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K3部  作者: 沙φ亜竜
第2章 幽霊? 妖怪? 泊まり込み!
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-1-

「よし、これで揃ったようじゃの! さてそれでは、春の展示会で配布するDVDの準備について、全員参加の打ち合わせを開始するぞよ!」


 金曜日の放課後、掃除当番だったぼくが遅れて計算部の部室に入るなり、部長がそう宣言した。


「春の展示会……ですか」

「うむ、そうじゃ!」

「DVDで配布するって、なにか作品を作る必要があるってことですよね?」

「無論、そのとおりじゃ!」


 まだ席に着く前から喋り出した部長に対して、ぼくが疑問や質問を投げかけると、すぐさまこんな感じで答えが返ってきた。

 ふむ……。なるほど。

 その打ち合わせだからこそ、いつも以上に狭っ苦しい状況になっているのか。


 みんなが詰めて座っている中、一ヶ所だけ空いていた席――ぼくの定位置となりつつある、シャムの隣の席に腰を下ろす。


「ちょっと! くっついてこないでよ、いやらしいわね!」


 速攻で文句の言葉が飛んできた。


「なんだよ!? 肘がかすっただけじゃん! だいたい、これだけの人数がいるんだから仕方ないだろ!?」

「うっさいわね! ツバを飛ばすな! 死にさらせ、このウ○コ!」

「そっちのほうが何倍もうるさいだろ!? それに、女の子がそんな言葉を使うなっての!」

「いいじゃん、べつに! ウ○コウ○コウ○コウ○コ!」

「連発するな!」


 なんというか、シャムと顔を合わせるたびに口ゲンカになるというのも、そろそろ恒例行事となってきている気がする。

 そんなぼくたちの様子を見て、ふたり分の聞き慣れない笑い声が響く。


「はっはっは、いや~、賑やかになってるな~!」

「あはははは、ほんと、そうだね~!」


 パイプ椅子に座り会議テーブルの片隅に陣取っている、見慣れないふたりの男子生徒が発した声だった。

 以前部長が話していた、他の部と掛け持ちしている二年生の部員なのだろう。


 スポーツ刈りのがっしりした体格のふたり。顔もそっくりで、見た目には同じ人のように思えてしまう。

 これだけ似ているということは、一卵性の双子に違いない。


「おお、亀井兄弟、そうなのじゃよ! ……と、一年生諸君は、初顔合わせとなるかの? こやつらは、亀井リク・ミドリの、双子の兄弟じゃ」

「オレが兄のリクだ! サッカー部との掛け持ちだけど、よろしくな、一年生! それにしても、女子率が高くなって華やかになったもんだな!」

「そうだね。兄貴と同様、オレもサッカー部との掛け持ちだけど、よろしくね!」


 見た目はまったく同じでも、どうやら性格的には違いがあるみたいだ。

 お兄さんであるリク先輩は思いっきり体育会系っぽいけど、弟のミドリ先輩はちょっと文化系っぽい印象を受ける。

 どうでもいいけど、パソコンを扱うような計算部と、バリバリ体育会系のサッカー部との掛け持ちなんて、結構大変なんじゃないだろうか。


「掛け持ちでも、毎回展示会の作品はしっかり作ってくれるのよね、リクくんとミドリくんは」

「どっちも好きでやってることだからな!」

「……兄貴のプログラムはバグだらけだから、オレが苦労してるんだけどね」


 全員参加の打ち合わせと言っていただけあって、文鳥先輩の姿もあった。

 受験勉強のため引退した身のはずだけど、こういう場だからかしっかりと顔を出してくれたようだ。

 幼馴染みだという話だし、部長のことが心配だからというのもあったのかもしれないけど。


 その他に、シャムとセットと言ってもいい友人のちわわん、今日もやっぱり女子の制服を着用している蘭香さん、手鏡で自分の前髪を確認しているウルフ先輩も、もちろん席に着いている。

 以上、総勢九名。

 今いるメンバーが、掛け持ちと引退済みの人も合わせた全部員ということになる。


 たったこれだけで、肘がぶつかるくらい窮屈になっているのは、部室の狭さもさることながら、壁沿いに並べられたダンボールなどの雑多な物品にその原因があると考えるべきだろう。

 数々のソフトウェアやパソコン系の雑誌などが並べられた棚も、ぼくとしては宝の山のように思えるけど、もう少し整理整頓すればかなりのスペースを確保できそうだ。

 くさい・汚い・カッコ悪いの三拍子揃った計算部、といった不名誉な言われ方を払拭するためにも、シャムが言っていたように、早急に掃除する必要があるのは間違いない。


 もっとも、綺麗・可愛い・かぐわしいの三拍子っていうのは、ちょっとどうかと思うけど。とくに、可愛いという部分……。

 部室全体がピンク色で覆われ、可愛らしい動物なんかの図柄がいっぱいで、お花の匂いに包まれたりなんかしていたら、男のぼくとしてはなんだか恥ずかしくて、落ち着いてプログラムもできやしないだろう。


 と、それはともかく。

 ぼくとシャムのせいで、と言えるかもしれないけど、一旦途切れてしまっていた部長の話が再開された。


「春の展示会は、再来週の月曜日から一週間となっておる。放課後に各部がそれぞれ展示をする感じじゃな。すなわち、準備期間はあと一週間ちょっとしかない、ということじゃ」

「えっ……? 一週間ちょっとで作品を作るんですか!?」

「そうじゃ。ワシらは去年の文化祭のあとから構想を練って作っておるがな。新入部員諸君は時間もないし、簡単なものでよいぞよ」


 ふぉっふぉっふぉと、相変わらずの笑い声を飛ばしながら、部長が軽く言ってのける。

 それにしたって、たった一週間程度でなにをどうしろというのだろう。


「大丈夫よ。新入部員は、なにか提出したという実績が重要なだけだから。部活動に対する意欲を見るって感じかしら」


 蘭香さんが、うふふと微笑みながら解説を加えてくれる。この先輩もやっぱり、相変わらずだ。


「でも、やるからにはしっかりやりたいです」

「あら、真面目なのね」


 ぼくが答えると、蘭香さんはそう言いながら優しく頭を撫でてくれた。

 爽やかな甘い香りにも包まれ、思わず頬が緩む。

 う~ん……。気を抜くと、この人が本当は男だということを、完全に忘れ去ってしまうな……。


「作品は、ゲームでもCGでも音楽でも構わん。個人個人でそれぞれ作ることが望ましいが、そうじゃの、新入部員は三人で共同制作でもよいぞ?」


 部長の言葉に真っ先に反応したのは、案の定、シャムだった。


「はぁ? あちしはイヤですからね! こんなヤツと一緒に作るなんて!」


 ビシッとぼくに向けて人差し指を伸ばし、大声で文句を言い始めたのだ。

 なんと頭に来る物言いだろうか。

 だいたいシャムは、パソコンに触ったことすら、ほとんどないはずなのに。


「なにもできないくせに」


 ボソッ。ついつい口に出してしまっていた。


「なによ!? 言いたいことがあるなら、ハッキリ言えば!?」


 おそらくハッキリ聞こえていたに違いないのに、シャムは凄まじい勢いで突っかかってくる。

 対するぼくだって、黙って耐え忍ぶような人間じゃない。脊髄反射的に怒声を返す。


「なにもできないくせにって言ったんだよ! ちゃんと聞こえてるのに聞こえないフリまでして! 文句ばっかり言うなよ!」

「ぬぁんですってぇ~!? あちしが悪いとでも言うのっ!?」

「そうだよ! 当たり前だろ!? まったく、普段から頭を使わないと、脳が腐るよ?」

「うがぁ~、ムカつく、コイツ! そっちこそ、蘭香さんに頭を撫でられてデレデレして、脳ミソとろけちゃってるんじゃないの!?」

「はぁ? なんでそこで蘭香さんが出てくるんだよ!? バカじゃないの?」

「うっさいわよ、この変態!」


 お互いにガンを飛ばし合い、至近距離から罵詈雑言を浴びせかけるぼくとシャムの様子を、部員たちは生温かな目線で眺めていた。

 初見となるリク先輩とミドリ先輩の兄弟は、さすがに目を丸くしていたけど。


「ケンカするほど仲がいいって言いますものね~」


 ちわわんがなにやら、すっとぼけた意見を述べる。


『そんなわけあるか!』


 意図せず、ピッタリと重なってしまう、ぼくとシャムの声。


「マネすんな!」

「そっちこそ!」

「あちしはマネしてないもん! 死にさらせ、このウ○コ!」

「またそういう汚いことを! やめろって言ってるだろ!?」

「あんたには関係ないでしょ!?」


 ……まぁ、ぼく自身も悪いとは思うのだけど。

 こうして今日も今日とて、部室内には騒がしい声が響き渡るのだった。


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