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2人の援軍・上

3連投目

周りの騎士は追撃をしようとはしなかった。その気力が無いってとこだろう。

一応罠の可能性も無くはないから、今はこれでいいと思う。しかし。


「一体何が起きたんだ?」


≪さっぱりわからん≫


ベルトランも戸惑ったような感じだ。

援護射撃が飛んできたのは確かなんだが、どこから飛んできたのかさっぱりわからない。

弾道的には上空から撃ってきたようなんだが……上空に見えるのは層になった雲と、それから漏れ出す太陽の光だけだ。

灰の亡霊ブラウガイストのようなステルス持ちじゃなければ……機影が見えないところを見ると相当遠くからの狙撃というレベルでの攻撃になる。


「飛行船への攻撃があったとして……そいつがやったのかね」


言っては見たものの、だれも返事は返してこなかった。

そりゃそうだな。


騎士の運用には補給というか乗り手の拠点になる飛行船が欠かせない。

さすがのあいつらも飛行船を落とされれば退却せざるを得ないし、攻撃を受けたら守りを固めざるを得ない……その攻撃を誰がやったのかわからんが。


「サラ、騎士団の隠し玉とかそういうのはないのか?」


<バカなことを言うな。そんなものがあればさっさと投入している>


サラがきっぱりと言う。


「……まあ、そりゃごもっともだな」


数で負けているのに切り札を温存して犠牲を出すなんて戦い方はするまい。


「どこか他の国の援軍とか、そういうことは?」


<多分無いな>


あっけなく否定された。現実はそう甘くはない。


「……まあ、いずれにせよ一息つけるんならいいか」


≪その通りだ≫


ベルトランの声にも安堵がにじんでいた。

今はどういう理由であっても、間がとれるのは助かる。

数的不利の状況で絶え間ない攻撃を受けていたから、機体の修理にせよ乗り手の休憩にせよ消耗がかなり激しかった。このままのペースで攻め続けられたらどうなったか分からない。


射手ストリエロークが引き上げていくのを見たフローレンスの騎士達がそれぞれ引き上げて来た。

どの騎士もあちこちに被弾の痕がある。


「どうする?一度戻るか?」


それともしばらくは警戒した方がいいのか、と言おうとしたところで。


[ディートレアさん]


「なんだ?」


コミュニケーターから飛び込んできた声は聴きなれない声だった。多分飛行船の誰かだろう。


[今すぐ第一防衛線に行ってください。団長殿がお呼びです]


---


二手に分かれた防衛線の片方のうち、主に騎士団主力が迎え撃っている側を第一防衛戦、俺たち民間の騎士の乗り手が応戦している方を第二防衛戦と呼んでいる。


第一防衛線までは30分ほど飛べばいい。飛行船だと遅いから騎士で飛ぶことになった。

騎士団員が先導してくれる。何もない空で太陽とかを頼りに方向を定めて飛ぶのは俺には厳しいからありがたい。


しかし、なんとなく視線を感じる……追従する騎士団の騎士からの物じゃない。

遠くから視られているようで、不思議な感じだ。


しばらく飛ぶと第一防衛線の飛行船団が見えてきた。

哨戒するように空中で旋回していたフレイアが先導に加わってくれる。

飛行船団が近づいて、トリスタン公の旗艦のダンテや、どうにか最低限の補修が済んだらしいアクーラの巨大な姿も見えた。


「ディートレアと震電だ。どうした?」


【こちらトリスタン。待っていたぞ、ディートレア】


アクーラの上空あたりで、フレイアとレナスが何かを包囲するように飛んでいた。

トリスタン公の戦乙女ヴァルキュリエもいる。見るのは久しぶりだ。白い光で出来た翼がウイングから伸びていた。


【こいつをどうにかしろ】


『遅いですよ、まったく。さあ、私が怪しいものじゃないと説明しなさい』


包囲されているのは右手に長い物理剣を持ち、装甲を血のように真っ赤に染めた騎士。

……実物を見るのは初めて戦ったあの時以来だ。


システィーナのスカーレット。


---


一瞬緊張したが、今はあくまで包囲しているってだけで戦闘にはなっていないようだ。


「どういうことだ?」


『私がわざわざ助太刀したというのに。味方を包囲するとは随分な扱いではありませんか』


平然とした口調がコミュニケーターから聞こえる。

いや、お前は味方じゃなくて海賊だろ、と思ったが……今はとりあえずそれはおいておく。そもそもなぜこいつがここにいるんだ。


「助太刀?」


【こいつが我々を援護したのは本当だ。突然単騎で乱入してきた】


この声はトリスタン公だな。


「どういうつもりだ?」


『どういうつもりも。強力な援軍が来てあげたのですよ。この私が、貴方たちに手を貸してあげると言っているのです。むしろ感謝すべきでしょう』


当たり前のように言うが……その一言で納得できる奴は雲海広しと言えども一人もいるまい。

こいつがメイロードラップに参加してくるような、今は海賊だが普通の騎士の乗り手に戻りたいような奴ならまだわかる。

だがこいつはそうじゃない。


そして、こいつには騎士団に媚びを売る理由も、フローレンスを助ける理由もないだろう。

まったく意図がわからん


『いずれにせよディートレア』


ぐるぐる回る思考をシスティーナが遮った。


『私が怪しいものではないと説明しなさい。助けた恩を忘れてはいないでしょうね』


システィーナが言って、コミュニケーターが静かになった。

皆が俺の言葉を皆が待っているんだろう。


確かに此処で理由をぐだぐだ考えていても仕方ない。今目の前にいるんだから、まずはこの状況をどうにかしないといけない。

頭の中で考えを纏める。


「こいつが何を考えているのかわかりませんが、トリスタン公。こいつが俺を助けてくれて、震電の修理をしてくれたのは確かです」


俺がフローレンスに加勢することを知っていて、震電を修理し解放してくれた。

其れだけは間違いない事実だ。


「こいつがフローレンスに敵対するなら、俺をヴィンドガルドに監禁しているでしょう……少なくとも敵対する意思はないはずです」


俺が言われたセリフじゃないが、こいつは敵対するなら明確に敵対的に行動すると思う。

少なくとも味方の振りをして内部撹乱するってタイプじゃない。

しかし、敵だっていうのに何となく信頼出来てしまうのは不思議なもんだな。


【つまり、こいつは我々に加勢する気だ、とでもいいたいのか?】


糺すような口調でトリスタン公が言う。


「………多分」


【多分、か………】


自信を持って言い切れはしないが。

トリスタン公が黙った。戸惑いがコミュニケーター越しにでも伝わってくる。


『いずれにせよ一度おろしてもらえませんか?包囲を切り裂いて抜け出してもいいのですがね』


トリスタン公の返事が無くて沈黙が続いているコミュニケーターからシスティーナの声が聞こえた。

今度はコミュニケーター越しでも騎士団員の殺気立つ空気が伝わってきた。お前は余計なことを言うな


【まあいいだろう……着艦を許可する】


重い沈黙を破ってトリスタン公の声が聞こえた。感情を押し殺した声だ。


『一応言っておきますが、私を拘束しようとか余計なことを考えない方がいいですよ。被害が増えるだけです』


システィーナがそう言ったとたんにカノンの光弾が一発包囲網の中を貫いた。

廻る様に飛んでいたレナスやフレイアの隊列が崩れる。

上から飛んできたが……上には機影は見えない。何処から撃ってきているのか全く分からん。さっきの支援狙撃は、もしかしたらこいつの差し金か


---


スカーレットがアクーラの上部甲板に着艦した。並んで震電も着艦する。

装甲板を上げると、20人近い船員たちが長銃や短めの槍や剣を構えて震電とスカーレットを取り囲んでいた。

システィーナが堂々とスカーレットの装甲板を上げて姿を現す……まったく大した度胸だな。

空気が一瞬張りつめるが……


「俺に免じて今はこいつには手を出すな」


大声を出して騎士団員を制する。此処で戦闘を始めるのは何の意味もない。船員達が顔を見合わせる。

システィーナが俺を見て満足げに笑った。 


【いいだろう。ディートレア。お前に免じてこいつの安全は保障する。騎士団長、メイロード家の当主の名誉にかけて。皆、下がれ】


トリスタン公の声がコミュニケーターから聞こえた。殺気立った雰囲気の騎士団員が一歩退く。


「ふむ、結構です……いいですよ、降りなさい」


システィーナがそれを聞いて上空を見上げた。

そういうとわずかな間があって機影が一瞬甲板を横切った。上を見ると見慣れない騎士がフレイヤやレナスが旋回する上空からまっすぐに下りてくる。

風をなびかせて、もう一機の騎士がアクーラの甲板に着艦した。


こいつがさっきの狙撃をしてきた騎士か。何かあればこいつの支援を受けて包囲を破るつもりだったんだろう。

なんというか行動は大胆だが用心深いところは流石としか言いようがない。いくら強くても、大胆不敵なだけでは生き残れないか。



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