06話 鴨が葱を背負ってきた
ちょっと修正したよー
読んでくれてありがとー
ボクは人狼さ。また君か、なんてつれないことは言わないでくれよ?
昨日は楽しかったよ。ハウエルを交えて撃退方法について話した。
しかもあの後、しょんぼりとしたと思ったらいきなりお互いに何度も謝りだして、しかも二人とも引かないし。
さて、城の近くにあるとても大きな街「カリヨン」ももうすぐ。今日中には着くはずさ。だいたい昼ごろ以降かな?
まあそれも何も起きなければ、だけどね。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「ふわぁー」
まだ日が昇る少し前の時間に少女は起きた。
カロン城の野生児もどき、クロエだった。
「昨日は楽しかったなー」
クロエは呟く。
あの後ミュールはハウエルにすごい勢いで謝った。謝られたハウエルが謝りかえしてミュールも謝りかえしての繰り返し。
笑い出してしまったクロエを見て気まずくなり、どちらともなくそのことについては何も言わなくなったが。
結局その後、死霊系の魔物や魔獣に対しての撃退方法の話に戻った。
術を使った対処法や単純に脅かし返すなどしょうもないものもあったが。
そのたびにいちいちそれで効くのかと、確認する様は小動物の様でかわいらしくクロエは思った。
「ふぁ。――よっと」
声とともに飛び上がり着地した。今まで木の上で寝ていたのだ。
地面に降り立つと、まだ夢の中の皆を起こしに向かった。
「今日のご飯は何かな~♩」
「むぅ。ごはんなら私が作ったのに……」
パンとシチューを三人分ほど食べながらベルがむくれていた。
「いやいやいや。やめてくれお願いします」
「えぇー。ベルさんのご飯おいしいですのに」
その場にいる食べる必要のある者たちを代表してクロエが断った。
ベルの言葉に戦慄を受けが、クロエの後の言葉に更なる戦慄を受けていた。
そんな中ベルはマイペースにもきゅもきゅと食べ、さらにお代わりをしていた。
どこかで「やめて!鍋の中身はもう空っぽよ!」という声が聞こえたような気がしたがきっと気のせいだ。
この森は確かに夜に限り変な光とかが出るが、草木を食べるような生命体はいないので案外普通の薬草や珍しいのに加え、霊草すらも良く取れるのである。
天敵がいない故に植物の楽園なのだ。
加えて食用のものもある。もちろん朝食の具材にも使われているので、具材は現地調達にすることで多少豪華なものにできるのである。
まあ、腹ペコスライムがいるのではそれも不安であるが。
「レティシアさん、あとどのくらいで着くのでしょうか?」
すでに食べ終わっていたレティシアが編み物の続きををしながら答えた。
「そうですねぇ、だいたい今日の昼ごろから夜の間ぐらいでしょうか」
「こうして大勢でいっぺんに行くわりにずいぶんと早いような早くないような」
「森を突き抜けていくからね。この森を避けていくと最低十日はかかるかなあ」
いまだに食事をしているベルの黒髪を弄りながら、食べ終えたクロエも答えた。
「この森ってずいぶん大きいんですね。というか私、レティシアさんがいたとはいえ、よくそんな森を迷っておきながら抜けられましたね」
「男爵曰く昔はもっと大きかったらしいよ。ね、レティシア?」
終わりの見えてきた編み物をしながら頷く。
ミュールも呆れてしまった。
「これ以上って……。この森って薬草霊草が良く取れるんですよね。昔はさらに採れたんですね」
よく冒険者の人たちが取りに来ませんねと意識の片隅に疑問に思う。
その原因を知っているくせによく気づかないものである。
最短距離を知っているカロン城の愉快な仲間たちでも、幌馬車の速度だが一日以上かかるのだ。
この森は場所やその日の気候次第で天然の霧はでるし、夜になれば死霊系統の魔物が出るのだ。
迷うわ怖いわ広いわの三拍子がそろっているのだ。薬草の類も森の出口に近いところには何故かあまり生えていない。
まして採取ということはその対象を探さなければならず、結果何日もこの森に居座ることになる。その間に頭が少し変になるものも過去にいたり。
自然と足が遠のき、足を運ぶその多くは過信した未熟者になる。
熟練者ならともかく、肝試し気分で行くような者はだいたいがそのまま帰らぬ人となる。
場所によっては特殊な植物もいるが故に。
「ん、ごちそうさま」
「やっと食べ終わったのかい。相も変わらずよく食べるね、君は」
ミュールも食べ終わり一行は街に向けて出発した。
今日も進む愉快な仲間たち。しかし今日は昨日と打って変って、会話をしながらもどこか真剣なまなざしのものが多くいた。
「皆さんいったいどうしたのですか?」
「ん、いわゆる今日から本気出す」
いや違うから、と幌の上からクロエの声がする。今日は昨日と違って会話に入れたようだ。
「だいたいあと一時間ぐらいしたところかな。危険な生き物はいないけど、ちょっと面倒な植物はいるんだよ」
「面倒な植物ですか?」
「そう。肉体をもつ死霊系の魔物も食べる。いわゆる食肉植物。私もさすがにああいうのは食べたくない」
今日も今日とてミュールにべったりなベルは、無表情ながらどこか嫌そうにしていた。趣味が悪いと、いまだ出会わぬ未知の植物を評していた。
なお、ベルのゲルごはんを笑顔で食べれるミュールとどっちが趣味が悪いのだろう。そう考えたのはいったい誰だったのか。
約二名を除いた皆であるとは悲しくて教えられない。
そんなこんなで進むこと二時間後。愉快な仲間たちは困惑していた。
「いませんね」
「出てきませんね」
「匂いはするんだけどねー」
レティシアとクロエに加え前方から馬を寄せてきたハウエルも困惑していた。
「匂いはするんだけど、なんかこれ遠いというか古いっていうか。少なくとも死んでる匂いかな?」
「どういうことですか?」
ミュールは来たことのない道なので皆の困惑ぶりが分からなかった
ここを通るたびになぎ倒しているんだけどねと説明していく。
もともと通るたびに、ソレらをなぎ倒してゆくがここまで進んでも一度も出会わないのはあまりないのである。あった時は大抵何かあるときだ。
「な、なぎ倒すのですか?」
「あれ、ベルが言ってなかったっけ? 魔物も食べるって。ボクたちも狙われるよ」
唖然とするミュール。森を愛するエルフとしてそのような危ない植物なぞ聞いたことが無いのだ。というかそれは十分危険なのではなかろうか。
「おや。知り合いのエルフの方々からはそういう魔物もいると聞きましたが」
レティシア曰く、どうやらそういう魔物も普通にいるらしい。
どのような魔物なのか聞こうとしたところ、ある騎士が何かを見つけ様でハウエルによってきた。
「団長。これを」
ハウエルはその騎士から何か干からびたような物を手渡された。
「団長…ですか?」
「あだ名のようなものですよ。騎士の皆さんは団長なり隊長と呼んでいますよ」
三つ目の大きな編み物をついに完成させたレティシアたちのもとにハウエルが近づいてきた。
「レティシア様にクロエ様、これを。どうやらヴァイオレンスイーターの根の様です」
「引きちぎられていますね」
魔物の名前はどうやらヴァイオレンスイーターというらしい。
その根をクンクンとクロエは嗅いでいた。
「ん~、これはもしかしなくてももしかするかも?」
「何か分かったのですか?」
わかったようなわからないようなクロエは周りに警戒するように言った。
クロエはどこかうきうきしていた。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
そのまま進むこと数十分。
バキバキッという音が森に響いた。だがそれだけではなかった。
別の方向からも同様の音が響き、あるところでは強風が渦巻きへし折られ、いとも簡単に切り倒されていた。
さらにある場所ではハウエルが縦横無尽に駆け回り、一刀のもとに返り討ちにしている。
ただ今ヴァイオレンスイーターと遭遇中なのだ。
そのヴァイオレンスイーターの群れはいとも簡単になぎ倒されていた。
その様子を御者席でベルとともにミュールは呆然と見ていた。
ヴァイオレンスイーターはそれなりに強い。しかも群れ。なのに手も足も出ず全然相手になっていないのだ。
ただぽかんと口を開けいても誰が責められようか。
「ほらほら。ミュールさんも何か魔術を使っていいですよ。あのお城に勤める以上は強くなってもらいますからね」
こんな時に授業をするメイドはいるようである。
ちなみにベルはミュールは自分が守ると言わんばかりに抱き着いていた。
それでも時に片手をヴァイオレンスな植物たちに向け、術を使ってへし折りながら吹っ飛ばしている。
泣く泣くミュールも魔術を使い始めた。
私の職場怖い、と。
ヴァイオレンスな植物たちが品切れになったころクロエが声を上げた。
「む。そろそろ来たみたいだよ」
その声に遅れて遠くから木々のなぎ倒される音が聞こえてきた。まあ今までも、すぐそこらで聞こえていたのだが。
皆が緊張する中、比較的広い広場のようなところに着くとそれは現れた。
それは巨大だった。
高さが軽く五メートルは超えているだろう。毛は火のように赤く四本の脚はどれも二頭の熊の胴体を合わせたよりも太く、その足を支える爪は鉄であろうとやすやすと切り裂けそうな代物。
尾の先はまるで一本一本が針のよう。そしてどこか熊のような印象のする魔物。
その顔は何故か整った人の顔に似ていて今にもしゃべりだしそうだ。
何よりも、その魔物の放つ威圧感はさきほどのヴァイオレンスなどかわいく思えてしまうほど。
そんな相手を目の前にして軽い声が聞こえた。
「ん~、やっぱりクイーンかぁ。あの様子だとお持ち帰りは無理そうだね」
「おもちかえりってなんですか!? というかクイーンてなんですか、何処かで聞いたような気がしますけど!?」
あまりの軽さにツッコんでしまった。
「ん、グリズリーマンティコアの成体の雌。クイーン・グリズリーマンティコア」
「マンティコア種は本来ライオンに似ているのですが、あれは熊系統の因子を持つようでしてあのように熊っぽいらしいですよ」
「思い出しました。確かクイーンの方が強いって言ってましたよね!? 大丈夫なんですか、危険な生き物はいないんじゃなかったんですか」
「ん。だいじょうぶい」
敵意丸出しな魔物の前でずいぶんと余裕そうな会話だが、そんな様子などお構いなしにクイーンは咆哮を上げた。距離はかなりあるというのに思わず耳を抑えてしまった程強力だった。
いつ襲いかかってくるか分かったものではなかった。
「じゃあボクがやるから手は出さないでくれよ」
そんな宣言とともにクロエはクイーンに向かって走り出した。
「速いっ!?」
地に倒れこむかのよう低い姿勢で走り出した。
それはもはや大地を駆ける生き物の領域の早さだった。
クイーンは一瞬だけ動きを止めたが、すぐに自身も敵に向かって駆け出した。
すると途中でクイーンは尻尾を前方に振り回した。
「ふふん」
まるで遅いとばかりに華麗にクロエは避け、地面に刺さった針は毒々しい色を放っていた。
両者はとても速い。互いに近づけばすぐ攻撃範囲に入るだろう。
あと数秒もすれば、そのちょっとした木の幹並みの腕の攻撃範囲に入りそうになった時、突如としてクロエが消えた。
「グルァ!?」
その足を止めはしなかったもののクイーンも驚いてしまった。
マンティコアという種は決して愚かではない。むしろ賢い。中でもグリズリーマンティコアは上位の存在。本来戦闘中に気を抜くなどという愚はそうそうしない。
そのクイーンが一瞬気を抜いてしまうほど、そのスピードの変化は劇的だった。
足こそ止めはしなかったもの、あまりの早さに一瞬気を抜いていしまったのは致命的だった。
ただ、もう少し本気を出して走り出しただけのクロエは、いつの間にかクイーンの懐近くまで迫っていた。
「グゥオ!?」
あわや激突と思いきや、クイーンの目にはクロエが一瞬ぶれたように見えた瞬間、脳天を突き抜けるような衝撃が突き抜けた。
一瞬にしてクイーンの顎はななめ横に蹴り上げられ、その巨体は滑りながら地に倒れこんだ。
本能が警鐘をガンガン鳴らす。
相手をただの貧弱な半獣だと侮ってしまった。だがそれは全くの誤りだとクイーンはようやく気づいた。『アレ』はそもそも半獣などではない。
クロエが隠していた実力にほんの少しでも。いや、その正体に少しでも違和感を感じていれば、まだマシな戦いになったであろう。
そのことに気が付いたが、それはもう遅すぎたことであった。
「――それじゃあ、さよならだね」
それがクイーンの聞いた最後の言葉だった。
クロエがどこからか抜き放った長剣のたった一振りで、その首は切り落とされた。
「……すごい」
呆然とした、どこか感嘆とした声でミュールは呟いていた。
自分ではあの魔物にまず勝てないと思えた。なのに自分とそう変わりはしない年の少女が一瞬のうちに倒してしまったのだ。
ただ、見惚れてしまった。
そんな中レティシアが呟いていた。
「……相変わらず早いですね。よく転ばないものです」
「まあ無傷で倒したのですから良いではないですか。それはともかく、早く手伝いに行きましょう」
「手伝うって何をですか?」
ハウエルの言葉によってみんな馬車を進める。
「クイーンを捌くのですよ。あの巨体ですと早くしないと日が暮れる前にカリヨンに着けませんからね」
「それにグリズリーマンティコアは内臓もかなり使えますし、街も近いですからね。新鮮なうちに売れますよ、ふふ」
臨時収入が増えましたねとレティシアは嬉しそうであった。
他の者たちも良い笑顔である。何せ高く売れる上に自分達が食べる分も大いにあるのだ。
さらに売れるということは買い物用のお金が増えることであり、自由時間内に使えるお金も増えるのだ。
ぜひとも高く売れるよう綺麗に剥ぎ取るつもりの一同であった。
「あれってそんなに高く売れるのですか?」
「えぇ、素材もさることながら危険度も高いですからね。冒険者ギルドの方に脅迫……ごほん、報告すれば報酬も出ますよ」
何やら不穏な言葉が聞こえた気がしたが気にしないことにした。
愉快な仲間たちにとってヴァイオレンスなイーターは危険の範疇に入りません。面倒ではありますが。
変なとこあったら言っていいですよー