第二節 富田楓
倉庫では
男たちが数十人いて、赤乙はドラム管に座り高笑いをしながら電話を切った。
「ゴッホッゴホゴホ、ヴウゥン」
赤乙はせき込み、咳払いした。そして横に置いてあったはちみつレモンジュースを手に取ると、飲みだした。
「気分はどうだい?お二人さん?」
そう言って、後ろを振り返った。そこには飾森と富田がそれぞれ椅子に座らされ縛られていました。翔麻が怒鳴った。
「お前らが魁人の家を襲った連中だな!こんなことしねえと魁人に敵わねえのか!?」
「黙れ!」
赤乙が怒鳴ると、飾森の後ろにいた男がムチで飾森を叩きました
「ぐわぁ!」
「おい、人質だぞ!丁重に扱え」
赤乙は叩いた部下に怒鳴った。
「すいません!」
部下は恐ろしそうに赤乙に謝る。赤乙はドラム缶から降りると、飾森に銃を向けて言った。
「大人しくしていてくれれば何もしないさ。ただ俺をあまり怒らせない方がいい、飾森翔麻!」
「それで俺を殺すのか・・・やってみろよ!アン!!」
赤乙は飾森に発砲しました。その衝撃で飾森は椅子ごと倒れました。
「飾森君!」
「うるさい!」
赤乙は富田に銃を向けた。そして、倒れた飾森の目の前に立つと、銃で飾森目がけて撃ちました。飾森は眼を開けたまま、息を荒くしていました。飾森の目のすぐ先の床に銃弾が命中しました。赤乙は嫌そうに言った。
「うるさいよお前ら、うるさいのが一番嫌・・・」
赤乙は銃をしまうと、富田に優しい口調で言う。
「安心しろよ、江舞寺魁人が来ても来なくても、殺さずにアジトに連れ帰ってやる。俺たちは何も、一般市民を無意味に殺したりしたいわけじゃねえんだ。迷惑をかけたからにはそれなりの見返りがあるのが当然だ。こいつみたいに刃向かわず、黙って従っていてくれれば殺したりしねえよ」
飾森は赤乙を睨みながら見ていました。赤乙は飾森を見下ろすと、部下たちに言った。
「お前ら!こいつらを向こうの部屋にブチこんどけ!便所と飯以外、ぜってえ部屋から出すなよ」
赤乙がそう言い放つと、男たちは2人を奥の部屋へ連れて行き、二人の椅子を二人が背を合わせる形にして、椅子を固定すると、外へ出て、厳重にカギを掛けました。
その夜
●魁人:南原亭
俺は守護四亭の頭首の中で、最も信頼できる人物を訪ねた。忠一爺ちゃんは実の祖父であることもあり、とても話しやすい。俺が爺ちゃんに訳を話すと
「大変な事態じゃな。じゃが、やはりこれには軍は出せんのう。そもそも江舞寺は人質など見捨てる方針じゃ。特別な人物なら別だが、外者とあればな・・・富田楓に関してはどうにかすべきだと思ってはおるが、今は軍を出すほど重要ではない。上の者に相談を入れれば、君を行かせてはくれないじゃろう」
爺ちゃんがそう言った瞬間、すぐ横に舞様と信高が現れた。
「その通りだ。人質など見捨てろ、もうあの娘には助ける価値はない」
そう言われると思っていた。頭首たちは常に心を舞様に見られている。俺が話せば伝わると分かっていた。
「相手は支部長です。勝てば相手の支部を潰すことができます」
俺がそう言うと、舞様は言った。
「君が支部長ごときに負けるとは思っていない。だが、先ほど危険な力が奴らに戻った。そやつが出てこないとも限らんぞ。お前の祖父を殺した奴だ。妾や狂歌は助けには向かえぬ。なおかつ、君の戦闘に役に立つ者は今の江舞寺にはおらん。君1人で相手をしなければならないのだ。もし、そこに来た人物に勝てないと感じたら、すぐに逃げよ。速さだけなら君の方がまだ増しだろう。それだけを心得れば行って来い。あわよくば、支部一つ潰してしまえ」
「はい!」
危険な力か、舞様がここまで言うのであれば、俺に勝ち目はないのだろう。気を利かせなければな。
永久の月アジトにて
フードを被った男が片膝をつき、神差に敬意を表している
「ボス・・・ただいま戻りました」
神差が言った
「武烈よ、よく戻った。北海道に行く前に君に頼みがある・・・」
「ハ!」
●吹雪鬼:山小屋にて
俺たちには数十人の兵がいる。奴らによって大事な者を奪われた者たちだ。俺の呼びかけでみな集った。
七年前、俺は北澤亭を出てから、帯刀の町に向かった。子供の頃に安澄と作った秘密基地に行くと、そこで変わり果てた安澄に再開した。安澄は奴らに家族を殺され、家を焼かれた。俺より悲惨な目にあったのだ。
その後、俺たち2人が山などで浪人生活をしていると、俺たちのもとに現れたのは山上先生だった。彼が江舞寺の人間で近年は江舞寺を離れていることをその時知った。彼は俺たちに戦術を基礎から授けた。そして兵が必要だと言われ、日本中をめぐり、仲間を集めた。山上先生は私情で普通の生活をしていたのだが、五年くらい前に一度俺たちから離れていた。離れる前に、用があったら根の誰かに話を聞けと言われていた。思いのほか多くの用事があったが、さして根の人間に心当たりなど無かった。唯一分かっていたのが永火だった。二年くらい前に帯刀に戻って、友人に話を聞いたが、行方不明と言われて途方に暮れていた。
だが最近になって、先生は蘭を連れて戻ってきた。すでに蘭は戦闘能力が高かったので、初回から俺たちと同じ幹部だ。大学も行かずにニートだった奴がなぜこんなに強い理由は、あくまで本人の様子を見た推測だ。蘭は江舞寺に育てられたのではないだろうか。根拠として、蘭の家族と先生は仲が良かった。どちらにしろ昔からタフだから常人じゃないな。そう思っていると、山上先生が入ってきて、俺たち3人に言った。
「お前ら、下界に降りてみないか?」
俺は戦闘だと察した。安澄はキョトンとした顔だ。蘭は納得のいかなそうに言った。
「こないだ、ダメだって言ったじゃん!」
先生は言った。
「戦じゃ」
●飾森:倉庫の奥の部屋
言った通り夕飯は食わせてもらった。その後に赤乙とかいう奴らのリーダーが面倒だからという理由で以後拘束がされていない。俺たちは部屋の隅で床に座っていた。逃げようなんて勇気は俺たちにはないので、逃げようとは思っていない。というか無理だ。こういう場合、排泄は垂れ流しかと思っていたが、そんなことはなかったな。言えば鍵を開けてくれる。ただ、この部屋は狭い。アパートの風呂場くらいのスペースだ。電気はもともと通っていないらしく真っ暗だ。だが奴らはご丁寧に懐中電灯を二つも置いといてくれた。他に置いてあるものは何もない、俺たちの所持品は富田の携帯以外、何も取られていない。俺たちが監禁されてから数時間が経った。時間は外の見張りに聞けば、いつでも教えてくれるのだ。ついさっきは寝袋を渡された。あいつらは本当に悪い奴らなのだろうか、何か人質のこともしっかり考えている配慮だ。安心感を与える作戦なのだろうか、そうと分かっていても安心感がある。あくまで俺だけかもしらない。富田は夕飯もろくに食わず、便所にはずっと行っていない。よほど不安と恐怖があるのだろうな。当然だろうな。
「楓たちさ・・・このまま死んじゃうのかな?」
富田が悲しそうに言った。少し勇気をやろう。
「そうはなりたくないな。魁人が来てあいつらボコボコにしてくれるさ。また楽しい日々に戻るんだ。俺とお前、それに留奈、おまけに魁人のな」
「飾森君・・・留奈は・・・楓の子じゃないんでしょ・・・」
富田が泣きながら言った。聞かれてたのか、だから朝から元気がなかった。
「お前・・・あの日の会話、聞いてたのか・・・」
「うん・・・今日ね・・・悲しみが押えきれなくなって、泣いちゃった・・・飾森君にも魁人にも心配かけたくないから、自分の部屋に篭ることしか出来なかった・・・二人とも死んじゃったらさ、留奈は魁人が面倒見てくれるよね・・・」
富田は俺の手を硬く握り締めて、とても悔しそうに言った。俺もその手を握り締めた。俺たちは殺されるかもしれない。そうだよな。俺はいつでもご都合主義さ。ならご都合主義なりに、励ますか。
「ああ、そうだな・・・」
俺は下を向いた。こんなとき、現実でこんなことを言ったら不謹慎かもしれないが、富田なら笑ってくれるかな。
「頑張って生存フラグを立てよう」
富田は笑った。良かった。しらけたらどうしようかと思った。
「例えばどんなの?」
「俺ら人質だぞ、こういう場合は絶対に死なないって決まってるんだ」
「それ言ったら死亡フラグじゃね」
そうか、マズイな。思ってること言っちゃいけねえのか。まだ方法かある。
「逆に死亡フラグ立てまくるのはどうだ。そういう場合は読者の裏を書いて死なないと決まっている」
俺がそう言うと、富田も乗りだした。
「私に任せて先に行け」
「もう何も怖くない」
「さよなら、・さん」
「俺、ここから出たら結婚するんだ」
「もし生きてここから出られたら私たち結婚しようね」
ネタが被り、しばらく沈黙が続いた。俺たちは互いに振り向き、顔を合わせた。富田は真面目な顔で俺に言った。
「本当にしようよ。ウチ、飾森君のこと高校の頃から好きだったんだ」
そうか、両想いだったんだな。俺はそれより前からずっとお前のことを思っていたよ。
「ああ、そうだな・・・俺もずっとお前のことが好きだったさ」
富田は少しうれしそうに泣き出した。
「ほんとに?」
「ああ、今から楓って呼んでいいか?」
俺が問うと、富田は笑って頷いた。
「ウチも翔麻君って呼びますよ~」
一人称がウチに戻った。元気が出てきたってことだ。俺は楓を抱きしめて言った。
「お前と出会ってからずっと好きだったよ。今告白する。嫌いになるなよ」
楓は頷いた。これを本人に言うのは恥ずかしすぎるが、言おう。
「実は俺、小六のときにお前のリコーダー舐めたんだ」
楓は一瞬間を開けて笑い出した。
「へぇ、そんな頃からウチのこと好きだったんだ。ウチ、6年とかガリガリで気持ち悪かったでしょ。もしかして尿検査とかも取ってたりしたの?」
ギクリと来た。俺が中学高校と保健委員をやってた理由だ。表向きには二階も委員長をしたが、年に一度のチャンスの為だけにやっていた。何しろ小5からずっと一緒のクラスだからな。学年が上がるごとに、喜んで保健委員に立候補してきた。
「隠れて嗅いでいたって言ったら嫌いになるか?」
俺がやっつけで言ったところ、楓は首を横に振る。
「すごいね、小五のときのアレがその原因?」
そう、こいつは転校当初、まったく口が利けなかった。そのせいか、授業中に失禁してしまったことがあった。クラスでは大ごとになって、はやし立てるアホもいたが、俺はそれに性的な興奮を感じていた。実際、それを感じたのは俺の他にもう一人いたのだが、そいつはいいとしよう。それでも学校に通っていた楓に好意を持ち始めたのもその頃だったな。
「それが原因で好きになった。オマケに変な性癖に目覚めたよ」
「なんか、似たような奴いたな」
「そうだな」
そう、もう一人の目覚めた奴。中学のとき、俺たちと同じクラスだった成瀬桃香という奴だ。こいつは俺より過激だ。見てるだけで満足ではなく、実際に自分で行うという変態女だ。普段から授業中にトイレを我慢する癖があったが、中二のときに授業中に失禁した。そのおかげで、学校で楓をバカにする奴はほとんどいなくなった。噂によれば、成瀬は浣腸を所持しているだとか、それ以来オムツをはいて授業を受けているだとか、過激な情報が飛び交っていた。あくまで噂だろう。たまに変な臭いがしたが、気のせいだったはずだ。
「このことが魁人に知られてることなの?弱み握られてるとか昔言ってたじゃん」
「いや、リコーダーのことだけだよ。見られたときは焦って隠したが、見抜かれたみたいでさ。でも今まで秘密にしていてくれたんだろうな」
そう、その現場を魁人に見られていた。あいつとはそれまで友達だったが、それ以来、弱みを握られていて、ビクビクとしていた。だが脅されたことは一度もない。だが、逆らうに逆らえないのが現状だ。だが、あいつは俺を友達だと思ってくれているからには友として何かしてやらねばならん。とか思っといて、結局魁人に助けを求めているのだが、あいつが楓を俺に託したのなら、命を張ってでもこいつを守らなければならない。
「ウチのこと気持ち悪くない?」
こちらのセリフなのだが。
「小五のときのウチは気持ち悪かったから・・・実は嫌われてないかなって思って」
楓が泣きながら俺の胸に顔を埋める。俺は楓の背中をさすった。
「ずっと言い出すのが怖かった・・・告白したら、またいなくなっちゃうんじゃないかって・・・なぜだか知らないけど、楓が告白した人はすぐに死んじゃうんだ」
「そうか、じゃあ俺は死ぬかもな」
俺はそっぽを向いた。すると楓は俺の顔を持つと正面を向かせて、むっすりとした顔で言った
「楓の秘密も教えてあげる」
楓は昔のことを語り出した。
●楓:回想
あれは17年前、私が小学3年生のときのことだ。私は当時、帯刀町には住んでおらず、隣町の小学校に通っていた。私はその頃、幼稚園の頃から仲の良かった男の子に恋をしていた。
学校帰り、私と男の子(レン君)が手を繋いで、いつものように一緒に帰っていた。その日は待ちに待っていたお祭りの日。今日告白すると決めていた。
「レン君、今日のお祭り、遅れちゃダメだよ」
レン君は笑って言った。
「分かってるよ、四時に楓の家に行けばいいんでしょ」
「うん」
四時になり、部屋でウロウロしていると、チャイムが鳴った。
「は~い」
私が浴衣姿で出て行くと、レン君は私を観察しているようで、ちょっぴり恥ずかしかった。
「じゃあ、行こうか」
私たちは家を出て、お祭りに向かった。いつものように手を繋いでいるのに、とても緊張した。
祭り場につくと、人が多く集まっていました。すでに屋台も出ていて、私は目に付いた金魚すくいを指して言いました
「金魚すくいやろ~」
レン君は私の顔を見て、笑顔で言いました
「おもしろそうじゃん」
私が金魚すくいを始めると、5秒も経たずにすくいが破けてしまいました。
「う~破けちゃった・・・」
私が破けたすくいを見ていると、レン君が自信満々な口調で言いました。
「んじゃ、俺の番だな」
レン君は金魚すくいに何度も挑戦し、やっとのことで一匹捕まえました。するとレン君は私に笑いながら言いました。
「やった!凄くね」
「レン君やりすぎ」
私が笑って言うと、レン君は袋に入った金魚を見て悩んでいました。
「この金魚、名前何にするか」
「レン君が取ったからレンコンとかは?」
私が笑顔で提案すると
「それ俺のアダナじゃねえか」
レン君は金魚を見ながら言いました。
「じゃあお前はレンコンだ」
私は笑い出すと、レン君は金魚を私に差し出して言いました。
「はい、レンコンあげるよ」
私は茫然としました
「え、ありがと」
「でも、すぐ殺しそうだな」
レン君がそう言うと、私は自信満々な口調で言いました。
「ちゃんと育てるもん、子供何匹も産ませてやる」
レン君は金魚を渡すと、笑顔で言いました。
「頑張れよ」
私たちはいろいろな屋台を周り、楽しんでいました。そして花火がはじまり、あたりは大いに盛り上がりました。このタイミングで言うと決めていました。
「レン君・・・あのね・・・」
花火の音が鳴り、私の声が途切れました。ここではダメだと悟りました
「何?ごめん、聞こえなかった」
私はレン君の腕を引っ張り、林の中に連れ込みました。
「何だよ?」
「あのね・・・楓、ずっと前からね、レン君のこと・・・好きだったんだ・・・」
「え・・・」
ひと時の間、ほのかに花火の音が林まで聞こえました。
「答え・・・聞かせて・・・」
またひと時の間、花火の音がほのかに届きました。
「少し考えさせて・・・今すぐには答えは出せない・・・でもほんと少しでいい、明日には答えられる」
「うん・・・」
私はこの時、その返答に辛い気持ちになりました。このまま、答えを教えてくれないでどこかに行ってしまうのではないのかと思っていました。
次の日、私は自分の部屋でいつにもましてせわしなく部屋をウロウロしていました。そんなことが数十分続いた頃、遠くで救急車の音がしましたが、その時の私はまったく気にせずに、天井を見上げて、もじもじしていました。さらに数十分して、チャイムが鳴りました。レン君が来た。そう確信して、私は部屋を飛び出した。
私が下へ降りようとすると、すでに母が出ていました。玄関ではレン君のお母さんが私の母に向かって泣き叫んでいました。何かが起こったと悟りました。
「アンタの娘が!ウチの子を殺したのよー!ウチの子を返してー!」
私は何が起こったのか分からず、階段で立ちつくしていると、私を見た母が辛そうな表情で言いました。
「楓・・・ついさっきね・・・レン君が、トラックにはねられて、亡くなったそうよ・・・」
私は階段で沈むように座り込んだ。嘘だと信じた。悪い夢だと信じた。そんなことがあるわけない、そう思った。でも体が動かなくなった。私に気づいたレン君の母親は土足で私まで詰め寄ると、私の胸元を掴みながら金切り声で叫び出した。
「アンタがー!アンタさえレンに近づかなければ!!ウチの子は死なずに済んだのに!アンタさえ!!アンタさえいなければー!!!」
その言葉が頭に鋭く突き刺さる。目の前の人への恐怖と、レン君を失った喪失感、その二つが私の心をズタズタに引き裂いてしまったのです。この日以降、私は食べることをやめた。
あとから聞いた話では、レン君を跳ねたトラックの運転手は事故を起こす数時間前にはすでに心臓麻痺か何かで死亡していたらしく、警察はレン君には触れず、運転手の死因について着目した。警察に門前払いされたレンの母親は、その怒りをすべて私にぶつけたそうだ。
レン君の葬式の日も、私と母は行かなかった。私は部屋のカーテンを閉めて、電気も点けずに布団に蹲っていました。窓際の金魚は死んでいました。
部屋のドアが開いた。私が開いたドアを見ると、そこにはレン君の父親がいました。私が休日にレン君の家に遊びに行くと、よく優しくしてくれた人だ。でも、攻められると思い、その時は恐怖でたまりませんでした。
「楓ちゃん・・・この前はウチの妻が酷い事したね・・・」
レン君の父親はそう言いながら、布団の中の私に近づいてきました。その言葉にも、恐怖が収まらず、体がガタガタと震えだし、私はか細い声でずっと謝り続けた。
レン君の父親はそんな私を優しく抱きしめて言いました。
「一番辛いのは君なんだよね・・・ため込まないで泣いていいんだよ・・・」
自然と体の震えが引いていきました。レン君の父親は、懐から血のついた手紙を取り出して、私に差し出すと言いました。
「これ、君への手紙・・・妻から止められてるけど、読んであげてくれ・・・」
私がそれを受け取ると、レン君の父親は部屋を出て行きました。なんとなく、お父さんのように感じました。私の父は、私が生まれたときからいません。姉さんは見たことはあるのですが、私は会ったことがありません。レン君の父親は私にとってのお父さんだったのかもしれません。
私は血のついた手紙を破かないように丁寧に開くと、読みだした。
“楓へ・・・一応、手紙として書き上げることにした。楓、俺なんかのこと好きって言ってくれて、本当にすごくうれしかった。いつか、楓みたいなお嫁さんもらいたいな~なんて考えて、自由帳に未来の家系図とか書いてたりしてたんだ。楓はどんな時でも優しくて明るい元気いっぱいの女の子だからね。だから、もちろん俺も楓のこと、好きだよ。それこそ、ずっと前からね。でも、ウチのお母さん、楓のこと実はすごく嫌ってるんだ。楓に告白されたってお母さんに言ったら、すごく怒ってた、反対されもしたんだ。だから今日もまた、楓んちに家出してきちゃった(笑)多分これでウチのお母さん俺たちの間を裂こうとすると思う、だから、好きだけど今までみたいに一緒にいるのは難しいかも・・・ごめんね”
生きていてくれれば遊べなくても良かった。またあの笑顔が見たかった。もう一度、会いたい。私は泣きながら手紙を読み終えると、手紙はグシャグシャでした。そして、レン君の母親に言われたことが頭に残り、鋭い痛みが頭に走りました。
私はそれからも、何も食べず段々と痩せていきました。レンの母親はその後、運転手の遺族に多額の賠償金を請求したが、裁判で敗退し、より私に向ける憎悪が強まった。そのため、私への怒りは母や姉にも影響し、私たち家族に対する陰湿な嫌がらせが続き、日に日に増していった。ついに耐えきれずに、私が小学五年の夏の終わりに帯刀に引っ越し、私は歩川小学校に転校した。
転校初日、私を見た男子生徒たちは次々にからかい出しました。
「めっちゃガリガリやん」
「てか骨じゃね」
言われても仕方ない、私は拒食症だった。下を向いて席に付いた。
転校してからも給食の時間は何も食べずにいた。誰とも何も話さない私に、クラスの中心人物だった当時の美弥は毎日のように言っていた。
「お前、これ以上なんも食べなかったら死ぬぞ。なんか食えよ」
私は何も言わず、ただ頷いていました。それを見かねた担任も、私の母親に相談しましたが、母さんは何もせず、ただ涙を流しながら私を見ていました。後に思えば、母さんもとても辛かったと思う。
その年の冬の日、とても冷えていた。トイレだと言いだせず、クラスメイトの前で醜態をさらした。それでも美弥は私を励ましていた。自然と美弥にだけは話せるようになった。私はずっと現実に目を向けないで過ごしてきた。友達もいなかった。だけど美弥には友達になってほしかったのだ。私は過去のことを打ち明けた。美弥は私に優しく接してくれた。友達というものを得たと思った。
さらに美弥は私と仲好くなれる友達を2人紹介してくれた。魁人と桜ちゃんだ。魁人は私に食を思い出させた。
魁人と初めて会った日、私はたぬきちにお呼ばれされた。魁人は私に和食料理を出した。しかしその時の私はすぐには手をつけようとしませんでした。
「以前から、君が経験したことは知っています」
魁人のその言葉を聞いて、その場を逃げたそうとした。美弥に裏切られたと思った。魁人は私を両手で押さえつけて言いました。
「君が悪いわけじゃないよ。だから罪を感じて何も食べないのはよろしくない。彼も君がこんなになっちゃうのは望んでないと思わない?」
私は抵抗をやめた。その言葉に今まで自分に突き刺さっていたものを綺麗に抜き取られたのだ。私はただ泣きながら頷いた。
「長い間、何も食べないらしいから、特別に作った。急に食べても吐かないと思う、大丈夫だよ、ちょっとでも口つけてみなよ」
ついに私は食べました。その味は涙と鼻水まみれだったけど、心の底からおいしいと感じた。
私はリミッターが外れたようにモリモリと食べだしました。あっという間に食べ終えた私に魁人は笑って言った
「おいしい?」
私は笑顔で頷いた。こんな良い気持で笑ったのは久しぶりでした。
その後は桜ちゃんと出会い、いろんな漫画を教えてくれて、その話で盛り上がった。今まで趣味が合う友達なんていなかったから、私の趣味を理解し、私を理解してくれる人がいるだけで、とても安心感があった。桜ちゃんは優しいわけではなかったが、私を理解してくれる、それだけでうれしかった。私が心を開いてみれば、いっぱい友達ができた。
それからも魁人たちと遊んでいるうちに、私はだんだんと太っていき、明るくなっていきました。美弥も含めた4人でいろいろな場所に遊びに行ったりしました。そして私はいつの間にか本来の明るさを完全に取り戻すことができました。
ただ、醜態のトラウマが消えず、中学になっても目線が怖かった。飾森君にも嫌な眼をされているのではないかと思っていた。でも、そんなことはなかったのだな。私はまた愛されているのだ。二回も失恋しているが、私はこれからを生きていきたい。一緒に行こうよ、翔麻君。
富田楓、彼女の過去を書きました。飾森君との絆も伝えられたのではないでしょうか