08話 苦労人な支部長
ちょっと説明が多いかなー?
評価してくれた人ありがとうです。
ところどころ修正したところあります。ややこしくてごめんです。
僕はギルドマスターだ。結婚はまだしていない。
今年で三十台に突入しながらもいまだに独身。部下たちからも若いのに苦労してますねとか、頼れる苦労人とか言われてしまう独身さ。
人間よりは寿命が長いけど、やはり若い部下が結婚すると、ね。
やっぱり苦労してる人は対象外なのかなーあはははははははは。
……………………。
うん、やはり現実逃避はやめよう。しっかり現実を見ようじゃないか。
――なんで僕は言外に脅されているんだ!
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
支部長室には一人の男がいた。
見た目は二十代の後半程の、少し渋い男。
しかしその眉間には深いしわがいくつも刻まれ、灰色がかった髪もあいまり、どう見ても苦労人な上司にしか見えない。
男の名はフロスト。
この冒険者ギルド、カリヨン支部の支部長である。
彼は執務机に両肘をつき、額に組んだ両手を押し付けて深い溜息を吐いていた。
と、そこで、扉が開き、若い秘書らしき者が入室してきた。
それが誰であるかもわかっているだろうに、彼はため息を吐き続ける。まるで定年間近の人生に行き詰った年寄りの様だ。
そんな煤けた様な彼の背中に、秘書は慰めの声をかけるが、反応はない。
「――なあ……いったい、僕のどこがいけないのだろうかな……」
「は?」
「何で僕にはこんな時に慰めてくれる様な人がいないのかな!? 慎ましくとも支えてくれるだけでも良いのに! そんなに僕は年上に見えるのかい、苦労人は嫌なのかい!?」
誰にともなく、しいて言うならば、この世の不条理辺りに叫ぶ支部長。
しかし慰めの言葉なら目の前の女性が言ったであろうに。
実際のところ過去の経歴から言っても、彼には結構人気があるのだが、気づかないあたりかなり鈍い。
秘書はそんな唐変木に対して頬を膨らませながらも、実直に仕事をこなす。
「……それでレティシア様は何と?」
「あれ、なにか君、怒ってない? どうし――」
「怒ってなんかいませんっ!」
「は、はぃ……!」
そういうことには普通に気付くのに何故鈍感なのか。
職員一同、共通の謎だ。
「話を戻しますが、どのような用件でしたのですか?」
「うん。何かね、森に危険な生き物が出たらしいんだよ。すでに討伐はされたようだけどね」
森とは、愉快な仲間たちが抜けてきたカリヨンの北に広がる森のことだ。
その森からほど近い街であるカリヨンにとって、聞き逃せない情報だった。
「どうやら『クイーン・グリズリーマンティコア』が出たみたいなんだよ。しかも数週間前には別の場所で『キング』まで出たらしいんだ」
「なっ!? そ、それは、証拠は……」
「うん、幌馬車の方に少し積んできたみたいだよ。鑑定の方に確認すればすぐにわかることだ。……まあ、ぼったくられたけどね」
「危険なクイーンの発見に加え、その討伐と新鮮な素材に情報、ですか。確かにぼられますね」
驚きを含みながらも納得する。
しかし、もろもろの報酬としての金額が書かれた紙を見て、ちょっとシャレになっていなく思わず詰め寄ってしまう。
「って、なんですかこの金額!? いったいどうしたらこうなるのですか!?」
「こっちの異変とか情報を出して、やっとそこまで落ち着いたんだよ……」
「むしろそれでなぜこの額なのです!」
「……ぼ、僕だって、いろいろ抗議したんだよ? 情報あげるんだからもっと下げても適正とか、肉とか素材は全部あるわけじゃない、とかさ……」
「なぜそこで踏みとどまらないのです……」
「……だってさぁ、だってさぁっ! 『森の中でも街からほど近い』とか『躊躇なく襲ってきた』とか『少し前にはキングまでいた』とか『別に討伐しなくてもこちらは良かった』とか――アレもうほとんど脅迫だよぉぉぉぉぉぉっ!」
いい大人がほとんど泣き出しそうな始末。
というか机の上に突っ伏している。
散々脅され、挙句の果てに、調査をするのならこちらから何人か出しましょうか、と言われてしまえば後はもう芋ずる式。
一応、後腐れがない程度にしているあたり、質が悪い。
今日も今日とて苦労人なフロスト支部長であった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
ギルドを出てすぐ、ミュールはビクッと震えた。
何か、恨めしいような声が聞こえたのだ。
そして心当たりはものすごくあった。
「さすがに、アレはやり過ぎなのではないでしょうか……アハ、アハハハ……」
「何を言っているのです。交渉に弱い支部長本人が出るのがいけないのです」
あれでも優しくした方です、と言われてしまえばもう何も言えまい。
結局支部長から得た情報はそう多くなかった。しかし、それなりに有用なものではあった。
最近他にも危険な魔物や魔獣が現れた、見かけない魔獣が現れた、など。それらによって他の生き物たちの分布も変化しそうらしい。
それに伴い街道を行く商人の護衛依頼や討伐依頼が増え、調査に避ける人員が減り原因の究明はあまり捗っていないようである。
レティシアにはすでにいくつか候補が浮かび上がっていたが、あくまで可能性の域を出ず、まずはバロンに報告にとどめた。
レティシアは一旦、それらについては考えるのをやめることにする。
「レティー。これからどうする?」
「そうですね。鑑定の方もまだかかるでしょうし……ミュールさんはどうしたいですか?」
「あ、ではギルドの説明の続きをお願いします」
「わかりました。そういえば途中でしたね」
そのまま鑑定用の入り口に向かいながら、レティシアは説明の続きを始めた。
「ではまずランクの説明から行きましょう」
冒険者ギルドにはランクがある。
冒険者自身のランク、依頼のランク、そして魔物魔獣のランクが主になる。
「下からG、F、E、D、C、B、A、ときて、S。さらに上もいくつかありますが基本これですね。冒険者と魔物の類などの場合は、そこにマイナスと何もなしとプラスが付きます」
基本、依頼のランクと冒険者のランクは近いものを受けるのが望まれる。
冒険者ランクはGランクから始まり、G+からF-といった具合で上がり、G-は無い。
他のランクも同じようなものだが、依頼にはプラスマイナスがない。
そして、こなした依頼の難度や数に加えギルドへの貢献度などで昇格する。さらに一定以上のランクになると、昇格する際に昇格試験を必要とする。
これは本当に昇格する実力があるのか、素行等に問題はないのかを調べるためにある。
ギルドとしても素行の悪い者はお断りなのだ。
その仕事内容故に多少気性の荒い者や品性のない者でも仕方ないが、度が過ぎれば注意や厳罰、ギルドからの強制除名に追放。まずないが、最悪粛清の対象にすらなりうる。
依頼も難易度が一番低いのがGランク。
その依頼対象単体だけではなく、周囲の状況や危険度によってもランクは変動する
。
仲介料としてギルドがいくらか引いたものが依頼書に書かれ、依頼に失敗すれば報酬の数割が罰則金として払われる。
これはギルド側の信頼問題なども絡むため、軽々しく依頼の棄権をしないようにするための処置である。
Gランク等、低いランクはもっぱら雑事など危険度の低い者が占める。中にはランクの高い雑事系依頼もあるが。
そういった低いランクの依頼は、危険な依頼を受けるにはまだ幼かったり未熟な者、引退した者やギルドに登録した街の住民などが主に消化していく。
まれに高ランクの者が、後進のため低ランクの冒険者のお手伝いや、気まぐれに受けることもある。
「ちなみにSランクの上に、さらにSSランクなどもあるのです。ただしB-ランク以降は上位の方たちですので、自然とその数は少なくなりますし、Cランク以降からの一つのランクの壁は相当なものでして、Sランクの冒険者などそういないのです。なので世の人々の中には、Sランク以上は英雄クラス、などと言う方もいるようですね」
「私はまずはGランクと言うことですか。私はどれくらい早く、Cランクにまで上がれるのでしょうか」
「ん。みゅーるならすぐ上がる」
「我々の城に勤める以上、強くなってもらわないと困りますけれどね」
つい最近聞いたようなセリフが聞こえた。
レティシアはただし、と付け加える。
「あくまでこのランクというのは、悪く言うとギルドが勝手に決めたものです。ですから、必ずしも実際の力量を表すわけではありません。特に魔物や魔獣はそのあたり、顕著ですから気を付けてくださいね」
「同じ種族でも全然強さが違うと?」
「ええ、そうです。環境など何らかの理由により強くなる場合はざらにあります。単にその種族の平均的な魔力量や戦闘力で決めていることが多いですから、ギルドのランクは目安程度がいいでしょうね」
話すうちにようやく裏口までついたが、何故か慌ただしい。クイーンの素材の確認をしていようだ。
愉快な仲間たちはさもありなんと、傍で静かに見ていた
ミュールはそういえばと、クイーンのランクについて聞いた。
「クイーンのランクですか? たしか――Aランクの上位でしたっけ」
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
その後、鑑定が終わると、愉快な仲間たちは宿へと直行した。
その間や食事の間も解説は続いた。
依頼は複数人でも受けられる。むしろその方が多いだろう。
その場合はチームともパーティとも言われる集団を作る。
一つのパーティは原則的に最大六人と決められている。
冒険者は少数精鋭が売りであり、足手まといが増えても困るのだ。他にも、それ以上の人数だといろいろと面倒な事がある。
ちなみに、パーティは六人までだが、複数のパーティで依頼を受けることはできる。ただし依頼の内容によるが。
パーティにも一応ランクがあり、構成メンバーの中で一番高いランクがそのままパーティランクになる。
出入りは自由であり、特定の依頼のためにだけ加入することもある。
ギルドへの申請は必須ではない。
またパーティとは別にクランと言うものが存在する。
クランとは言わば、複数の冒険者同士パーティ同士の同盟のようなものだ。
その始まりは、複数のパーティや気の合う者たちと、同じ宿で食事をしながら情報交換をするなど、協力し合っていたことらしい。
やがて互いに積極的に協力する、小さな組織のようなものになっていったという。
要するにパーティーの巨大版のようなものだ。
ちなみに、こちらは作るときにギルドへの申請が必要になる。危険な集団ができても困るので。
また、同時に複数のクランに所属することはできない。
話はランクについてに変わる。
ギルドの規定している魔獣等の平均的なランクは、一人で死ぬ気で行けばどうにかなるかな、というもの。
結論を言うと、Aランクのクイーンを一人で瞬殺したクロエは、最低でもA-ランクというわけなのだ。
「クロエさんって、実はとんでもないんですね」
「いやいや。ボクなんかよりもレティシアたちの方がすごいさ。それにクイーンはボクを舐めていたしね。そこで不意を突けば、ボクじゃなくても簡単さ」
宿にある食堂で夕食を食べながら、ミュールは感心していた。
よく考えると、最低でもCランク指定のヴァイオレンスイーターの群体を軽くなぎ倒すような、大変愉快な集団であることにミュールは気づかない。
「そんなことを言いますけど、少なくともCランクからBランクぐらいの強さにはなってもらいますよ」
「……何故、メイドがそこまで強くならなければならないのですか」
「無いよりは有った方が良いでしょうし。それに、ヴァイオレンスな植物から分かる通り、あの城は危険もありますからね」
「最低でもCランクにならなければならないほど危険と言うわけなのですか!?」
愉快な仲間たちに毒されでもしたのか、ミュールはそんな思考ができるようになってしまった。
「私たちがいますが、やはりある程度は自分の身は自分で守れるようになった方がよろしいかと」
「ハウエルの言うとおりだね。それにエルフは細身だけど身体能力は結構高いって聞くじゃないか。別に問題ないと思うけど?」
「わたくしの知り合いの方曰く、エルフは皆、怠けて身体を惰弱にすることは嫌うと聞きましたよ」
「……まあ、確かにそうですけど」
実際その通りなので断る気はしないのだが。
その後、レティシアは明日、一緒に街を回ることをミュールに提案した。
「一緒に、ですか?」
「――ミュールさん迷うでしょう?」
「うっ……」
至極当然とばかりにレティシアは小首を傾げながら聞く。
事実なので、ぐうの音も出ない。
旅をして迷った挙句に、いつの間にか森に入ってさらに迷った経験があるのだ。
さらに言えば、カロン城で働き始めて何度も迷っている。そのたびに案内してもらうか、ホラーに出くわし逃げてさらに迷子になるという問題児っぷり。
――こんな大きな街で迷わないことがあろうか、いやない!
つまり反語を使うくらいには迷うのだ。
「それにミュールさん、全然私物がないではありませんか。おまけに普段着がメイド服とは、女の子としてどうなのですか、それは」
「ぐ、ぐふっ!」
「ん。弓のない魔弓術師とは、とんだお笑い草。スライムがお茶を沸かすの」
「ぐはっ!?」
ぐさりと見えない矢に射抜かれ、ばたりとテーブルに倒れるミュール。魔弓術師が矢で倒されるとはこれいかに。
もともと、変に飾ることはせずにズバリと言う性格ではあるが、珍しくもベルの擁護のない鋭い指摘であった。
「と言うわけでして。明日は私たちと一緒に買い物ですよ、ミュールさん。お金は心配しなくてもよろしいので、気兼ねなく――ええ、気兼ねなく最高級品を買ってもよろしいのですよ」
「って、そんなもの買えるわけないじゃないですか! むしろ心臓に悪いですッ」
「メイドジョークですよ。メイドジョーク」
なんですかそれは、とミュールは力なく肩を落とす。
「ボクも一緒に行くから――」
「え?」
「――って、えええぇぇぇ!? えってなんだよ!? ボクがいちゃいけないのかい!?」
「冗談、冗談。いっつすらいむじょーく」
むぅ、とむくれるクロエ。尻尾がわっさわっさ暴れてベルを叩いている。
「……ぶぅ。とにかくボクもいくから、良い弓一緒に探すぞぉ」
テーブルの上に顎をのせて拗ねたように言う。
尻尾はわっさわっさと動き、非常に触りたいなぁーなんて考えるメイド三人であった。
――その頃
「ふはははははははははは! クハハハハハハ! フゥッハッハッハッハハハハハハハハハハ!!!」
――はっちゃけているリッチがどこかに居たそうな