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「アライム・ガシムよ。これよりお前に魔剣を継承する。」
アクイア王国の南東。ガシム子爵の館の一室。この場所で新たなる魔剣保持者が誕生しようとしていた。
この部屋には今二人の人間がいた。一人は焦げ茶色の目と髪を持つ若者。ガシム家の長子であるアライム・ガシム。もう一人はアライムの伯父であり師匠でもある、現魔剣保持者ローガリー・ガシムである。
アライムが昨日二十三の誕生日を迎えたことで、魔剣を受け継ぐ資格を得たのだ。
「魔剣を継承した者は家督は継げぬ。また、子を残すことも許されん。それでも、この剣を受け取る覚悟があるか。」
「あります。伯父上。」
アライムは伯父からの問いに即座に答える。
今更な質問だが、ローガリーもアライムが覚悟がないとは思っていない。これは、魔剣を継承するための儀式のような物だ。
「よろしい。ならば今よりこの魔剣、《黒薔薇のセリカ》はお前の物だ。王国のためにその剣を振るえ。」
その言葉と共に伯父から魔剣を手渡される。
新たな魔剣の継承者となったアライムは、手にある剣をじっくりと見た。その魔剣は黒薔薇の名の通り、光を通さないような黒をしており、柄は金に美しい薔薇の文様が細工してあった。
魔剣とは、かつて百以上あった邪霊領域の最深部。その領域の発生源である邪霊を鉱石に閉じ込め、初代国王の命のもとで鍛え上げた剣である。鉄をまるでバターのように切り裂き、持ち主に異能の力を授けると言われている。
現存する魔剣は十二本。その魔剣のうちの一本がこの《黒薔薇のセリカ》だ。
「では魔剣の継承はこれで終わりだ。私はもう自室に戻る。お前も明日からまた騎士団の仕事に戻るのだから、しっかりと休んでおきなさい。」
剣を見つめてぼおっとしている新たな魔剣保持者に、いつもは鬼より厳しいと言われた彼にしては、珍しく優しい声で話しかけながら、部屋を出ていった。
「あっ、すみません。剣に見とれてました。そうですよね、休んでおかないと。」
慌てて立ち上がったアライムは、魔剣をしまいながら、もう部屋を出たローガリーに向かって返事をした。そして、己の物となった魔剣を一撫でしながら部屋を出た。