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03話 驚愕の事実

 私はハーフエルフです。路銀はありますが仕事はまだありません。


 このお城はいったい何なのでしょう。

レティシアさんに助けていただいて、採用はまだですがお仕事の紹介までしてもらいましたのに。


 リッチが出るわスケルトンが出るわ……。


 私……ホラーは苦手なのです。




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




「――まったく。バロン様! いったい今までどこにいたのですか。もう何時間も探していたのですよ!」


「む。事情は分からぬが、とりあえず、すまない」



 レティシアの抗議にバロンは素直に謝る。

 だが何時間も歩かされた身としてはあっさり謝られても不機嫌はおさまらず、レティシアはぷりぷり怒っていた。


 ハウエルはそんな中、落ちてしまった兜をかぶりなおし、意気消沈としていた。



「……申し訳ございません。私の不注意でうら若い少女を驚かせ、気絶させてしまうなんて。やはり、このような顔では恐怖を覚えてしまいますか……」


「いえ、ハウルは気にしないでください。リッチから逃げようとしてスケルトンに触られたら誰だって驚きますよ」


「う、うむ。そもそも吾輩が最初に驚かせてしまったのだし、気にする必要はないぞ」


 

 二人は慌ててフォローを入れるが、そのすすけた様な背中は燃え尽きたままだった。まさに真っ白な燃えカスのようだ。


 とりあえず下手に慰めるよりは放っておくことにし、バロンは気絶した少女について尋ねる。



「して、そのお嬢さんはどうしたのかな? 見ない顔のようだが」


「あ、はい。昨日、森で倒れているところを発見したのです。路銀は持っていたようですが、食料がつき掛けていた様なので、とりあえず連れてきました」


「ふむ、そうか。そういえば私を探していたと言っていたが、そちらは?」


「実はこちらのお嬢さんを、お城のメイドとして雇ってもらおうかと思いまして。行くあても無いそうですし、ちょうどよかったので。かまいませんでしょうか?」


「うむ。吾輩としては別によいのだが、それは本人と話してからであるな」



 確かに雇っても良いのだが、なにぶん、先ほど逃げられるわ気絶されるわなので、本人の気持ちとしてはどうなのか、果てしなく心配なのである。

 この城にいるスケルトンホラーは、バロンやハウエルだけではないが故に。


 ふと、頷いているバロンはレティシアの言葉が気になった。

 


「――ふむ? ちょうど良いとはどういうことなのかね? 手はそれほど足りていない訳ではなかったと思うが」


「ふふふ、それは後でのお楽しみですよ」



 バロンは首をかしげるが、レティシアは意味深に微笑するのみであった。


 とりあえず気絶した少女を空き部屋に連れて行くことにしたが、真っ白な燃えカスハウエルは燃え尽きたままだった。




◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆




 ゆっくりと瞼を開けると、そこは知らない天井だった。


 いや、そもそも最近は屋根のあるところで寝ていなかったと、思い出した。

 はっきり言って、まともな屋根のあるところで寝た回数より、そうでない回数の方が多い。


 起きたばかりなので思考もどこか霞がかっており、意識も判然としない。


 朦朧とした意識のままあたりを見回すと、見知らぬ美少女がいた。



「あ、起きました?」



 いや、見知らぬ人ではない。

 目の前にいるのは、この城で働かないかと誘ってくれたレティシアだった。

 彼女が話しかけてくると、段々、霞がかっていた意識も晴れてきて、つい先日の記憶も思い出してきた。



(あぁ、そうだ。確か……森で拾われたんでしたっけ……)



 行くあてのない旅の途中で、迷ってしまっていた。

 いつの間にか不気味な森に入り込んだ挙句、森の民エルフなのに森の中で迷い、来た道が分からなくなってしまった。


 森は不気味で、見知らぬ場所で迷ったために、びくびくと警戒しながら歩く。

 日も暮れれば森は真っ暗と思いきや、不気味な光やら火が出始め、獣の気配さえしなかった森に背筋の凍るような冷たい気配がしたのである。

 

 恥ずかしながらホラー系は苦手なのだ。

 もはや我慢することもできずに走り出してしまった。それはもう脱兎のごとく、悲鳴を上げながら。

 後で振り返ると赤面物だった。

 

 不気味な気配たちからは確かに逃げおおせたのだが、安心したためにろくに足元を見ていなかった。

 もともと、深い森故に月や星の光はあまり届かない。種族としての特性はあるがそれも限度がある。それに自身は同族の中でも暗所に関しては目が悪い方。

 皮肉にも、それまでは不気味な光たちがあったために見えていたが、ソレから逃げてきたばかり。

 

 やがて様式美のごとく、木の根に足を引っかけ、すっ転んでしまう。

 倒れてしまったところで、どうしたのかと、目の前にいるレティシアに声をかけられたのだった。



「すみません、いきなり倒れてしまって」



 あたりを見回す。

 タンスやクローゼットがあり、一人部屋としてはそれなりに広い。

 窓からは日が射していて、さほど時間は経っていないようだ。


 レティシアに視線を戻すと、どこかそわそわしてるように見受けられた。



「どうしたのですか、レティシアさん?」


「えーっと、ですね。とりあえず落ち着いて騒がないでくださいね」


「?」



 どちらかというと、そわそわしているレティシアの方が落ち着くべきなのではないか、と思った。


 レティシアは部屋の扉に向かって呼びかけた。



「――それではお入りください」



 その言葉に従い一人のリッチによって扉は開かれるが、少女は血の気が引いてしまう。さぁっ、とその音が聞こえてしまうのではないかと言うほど、鮮やかに。

 少女はいますぐ逃げ出したいと思ってしまう。

 だが、「落ち着いてくださいね」という声がもう一度聞こえ、どうにかこらえた。



「……何もしないから落ち着いてほしいのだが」



 リッチからどこか困ったような雰囲気を感じ取り、どうにか平常を保つ。

 もう気絶した時の、目の前のリッチの記憶も思い出していたが、落ち着いて考えてみれば敵意はなかったのである。

 ようやく落ち着いて話ができるようになると、リッチが再び口を開いた。


 カタカタ顎骨が動くが、舌なんてないのにどうやって話しているのだろうか。

 まさに世界の謎、神秘である。



「ふむ、やっと話ができるな。先ほどは驚かせてしまってすまない」


「はあ」


「うむ。まずは自己紹介をしようか」



 丁重な言葉にどこか毒気を抜かれてしまった。

 そしてリッチは名乗った。



「吾輩はこのカロン城の主、バロン・サリヴァン男爵だ。見ての通り、リッチではあるが警戒しなくても大丈夫だよ、お嬢さん」


「へ?」



 少女は間抜けな声しか出せなかった。


 隣のレティシアに顔を向ける。

 今、自分は城の主のバロンと言わなかったかと。


 無常なことに、彼女はしっかりとうなずいて見せた。



「えええええええええええぇぇぇぇぇぇ!?」




◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆




「落ち着きました?」


「は、はい」



 城の主がリッチと言われれば普通、驚くものである。



「あの……、ほんとにバロン様なのですか?」


「うむ、確かにそうだよお嬢さん」


「魔物がこんな立派なお城の主だなんて……」


「あ、いや、それは間違いだ。そこらの者たちはよく間違えるが大抵のリッチは魔物ではなく魔族なのだよ。力の弱いなんちゃってリッチは魔物だがね。――まあ、吾輩は魔人・・だが」


「は、はあ……そうなんですか」



 少女はよく分からなそうに答えた。



「それでは君の名前を聞きたいのだが」


「あ、はい」



 多少は打ち解け、当然の礼儀として少女は背筋を伸ばして返答する。



「ミュールといいます」


 

 少女、ミュールが自身の名前を言うと、レティシアも改めて自己紹介をした。



「では二度目になりますが、改めまして。わたくしはレティシア・ローレスです。ミュールさん」



 そんな二人を見ていたバロンはミュールに問いかけた。



「ふむ、もしやハーフエルフかね?」


「っ!」



 ミュールは目を見開いてほんの少し震える。



「ああ、すまない。これは無遠慮に聞きすぎたな。吾輩もこの城の者たちも、誰もハーフエルフだからといって不当なことはしないから安心しなさい」


「大丈夫ですよ、ミュールさん」


「……ほんと……ですか?」



 ミュールは怯え、上目遣いになりながらも気丈になって聞いた。



「ええ、大丈夫ですよ。それにしてもその様子ですと、ハーフエルフという理由で不当な扱いを受けていたようですが。誰でしょうね、そんな時代錯誤のような人は」


「……里の人です」



 小さい声ながらも答えたが二つのため息が聞こえた。当然目の前の二人である。

 「あの人が聞いたら怒りそうですね」とレティシアは呟いていた。バロンも顔に手を当てて溜息を吐いていた。



「それにしても……ミュールという名前だったんですね」


「え?」


「む?」


「いえ、ちょっと忘れていただけですよ」



 ぬけぬけと言うレティシアに、バロンは虚ろな眼窩からジトっとした視線を向けていた。



「……完璧なメイドを目指しているのではなかったのかね?」


「メイド道の途中ですのでこういうこともあります」



 メイドはいけしゃあしゃあとのたまっていた。

 一方、ミュールは衝撃の事実に気がついていた。そう、かなりショックな事実である。



「まさか私のことを新人さんって呼んでいたのって、名前忘れていたからですか!?」


「む?」



 バロンはあることに気が付いたが二人は気が付かなかった。

 問い詰められたレティシアは最終兵器を繰り出した。



「てへっ♪」


「可愛いけど、てへっじゃありませーん!」


「なん…だと!?」


「バロン様はなんだと!? じゃありません! 驚愕の事実がどこにあったのですか!?」



 少女は叫ぶが二人は何故か納得顔であった。

 バロンは確かに驚愕の事実に気が付き、勝手にうんうんとうなずく始末。



「これがちょうど良いこと、後のお楽しみか。確かに驚愕の事実であるな」


「何一人で納得しているのですか!?」


 

 レティシアとバロンは大変うれしそうに微笑んでいた。

 

 何せ、この城のある意味死活問題が解決するのだから。



「ミュール君」


「な、なんですか」


「君、即採用」


「はい!?」



 いきなり突拍子もないことを言われてミュールは聞き返してしまった。



「それはこのお城で雇っていただくということですか!?」


「うむ」


「……理由をお聞かせいただいても?」


「実はこの城にはある死活問題があるのだよ」



 バロンは勿体ぶりながら言った。

 そしてその場で両手を上げて、声高らかに宣言した。





「――――この城にはほとんどツッコミ役がいないのだよ!!」





「……はい?」

 

「この城の者はそのほとんどがツッコミかボケで言えばボケなのだよ! もはや飽和状態なのだ! 一人でもツッコミ役がほしいのだ! そのためなら給金も応相談であるぞ!!」


「……え?」



 あんまりな答えに呆然としたミュールは救いを求めてレティシアに顔を向けた。 だがそこには救いはなかった。



「私は基本ボケですね。ツッコミもできますがお情け程度でして。やはり本職には負けますね」


「ツッコミの本職ってなんですか!?」


「すばらしい! やはり君は長年望んできた逸材だ!」



 思わずぐわしっとその手を両手でつかんでしまうリッチが一人。

 ミュールは骨だけの手につかえまられて「ひっ」と叫んでしまった。





◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆





「お二人とも落ち着きましたか?」



 あきれたようにレティシアが言う。バロンが喜びすぎたのである。

 ちなみに、結局正式に雇われることになった。

 

 ミュールは先ほど助けられた騎士について尋ねた。



「あのー。さっきの騎士さんはどうしたのですか?」


「彼なら廊下で灰のごとく真っ白になってますよ」



 何があったのか聞こうとしたところで扉の向こうで初めて聞く声が聞こえた。



「おいおいそんな所でどうしたんだい、ハウエル」



 聞こえてきたのはミュールと同じくらいの少女の声だった。

 レティシアはそのまま廊下の騎士を紹介し続けた。



「先ほどの騎士はハウエル・リディストラといいます。ハウルとでも呼んでください。見た通りスケルトンですがいい人ですよ」



 この城の兵の隊長です、と結構衝撃的な言葉を続けた。



「ふむ、彼はまさに騎士の中の騎士と言われたことがあるくらいでな。困ったときは彼かレティシアに頼るといいだろう」



 しかもバロンのお墨付きが付く程の騎士だったらしい。

 ミュールはそんな素晴らしい騎士にこぶしをクリーンヒットさせたのであるが、幸いなことに気が付いていない。


 どうやら扉の向こうでは話が終わったようで、先ほどの声の主が部屋に入ってきた。



「あ、レティシア。男爵見つかったんだ」



「ええ、おかげさまで。ずいぶんと探してしまいましたよ」



 レティシアはバロンをジトっと見るのを忘れない。

 バロンはフハハと目をそらす。


 

 部屋に入ってきたのはレティシアより一つか二つほど小さい、狼の耳と尻尾をもった十四、五くらいの少女だった。

 ハウエルとレティシアと話していた少女である。



「ん? そっちの女の子はどちら様だい?」


「本日ツッコミメイドとして雇うこととなったミュール・ツッコミさんです」


「違います! ただのミュールです! というかツッコミメイドってなんですか!?」



 おぉ~、と少女は感心する。

 実はこの少女、現在での城の貴重なツッコミ要員だったりする。



「ボクはクロエ・アインズっていうんだ。よろしくね」


「あ、はい。よろしくおねがいします」


 

 クロエは満面の笑みを浮かべた。ミュールはその太陽のような明るい笑顔に癒されるような気持ちになっていた。

 今までが苦手なホラー系だったり真面目でありながらボケたりなど、結構ひどかったのである。



「それで貴女は何をしに来たのですか?」


「ふふん、遊びに来たのさ!」



 胸を張って宣言した。


 ミュールは「もしかしてクロエさんもイロモノ系?」と頭を抱える。

 小さい声であったが、隣のメイドはそれを耳ざとく聞きつけた。



「イロモノというよりは、ちょっとねじが緩いか天然かと思いますが」



 レティシアは時々さらっとひどいことを言っている。



「ふむ、仕方ないな」



 バロンがそう言うとクロエの尻尾が左右にぶんぶん振られた。

 まさにワンちゃんである。野生の誇りよ何処へ行った。


 バロンは窓を開け、何処からか投げやすそうな骨を取り出した。



「うむ。ではクロエよ、これを取ってきてくれ」



 そう言った後、そのまま手に持った骨を外に放り投げる。

 骨は森の彼方まで直線を描いて飛んで行った。

 


「魔術まで使って……。見つからなかったらどうするのですか……」



 レティシアが呟くが、クロエはとっくのとうに窓から飛び出していた。

 ミュールはとある疑問を呟く。



「あの骨、何処から取り出したのでしょうか?」






 一時間後


 クロエと共に、バロン・サリヴァン男爵の肋骨がよだれまみれで帰ってきた。

クロエは狼の獣人ではなく人狼です。

似ているようですが違う種族です。 


あ、ワンちゃんではないですよ(笑)


骨は肋骨のどこら辺がいいでしょうね

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