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どう考えても時間が足りなかったため、結局ぼくは、シャムとちわわんのゲーム制作を手伝うことに決めた。
大口を叩いていたくせに、とか、シャムには文句を言われるかと思ったけど、意外にもすんなりと受け入れてもらえた。
シャムとちわわんのほうも、手が足りない状況だったからだろう。
担当としては、シャムが自分で考えた話をテキスト化し、ちわわんが絵や音楽の素材を準備しつつテキストを更正、ぼくがコンストラクションツールを用いて構築していく、といった形になった。
このコンストラクションツール、ノベル系アドベンチャーゲームを簡単に作れるだけでなく、専用のスクリプト言語を用いて細かな部分まで制御できるようになっていて、かなり奥が深いことが判明。
時間はないけど、シャムの考えたストーリーが引き立つように、スクリプトを駆使して上手く演出を加えるのもぼくの役目となった。
覚悟していたとおり、作業は週末をかけて徹夜で続いた。
特別に土日の部室使用と泊まり込みの許可も得て、必死にゲーム作りに取り組んだ。
先輩方は、余裕のある状態や完成済みの人ばかりということで、泊り込んだりまではしなかった。
そのおかげで、シャムも蘭香さんのノートパソコンを使わせてもらうことができた。
シャムが一緒にいたら、お互いに反発し合ってなにも進まないのではないか、とも思ったけど、とくにそういったこともなく。
それぞれが自分の作業に集中し、また、必要な場面では協力し合い、ゲームは着々と完成へと向かった。
☆☆☆☆☆
ところで、シャムの髪の毛は、ぼくが切ってしまったわけだけど。
休憩時間を使って、ちわわんが見栄えよく切り揃えてあげていた。
以前はボリューム感たっぷりの盛り髪だったシャムだけど、今は完全なショートカットになっている。
髪を留めるという用途は果たしていないものの、お気に入りなのか大きな猫耳のようなリボンだけはつけているから、以前にも増して猫っぽい印象を受けてしまう。
それにしても、どうやらぼくは、かなり大量にシャムの髪の毛を切ってしまったようだ。
女の子にとって命とも言える髪の毛。それを切ってしまったのだから、ぼくはどんな仕打ち受けても構わないとすら思っていたのだけど。
最初に気づいたときに散々罵声を浴びせられはしたけど、それ以上文句を言われることはなかった。
「だってさ、過ぎたことをグダグダ言い続けても仕方がないじゃない。髪の毛が戻ってくるわけでもないし」
意外にもあっさりとした反応だった。
「それに、正直あんたが手伝ってくれて助かってるのよ。ちわわんとあちしだけじゃ、絶対間に合わなかったと思う。だから感謝してるの」
まさかシャムからそんなに素直な謝辞が飛び出すとは思っていなかったため、面食らってしまった。
そして思わずぼくのほうも、素直な思いを口にしていた。
「うん。ぼくもシャムと一緒にゲームを作れて楽しいよ」
「そ……そう。ならよかったわ」
恥ずかしそうにうつむくシャム。
「それに、ショートカットもすごく似合ってるし」
さらにぼくの口から飛び出した言葉も、素直な感想だった。
普段のような言い争いばかりの状態だったら、絶対に口にできなかった言葉だとは思うけど。
「な……っ!? バ……バカ! 余計なこと言ってないで手を動かせ! 死にさらせ、このウ○コ!」
真っ赤になりながらも、シャムはいつもどおりのセリフを口走る。
「はいはい。それじゃあ、頑張りますか!」
「もし間に合わなかったら、あんたのせいにするからね!」
「わっ、ひどいな」
「ふんっ! 知るか!」
ふと気づくと、そんなぼくとシャムに、ちわわんから温かな視線が向けられていた。
ぼくと目が合うと、ちわわんは軽く微笑みだけを残し、すぐに自分の作業を再開していたけど。
さて、ゲーム制作をする場合、テストプレイをしてバグを見つけ、それを直していく作業も必要になる。
ひととおりの素材が揃ったあとは、ちわわんにテストプレイを頼み、徹底的にバグを洗い出してもらった。
展示会で無料配布するだけの作品だから、バグくらいあっても、笑って許されるに違いない。
だけど、せっかく作るのだから、完璧とは言わないまでも、納得の行く形で発表したい。
三人の思いはひとつになり、ぎりぎりになってはしまったものの、どうにかぼくたちの作品は完成した。
ぼくたちが制作したゲームは、絵本風のアドベンチャーゲームだ。
タイトルは『フェレットとシャム猫の恋物語』。
「か……勘違いしないでよね!? べつにあんたとあちしのことを書いたんじゃなくて、動物の心温まるお話が書きたかっただけなんだから!」
シャムはそう言っていたけど。
このタイトルじゃ、勘違いするなというほうが無理なわけで。
リク先輩を筆頭に、からかいや冷やかしの言葉を受けまくる結果になったのは言うまでもない。
☆☆☆☆☆
「よかったじゃないか、フェレット」
展示会が開始され、休憩がてらトイレに立ったぼくに、リク先輩が話しかけてきた。
「シャムちゃんと随分いい感じじゃないか? オレたちと泊り込む前にはかなり機嫌が悪かったし、戻ったあとも髪を切ってしまったりで、どうなることかと思っていたが」
「リク先輩……」
どうやらリク先輩は、最初からぼくがシャムのことを気にしていると見抜いていたらしい。
だからこそ、頑張れと言ってくれたり、何度も冷やかしやからかいの言葉をかけて意識させるようにしてくれたりしていたようだ。
「ま……まぁぼくは、べつにどうでもいいんですけとね。シャムと一緒にいると楽しいのは確かですけど」
「素直じゃないな。ま、いいさ。でも、もっと上を行く策士がいるのも事実なんだがな」
「え……? どういうことですか?」
「いずれわかるさ」
「???」
よくわからない言葉を残し、リク先輩は去っていった。
展示会の配布DVDはなかなか好評だった。
とくに、ぼくたちが作った絵本風のアドベンチャーゲームが、意外にも高評価。
シャムの考えたストーリーが泣けると評判になっているとか。
ぼくはゲームを完成させることに躍起になって、制作段階では文章の内容まで細かく見ることができていなかった。
せっかくだし、あとでじっくりプレイしてみようかな。
……フェレットとシャム猫の恋物語なんてタイトルだし、ちょっと、というかかなり恥ずかしい気もするけど。
後日談――。
そんなこんなで、計算部の春の展示会は無事終了を迎えることができたのだけど。
秋に行われる文化祭では、もっと大々的な展示が予定されていて……。
その際、どういうわけだか、劇を演じることになってしまった。
主演はぼくとシャム。
題目はもちろん、『フェレットとシャム猫の恋物語』。
提案したのは部長だった。リク先輩が言っていた策士というのは、部長のことだったのだ。
ぼくたちの作ったゲームが好評だったことを受け、瞬時にひらめき、その準備を水面下で進めていたらしい。
もとのゲームは、動物同士の心温まるハートフルストーリーになっていた。
というわけで、ほんわかしたイメージを重視してなのか、ぼくとシャムにはそれぞれ、フェレットとシャム猫の着ぐるみを着て劇を演じるという役割が与えられた。
パソコンでゲームやCG作品なんかを作ったりするのがメインの部活なのに、どうして劇なんて演じることになるのやら。
文句はあったけど、ぼくに拒否権などない。
意外なことにシャムが結構乗り気だったこともあり、とんとん拍子で話は進み、演劇が計算部の文化祭の正式な展示内容として決定された。
なお、演劇用の脚本は、ゲームの内容をもとに、ちわわんが監修することになった。
原作のシャムは主演だからと、ちわわんが自ら名乗り出たのだけど。
さらなるサプライズとして、ぼくとシャムには内緒でラストにキスシーンが追加されているなんて、実際にその場面になるまで、まったく思いもしなかった。
以上で終了です。お疲れ様でした。
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