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09話 この世界の中心に自由と言う名の愛を叫ぶ

久しぶりにバロン登場!

 吾輩はマッドサイエンティストである。世界征服をするつもりはない。


 ふははは。今日から数日間研究をし放題、罠を仕掛け放題なんと素晴らしい!

 慌ててはいけない。どうせ数日も猶予があるのだ。ミュール君の観光を含めればいつもよりも長く滞在することになるだろう。


 そうだ、研究記録の方がかなり大雑把であったな。しかも記録用紙も散らかっていたな。

 うむ、今日は整理整頓掃除にしようか。





◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




 最後の馬車が門を出てからかれこれ三十分ほど。城の扉の前にはバロンがいた。

 否。そこにいるのはリッチ、バロン男爵ではない。



 ――マッドサイエンティスト(自称)バロンだっ!!



 まあ、そんな事はさておき。

 バロンは何故かプルプルと震えていた。

 しばし俯いたままでいると、突如として笑い出して声を張り上げた。



「ふふふ、ふはははは。くっははは! フリィィィーーーーダァァァーーム!」



 ……ただはっちゃけただけの様だ。


 叫び終えると、存在しない肺に大地に満ち足りている空気を吸い込み、さらに叫びだす。

 だがしかし、彼のすぐ後ろに人影が現れた。




「イィィィィッッッツゥゥゥゥゥ、フゥゥゥゥリィィィィィダァァァァァっっっふ!!!???」




 この世界に自由と言う名の愛を叫ぶ途中に後ろから蹴り飛ばされ、思わず変な声を上げながらすっ転ぶ、残念な自称マッドサイエンティスト。


 数メートル吹っ飛んでおきながら、よくバラバラにならないものである。




「――まったく相も変わらず何をしているのか、汝は」




 バロンが先ほどまでいた場所から、鈴の音のように綺麗な声がした。



 バロンはゆっくりと立ち上がる。

 よろよろカタカタと立ち上がるそのさまは、まるで生まれたばかりの小鹿のように頼りなかった。

 そして先ほどまで自身がいた場所にいる、自分を蹴り飛ばした存在を見た。



 そこにいるのはレティシアと同じぐらいか一つ上ほどの年頃の、美女と美少女の狭間のような少女だった。

 

 その髪はまるで、夜空のような吸い込まれそうなほどの漆黒。呆れたように見てくる瞳は妖しく光る金色こんじきだった。

 カリヨンにいる白兎のように、まるで芸術のような完璧な容姿であり、ユエより気持ちほんの少しだけ高めの身長だった。

 太ももほどまで伸ばした髪からは細長い耳が見えている。



 その細長い耳をピコピコと動かしながら、彼女は腰に手を当ててため息を吐いた。



「呼ばれて来てみればいきなり叫びだして……。何がしたいのだ、汝は」


「この世界に自由と言う名の愛を叫んでいたのだよっ!!」


「……はぁ。汝に聞いた私が馬鹿であったか」



 バロンは両手を羽ばたくように広げて己の行為を謳う。

 聞く方は額に手をあて、それはそれは深い溜息を吐きだした。



 高ぶる心が落ち着いてきたバロンは親しげに声をかけた。



「まあともかく、久しぶりであるな。アイン」


「うん、久しぶりだ。ところでレティシアたちは見かけないが買い出しか?」


「うむ。ああそうだ、実は新しく新人を雇ったのだよ!」



 実にうれしそうに語るバロン。余人から見れば骸骨がカタカタしているようにしか見えないが。

 アインはそのさまを見て興味深そうにしていた。



「ふむ、そこまで喜ぶ新人とはいったい何なのだ?」


「ふっはっは。よくぞ聞いてくれた! 何と貴重なツッコミ要員なのだよ! この城において、これを喜ばずして何を喜ぶと言うのか!」



 ミュールのように普通の者なら呆れるなり思考が止まるものだが、そこはやはりバロンの知り合い。むしろ感心していた。



「ほう、ツッコミ要員が増えたのか。私も見てみたいものだな」


「残念ながら先ほど買い出しに行ってしまったばかりなのでな。数日は戻ってこないが、城に泊まっていくかな?」


「いや、今日は届け物だけのつもりで来たからな。期待の新人には後日会いに行くよ」



 そう言うとその届け物を渡すため、スタスタと城の中に入っていった。

 期待のツッコミメイドなら、簡単に迷ってしまうような廊下を慣れたように進み、やがてバロンの書斎に着いた。


 書斎は広く、入ってそのまま進めば黒檀の机がある。本棚には何百年も昔の本がざらにあった。

 全体的に落ち着いた雰囲気の書斎だった。


 アインは執務机の前まで進むと、バロンに振り返った。



「さて。汝に貸すのは『夏火』と『秋土』でよかったか?」


「うむ、できれば『春風』も貸してほしいのだが……」


「ダメ。むしろイヤ」



 バロンが言葉を濁らせながら言うと、何ともかわいらしい声でベルのように断る。

 頬を膨らませながら上目づかいに睨むさまは、もはや先程までの凛々しかったアインとは思えない。



「う、うむ。それは分かっているが、何故いきなりそんなに可愛らしくなるのかね」


「『春風』はお気に入りだもの。貸すのなら目の届く場所じゃないとイヤ」


「先ほどまでの凛々しい君は何処に行ったのかね!?」


「む。バロンが突っ込むとは珍しい……」



 何とバロンがツッコミ役となってしまうとは、いと恐ろしきアインである。ただアインにとっても珍しいのか、先ほどのような凛々しい雰囲気に戻っていた。

 

 気まずいバロンは無理やり会話を元に戻した。



「うぉっほん。しかし、そんなに贔屓していては他の三つも嫉妬してしまわないのかね?」


「大丈夫だ、問題ない。お気に入りだけど別に蔑ろにしているわけではないからな。そこらへんは分かってくれているさ」



 そう言って何処からともなく、細長い物を二本取り出してバロンに差し出した。


 バロンはそれを受け取り、本棚の方へ向かうとその本棚自体が音もなく動きだして、細長い葛籠が現れた。そして手に持ったものを葛籠に入れるとふたを閉める。 金庫のような物なのか、かなり厳重な術が施してあり、その上にさらに重ね掛けをした。

 それが終われば本棚を元に戻して、さらに術で封をかける。


 その作業が終わるころにアインが尋ねた。



「ところでベルは元気にしているかな?」


「まっこと元気であるよ。先ほど話した新人のメイドにべったりでな、半ば自動的に当座の教育係になってしまったよ」


「ふむ、ベルがそこまで気に入るのか。ますます興味がわいてきてしまったな」


「他にも面白いこともあるから、君も気に入ると思うがね」


「ふふ。それでは次来るときは期待しているよ。ではな」



 アインはあっさりと部屋から出ていく。

 

 バロンはクスクス笑う彼女を見送った。





◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆





「さて、片づけるとするかな」



 バロンがそういったのは城の地下のある一室。

 そこはかなりの下層、地下にあるバロンの寝床である棺桶の一つがある部屋だった。


 その部屋は地上の書斎と同じぐらいの広さだ。入ってそのまま奥の方に棺桶ベッドがある。

 部屋は横に広く、左側は少し進めばすぐに壁だが右側はその分広く、机の上や床にさまざまな器具やそれなりに大量の紙や本が積み重なっていた。


 紙に書かれていることは何やら研究記録のようなものやメモ、スケッチまで様々である。

 一見やたらめったらにいろんなことが書かれているように見えるが、その実ある共通点があった。



 さてまずは本からと、バロンは片づけを始めた。


 散らかっている器具の中にはフラスコ等の類もあった。幸いにも中に液体は入っておらず本は無事である。

 ただ、中にはそんな事態になればちょっと危なかった書物もあった。

 書物の類はとりあえず種類ごとにまとめて端に置き、器具は別のところにまとめておく。紙束を踏んだり倒したりしないようにしていたため、結構時間がかかってしまった。

 

 紙束があるので魔術はそう簡単に使用できず、そもそもこのような身一つでできる雑事に魔術を使うべきではない、というのがバロンたちの自論だった。


 だが手間取りながらもそれも終わる。

 本と器具も片付け終われば後は紙の束だけである。しかしこれが一番厄介だった。

 

 ある一角では積み重なり、ある一角では散らばってしまっている。

 何せ研究記録があるのだ。間違いのないように念のため全部を見なければならない。はっきり言って面倒である。

 

 今日中に終わるのか果てしなく不安になるバロンであった。






 紙の片付けも終盤の終盤になっていた。後はある積み上がっている紙束だけだ。

 

 それまでは内容はそれなりに覚えていたので、ちょっと見ただけでこれはあれだなと黙々と集めることができた。

 と、そこでバロンの気を引く研究記録を見つけてしまった。

 何故「見つけてしまった」と言うのかと言えば、気を引き過ぎて一から読み始めてしまったからだ。



「ふむ、これは。こんなところにあったのか。しかしほとんどメモ書きに近いな。後でもう少しまとめて書かねばな」



 そう独り言をつぶやくが、ふと思い直した。



「いや、待て。確か依然にメモ書きが見つからないと言いながら、きちんとしたものを書いていた様な気がするな。ううむ」



 悩みながらも、残った紙束から残りのメモ書きや日記に近いような者を全て読み終え、たしかにきちんとしたものを以前書いたと思い直した。

 が、そこではっと気が付いてしまった。



「しまった、結局全部読んでしまったぞ。片付けを始めてから何時間たってしまったのだ?」



 とそこで立ち上がったその時、今読み終え綺麗にまとめて積んだ紙束に、指先が当たってしまった。

 徐々にゆっくりと傾き始める。常時ならすぐに支えに行けただろう。

 

 だがしかし今のバロンは、ようやくすべての紙束を確認してまとめ終えた後だ。

 傾いているのが、今気になって読み始めてしまった束だけと言えど、「ここまで来ておきながら!」と体が硬直してしまい動くのが遅れてしまった。


 慌てて近づこうとしたときにはもう後の祭り。もはや止めるすべもなく崩れてしまった。まあ魔術と言うすべはあったが。



「ぬぅぅぅぅぅおおおおおぉぉぉぉぉぉうううううぅぅぅぅぅぅぅ!!」



 たった一部が崩れただけだが、バロンは叫ばずにはおれなかった。























◆研究記録   ・・・・特殊個体EX  追記 正式個体名・・_・・・・・・

 

 ・・・・特別個体EXの暴走後、約一時間ほどでゆっくりとだが吸収は収まっていきやがて完全に収束。

 

 ・・・・・の言に従い他の者たちは地上の城へ避難済み。

 

 ・・・・特別個体EXは吾輩と・・・・・によって抑え込み、膨張して地上に溢れることにならずに済んだ。

 大気中の魔力を吸収するにとどまらず、吾輩たちの結界を侵食して分解をし己に取り込んでいた様である。

 呆れた話だが、・・・・・曰く、霊脈にまで手を出していたらしい。後日霊脈の方も見舞わなければなるまい。

 


 本来このような事態に備え幾重にも結界は張っていたのだが、今回はそのすべてが破壊する結果に終わった。今回は例外的なケースなので結界に不備があったわけではないと・・・・・と結論付ける。 

 


 しばらくの間・・・・特別個体EXに刺激を与えず様子を見たところ、淡く輝きだしさらに収縮を始めた。

 しかし暴食とも呼べるような吸収は起こらず・・・・・が先に気づいたが、どうやら霊格が上がりまた位階が上がり、さらには進化をするようだ。

 


 本来、ただ魔力を吸収しただけでは上がることも進化することもない。


 しかしあれほどの吸収に加え、吸収したが故の当然の膨張まで抑え込んでしまったため、さらには様々な要因が偶然かみ合ったために、このようなことになったと思われる。

 ・・・・・は二度とこのようなことは起きないだろうと言っている。



 ・・・・種の魔物であったため、おそらく魔族に進化するのではないかと予想された。

 

 進化が終わると、先ほどまでとは比べ物にならない力を感じた。魔力は進化を始める直前と比べるとかなり減っている。それでも吸収を始める直前と比べれば足元にも及ばないほどの量だ。

 

 確かに進化前より魔力量自体は減っている。だが進化前はいわば詰め込むだけ詰めて押し込んだ濁りに濁っている魔力のようなもの。無駄ばかりのようなものだ。

 そして今はより高濃度に高密度になり、その魔力は先ほどまでとは比べ物にならないほど静謐で澄んでいる。


 あまりに強くなり、呆然としてしまった。

 



 ・・・・特殊個体EXはやがて人型を取り始めた。・・・・・にどこか似ている。似ていると言っても、何となくそのような気がするという程度のもの。おそらく参考にしたのだろう。



 ・・・・・による見立てだと、おそらく『魔王種』に足首突っ込んでいるほどらしい。いずれは完全な『魔王種』へと進化するだろうと言う。すでに四分の一は精神生命体になっているらしい。


 

 言葉はまだ話せないようなのでこちらから念話をした。

 どうやら危険、敵意は無い様である。


 この者をここまで進化させた責任を吾輩たちは取るつもりだ。この城か・・・・・のもとで育てるつもりだ。相談した結果吾輩の城に決定した。



 ・・・・・は『名付け』をした。ここまで進化させ、さらに「加護」を与えるとは……。どこまで強くするつもりなのか。

 

 「『名』はこの世に生を受けたものに対する『加護』であり『祝福』でもある贈り物ギフトであるからして、ここまで進化させてしまったのだから私には本気で『名付け』をする義務がある」と怒られてしまった。



 これより、スライム特殊個体EXの名は『ベル・クローディア』となった。

アインの目の色が間違っていたので変えました。

紅茶→金色

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