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K3部  作者: 沙φ亜竜
第6章 魔王、妖精、最終決戦!
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-1-

「多勢に無勢! オレたちの優位はこれで確保できたってわけだな!」

「うん、そうだね」


 魔法使い勢の援護を受けつつ、武道家のリク・ミドリ先輩が余裕の表情を浮かべながら魔王に蹴りかかり、魔王をよろめかせる。

 ぼくも腰に下げていた剣を引き抜き、魔王のほうに向けて構える。


 エルちゃんはそれぞれのイメージで衣装を着せたと言っていたけど、そういった衣装を身にまとっているというだけではなく、みんなしっかりと魔法を使ったり武道の技で戦ったりできているようだ。

 それも、なんとなく納得できる。

 運動が比較的苦手なぼくでさえ、初めて手にしているにもかかわらず、こうして剣を手足のように振り回すイメージができているのだから。


「フッ……、オレたちにかかれば、魔王など怖るるに足らず、ってところだな」


 前髪を華麗になびかせながら、ウルフ先輩がナイフで素早い閃撃を繰り返す。

 相手は巨体の魔王。こちらの攻撃は効いてはいるものの、なかなかしぶとい。

 ぼくも剣士である以上、颯爽と魔王に斬りかかっていた。


「ぐっ……!」


 ただ、優勢に回ったことで油断が生じていたのだろう、悪魔のごとき腕が迫り、ぼくは鋭い爪の一撃を食らってしまう。

 くそっ。先輩方ほど上手く立ち回れない!

 だけど、悔やんでいる暇はない!


「みんな、回復は任せて!」


 すぐさま文鳥先輩が回復魔法を飛ばす。

 ぼくの傷はみるみるうちに塞がり、痛みも完全に消え去った。


「おーっほっほっほ、焦げてしまいなさい!」

「痺れさせて差し上げますわ!」


 蘭香さんとちわわんは、なんだかノリノリな様子で業火や稲妻を操る。

 なんというか、ふたりとも普段はおっとりした雰囲気なのに、今はまるっきり人が変わったようだ。

 というか、接近戦を繰り広げるぼくたちを巻き込んでしまうのではないかと思うほど、激しい魔法攻撃を続けている。


 意外と怒らせたら怖いのかもしれないな……。

 そんなことを考えながらも、戦いは続く。


「ふぉっふぉっふぉ、いいペースじゃ! 皆の者、やってしまうのじゃ!」


 状況は完全にぼくたちの優勢。

 なぜか部長が隊長かなにかのような立ち位置にいて、自分ではなにもしていないのが気にならなくもなかったけど。

 この人の場合、いつもとさほど変わらないとも言える。


 そして、直接戦いに参加していないメンバーがもうひとりいた。シャムだ。

 遊び人、なんて役割を与えられてしまっているわけだし、戦闘で活躍できるとは思えないけど。

 今でもまだ怖いのか、魔王から少し離れた位置で立ち尽くしている。


「み……みんな、頑張って~!」


 さすがに自分だけ離れて見ている状態では罪悪感があったのか、声援を送ってきてはいたけど。


「はっはっは! 応援するなら、チアガールみたいに応援しないと! ほら、足を大きく上げて!」

「バ……バカッ! そんなことしないわよ! こんな短いスカートじゃ見えちゃうし!」


 リク先輩がからかいの声を向けると、シャムは真っ赤になってしまった。

 リク先輩、余裕あるなぁ。

 そう思いながらも、ぼく自身、かなりの余裕があった。


 魔王というから圧倒的な強さを想像していたけど、大したことはない。

 いや、ぼくたちが強いのだ。

 人数的に有利であることに加え、それぞれが自らの役割を十二分に果たし、驚くほど理想的な形で戦えている。


 これなら、楽勝だ!

 そう思った矢先だった。


「ふっふっふ……」


 魔王が不気味に笑う。


「なにがおかしい!?」


 リク先輩が怒りを含んだ声で叫ぶ。


「そろそろ本気を出すときが来たようだな!」

「フッ……、そんなはったりで騙されるオレたちではないゼ!」

「はったりではないわ!」


 魔王が両手を大きく広げる。と同時に、突風が吹き荒れる。


「きゃっ!」


 シャムが短いスカートを必死に押さえていたけど、無駄な抵抗といった感じだった。

 完全に見えてしまっていたのは、黙っておいたほうがいいだろう。

 と、そんなことよりも、ぼくたちを驚かせる現象が起きる。


「なっ!?」

「えっ、なによこれ!?」


 声は出せる。口々に困惑の言葉を叫ぶぼくたち。

 いや、他にどうしようもなかった。

 体がまったく動かないのだ!


「ふっふっふ、このワタシが時空魔王と呼ばれる所以は、この能力にあるのだよ、愚か者諸君!」

「くっ!」

「だ……だったらなぜ、最初からその能力を使わないんだよ!」


 ミドリ先輩がもっともな意見を述べる。


「ふっふっふ、一方的な勝ち方など、つまらないではないか。少しでもお前たちに華を持たせてから打ち砕く。それが魔王としての最高の美酒となるのだよ!」


 自分の言葉に酔いしれているかのような恍惚の表情で言い放つ時空魔王。

 こうして時空を操られ、動けなくなってしまっては、悔しいけどなにも抵抗するすべはない。


「ふっふっふ、それでは思う存分、いたぶって殺してやろう! まずは、そうだな……一番遠くに離れているそこの女。お前からだ!」

「あ……あちしっ!?」


 魔王は一歩一歩、シャムへと歩み寄っていく。


「両手をつかんでひと思いに引きちぎってやろうか。それとも、服を引きちぎってから丸呑みと行こうか……」

「ぎゃー! 来るな、変態!」

「やめろ! シャムに近寄るな!」


 声だけの抵抗なんて空しいもの。魔王の足を止めることなど、できはしない。


「くそっ……! ぼくにはなにもできないのか……!?」

「諦めないで!」


 突然、凛とした美声が響き渡る。


「むっ!? 貴様は!」


 魔王が目を見開く。

 その視線の先は、シャムの頭。

 いや、シャムの髪の毛の中から顔を出した、妖精のエルちゃん!


「フェレットくん! シャムちゃんがびっくりするようなことを言うんです!」

「えっ?」


 シャムがびっくりするようなこと?

 怖い話でもして、脅かすってことだろうか?

 でも今そんな話をしても、魔王に対する恐怖心のほうが上回ってしまって、全然効果はないだろう。

 とすると……。


 エルちゃんの意図がどこにあるのか、よくはわからない。

 とはいえ、今のぼくにできるのは、エルちゃんから言われたとおりにすることだけだ。

 だから意を決して、この言葉を口にする。


 びっくりする、という方向性とは、もしかしたらちょっと違うかもしれないけど……。


「ぼくは……」


 みんながぼくの声に耳を傾ける。もちろん、シャム本人も含めて。

 魔王はこちらに視線を向けるものの、言葉だけでなにができると、高をくくっている。

 すなわち、これが最後のチャンスということだ。


 ごくり。一旦ツバを飲み込み、ぼくはハッキリ大きな声で叫んだ。


「ぼくは、シャムのことが好きだ!」


 一瞬理解できなかったかもしれない。だけどすぐに、顔を真っ赤にするシャム。

 そして――。

 つかつかつかつか。


「ななななな、なに言ってんの! バッカじゃないの!? ふざけるのも大概にしなさいよね! 死にさらせ、このウ○コ!」


 いつものようにぼくの目の前まで素早く歩み寄り、グーパンチ。

 うぐっ。鎧越しのはずなのに、やっぱり痛い。

 ただ、そんなぼくの痛みよりも、違った痛みに打ち震える姿があった。


「くっ……なぜ動ける!? このわたしの時空停止能力を、振り切ったというのか!?」


 時空魔王は困惑をあらわにし、信じられないといった表情で焦りまくる。

 自分の能力を過信しすぎたこと、それがヤツの敗因!


「シャムちゃん! 魔王が能力を使っている今こそ、逆に封じ込めるチャンスです! 真紅の宝玉を持って高く掲げてください! 今動けるのは、シャムちゃんだけなんですから!」

「う……うん、わかった! えっと、どこにあるんだっけ……?」

「ぼくの腰の辺りに下げた麻の袋の中に。あっ、でも、鎧の下に入れちゃってるけど」

「……ふむ。この辺りかしら」


 シャムは躊躇なく、鎧の下からぼくの腰の辺りへと手を滑り込ませていく。


「おお~! シャムちゃん、大胆だな!」

「余計なこと言わないでください、リク先輩!」

「ちょっとフェレット、動かないでよ!」

「そんなこと言っても……。ちょ……ちょっと、変なところ触らないでよ」

「さ……触るかボケ! ばっちぃ! 死にさらせ、このウ○コ!」


 動けない状態のぼく相手でも、まったく容赦のないシャムだった。


「……ん、あった、これね!」


 シャムは宝玉を取り出すと、即座に高々と掲げる。


「ぐっ……時空停止の解除が間に合わない……! う、ぐ、ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


 断末魔の悲鳴を轟かせ、時空魔王の巨体は見る間に縮んでゆき、そのまま一直線にシャムの掲げる真紅の宝玉の中へと吸い込まれていった。


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