第一節 謎の赤ん坊
●魁人:飾森の車の中
会議が終わり、これから健ちゃんのいる病院に向かう。
「ほんとにこのまま行くのか?」
やはり翔麻は乗る気じゃないようだな
「やっぱ調べた方がいいと思うもん、楓は賛成」
「2人が賛成なら仕方ないか」
俺も賛成はした。中国の愛恵のことと何か関わりがある気がしたからだ。知らないうちに子供がいるなんて、ないとは限らないからな。
車は帯刀赤十字病院へ着いた。後ろからついてきた健ちゃん車から、健ちゃんと後のドアから友里也も降りてきた。そういえば、ここで看護師やってるんだっけか。
「とりあえず、ついてこい」
俺たちは健ちゃんについて行った。
●魁人:鶴峰の医師室
健ちゃんが机の前の医師席に座り、その前の四つの席に俺たち四人が座った。
「とりあえず、血液とるから」
健ちゃんは注射器を4本取り出しました。それを見た留奈は隣にいた楓の腕を引っ張り、隠れようとしました
「ほら、怖がらないで」
健ちゃんが優しく留奈に言うと
「どこも悪くないのになんでするの?」
留奈がぐずりながら言うと。見かねた翔麻が言った
「とりあえず、先に俺らをやって」
「ああ」
健ちゃんは翔麻の腕をゴムロープで縛り、飾森の腕に注射針を刺しました。そして血を抜くと、ガーゼを刺し口にあて、針を抜いた。そしてフラスコに移すと、ゴムロープを外した。そして、同じように俺と楓からも血を取ると、留奈の方を向いた
「やだ!」
「モリゴン、押さえつける攻撃!」
久しぶりに翔麻のあだ名を聞いた気がした。そういえば健ちゃんや吹雪鬼はポケモンみたいに技を命じたりしてたっけ。
「こんな小さな子供にそんな手荒なマネができると思って・・」
「仕方ないだろ、俺はこのくらいの子供に針を刺すとき、何度も親に押さえつけさせた」
健ちゃんが怖い形相で言うと、翔麻は留奈を押えた
「パパ!やだ!放して!!」
健ちゃんがゴムロープを留奈の腕に付けると、留奈は健ちゃんの顔を蹴飛ばした。
「飾森、くれぐれも腕を動かすなよ!」
あだ名で呼ばないということは真面目に言っているのだな
「おう!」
「パパのバカ!アホ!ドジ!カス!グズ!デブ!ゲス!カス!」
留奈がわめいてると、翔麻は留奈を後ろから抱きしめるように、押さえつけ
「カス二回言ったぞ。どこで覚えて来るんだよ、そんな言葉を・・・健ちゃん、いいよ」
「ああ」
健ちゃんは顔を蹴られながら、留奈の腕に注射針を刺し血を抜きだした。留奈は自分の血を見ると、怯えたように気を失い、グてりとした。
「これで、お前らの血は取れた、結果が出たら報告する、いや、送ってやろう」
健ちゃんの顔には小さい足跡が付いていた
「分かった、ありがとう」
「じゃあ、住所教えるね~」
楓は住所の書いた紙を健ちゃんに渡した
翔麻は留奈を背負うと
「これで家に帰れるな」
そうだ、買い物をしなければ。
「帰りに夕飯の材料買っていい」
「そうだな、何も買ってなかったっけ」
俺たちは名古屋に向かった。
名古屋のスーパー
魁人は食品を選んでいた。富田が言った
「ねぇ魁人~?今夜の夕飯は何~」
「グラタンかなんかにしようと思う、たしか家にオーブンあったよね?」
「それはある」
富田は誇らしげに言い張る。
「おし、じゃあ材料っと」
魁人は野菜を見つけ出してはカゴに入れていた。
その様子を棚の横で赤乙がしっかりと見ていた。
●桑田:京都県警
ワイと柚紀はんは仕事場に戻った。
「ただいま」
柚紀はんが一言発すると、刑事たちは一斉にワイらを見て
「おかえりなはい!」
ワイは自分の席に付くと、隣の席の女刑事が柚紀をじっと見つめておった。見ない顔やな。もしかすんとこの子は
「君かい、ワイらが出てって少しして配属されたっていう新人さんは」
女刑事は慌てて一礼する
「はい!先日より配属されました、邦枝小町です!標準語ですがよろしくおねがいいたします!」
ワイは柚紀はんを指して言った
「そうかい、よろしくな。あの人にも挨拶せんと、なんでもここのトップの娘さんじゃけん」
「分かりました。言ってきます!」
彼女は柚紀はんのもとへと向かった。新人さがにじみでとるな。新しい環境に慣れないタイプやな。
数時間前
永久の月アジト会議室
支部長たちが集まっていた。前にいた微影が話し始める
「ボスは不在だが、時間なので会議を始める」
支部長たちはかしこまる。微影は続けて話す
「お前たち、我らと敵対しようとしている連中が出てきた、そして何より江舞寺魁人が現れた。ボスが下したお前たちの任務を伝えよう。まず赤乙、分かっていると思うが、江舞寺魁人はそう簡単には捕まえられない、頭と武力を使って江舞寺魁人を捕えろ」
「は!」
「次に青甲、お前には江舞寺吹雪鬼の捜索を命ずる。悟られないことを勧める、奴は軍を扱う。こちらの足を晒すなよ」
「ハ!」
「紫丙は江舞寺千秋の監視だ。西垣家が付いているからうかつに手を出すな。近いうちに白己を向かわす。行動に出すのはそれからだ」
そこにいた中年男性が返答する。
「招致!」
「黄壬、藤庚、お前たちは・・」
微影が飯沼と宇多を見ると
「アイツらに会えと、そして殺せとね、やってやんよ」
「おっしゃー、ぶちみな殺してやる」
「お前らの任務は後に伝える」
「あ、そう」
微影は奥で座っていた邦枝に言った。
「橙丁、あなたは引き続き京都県警に潜み。小娘を見張るように、江舞寺関係を除けば、もっとも危険視すべき存在だ。たどり着く前に消しなさい」
「はい!」
次に微影は邦枝の前に座っている、中学生くらいの少年に言った。
「お前は時期に来る彼とともに北海道に向かえ、江舞寺向日葵を殺し、あわよくば北澤亭を潰してこい」
少年は立つと微影に一礼しました。
その後、飯沼と宇多、微影を残し、他の幹部たちは去っていきました。
そこへ、桜と神差と若い女性がやってきた
「お早いお帰りで」
微影が言うと、神差は残念そうに言った。
「ああ、終わってしまったか」
女性は飯沼に向かっていくと
「黄壬く~ん、元気だった」
「朱辛、久しいな」
朱辛は飯沼を馴れ馴れしく触りました。
「貴様ら、ボスの前だぞ」
微影がそう言うと、神差がなだめました。
「明影、いいんだ、朱辛は実に使命をまっとうしてくれた」
●宇多:走行中の飯沼の車にて
ボスが副官の女を呼んだときのことを思い出した。
「あの仮面の女、名前あったんだな・・・」
司が言う。
「今までずっと副官殿で通ってたしな、ボスの右腕ってことは、さぞ強ぇんだろうな、なあ明影様」
「え?」
俺が後ろの席を見ると、副官の女が座っていた。
「そう呼んでいい人間はこの世でたった一人だ。微影と呼べ」
微影様は司にそう言った。呼び方に意味があるのか。
「あなたも人間じゃないんですかい?」
俺が恐る恐る聞くと
「当然だ、この私を人間などと同じに考えるな。殺すぞ・・・」
「お~こわこわ」
俺が元の体制に戻ると、司が冷静に言った
「それで何ですかい?お話があるのですよね、微影さんよ」
様をつけろバカ野郎!ガチで殺されちまうぞ。たしかこの方は逆らった人間すべてを容赦なく殺すとか、一瞬で人間を塵に消しさる程の力を秘めているだとか、恐ろしい噂が出回ってんだぞ。仮面の下はバケモンかもしれねえ、見たら死ぬ的なヤツかもしれねえ。そんな方をお前はなぁ・・・微影様が口を開かれた。
「うむ、そのつもりだ」
様はいいのか、そうですか。微影様は続けて言った。
「これから、あなたたち二人に任務を説明する。その前に情報を話しておこう。藤庚、メモの用意をしておけ」
いちいちメモだとか命じられるあたり、完全になめられてるな。俺がメモを出すと、微影様は話始めた。
「分かっていると思うが、奴らの最初の会議は10年前だ。来たメンバーは21人、その中にお前たち二人も入る。そして先日、二回目が行われた・・・以前言ったがお前たちの元仲間たちのほとんどが江舞寺と間接的に接触している。奴らのことだ、手を貸し、唆す可能性がある。すでに京都県警の小娘が職権乱用して、情報を人一倍探ろうとしている。他にも脅威になる可能性のあるものも多い。お前たちには今後、私が報告する者を早急に抹殺することを命じる。相手は非戦闘員、黒發(美弥)から指示をもらうまでもなく、好きにやってもらって構わない。ただし、足はつけるなよ」
「ばれやしねえよ、俺たち妖術だって使えるんですぜ、余裕だ余裕」
敬語がなってねえ。マジで殺されるぞこいつ。
「だまれアゴ、明影様になんて口聞いてんだ。副官様だぞ!」
司はアゴが出ていて目立つ。中学の頃からのあだ名だ。他にもAGO、酸化銀などというあだ名がある。
「おい!微影と呼べと言っただろ!」
「すいません!」
つい呼んでしまった。呼び方にこだわるのがよく分かる。これがもし二回目だったら殺されていたかもな。
「では藤庚、メモを書き始めろ」
え、今からなの?
「三回目の会議の時間と場所を教える・・・お前たちはそこで来た者たちを適時に削れ」
西垣亭
善宜が忠一と電話をしていた。
「ああ、元気でやってるよ。西一かい?この間、狂歌様が連れ帰って来て下さった。ウチは時期頭首には西一を進めるつもりだ、まだ幼いがのう。そっちは誰を押すんだい?」
「いやはや、もうウチには女しかおらん。どうやって頭首を決めろと言っとるんだい、善宣よ」
「それは問題ないじゃろ、君のところは夛眞のところと違って頭首の性別に制限は無かったじゃろう」
「ウチは1200年間ずっと男が頭首じゃい、先代、先々代の頭首様たちからも伝えられておる。ウチの誇りじゃい!」
「そーかい、そーかい、でも急ぐんじゃぞ、正月までに頭首を選ぶのじゃ、決戦に向けて、我々御老体は足手まとい以外の何物でもないからのう、雅の奴は先に行ってしまったが、我々3人もいつ死ぬか分からん歳なんだからな・・・」
「わかっとるわいそんなこと」
「じゃあさっさと頭首決めんかい!」
善宣は電話を切りました。
南原亭にて
「やれやれ・・・」
忠一は絵の具で絵を描いていました。すると横に置いておいた電話が鳴りだしました。忠一がそれに出ると、相手は夛眞でした。
「お前さん、頭首決めたんか?」
「まだじゃ・・・」
「はぁ~?お前さん、まさか男にこだわってるなんてことはないだろうね」
「こだわっとるが文句あるか、夛眞」
「ウチは言えた義理じゃないけどね、時間ないぞ、いいんかい?」
「仕方ねえだろ、ウチは女ばっかなんだから、せめて叶恵が男の子を産んでくれれば良かったんじゃが、夫が前々回の闘いで亡くなって、もう結婚しないと言い張っとる」
「それにくらべて、ウチは時期頭首に逃げられる始末だ」
「事件が起こる前だったな、確か」
「優秀な子だったから甘やかしすぎたんかのう・・・さて、どうしようか。ウチはもう麻美しか残っとらんからのう」
「麻美ちゃんて、どんくらいの強さだっけか」
「闘いの強さは根の者に匹敵はするが、他と並べても役には立たんだろう、頭が良いわけでもないからの」
「麻美ちゃんは善宣のとこの西一君と同い年じゃろ」
「だからウチの麻美と西一君なら圧倒的な差が生まれる。なんたって西一君は狂歌様に育てられたんじゃからな・・・それだけ見込まれた存在。たかだか8歳ではあるが、武術の腕は3歳ごろの美弥様に匹敵する程の逸材とのことじゃ。そんなのと対等な器ではない。娘が戻ってきてくれれば良いのだが」
しばらく両者とも黙っていたが、忠一が言った。
「そういえば、麻美ちゃんや西一君は例のあの子たちと同じ歳じゃったな、ちょうど今日だったハズだ」
「アレか・・・そうだな、今日産まれたんじゃった。そろそろ智人君を呼びよせる必要があるのかもしれん・・・」
「でも、もしこのことをを魁人様が知ったら」
「しかたあるまい、最悪の事態だけは避けたい、それはみんな同じじゃ・・・怖いのは、智人君自体じゃ・・・」
「そうじゃな・・・」
●魁人:富田のマンション
リビングはデコレーションされており、留奈の誕生日を祝う形になっていた。俺はちょうど風呂掃除を終えた。2人は留奈の誕プレを買いに行っていて、今は俺1人だ。
そのときチャイムが鳴った。俺が覗き穴を覗くと、そこには健ちゃんがいた。俺はドアを開けると
「健ちゃん、結果出たの・・・」
「ああ、一応見てくれ・・・」
健ちゃんは深刻そうに言った、ただ事ではないだろう。
「どうした、何か怖いぞ・・・」
「聞きたいことがあると思うから、あがるぞ」
健ちゃんはそう言って中に入った。
魁人がドアを閉める様子を、そこからかなり遠い、ビルの屋上で双眼鏡を使って赤乙が見ていました。赤乙は双眼鏡をどけるとニヤリと笑いました。
●魁人:マンションのリビング
俺は健ちゃんから手渡された封筒を開けて、中の四枚の資料を出した。そして一番上にあった翔麻の資料を見ると。そこには親子ではないと書かれていた。これは分かっていた。翔麻が嘘を吐いていなかったのが何よりの証拠だ。俺は次の資料を見た。それは楓の資料だった。
「こいつは親子ってことは判明してるから、見なくても・・・・・・・ハ?」
健ちゃんは下を向いた。楓の資料には親子ではないと書かれていた。俺は次の資料を見ようとした。どういうことだ、あいつとは血が繋がってるハズだぞ。3枚目の俺の資料を見た。それを見て驚きを隠せなかった。
「留奈ちゃんと親子なのは、魁人、お前なんだよ・・・」
その資料には親子であると書かれていた
「じゃあ、愛恵は・・・」
「四枚目を見てくれ」
俺は四枚目を取り出し、見てみた。こんなことありえない・・・
「留奈ちゃんの本当のお母さん、最低でもお前と3親等以内の人間だ・・・飾森も富田も、何かの陰謀に巻き込まれた可能性がある・・・安心しろ、まだ誰にも言ってない。この結果のこと、富田には言わない方がいいだろう」
あいつは辛いことを自分だけで処理しようとするからな、まだ話すべきではないか。
「ああ、そうだな・・・」
「偽の結果を持ってきた、これを富田には見せた方がいい、飾森と深く談話するといい」
健ちゃんはもう1つの封筒を机に置いた。これはこっちも調べた方がいいな。
「あのさ健ちゃん、これも頼めないかな?」
俺は血の入ったフラスコを冷凍保存用の小さな箱の中から出した。健ちゃんは少し考えてから言った
「分かった」
健ちゃんはフラスコをその箱にしまうと、箱をバックに詰め、俺に背を向けた。申し訳ないな、とても助かった。
「健ちゃん、ありがと・・・」
健ちゃんは帰り際に俺の方に手をあげて部屋を出て行った
山小屋のような場所
安澄がテーブルの前に座って、本を読んでいました。その部屋に女性(竹下蘭)が入ってきて、テーブルの上の携帯を開け、焦ったように言った。
「やば!吉崎君からのメール無視しちゃってた!」
蘭は携帯をいじりながら
「ごめんね、と。送信、送信、遅い~!はよはよ!」
蘭は送信ボタンを押しまくりました。安澄がうざそうに言った
「うるさいぞ」
「ほっといてよ、アホ。でも、山の上だから仕方ないか~」
蘭が上を見上げると、ガッチリ腕と足が引き締まった眼鏡の男性(吹雪鬼)が、天井の鉄棒に足をかけてぶら下がっていました。吹雪鬼は蘭を見て言った
「蘭!吉崎が何だって?」
「こないだ、みんなが集まって会議したんだって、呼ばれたのに返事できなかった。どうしよう!」
蘭がドアの前で頭を抱えていると、蘭の後ろに中年男性が立っていて、蘭の頭を片手で握りながら言った。
「お前、行くつもりだったのか?」
「山上先生!イタタタ、行ったっていいじゃないですか!長いこと、こんな山の中にずっといるんですよ!そろそろ下界に・・」
※山上先生、中学時代の吹雪鬼たちの部活の顧問。本職は江舞寺の茎の副将
蘭が弁明していると、吹雪鬼が天井のいくつもの鉄棒を次々に移動しながら、下に降りてきて蘭に言った。
「お前はいつまでもあいつらと交流しているから、失踪人数に数えられねえんだよ。おとなしく修行してろ」
山上は蘭の頭を離すと、吹雪鬼に言った。
「吹雪鬼、部下たちの様子はどうだ?」
「微妙だな、あんなんじゃ奴らの下っ端レベルだ」
安澄は机の上のタオルを吹雪鬼に投げました。吹雪鬼はそれを受け取ると、顔の汗を拭いた。
「近いうちに衝突する。お前の軍は守護四亭の軍と同レベルにしとかないとならない。お前の実力もより高くな。お前ら3人なら、恐らく奴らの支部長と同レベルだ。あとは兵のレベルを上げとけ」
「おう!」
吹雪鬼が返事をすると、山上は部屋を去った。
●山上:廊下にて
もっと強くなれ、吹雪鬼、安澄、それに蘭。お前たちはみんな特別な力を持っている、そんじゃそこらのことじゃ死んだりしない。江舞寺の為に強くなれ。決戦は近いんだ。一刻も早く、江舞寺に戻らなければな。この体も限界だ。あの三人を早く立派にしなければならない。
●吉崎:神奈川警察署
メールが来たのでケータイを見た。相手は竹下蘭。こないだの会議のことを連絡したのに返事をしなかった奴だ。こいつは吹雪鬼やたっくんと同じ部活だったな。今頃メールよこしてきやがって、しかもごめんねって、三回目のこと教えとくべきかな・・・
●魁人:夜 富田のマンション リビング
誕生日パーティーを終え、楓と留奈が眠っているのを確認した。翔麻を呼びとめて、資料を渡した。翔麻はそれを見て問う
「どういうことだ?」
「俺も分からない、富田は確実に自分が産んだと言っていた。それに、健ちゃんが不思議に思って調べてくれた」
俺は本当のことが書いてある資料の入っていた封筒から、まだある資料を出すと。そこには留奈が産まれたという記録が書かれている。もちろん留奈という名前は書いてないが、富田の名前が親の欄に書かれていて、なおかつ目立つようにピンクのペンで留奈の欄を大きく囲まれている。翔麻はそれを見て言った。
「よりにもよって、留奈の誕生日にこれじゃあな。じゃあ、富田が産んだ子供はどこにいる?」
その時、俺の携帯が鳴った。健ちゃんからだ。俺はそれに出た。
「もしもし」
「魁人、たしかにお前の子供だと判断された。だが、留奈ちゃんとは違う血液だ。そうだろ?」
「ああ」
「それで悪いが、勝手に調べさせてもらったよ」
そうして欲しかったのだが、本当にありがたい。
「こっちの子、なんて子だ?」
「江舞寺愛恵、父さんが日本で拾って来た8歳児の女児だ、何が分かったんだ?」
「富田の子供と診断されたが・・・どう思う?」
やはりか・・・俺が黙っていると、翔麻が問う。
「どうした?」
完全に翔麻を放置してしまうな。申し訳ないが健ちゃんからの情報が先だ。
「そっちにあるファイルに書かれている富田の娘というのは愛恵ちゃんのことだろう。さらに分かった事がある。実はな、留奈ちゃん、すなわち愛恵ちゃんが産まれた日に、この病院で産まれた子は5、6人いたそうだ、そしてその中の1家族が妙でな、父親らしき男が勝手に自分の子供を持ちだしたそうだ。何か変だと思った当時の産婦人科の医師はその子の血液を捨てずに冷凍保存することを決め、今まで残してあった。俺は特別に許可を得て、それを調べたんだ。そっちの留奈ちゃんの血液と一致したよ」
そうか・・・ならなぜ、父さんは愛恵を連れだした。
「もちろん、さらった父親は連絡つかないし、母親は入院中に逃走したらしい」
「母親の様子は?」
「かなりの精神病だったらしい、出産のときに表情一つ変えなかったそうだ・・・そして疲労で長い間寝ていたそうだ、そして眼を離したわずかな間に、忽然といなくなったそうだ」
「分かった、ありがと」
「ああ、じゃあな」
健ちゃんは電話を切った。俺も携帯を閉じると、業を煮やしたように翔麻が問う
「健ちゃんと何話してたんだよ?」
「謎だらけだが、分かったことは、富田の娘は俺の娘だということ。俺には2人の娘がいるようだ・・・」
すぐにでも父さんに連絡したいところだが、もしこれが江舞寺の思惑であれば、俺はすぐにでも知ることができるはずだ。どちらにしろ、留奈ちゃんがただものではないのは変わらない。この先もここで留奈ちゃんのことを見ておかないとな。
中国 夜のホテル
智人が携帯で電話をしていました
「はい、ええ、では愛恵を・・魁人には何と?_____________はい、了解しました。明後日の明け方にはそちらに着くでしょう。_____________いえいえ、とんでもありません、10年ぶりに子供たちに会うのですから、昔のように元気な姿を見てみたいものです。できれば、吹雪鬼にも会いたかったのですがね・・・20年近く住んだこの部屋とも明日でおさらばですよ。いざ出ると虚しいものです。それでは、できれば明後日に、また・・・」
智人は電話を切り、寝室に入った。ベッドでは咲が眠っている愛恵の頭を悲しい顔をして、優しく撫でていました。智人が咲に言った
「君も御苦労だったな。俺は先に帰らせてもらうが、こっちのことは頼んだぞ」
咲は静かに頷いた。
●飾森:富田のマンション
俺がテーブルで新聞を読んでいると、魁人が朝食を俺と留奈の前に置いた
「これ嫌い・・・」
留奈が皿の上の茹でたピーマンを箸で突っついた。
「体に良いから食べなきゃ」
魁人が留奈に笑顔で言うと、留奈は嫌そうに食べていた。こいつ、俺の言うことは聞かねえくせに。そこへ富田が頭ボサボサの姿でやってきた。
「魁人~おかゆ作って~」
「熱でも出たか?」
俺が問うと
「ん~ん~、ただ気分が悪いだけ」
富田は笑顔で言ったが、顔が引きつれていた。魁人が言った
「今日じゃなかったら、看病できたんだがな・・・」
「お前、今日どっか行くの?」
俺が問うと
「ああ、ちょっと横浜にな。車はいいよ。富田のこと見ていてくれ」
「ああ、分かった」
車はいいってことは、家臣の人でも呼んだのかな。すると、留奈が笑いながら言った。
「私も付いて行っていい?」
こいつは遊びに行くんじゃねえんだぞ
「ダメだよ、迷惑だろ」
俺は引きとめるように言った。すると魁人が
「来たいなら、いいよ」
「え?」
お前なりに考えがあるんだな。ならいいんだが。
「やったー、じゃあ支度してくる~」
留奈はお気に入りの小さい手提げバックに、いろんな物を詰め込みだした。相変わらず飯食べんの速ええな。
「じゃあ食器洗っとくよ。あとは任せろ」
俺がそう言うと
「ありがと、じゃあそうさせてもらうよ」
魁人はバックを背負うと留奈を連れ、玄関に向かった。
「いってらっしゃ~い」
富田が2人に手を振ると、留奈も振り返り手を振った。魁人もこっちを振り返って言った。
「じゃあ行ってくる」
その後ろ姿、なんとなく最後に見る気がした。死ぬなよ魁人。
●魁人:マンンションの前にて
俺と留奈が外に出ると、車が一台停まっていて、運転手が横に立っていた。
「魁人様、早速向かいましょう」
俺たちは車に乗った。
車は海沿いを走っている。留奈は俺にもたれ掛かり眠っていた。
「よろしいですか?」
運転手が問う。
「ああ」
運転手は運転席と助手席の間のハンドルを回した。すると、カーナビがテレビになり、そこに夛眞おばちゃんが映った。昨日の夜、江舞寺に確認を取った。すると、あっさり教えてくれるそうだ。
「それじゃあ、魁君、話を始めようか」
「はい」
「うまく連れて来たようじゃな、その子は魁君と誰の子だと思う?」
「それより先に、どうして俺の子が存在するかなんですよね・・・先に教えてほしいのですが」
「よかろう・・・まず、そこの留奈ちゃん、その子は奴らによって生み出された子供じゃ」
「奴ら、か・・・」
「魁君の細胞がどこかで奪われたのじゃ、性交などしなくても、術を使えば生命を宿らせることが出来るからな。それで奴らはさっちゃんの体に入れ込んだ。さっちゃんは妊娠し、帯刀の病院で産んだ」
「なぜ奴らはわざわざ帯刀に戻る必要があったのですか?」
「その場所で産む必要があったのじゃ、本来、帯刀の地は我々の原初、かぐや姫の放っていたエネルギーが1200年たった今でも残っているからのぉ、なぜ産む必要があったかというと、あくまで言い伝えにすぎないけれど、さっちゃんの体の中にいる物が、出産という形で産み落ちたんじゃ。奴らがなぜ、魁君の細胞を使ったのかは私の口からは言えないけど、そうする必要があった」
「じゃあ、この子は・・・」
「さっちゃんの力を受け継いでいる可能性が十分あるわね。それで愛恵ちゃんの方だけど・・・」
「うすうす気づいていた、おばちゃんたちの考えでしょ?」
おばちゃんは少し黙って口を開いた。
「ええ、江舞寺の上の方で決めた事じゃ。愛恵ちゃんは、留奈ちゃんの身代りで産まれた子じゃ・・・」
「大方、楓を一時的に誘拐して、その時に行った・・・それで同じ病院で産ませ、留奈とすり替えたってことですね」
「ええ、そして、奴らは何も知らずに愛恵を持ち出したのだ・・・向こうのアジトには置いておけなかったらしく、別の場所においてあったそうだ」
「それでオヤジが奪って連れ帰ったってことか」
「ええ、何にせよ、あの化け物は留奈ちゃんを儀式に使う、だから私たちは身代わりを立てることに決めたのだ」
酷いな・・・
「儀式が行われてしまうと、大変なことが起きてしまうんじゃ、じゃが奴らは愛恵ちゃんを留奈ちゃんだとおもっとる・・・」
死ぬために産まれてきたようなものじゃないか・・・
「ごめんね・・・上からの絶対的決定なのじゃ。詳しいことは舞様が後に話して下さる。それじゃあね」
通話は切れた。話がおかしいように感じる。父さんといえど、奴らにとって重要な存在の赤子をなぜ奪われた。江舞寺としても、なぜ父さんは身代わりを奪ったのだ?奴らは奪われた愛恵を探す。しかしその愛恵は身代わり、二重の保護か。
●魁人:横浜 東城亭
庭が見える景色がいい部屋だ。俺の前には俺の3歳年下のここの頭首、東城東真が座布団に座っていた。
「いつ会えるかと待っておりました。兄が大変お世話になりました・・・」
「そう、かしこまるな、東真」
こいつとは子供の頃から知り合いだ。美弥に武術や剣術を教え込まれている。戦術では美弥に続いた実力者だった。
「私はあなたに仕えるべき者です。ご報告ならば、すでに耳に入れております」
それもそのはず、こいつは根に直接通じている。俺より先に情報が云ったのだろう。俺は封筒を渡した。
「たしかに」
東真はそれを自分の横に置いた。
「どうだ東真?世間話でもしてみないか?」
東真は笑顔を見せる
「魁人様、私もしたいと思っていました。あれから起きたことでもお話しいたしましょうか」
ぜひ知りたいものだ。中国にいる時、父さんがよこした情報は少なすぎた。
「実はですね、10年前の闘いの後に、5年前、大きな闘いがあったのですよ。それはご存じですか?」
闘いがあったことは知っている。多くの犠牲者が出たと聞いた。
「ああ、たしかそれでお前の爺さんや両親が戦死したんだよな」
「ええ、私の祖父、旧頭首の東城雅が死に、私が新たに頭首となったのもその時です。実はその闘いで私の祖父よりも重要な存在が何人も去りました。根の主力、真木和葉様、同じく刃金洸様。ならびに茎の筆頭、津川仁様。津川様はこの情報の件があり、生存は認可できますが、真木様は戦死が確定しております。刃金様は消息不明です。江舞寺の主要メンバーが3人も欠けたのです。知っての通り、美弥様もそれ以前に江舞寺を離れ、消息不明です。これらのことは知っていましたか?」
美弥がいなくなったのは聞いていた。だが真木は死んだのか。あいつは貴重な頭脳だったからな、江舞寺としては美弥の次に重要な存在だった。つまりこの十年で江舞寺が失ったものは大きすぎる。
「十年前の闘いでは、あなたの祖父を含め、南原のトミ様、裕彦様。北澤の康孝様、西垣の久遠様など、多くの犠牲を出しました」
そうだな、後で聞いた話だが、十年前の襲撃は江舞寺亭だけを攻め落とすのではなく、全面戦争だった。向こうも被害は大きかったらしいが、それでもこちらは大きく劣勢になった。その上で美弥の離反、真木の死亡、守護四亭の一角の欠落。言うまでもなく、今の江舞寺は戦力不足だ。奴らに今どれだけの人材がいるか分からないが、青甲とかいう支部長でも信高や夛眞おばさんに匹敵する強さだった。父さんの話では奴らには本部とは別に9つの支部があり、その一つ一つが軍を所有し、その筆頭が支部長。つまり青甲レベルが最大であと8人いる。こちらとしては、信高レベルが3人、守護四亭頭首4人と合わせて7人。軍の数では9対4。主力レベルがいるにはいるが、俺と合わせて2人、あちらにそのレベルがいないとは限らないしな。父さんが言うには爺様を倒したのは人間だ。つまりそいつが数に入る。おそらく爺様には俺もあいつも至らない。おまけに狂歌の力をはるかに上回る化け物付きだ。こないだちぃを襲った女も捨て駒にしてはだいぶ強い力を秘めていた。もしあのレベルの奴を捨て駒に使うようなことがあれば、我らに勝機が見えないのだが。まあ、まだこちらには父さんがいるからな、少しは希望が持てる。なんたって父さんは美弥に匹敵する程の戦力だ。江舞寺では美弥の次に強い人間だ。父さんなら爺様を倒した奴にも対抗ができるだろう。
「まだ父さんが控えている。それだけでも大きな戦力だ」
俺がそう言うと、急に俺の後ろの襖が開き、そこに立っていた人物が言った。
「そうとは限らんな」
それを見て、東真は驚いた様子で言った。
「あなたは!なぜ!?」
俺は振り返ると、やはり母さんの姿の舞様が立っていた。
「どういうことですか?舞様?」
「魁人、君の父のことを教えてやろう。先ほど夛眞が教えたように8年前に君の娘たちは生まれた。智人君はそれを入れ替え、偽物の方を持ちかえった・・・なぜソナタの父親が20年も中国に滞在しているか教えてやろう・・・彼は、奴ら永久の月に妾が送り込んだスパイなのだ・・・」
なんだと・・・だから父さんが愛恵を容易く連れて来れたのか・・・いや、矛盾点が多すぎる、なぜ江舞寺の主要人物である父さんを容易く信用したのだ。謎だらけだ。
「しかし、ここ数年、智人君から連絡が無い・・・どうやら、寝返ってしまったらしいな・・・」
嘘だ。現に父さんと10年間過ごした。なのに父さんは俺に一切、手を出さなかった。敵だったとしたら、それは変だ。だいたい、なんで父さんを送り込んだ。すぐバレて殺されるだろ。
「そんなこと、あるはずないです」
俺が恐る恐る言うと、舞様は言った
「どうだろうな・・・不用意に近づくと今度は命を持って行かれるかもしれない、せいぜい気をつけておくのだ・・・」
舞様は入ってきた部屋の奥へ行くと、さらに奥の襖を手を触れずに、指から放たれる念で開けた。さらに奥の部屋では座布団にフードを被った男が座っており、舞はその男に近づくと。男の肩に手をあて
「行くぞ、信高君」
「は!」
あれは信高だったか。二人は消えた。それを見ていた東真は驚いた顔で
「驚いた、江舞寺のトップがこんなところに来るなんて」
俺は東真に言った
「お前は知っているんだったな・・・」
「ええ、あなたの母上様の身に宿られたことは耳に入れております。息子としては複雑な気持ちですかね?」
そうだな、母さんが変わってしまった、向日葵ならそう思うだろう。だが、俺は本当の母を知っていた。
あれは俺が幼い頃だった。母が俺に言い聞かせるように語り掛ける
「魁人様、私はあなた様の母です。されど、身に宿したのみ、ただの縦書きにすぎません。あなた様は将来、江舞寺の王になるお方、母性愛など捨て去り、この私をも道具としてお使いください。それがあなた様のすべきことなのです」
母さんと俺に親子の絆はなかった。母さんは表ではしっかりとした五人の母だった。しかし俺と桜に対する裏の顔、それは江舞寺の人間としての顔。あの人の立場がどんなものだったかは分からない。されど美弥が言っていたことでは、俺たちの母は彼女でなければ務まらなかった。つまり必要な人間だった。実際、母さんは人間なのか分からない。母さんは一切歳をとらなかった。本当の歳は50代のはずだ。舞様が選んだからには特別な力が宿っているのだろうな。
俺は東真に言った
「まあ、いろいろ話せて良かった。別の話もしたかったが、お前も忙しいだろう。用は全部済んだから帰るよ」
神棚では、さっき挿した線香が短くなっていた。こいつの兄、留歩が死んでから10年だからな。俺は腰を上げると、廊下に出ようとした
「お気をつけて・・・」
「ああ」
俺は廊下に出た。ここへ来た目的は資料を渡すだけだったが、こないだ南原で聞いたこともあり、俺が来る必要は特になかったようだ。だが、いろいろと話を聞けたな、10年の間にこんなことがあったとは知らなかったことだらけだった。中でも真木の死は驚いた。あいつは桜と性的関係にまでなった奴だ。俺が知る中では真木以外にはいなかった。桜が知ったら悲しむだろうか。存分、記憶などないのかもしれないな。
帰る車の中で留奈が俺に笑顔で言った。
「あのね、狂歌っていうお姉さんと遊んだんだよ」
俺も笑顔を返した。
「そう、よかったね」
こんなに綺麗に笑う・・・桜も、きっと・・・
マンションにて
飾森が富田の部屋にお粥を持って向かった。飾森は富田が寝ているベッドの前にお粥を置くと
「富田?大丈夫か?」
富田は顔を毛布の中に入れて頷いた。すると、チャイムが鳴った
「はい、今開けま~す」
飾森は玄関に向かい、ドアを開けました。するとそこには赤乙が立っていて、ニヤリと笑いました。
●魁人:マンション
やっとマンションに着いた。もう夕方だな
俺がドアを開けて中に入ると、人の気配を感じない
「翔麻~?」
中から誰も返事をしない。留奈とともにリビングに行くと。俺はテーブルの上に、翔麻の携帯があるのに気づき、手にとった。そのとたん、翔麻の携帯が鳴り響き、表示は富田からの通話だった。俺はそれに出た。さっきから何か嫌な予感がしてならない。
「もしもし、富田?」
電話の相手が大声で言った
「江舞寺魁人!貴様の仲間二人を誘拐し監禁した!明日の正午!帯刀西地区の倉庫F―4に来い!」
「何!・・・」
「失礼申し遅れた。俺は永久の月、乙の支部長、赤乙だ!」
奴らしかいないのは分かっていた。向こうは軍がいるな
「ああ、もちろん一人で来いなんてやぼな事は言わないさ、軍でも引っ張ってくるがいい・・・ハッハッハッハハハ」
通話は切れた。大変な事態だ。奴らは俺が軍を出せないと知っている。江舞寺と無関係な存在の為に軍などは出せないからな。だが楓は江舞寺でも必要な存在らしい、あくまで昔はだ、今そうなのかは定かではないが、一刻も早く、打つ手を考えなければ。
娘だと思っていた子が実は自分の子ではなかった。母としてはどんな気持ちなのでしょうね