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姿なき援護

2連投目、行きます

震電が空中に飛び出した。

ベルトランの騎士、アンブロード家の護衛アンブローズ・エスコートと、続いてサラのヴァナルカンドが飛び出してくる。


疲れが抜けていなくて、手足が重く感じる。

しかし疲れたなんて言っているわけにはいかない。機体も自分も、不完全な状況だからなんて言い訳は効かない。


「行くぞ!」


≪おう!≫


声を出して気合いを入れると、ベルトランが応じてくれた

いつもより少し強めの意識でアクセルを踏む。震電がいつも通りに加速する。


目の前の空域ではカノンの光弾が飛び交っていて飛行機雲を引く騎士のラインが交錯していた。

一機の射手ストリエロークがフローレンスの騎士を追いかけているのが見える。


そうはさせるか。

アクセルを踏むと、キャノピー越しに射手ストリエロークの大柄の機影が一気に迫ってきた。

こっちに気付いた射手ストリエロークがカノンを構えかけるが、遅い。


「背中が甘い!」


追い抜きざまにブレードを振りぬく。操縦桿に反動が伝わって、空中に舞った金属片が太陽の光を浴びて鈍く光った。

視界にもう一機。そいつに向けてアクセルを踏む。

射手が急に加速して、捩るような軌道で降下した。気付かれたか。


数で負けている以上、一機でも落とせるならそれに越したことは無い。

アクセルを踏み込むと震電がぐんと加速した。シートに押し付けられそうな体を支えてキャノピー越しの機影を見る。


「逃がさん!」


加速しながらブレードを振る……が、操縦桿に手ごたえが無かった。

視界の端に雲海に向けて急降下していく射手の姿が見える。ギリギリのところで躱されたか。


<後ろだ!>


コミュニケーターから警告が響いた。とっさに左足を捻りながらアクセルを抜く。

震電が操縦に応じて、失速してスピンするような軌道に変化した。

アクセルを今度は強く踏み込む。震電が押し上げられるように一気に上昇した。捩じるようなGがかかる。吐き気をかろうじて飲み込んだ。

外れた光弾が雲に着弾したのが見えた。


「感謝する!」


言っては見たが、返事は帰ってこなかった。誰だか知らないが、助けられたな。

大きく宙返りして体制を立て直す。


何と言うか、着かず離れずと言う感じの動きだ。こちらを落とすことより自分たちの数を減らさないことを優先している。

数の優位を活かしてこちらの消耗を強いるのは、やみくもにこっちの数を減らしに来るっていうだけじゃない。


疲労が蓄積して動きが鈍ったところを落とせばいいってことか。

数が多い上に、あいつらは増援がいる可能性まである。持久戦でも構わないんだろう。


なんというか、空戦の戦略というか戦い方が巧い……こっちとしては迷惑な話だが。

戦う相手は強い方がいい、というのは映画とかではよく言われる話だが。

ロマンの欠片もないことを言わせてもらうなら、レースなら兎も角として命を取り合うような戦いは敵はマヌケな方がいい。


≪あいつはどこだ?≫


ベルトランに声が聞こえる。

今のところ戦場にはあの騎士は見えない。

この間戦った宵猫アーヴェント・ミーツェとやらもいない。もう一方の防衛ラインに居るのか、温存しているのか。

しかし。


「上手く防衛ラインを構築していやがるな」


≪敵ながら見事ではある≫


<ふん、数が多いだけだ>


ベルトランが応じて、サラが毒を吐いた


それぞれの射手ストリエロークは一定の持ち場の様なものを持っているらしく、そこに留まりながら連携してくる。

サッカーのゾーンディフェンスというか、何層も展開された城壁を思い起こさせる戦術だ。

無理に切り込んで一層目の壁を切り抜けれても、次の壁で止められてしまう。

攻めなければ活路は開けないが、無理攻めすれば犠牲が大きくなって相手の思うつぼに嵌められる。


あいつらが今までやってきたように飛行船を狙うのが一番なんだろうが。

迂回して奇襲しようにも風精ヴァーユ並みの規格外の足があるならともかくとして、他の騎士ではあれは真似はできない。

震電なら足の速さはそこまで遅れをとらないが、こいつは近距離特化型だから奇襲して爆撃と言う用途には全く向いていない。

やはり一つくらいは飛び道具を積んでおくべきか。


しかも、アレッタの話だと数の多さを活かして、斥候を多数配置してその動きをかなり警戒している。

多数の騎士を戦線に投入する以上、拠点の飛行船の重要性は増す。向こうも自分たちの弱点は認識しているわけだ。

奇襲しても見つかってしまえば飛行船の防衛を固められるだろうし、そこに突っ込めばやはり返り討ちだ。


数の多さはそれだけで強力な優位だが、空戦だとますますその傾向は強くなる気がするな

ただ、相手のやり方に感心していても状況は改善しない


「いずれにせよこのまま消耗戦をし続けていても不利になるだけだ。どうにかしないとな」


そう言ったところで、整然と旋回していた射手ストリエローク達の挙動が大きく乱れた。


---


勿論あいつらと通信とかが通じるわけじゃないが、戸惑いというか混乱が伝わってくる。

此処がチャンス、といえばそうかもしれないが、唐突過ぎてこっちもどうしたものか分からない。


「何が起きた?」


[遠くで煙が見えます……おそらく飛行船の……噴煙です]


コミュニケーターから声が聞こえる。


「誰か奇襲でもかけたのか?」


[……わかりません]


見ていると、奥に位置していた射手ストリエロークたちが旋回して引いていく


<撤退するだと?>


サラが訝し気につぶやく。

そして、撤退する一機が突然爆発した。残骸をまき散らしながら機体が雲海に沈む。

慌てたように射手ストリエロークが狙いを外すようにジグザグに飛ぶように軌道を変えた……今のはカノンか?


もう一発、光が隊列を貫くように煌めいた。やっぱりカノンか。

わずかな間を置いてもう一発。一発目は外れた二発目は一機を掠めて射手ストリエロークがぐらりと傾ぐのが遠めに見えたが……致命傷には至らなかったらしい。

そのまま煙を吹きながら飛んで行ってしまった。



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