の欠点その一だ」
≪一騎打ちに卑劣な!≫
この武器は開けた場所での一対一や、多数の敵を薙ぎ払う時は無類の強さを発揮するだろうが。
一方で攻撃範囲の広さゆえに誤射が起きやすい。大量の敵味方が混在する戦場では持て余すだろう。
ゲームで誤射するなら抗議ボイスが聞こえてポイントが下がって終わりだろうが、実際の戦場でそんなことをしたら抗議じゃ済まない。
此処で一気に決める。アクセルを一気に踏み込んだ。
白剣が射線を変えて右手の波動砲を構える。が、光が砲口に集まってきたがすぐには発射はされない。
「無暗に撃ち過ぎだ!欠点その二!」
あの白の亡霊の時もそうだったが。
高威力の光線を放出し続けるという強力な攻撃力を誇る一方で、あれは発射までにラグがある。
ハイパワーターボがすぐに加給圧を上げられない様に、ハイパワーにはラグが伴う。
観察した感じラグと言っても2、3秒程度だが……高機動の空戦ではその数秒は巨大な隙になる。
震電を沈めた。
直後に真上を放出された波動砲が薙ぎ払う。白いエーテルの光がコクピットを照らした。
≪くそ!≫
悪態が聞こえて、上から抑え込むかのように波動砲が鞭のように曲がる。
だが、それも読めてる、というよりそうするしかない。
大きく震電を沈めて波動砲の下をくぐって、すぐに機首を挙げる。
沈むように波打つ波動砲のラインが震電の横をすり抜けた。
もう一度、光の帯の横をすり抜けて機体を沈める。
≪なんだその動きは≫
曲げ性能は低いわけじゃなさそうだが、蛇遣いほどの機動性は無い。
上下左右の動きにはついてこれない。
「もらったぜ、坊や!」
至近距離まで飛び込んだ。慌てて白剣が逃げるように動くがもう遅い
舞い上がり様にブレードを薙ぎ払う。
確かな手ごたえが操縦桿から伝わってきた。
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上昇したところで切り返す。白い雲海を背景に、右腕の破片が飛んでいるのが見えた。
あれならもう打てまい。
前は距離を取られたところで、しかも波動砲が二本。こっちは逃げるしかない状況だったが、今は違う。
あの武器では高機動の震電を近距離で狙い撃つことはできない。
「パワーがあるからスゴイ、というのは素人さんだぜ。覚えておきな」
≪くっ……だが!まだ終わってなどいない!≫
白剣の左手のシールドがブレードに変わる。
エーテルを吹かして白剣が上昇してきた。だが突っ込んでくるが……右腕を失って重量バランスが完全に崩れたのか、左右に揺れているのは隠しようもない。
それに切り合いをするにせよ撃ち合いをするにせよ、上を確保するほうが有利。
不完全な状態でこっちに上を取らせた時点で、そしてそれでもムキになって切りかかってくる時点で悪手だ。
震電を真下に加速させる。
ぎゅっと体がシートに押し付けられて震電の加速に重力が加わって一気にスピードが乗った。
急激に白剣の姿が近づく。慌てたように白剣の挙動が乱れた。
≪何?速い≫
「そっちが遅い!」
左足をひねると、操縦に応えて震電が白剣の右側、左手の死角に飛び込む。
すれ違いざまにブレードを横薙ぎにした。
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両手の操縦桿からまた押し返すような手ごたえが伝わってきた。
ウイングを狙ったが……戦闘不能かどうかまでは分からない。
雲海すれすれで逆噴射して上を見上げた。
≪バカな……こんな≫
ウイングの一部が切れているのが見えた。狙い通り。あれじゃあもう戦えまい。
うちのめされたような声がコミュニケーターから聞こえる。
あの騎士の性能が悪いわけじゃない。戦況が違えばもっと手ごわい相手だっただろうな。
それに、突っかかってきたのはいいが……なんというか対応が不慣れで、訓練中の騎士の乗り手のような感じだった。
あれを振り回すのには熟練度が足りないと思う。
「さて、あいつの様子はどうだ」
もう一度上空まで飛んで戦場を見渡す……視界の端、少し遠い空域に宝玉の騎士が見えた。
ずんぐりした大柄の機体に左右に光弾を従えた見た目は遠めでも目立つ。
二機ほどの護衛を従えて、悠々とこっちの騎士を追い回していた。
システィーナはまだ見つけていないのか。
「おい、聞こえるか?」
邪魔する気は無いが、あいつに好き勝手させているわけにもいかない。
割って入るかと思ったところで、宝玉の騎士の前を飛んでいた護衛の射手が不意に体勢を崩した。
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射手のウイングの破片が散った。
ウイングを切られた機体が錐もみ状態のまま雲海に向かって落ちていく
追われていた騎士が慌てて逃げて、入れ替わる様に赤い騎士が宝玉の騎士に相対した。
【何者だ?無礼だな】
『待ちましたよ、この日をね……搭乗者はアナトリー・アリスタリフ、間違いありませんね』
【下品な赤色だな。お前に名を呼ばれる覚えはないぞ、何者だね】
『我が名はシスティーナ。クリムゾンのシスティーナ』
どうやら間に合ったらしい。お膳立ては整ったか。
【ほう、女のようだが……君のような騎士を乗り回す阿婆擦れがこの私に声をかけてくるとは。まあこれも戦場の面白さかね】
『間違いないのですね。それは結構。関係ない者を切り殺すのは流石に寝覚めがよろしくない』
【大きな口をきくな。そういえば、聞いたことがあると思ったが、君は海賊だな。
しかしフローレンスも落魄れたものだ。正規軍では我らを止められず海賊にまで援護を頼んだのかね】
『おや、私を知っているのですね……ですが覚えておく必要はありませんよ』
コミュニケーター越しにも伝わる程の冷たい声。
だが昂った気配はない。静かな口調がむしろ刺すような凄みを感じさせた。
『もうじき貴方は雲海の藻屑になる。祈りでも唱えなさい』
・白剣
工房・エストリン公国騎士工房
白の亡霊から派生した騎士。
機体本体は射手をベースにしたオーソドックスな人型の構造。
左手にはブレード転換型のエーテルシールドを持ち、右腕を白の亡霊が使用していたエーテルを束にして打ち出すいわゆる波動砲的な武装に換装している。
見た目はエーテル放出用の三本の爪状のものを付けた大型の手甲。
この右手は、黒歯車結社から白の亡霊の、エーテルをチャージし連続で使用する技術の供出を受けて製作されており、高火力な波動砲を通常の騎士とは比較にならないほど長い時間放射できる。
白の亡霊は、多様な弾種を全方位に撃てるという射撃戦の優位性を有していたが、それゆえに乗り手に高い練度を要求し大きな負荷をかけるという欠点があった。
宝玉の騎士は複座にして銃主を置くと言う形でこの問題をクリアしたが、こちらは武装の単純化により操作を簡易にするという方向で解決した騎士。
一方で白の亡霊の強みである多用な弾種による対応能力と火力、全方位射撃という強みは失われ、波動砲という強力な飛び道具を装備してはいるものの、それ以外は特徴のない騎士なってしまった、とも言える。
ただし、メイン武装の波動砲は威力は高く、通常の騎士なら直撃で大破撃墜、掠めるだけでも大きな損傷を与えうる。
また放射し続けるという性質上、通常のカノンの様な弾による点の攻撃ではなく線の攻撃となる。曲げ性能も高いため回避がしにくい。
一方で攻撃範囲の広さと高火力は、味方を巻き込みやすく巻き込んだ場合の被害が大きい、という欠点も有している。
また、右腕を波動砲専用の仕様にしたため多少は改善されているが、高火力の宿命として数秒の発射ラグが存在しており、攻勢に回ると強いが受けに回ると脆さを露呈する。
高火力の波動砲で力押しができるように見えるが、実は繊細な乗りこなしをを要求される、扱いの難しさが残る騎士。




