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結局、ちわわんと一緒に、シャムも入部することになった。
女性である文鳥先輩もいるとわかったとはいえ、男が圧倒的に多い環境の中に大切なちわわんを放置するのは心配だから、というのがその理由だった。
シャムはちわわんの保護者気取りなのだろうか。
それに、ぼくたちの中にいたら心配っていうのは、いくらなんでも失礼な気がする。
「ふぉっふぉっふぉ! ふたりとも、よく決断してくれたの! 歓迎するぞよ!」
……まぁ、こんな部長がいることを考えれば、シャムが心配するのもわからなくはないのだけど。
「あちしはちわわんを守るために入部するだけですから! べつにパソコンとかに興味なんてないし!」
悪びれる様子もなく、シャムは大声でそう宣言する。
腰に手を当ててふんぞり返るようなポーズが、あたかもデフォルト仕様でもあるかのように思えてしまう。
「……なによフェレット、文句あるの!?」
微妙な視線を向けていたからか、シャムはぼくを睨みつけ、やっぱり大声のまま絡んできた。酔っ払いかっての。
「いや、べつに文句はないけどさ……」
入部したのなら、それなりの活動はしてほしい、と思ったりはしたのだけど。
もし指摘しても猛烈な反撃を食らうだけなのは明白なため、余計なことは言わないでおいた。
まぁ、せっかくの機会だし、シャムにも少しはパソコンとかに興味を持ってもらえるよう、ちょっとは頑張ってみようかな。
そんな目標を、心の中で立てるぼくだった。
「なんにしても、これで新入部員が三人! 今年はなかなか大漁じゃの! ふぉっふぉっふぉ!」
部長は細い目をさらに細めて笑っている。これ以上細めたら、消えてなくなってしまうのではなかろうか。
「フッ……。女の子が増えて、オレは嬉しいよ!」
ウルフ先輩が、前髪をかき上げながらキラリと歯を光らせる。
「うふふ、正式な計算部の部員になったおふたりに、歓迎の意を込めて、温かいお紅茶を淹れたわよ。もちろん、他のみんなの分もあるわ。おかわりがほしかったら、遠慮なく言ってね♪」
蘭香さんは蘭香さんで、紅茶を出すのに余念がない。
ふたり増えようとも、ティーカップが足りなくなったりはしないようだ。
「うん、いただきます! ずずずずず。うわっ、なにこの紅茶、美味しい~!」
「……シャムちゃん、音立てすぎ。お行儀悪いですわよ? ……こくこくこく。あっ、ほんと、とっても美味しいですわ」
シャムとちわわんのふたりも、すでにこの部の雰囲気に馴染んでいるようだ。
……染まってしまった、と言うべきかもしれないけど。
「ふぉっふぉっふぉ! よきかなよきかな! ワシの部も、これで安泰じゃの! 期待しておるぞ、新入部員諸君!」
「あちしは期待されても困りますけど」
「わ……わたくしは、頑張ります。できる限りですけれど……」
「ぼくも頑張ります。なにを頑張ればいいか、よくわかりませんけどね」
心の底から嬉しく思ってくれているのだろう、テンション最高潮の部長に、ぼくを含めた一年生三人組が答える。
……若干の困惑を含みつつ。
「ごめんなさいね、変な部長で」
そんなぼくたちの様子を見かねた文鳥先輩が、ため息まじりの言葉をかけてくれた。
「ぬぬぬ? さくら、ワシが変とは、どういうことじゃ!?」
「そのままの意味よ」
「なんと!?」
どうやら自覚のない部長は困惑しているようだったけど、それでも笑っているとしか思えない糸目は変わらなかった。
まるで夫婦漫才でも見ているかのような、そんな気持ちでふたりのやり取りを見てしまう。
どうやらこの計算部で唯一まともなのが、この文鳥先輩ということになりそうだ。
……いや、ぼくだってまともな人間だけど。部長を筆頭としたおかしな部員たちとは違って。
ともあれ。
まだどんな部なのか、いまいち理解しきってはいないものの、それなりに楽しくやっていけそうかな。
ぼくはそう思い始めていた。
☆☆☆☆☆
「さて、それでは新入部員も増えたことだし、我が部の活動内容を改めて話しておくとするかの」
部長がいつもながらの細い両目で山なりの形を作りながら、部員一同に向かってそう宣言した。
みんな、蘭香さんが淹れてくれる紅茶を心ゆくまで味わい終え、ゆったりくつろいでいるところだった。
おっ、ようやく部活らしいことが始まるのかな?
そう思ってワクワクするぼく。
といっても、部長の顔をじっと見つめてみると、どうしても胡散臭さが先走ってしまい、どうせ真面目な話なんてしないんだろうな、という結論へとたどり着いてしまうのだけど。
ぼくのその考えは、このときばかりは間違っていた。
「各自、部室にあるパソコンを自由に使っていいことになっておる。基本的にはひとりひとり、専用のパソコンとなるのじゃが。台数にも限りがあるからの、一年生は三人で一台のパソコンを使ってもらうことになるじゃろう」
「うふふ、もし嫌なら自分のパソコンを持ち込んでもいいのよ。わたしも、自分専用のノートパソコンを持ってきてるしね」
そう言った蘭香さんの目の前には、ピンク色でなにやら可愛らしいデザインのノートパソコンが置かれていた。
「計算部は計算機、すなわちパソコンを扱う部ではある。じゃが基本的には、プログラミングやグラフィックツールを使ったデザインなどをするのが、主な活動内容となっておる」
意外にもまともに活動内容を説明してくれる部長。
この人、なにも考えてなくて、好き勝手にやっているだけの先輩だと思っていたけど、やるときはやる人なんだな。
考えを改めるぼく。
と、すぐに。
「活動内容報告は以上じゃ。では、宴会の再開といくかの!」
部長、宴会って言った!
「は~い! さ、お紅茶、もっと飲んでね~! うふふ、今日は切らしちゃったけど、明日からはちゃんとお菓子も用意しておくわね!」
蘭香さんも満面の笑みをこぼしながら、妙に張りきって紅茶を注いでいる。
やっぱり、みんなで騒ぐのがメインの部活だという、最初から感じていた判断は間違っていなかったようだ。
「どうでもいいけどさ~」
と、ここでシャムが意見を述べる。
「紅茶とかお菓子とか、最高だと思うけど、この部室で食べるのって、ちょっとどうかと思うのよね~」
確かに、雑多に物が置かれ、ホコリも積もり、ニオイも気になるこの部室。
こんな中で紅茶を飲み、さらにはお菓子まで食べるなんて、ひたすら健康に悪そうな気がする。
「そうだよね。まだ入学したばかりなのに、クラスで悪い噂を聞いたこともあるし」
「そうそう、そうなのよ! くさい・汚い・カッコ悪いの三拍子揃ったK3部、なんて呼ばれてるのよ!」
ぼくの意見に、隣に並んで座っているシャムも同意する。
シャムの言葉どおり、計算部は別名、『くさい・汚い・カッコ悪いのK3部』と呼ばれている。
あまりにもひどい言われようだとは思うものの、部室の様子を見てみれば、なるほどと納得して頷く以外にありえないわけで……。
「実際、すごく汚いしくさいし、女の子としては我慢ならないわ! あちしが入部したからには、絶対掃除して綺麗にするんだから! そうじゃなきゃ、ちわわんがかわいそうよ!」
「え……? わたくしはべつに、今のままでも全然……」
「なに言ってるの!? ダメに決まってるじゃない! 可愛くて可憐なちわわんには、綺麗なピンク色を基調とした、お花の匂いがする場所しか似合わないのよ!」
「そ……そんなことはないと思いますけど……」
「そんなことあるの! あたしが入部したからには、くさい・汚い・カッコ悪いなんて不名誉な言われ方なんてしないように変えてみせるんだから!」
シャムは、ぼくとは反対側に座っているちわわんのほうへと向き直り、ぐっとこぶしを握り締めながら力説する。
「これからは、『綺麗・可愛い・かぐわしいのK3部』って呼ばれるようにするのよ! この、あちしのようにね!」
シャムは椅子から立ち上がると、背中にザッパ~ンと大波を背負っているかのような勢いで目標を掲げる。
そんなシャムに容赦ない言葉を投げかけたのは、一番大切に思っているはずのちわわんその人だった。
「でもシャムちゃんって、綺麗でも可愛くもないし、いい匂いもしないですわよ~?」
「な……っ!?」
うん。いくら本当のことではあっても、はっきりと言いすぎな気がする。
……と思ったこと自体、シャムに対して失礼だろうか。
だけど、実際今ぼくのすぐ横の席に座っているシャムは、身だしなみにはどちらかといえば無頓着な雰囲気で、お世辞にも綺麗とは言い難い。
顔立ちも悪くはないけど、甘めに判断しても中の上程度。
さらには、女の子だから甘い香りでもするかと思いきや、なんというか、シャムはちょっと微妙な香りを周囲に放っていた。
べつに不快なほどではないものの、人によっては気になってしまうニオイかもしれない。
「そうだね。シャムってちょっとくさいし」
「く……くさいですってぇ!?」
あ……思わず口に出しちゃった。
当然ながら、驚くほどの勢いで怒りをぶつけられる。
「あんた、女の子に対して、なにひどいこと言ってんの!? それに、あちしがくさいわけないじゃない! とってもいい匂いのはずよ!」
「さっきも言いましたけれど、いい匂いではないですの」
ぼくに向かってツバを飛ばしまくりながらわめき散らすシャムに対して、背中越しにちわわんが控えめな声を挟んでくる。
声の調子こそ控えめだったけど、その内容は決して控えめなものではないような……。
「むぅ! じゃ……じゃあ、どんなニオイだっていうの、ちわわん!?」
「う~ん……ケモノ?」
「あ~……なるほど」
「うき~~~~っ! あんたら、あちしをなんだと思ってんのよぉ~!」
シャムは爆発してるけど、ぼくは妙に納得してしまった。
主に見た目だけど、ケモノというか、完璧に猫っぽい印象があるし。
「……そっか。家で猫とかを飼ってて、そのニオイが移ってるとか……」
「シャムちゃんの家、動物とかは、なにも飼ってないですの~」
ぼくの意見を、ちわわんがさくっと否定。
「だから、シャムちゃん自身の体臭が、ケモノのニオイなんですわ~」
……ちわわんって、顔に似合わず、意外と毒舌だよなぁ。
「ちょ……ちょっと! なによそれ!? あちしはケモノじゃないわ! きっと、シャンプーとか整髪料とか香水とかの匂いよっ!」
「……シャムちゃん、香水を使ってますの?」
「う……、使ってないけど……!」
「整髪料って、一緒に買いに行ったものですわよね? あれって確か……」
「む……無香料タイプよ……!」
「それにシャンプーだって、シャムちゃんは頭を洗うとき……」
「そ……そうよ! 石鹸を使って洗ってるわよ! シャンプーだと頭皮がかぶれちゃう体質なんだもん、仕方ないじゃない! 整髪料だって、いろいろと試してようやく見つけた、かぶれないやつなんだから!」
「だったら、ニオイのしそうなのって、シャムちゃんは全然使ってないですわよね~? 石鹸の香りとも違いますし~」
「うぐっ……!」
「結論。シャムちゃんはケモノのニオイのする女の子。これで決定ですわ~」
「ううう……!」
あっ、シャム、涙目になってる。
意外と打たれ弱い性格なのかも……。
それにしても、ちわわん、ほんわかした人畜無害な笑みを浮かべながら、その内面には悪魔のごときブラックさを秘めているようだ。
もっとも、教室で見ていてもいつも一緒にいる仲よしのふたりだからこそ、からかい半分でここまで言えるってことなんだろうけど。
「う~~~~! あ……あちしって、そんなにくさい!? ねぇ、フェレット、どうなの!? よぉ~く嗅いでみて!」
瞳をうるうるさせたシャムが、ぼくの両肩をがしっとつかんで訴えかけてくる。
「わわっ、近い近い!」
さすがに焦る。いくらこんな感じでも、シャムが女の子なのは確かなのだから。
少しだけ顔を前に出したらキスさえできてしまいそうな、そんな至近距離にまで詰め寄られたら、自然と胸も高鳴ってしまうってもので。
「う……うん、えっと、大丈夫、べ、べつにくさくなんか、ないよ。……ちょっと変わった匂いではあるけど」
顔を背けてしまうの悪いかなと思ったぼくは、どもりながらも答える。
ちわわんはケモノのような体臭なんて言っていたけど、そういった感じともやっぱり違うみたいだった。
全身からというよりは、どうやら主に髪の毛の辺りから発せられている匂いのようだ。
シャンプーも香りのある整髪料も使っていないはずなのに……。
ただ、確かに変わった匂いではあるけど、至近距離で嗅いでみると、なんだろう、これはこれで悪くはないかなと思えてしまう。
「む~、でも、変わってるんだ、あちしの匂い……」
シャムはすぐにぼくの目の前から顔を離し、そう言って制服の二の腕の辺りをくんくんと嗅ぎ始める。
なんだか妙に可愛い仕草かもしれない。
……って、あれ? なんだこれ? ぼく、もしかして……。
い、いやいや、そんなはずはないよね!? こんな、変わった匂いで、うるさい女の子なんて!
ぼくの理想は、ちわわんみたいなおとなしくて清楚で可憐な女性だし!
……ちわわんはちわわんで毒舌だから、清楚で可憐なイメージとはかなりずれてきているけど……。
無意識に汗が噴き出してくるのは、焦っている証拠だろう。
そんなぼくの様子を、ちわわんがシャムの背中越しに黙って見つめていた。
なんでもお見通しのような、穏やか笑みをその顔にたたえながら。
「う~、いい匂いのする美少女になりたいわ……」
シャムはシャムで、まだ自分の匂いを気にしているようだ。
「シャムちゃんじゃあ、絶対に無理ですわ~。だって、美少女じゃありませんもの」
そして笑顔で毒舌を吐くちわわん。
「うん、そうだね」
せっかくなので、ぼくも乗っかってみる。
「うき~~~~っ! そんなことないもん! あちしは可愛い部類に入るんだもん! ……多分! きっと! もしかしたら!」
だんだん弱気になってるし……。
ともかく、ポカポカとぼくを叩きながら駄々をこねる様子のシャムは、これはこれで可愛いと思ったり……。
と、そんなぼくたちの様子を黙ってうかがっていた部長が、突然大声で笑い始めた。
「ふぉっふぉっふぉ! 今年の新入部員諸君は、元気があっていいのぉ~!」
「あ……騒がしくて、すみません」
「いやいや、いいのじゃよ! 自分の素を出せる場所、それがこの計算部なのじゃ! この部は自分の好きなことができる部活じゃからの!」
「部長さんは、ご自分の好きな古いパソコンを持ち込んだりしてますもんね~?」
「そうなのじゃ! N○CのPC○8シリーズや富○通のFM○7、シャ○プのX○ターボなんかもあるぞよ! 他にも、M○Xや○Z1500なんかもあってじゃな、ワシはとても大切にしておるのじゃ! 今でも現役バリバリに動作させることができるのじゃよ!」
蘭香さんの指摘に、部長はここぞとばかりに喋くり始める。
どうやら狭い部室の片隅にあるダンボールの中に、それらの古いパソコンが詰め込まれているようだ。
……大切にしているのなら、こんな薄汚れた部室の中でダンボールに詰めて山積みになんてしていてはダメな気もするけど。
パソコンの台数が少ないと言っていたし、それらの部長の私物も使えばいいのに。……いや、古すぎてソフトが動かないか……。
「X○ターボにはスーパーインポーズ機能というのがあってじゃな、パソコンの画面とテレビの画面を重ねることができたのじゃ! それを使えばなんと、パソコン版のグラ○ィウスとファ○コン版のグラ○ィウスを重ねて遊ぶなどという荒業も可能だったのじゃよ!」
力説されても、ぼくにはよくわからない。
だいたい、そんなことをして、いったいなんの意味があるというのやら……。
「パソコン、それは男のロマンなのじゃ! 計算部は男のロマンのための部活と言っても過言ではないのじゃ!」
「あちしたち、女ですけど……」
「女でも可、なのじゃ! 男は寛容じゃからの!」
「フッ……、そうだよ。女の子がいてこそ、男ってのは輝くものなのさ」
「うふふ、そうね」
シャムの言葉に、部長以下、先輩方が続けざまに答えた。
変わった人たちばかりだけど、意外とまとまりもあって、温かな雰囲気に包まれた部なのかもしれない。
「ごめんなさいね、変な部で」
ふと文鳥先輩が、苦笑まじりの控えめな調子ではあったけど、ぼくたち新入部員に向けて言葉をかけてくれた。
「いえ、いい部だと思います」
「うん! あちしも結構気に入ったわ! 部室が汚いのを除けばですけどね!」
「わたくしも、気に入りましたわ。とくに部長さんの、古いパソコンのお話に……」
ちわわんはどうやら、微妙な部分に食いついたみたいだけど。
最初から入部を決めていたようだし、見た目に似合わず、もとからパソコンとかが好きなんだろうな。
「そう? ならいいけど……」
ぼくたちの答えを聞いても、まだ苦笑気味の文鳥先輩。
「変わった先輩たちが多いですけど、文鳥先輩がいてくれるなら大丈夫ですよ」
これはぼくの本心だ。
きっと文鳥先輩がいなかったら、毎日お茶会が繰り広げられるだけで終わってしまうだろうし。
だけど……。
「あら、ごめんなさいね。わたし、部員ではあるけど、もう引退してるのよ。大学受験に向けて勉強するために……」
「そ……そうなんですか!?」
最後の砦が崩された気分だった。
とても真面目な雰囲気だから、それは確かに文鳥先輩らしいとは思うのだけど。
ぼくの困惑を汲み取ってくれたのだろう、文鳥先輩は仕方がないわね~、といった笑顔を伴った言葉をかけてくれた。
「でも、そうね、たまには顔を出すようにするから安心して。……こんな部長じゃ、とても心配だし」
「むむむ。さくら、こんな部長とは失敬な!」
部長の文句はガン無視して、ぼくはほっと胸を撫で下ろる。
「文鳥先輩は、部長さんの幼馴染みなんですよね~!」
部長の紅茶のおかわりを注いでいた蘭香さんが、そんな追加情報を添える。
「ま、まぁ、そうね。腐れ縁でしかないけど……。まったく、あまり心配かけさせないでほしいわ」
文鳥先輩はそう答えながらも、ほのかに頬を染めている。
ちわわんがそれに反応して、きゅぴ~ん、と尻尾を振って喜んでいるかのような笑顔を見せる。
「文鳥先輩と部長さん、おつき合いされてるんですの~?」
「おお、そうなのじゃ!」「そ、そんなことないわ!」
部長と文鳥先輩の声がピッタリと重なる。その内容はまったくの正反対だったけど。
「え~? でも文鳥先輩は、部長さんのことお好きなんですわよね~?」
「ち……違うわよ! わたしはただ、心配してるだけで……!」
慌てて否定する文鳥先輩の顔は、まるで摘み立てのリンゴのように真っ赤に染まっていた。
ふたつ年上の先輩だけど、なんだか可愛らしく思える。
それにしても……。
ちわわんって、遠慮がないのは仲のいいシャムに対してだけかと思ったら、どうも誰が相手でも変わらないみたいだ。
……いや、そもそも考えてみれば、最初からぼくに対しても遠慮はなかったっけ。
「フッ……、照れている文鳥先輩も、可愛いですね!」
前髪をかき上げながらのウルフ先輩。
「うふふ、お似合いのカップルですよね~」
今度は文鳥先輩に紅茶のおかわりを注ぎながら、悪気のない笑顔で意見を述べる蘭香さん。
「わたくしも、とってもお似合いだと思いますわ~」
両手を合わせて、蘭香さんの意見に同意するちわわん。
「ふぉっふぉっふぉ、そうじゃろうそうじゃろう!」
糸目をさらに細めて、余は満足じゃ、とでも言いそうな様子で笑う部長。
「ち……違うって言ってるのにっ! もう、みんな、意地悪しないで!」
文鳥先輩は真っ赤な顔のまま否定を重ねる。真面目だけど、からかわれやすい性格なのかもしれない。
「にゃははっ! 文鳥先輩、真っ赤になって、可愛い~! もう、認めちゃいなよ~!」
シャムは猫っぽい顔で笑っている。
どうでもいいけど、先輩に対してなのに、すでに敬語じゃなくなっているようだ。
「そうですよ、文鳥先輩!」
そして、しっかりとシャムの言葉に乗っかる、調子のいいぼく。
文鳥先輩はもう引退している身で、他にもかけもちの部員がいると言っていた気はするけど。
ともかく、こんなメンバーから成る計算部。
はてさていったい、どうなっていくことやら。
ぼくとしては、なかなか面白くなりそうだし、パソコンが自由に使えて自分の好きなこともできそうだし、と期待に胸を膨らませていた。




