02
魔剣保持者になってから一週間。
四時頃、アライムは騎士団での訓練を受けていた。今日は体力を鍛えるための基礎訓練に、訓練場を荷物を持ったまま走り回っていた。
すると、訓練場に入ってきたリーダーが、アライムを呼びつけた。
「おい、アライム。城の一階、三番部屋に行け。お前を呼んでいる人がいる。」
「僕を呼んでいる人ですか?一体誰ですか?教えてくださいリーダー。」
「ぐだぐた言うな。行けばわかる。」
戸惑うアライム。しかし、リーダーはそんなアライムを無理矢理城に向かわせる。
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(全く、リーダーめ!誰が呼んでいるのかくらい教えてくれてもいいじゃないか。)
数分後、アライムはこの年若く素直な騎士にしては珍しく、リーダーに対して心の中で文句を言いつつ城の廊下を歩いていた。
「おーい、そこのあんた。道を教えてくれないか。迷っちまったんだ。」
いきなり後ろから聞こえたその声に、アライムが振り向くと、そこには粗末な服を着た黒髪黒目で筋肉質、180cmを越す大柄な青年がいた。
「ここの一階の三番の部屋らしいんだけどさ、やたら広くって分かんないんだ。」
「なに言ってるんだ、君は平民だろ。城の中に入って来ちゃ駄目じゃないか。送ってあげるから、すぐに城から出るんだ。捕まっちゃうぞ。」
「おいおい、待ってくれよ。俺はちゃんと呼ばれてきたんだぜ。ほら、許可証もある。」
そう言って青年は、慌てて城の立ち入り許可証を取り出して見せ、城の外に連れて行こうとするアライムを説得した。
「確かに本物の許可証だね。すまなかった。」
「いや、いいさ。俺だって俺が怪しい奴だと思うもんな。」
謝るアライムに、青年はそう言って気にした様子もなく笑う。
「そうだ、自己紹介がまだだったな。俺の名前はイーゼム。ペガ村出身で、村では普通の農民やってる。よろしくな。」
「僕はアライム・ガシムって言うんだ。よろしく。ところでさ、君は農民って言ったけど、王都まで馬車か何かで来たの?」
「ああ、馬車に三日も揺られてさ。やることが一つも無くって退屈だったぜ。」
挨拶を終えた後、アライムと青年-イーゼムはたわいない話で盛り上がり、仲良くなっていた。
「ところでイーゼム。君が最初に道を聞いたとき、一階の三番の部屋だって言ってたよね?」
「ああ。何か村で試験があってな、それに合格したらそこに行けって言われてさ。許可証もその時貰ったんだ。」
「僕も同じ場所に行けって所属騎士団のリーダーに言われたんだよ。何なんだろうね。」
騎士と農民を同じ部屋に呼ぶ用事、しかも一人は村から城まで来ているのだ。何の用だろうと二人とも首を傾げる。
「行ってみれば分かるだろ。一緒に行こうぜ。」
「そうだね。三番部屋はこっちだよ。」
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「十二番騎士団所属、アライム・ガシムです。入ってもよろしいでしょうか。」
「えーと。試験に受かってここに来ました。ペガ村のイーゼムです。」
……いくら待っても返事がない。
「あれ、おかしいな。なあアライム、俺達部屋を間違えたかな?」
「いや、間違いなくここだよ。もしかして!?」
アライムの顔がサッと青ざめる。
「もう帰られてしまったんじゃ!?」
「な、なあアライム。それってもしかして、けっこうマズくないか。」
「けっこうどころじゃないよ。ど、どうしよう。ああ、魔剣の継承もしてこれからだと思ったのに!?もうおしまいだぁ……」
「おい、どうした。しっかりしろって。大丈夫だろ。相手も遅刻しただけに決まってるよ。」
「そんな訳ないだろ!?大体、何で君はもっと動揺しないんだ。僕は貴族で魔剣保持者だから、出世しないくらいで済むかも知れないけど、君は最悪殺されるかも知れないぞ!」
「いや、いくら何でもそれぐらいで殺される訳ないって。」
「君は貴族を知らないからそんなことが言えるんだ。平民をゴミのように処刑する貴族だっているんだぞ。」
「俺、もしかしてピンチ?」
動揺し、慌てる二人。その背後に小さな影が忍び寄る。
「やあ、君達。」
「「うわあああ!」」
突然背後から声をかけられ、二人の体が跳ね上がる。
そこに居たのは一人の女性だった。身長はギリギリ150cmあるかないか。燃える炎のように鮮やかな赤毛と、爛々と光る金の眼が印象に残る。
その姿をまともに確かめる事なくアライムがイーゼムをかばいだす。
「ま、まま、待ってください!イーゼムは悪くないんです。罰するなら僕だけにしてください!。」
「何言ってるんだアライム!俺が悪いんです。こいつは道に迷った俺を助けたから遅れたんです。」
「イーゼム!君は馬鹿か!死ぬかもしれないんだぞ!」
「誰が馬鹿だ!お前こそ出世したいんだろうが。」
「出世と友達の命を比べられるかぁ!?」
僕が悪い、いや俺が悪いと言い争っている二人に声がかかる。
「何の話だい?私、寝坊して遅れちゃったから、何の事か分からないや。まっ、ずいぶん仲も良くなってるようだしいいや。いやぁ、遅れることで仲良くさせるとは、さすが私。」
二人はその言葉を聞いて、彼女が自分達を呼んだと理解した。そして同時に、自分達が遅れていなかったことも察するのだった。
「部屋に入りな。何で君らが呼ばれたのか、説明するからさ。」