2人の援軍・下
4連投目です。あと1話
アクーラの格納庫に震電を含めた三機が収納された。
甲板はつぎはぎだらけで、内部設備にもあちこちまだいかにも修理中って感じの様子は見えるが……一応最低限の機能は回復しているらしい。
スカーレットを見るのはあの最初の戦い以来だ。
右手に蛇腹剣、蛇遣い。左手にはエーテルシールド。
簡素な武装と良いとは言えない重量バランスだが。これを振り回せるのが技術なんだろうな。
もう一機は初めて見る騎士だ。
夜空を思わせるダークブルーの塗装が何とも印象的だ。
大柄な機体に大きめのウイング。鎧の頭部を思わせる普通の騎士とは違う、半分を装甲が覆い隠した独特の頭部にカメラアイというか望遠鏡のような突起が付けられている。
右手には機体の身長より長い、槍を思わせるカノンを携えていた。今までみたどのカノンより長い。
震電から降りると、システィーナがいた。もう一人がその騎士から降りて、システィーナに一礼する。
ひょろっとした体格に大きめの眼鏡。整っているが色白で童顔の顔に白髪の様な髪。なにやら不健康な印象で、正直あんまり騎士の乗り手っぽくないな。
ただ、眼鏡の奥の目には強い光を感じる。
風貌から年齢が分かりにくいが……20代半ば、30より前ってところだろうか。
「もしかして、あっちの方で援護してくれたのはあんたか?」
エストリンの飛行船を攻撃したのが誰だか分らなかったが。こいつが狙撃してくれたのなら筋が通る。
男がうなづいた。
「助かった。礼を言うよ」
「こっちも会えて光栄だ、シュミット家の魔女。俺はアラン・プレストン」
騎士の敬礼をしてくれたからこっちも同じように返す
「こいつは?」
「私の部下です。中々に面白い男ですよ」
システィーナが楽し気に笑いつつ言う。
「具体的には?」
「騎士の乗り手になるために海賊団に入るくらいはね」
「……無茶するな」
騎士の乗り手は狭き門ではあるが、手段を選ばないにもほどがあるな。
「私としては気に入ってますよ。自分の好きに生きるためには手段を選ばないところが特にね」
「しかし……妙な騎士だな」
ずんぐりとした独特の頭部のフォルムに大柄な機体と普通の倍近くありそうな長さのカノン
フローレンスでは見かけないスタイルだ。
「我が愛機。ブルーウィルムだ……見てのとおり私は体が強くはない」
後ろで聞いていたアランが口を開いた。
確かに改めて見ると鍛えてある感じはするが、騎士の乗り手としてはかなり細身だ。
「中距離から近距離での機動戦には体が耐えられない。だから遠距離の狙撃に特化したのさ」
「この騎士のためにアランは莫大な借金をしたのです。其処も気に入ってますよ。欲しいものを手に入れたければこうでなくてはいけません」
アランがそう言われて苦笑いのような照れ笑いの様な笑みを浮かべた。
見た目そのままの狙撃戦機らしい。頭部の望遠鏡らしきものは、狙撃用スコープって所か。青の塗装は夜空に溶け込むためなんだろう。
「近接戦や中距離での撃ち合いは完全に捨てて一方的に遠距離から撃つためだけの騎士ってことか?」
「ああ、その通り。有効射程は……そうだな、通常の10倍以上と思ってもらいたい」
ちょっと自慢気にアランが言う。
……なんというか割り切った機体設計の発想がフローレンスの騎士工房のそれよりも黒歯車結社っぽいな。
だが、不利な点を工夫で埋めようとするところは好感が持てる。
「しかし、狙撃なんて当たるもんなのか?」
「まあそう当たるものではないですね」
あっさりとシスティーナが言う。
飛行船なら兎も角、高機動で飛びまわる騎士の様なターゲットを遠距離から射貫くのは難しいだろう
「ですがね、狙われると分かりますよ、ディートレア。視界のはるか外から自分を狙う必殺の一撃がある、というのはね。あなたが想像するより強烈な圧力になる」
確かにそうだな。
近接戦に圧倒的な強さを発揮するシスティーナとは良い組み合わせだし、海賊として船を襲う時でもはるか遠距離から撃てる武装は有効だろう。
しかし、世の中は広いな。
俺も特殊な発想で震電を作ったと思ったが、黒歯車結社も含めていろいろなことを考えて実行する奴はいるもんだ。
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とりあえず食事が用意されたので、食事を済ませた。
一応奇妙な休戦協定がなされてはいるものの、騎士団員の敵意に満ちた視線は当然なくなるわけもなく。
食堂の隅でアランとシスティーナと一緒に食事をしたが、緊張感が肌に刺さるような空気で味わうどころじゃない。
しかしシスティーナは全く動じずにいつも通り食事をしていて、料理の評論までしていた。
どういう神経してるんだ、こいつは。さすがに酒はいつもより控えめだったが。
隣で話し相手になっていたアランは流石に緊張感を隠し切れないって感じだった。まあこっちの方が普通の神経だろう。
間に挟まれた俺は針の筵もいいところだ。
食事が終わってから、トリスタン公から真意を聞き出すようにきつく言われた。
まあ指揮官としては当然だろう。
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「なぜ俺たちを援護する、理由を聞くまではさすがに説得はできないぞ」
「理由が要りますか?」
「当たり前だろ」
システィーナとアランの二人にあてがわれた部屋は一応個室だった。
殺風景な部屋で寝台と小さな机がある位だが、システィーナはその簡易な寝台に腰かけていた。
ただ、着替えはしていなくて動きやすそうな船員が良く着ているような服のままで、油断は感じない。
机の上には食堂から持ち出したらしいワインの瓶が置いてあった。
「戦力が増えるのだから素直に喜べばいいでしょうに」
「そんなわけあるかい」
システィーナが平然と聞き返してくる。こいつは分かって言っているのか、素なのか分からんな。
こいつの行動は正直言って理解を超えるが、ある意味裏表がないともいえる。自分の価値観でのみ動く。
ただ、俺はなんとなくそれがわかるが、騎士団にそれを納得してもらうのは無理だ。
それに、無茶な行動にみえるが、何も考えてない気まぐれ屋ってわけじゃない。必ず目的があるはずだ。フローレンスに味方する目的が。
「それに、このまま疑われているとお前の目的も果たせないんじゃないのか?何か理由があるんだろ?」
「……なるほど、それは一理ある」
システィーナがうなづいて、机の上のワインの瓶を取り上げた。
「少し付き合いなさい、ディートレア」
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船員に案内してもらってアクーラの甲板に出た。
月光に照らされた広々とした甲板には等間隔に明かりが並べられていて、見張りの物らしき黒い人影としゃがみ込んだ騎士の機影が見える。
見上げた夜空には振るような星といい加減見慣れた大きな月が光っていた。
パノラマのような360度広がる夜空は壮観だ
「お気をつけて」
船員が厚手の毛布の様な重たい外套を貸してくれた。気を付けて、は二重の意味がありそうだな。
まっ平らな甲板を風が吹き抜けていって外套の裾がふわりと舞う。
システィーナの後に着くように歩くと甲板の端まで来た。
ひどい高所恐怖症ではないが、さすがに甲板の端に近い場所は本能的な恐怖感がある。
銀色の雲海には飛行船が何隻も浮かんでいて、何機かの騎士が哨戒飛行をしていた。
ただ、今の所は何かが来る気配は無さそうではあるが。
甲板の端には布がかかった骨組みと簡易な机とベンチが設置されていた。
風除けの布を張るとテントのようになる。見張り用なのか、休憩用なのか分からないが。
机の上にワインのボトルとチーズの皿を並べると、カップにワインを注いだ。
「まあ座りなさい。少し長くなりますからね」
カップを取り上げると、システィーナが軽く乾杯するように掲げた。
こっちもそれに応じる。
「……少し私の身の上話をしてあげましょう」
ワインを飲んだシスティーナが少し逡巡して話し始めた。
アラン・プレストンとブルー・ウィルムは、すぎモン剛志様のアイディアをアレンジした騎士の乗り手と騎士です。
引き続き、敵味方の騎士の乗り手やそれ以外のキャラのアイディア募集中です。
お時間ある方は是非どうぞ。お待ちしています
・ブルーウィルム
工房・ヴィンドガルド騎士工房
フローレンス・ローザ率いる海賊団、クリムゾンに所属するアラン・プレストンの乗機。
夜空に溶け込むために青に塗られ、被弾時の防御を重視した重装甲に属する騎士。
ただし、本体性能についてはさほど特記すべきものは無い。
この機体を特徴づけているのは、狙撃戦用の機体の倍近い長さのカノンと狙撃用のスコープ。
カノンは専用のコアで生じたエーテルを長大な銃身で高密度に収斂することにより、通常の物をはるかに超える長射程と弾速、威力と、一定の速射性を高次元で融合させている。
ちなみにこれは改良を重ねた4代目。
スコープは望遠鏡と船員が使用するエーテルを感知するガラスを組み合わせたもので、遠距離の敵を認識し狙撃を可能にする。有視界戦闘が常識のこの世界においては異色の装備。
また、銃口の向きと連動する原始的なスマートサイトを備えている。
接近戦を完全に放棄し、超長射程を活かした狙撃に特化した異色の騎士。
狙撃用カノン以外の武装が無いため距離を詰められると対応する装備が存在しない。
また、一機にマークされて狙撃姿勢に入れないだけでほぼ無力化されてしまう。
このため、狙撃の優位を活かすためには、戦況を把握し距離を取り続けなくてはいけないという、従来のセオリーとは全く異なる乗り方を乗り手に要求する。
一方で、目標の騎士や飛行船を、相手に認識されない遠距離から狙撃できるという強力な優位性を有しており、捕捉されなければ一方的な攻撃が可能。
そもそも、本作中の騎士の戦闘は有視界での交戦が常識の為、そもそも超遠距離からの狙撃と言う攻撃方法自体が想像の埒外といえる。
目標への先制攻撃、戦闘中の援護射撃、退却支援、火力誇示による飛行船への圧力等、用途は多彩。
なお、きわめて特殊な性能ゆえにカノンやスコープの試作に膨大な試行錯誤がなされている。
アラン・プレストンはこの騎士のおかげで結構な負債を背負った(システィーナが肩代わりしている




