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K3部  作者: 沙φ亜竜
第3章 合宿、妖精、おやすみなさい。
10/24

-4-

 全員で泊り込んだ次の日、放課後には再び部員全員が集まっていた。


「昨日のあれは、なんだったのかしらね?」


 文鳥先輩がつぶやく。


「わたしには、妖精のようにしか見えなかったけど……」


 蘭香さんはそう言いながらも、半信半疑な様子。

 時間も時間だったことで、寝ぼけてしまっていた可能性も高いという考えは捨てきれていないのだろう。

 完全に眠りこけていた四人は、妖精のような青白い光すら見ることができなかったわけだし、これでは部員全員で泊り込んだ意味なんて全然なかったのではなかろうか。


「う~ん、慣れてしまって気にならなくなってるが、この部室内に流れている年季の入った淀んだ空気のせいで幻覚を見た、という可能性もあるんじゃないか?」


 自分は寝ていたくせに、そんな意見を述べるウルフ先輩。

 確かにそれもありえない話ではない。

 昨夜の妖精騒ぎのあとはまたしても、それぞれ自分の席に戻って眠ってしまったわけだし。

 ただ、ぼくにとっては妖精の件以外にもうひとつ、気がかりなことができてしまった。


「ねぇ、シャム」

「ふんっ!」


 隣に座っているシャムだ。

 事故だったとはいえ、ぼくが胸に顔を埋め、両手で揉んでしまったしたせいで、完全に機嫌を損ねてしまったらしい。

 話しかけても完全無視状態が続いている。


「シャムちゃん、そんなに意地悪しちゃダメですわよ~? 伊達くんだって、わざとじゃなかったんですから~」

「知らないわよ! っていうか、偶然を装ってただけかもしれないじゃない!」


 ちわわんがなだめようとしても、聞く耳を持たない。

 先輩方は、そんなぼくたちの様子を見て、苦笑を浮かべている。


「いや、そんなわけないし……」

「そうですわよ、シャムちゃん。人を疑っちゃ、いけませんわ~」

「なによなによ! ちわわんまでこいつなんかの味方するの!? あっ、もしかして、ちわわん、こいつのことが好きなの!?」


 ぼくやちわわんがなにを言っても、激高の怒鳴り声が帰ってくるのみ。

 どうしてそうなるのやら。そう思ったのは、ちわわんも一緒だったようで。


「どうしてそうなるんですの~? わたくしは伊達くんになんて、全然まるっきりこれっぽっちも興味ありませんわ。安心してくださいませ~」


 はっきりと遠慮のカケラもなく、そう言い放っていた。


「……そこまで言われると、なんだか寂しいような気も……」


 ぼやき声がこぼれる。

 もっとも、ふたりが計算部に入部してきた日にも、似たようなことを言われた気はするけど……。


「あんたは黙ってろ! エロ! スケベ! 腐れ外道! 死にさらせ、このウ○コ!」

「だからそういう汚い言葉遣いは……」


 と、ぼくの何度目になるかわからない指摘の言葉を遮るように、部長が口を挟んできた。


「一年生諸君、静粛に! ここは作戦会議の場じゃからの」


 ……いつからそうなったのだろう。


「せっかくじゃ、ここは今日も泊り込んでみることにしようではないか。皆の者、異論はないの?」


 部長の提案に、みんな頷き返す。

 そんな中、シャムだけは黙ってうつむいたままの体勢を崩そうとしなかった。


「シャム、キミはどうするかの? 強制参加にはしないつもりなのじゃが」


 小さい子供を諭すような優しい声で、部長はそっと尋ねる。

 …………。

 沈黙。全員が耳を傾ける。


「あ……あちしも一緒に泊り込みます! ひとりだけのけ者なんて、イヤですから!」


 こうしてぼくたち計算部一同は、またしても全員での泊り込みを決行することに相成ったのだった。



 ☆☆☆☆☆



 今日も昨日と同じように、それぞれ一度家に帰ってお風呂に入ったりシャワーを浴びたりしたあと、再度部室に集合したぼくたち。

 昨晩の教訓を踏まえ、ある程度の時間になったら一旦寝ておいて、深夜にケータイのアラームを鳴らして起きようということになった。


 そんなわけで今、ぼくたちは全員で睡眠の真っ最中。

 隣でシャムがテーブルに突っ伏して寝ている。

 ぼーっとしながら、顔をシャムのほうに向けていると、不意にシャムもぼくのほうへと顔を向けた。


「あ……」


 と思ったその瞬間、シャムはギロリと睨みを残し、すぐに反対側に向き直ってしまった。

 やっぱりまだ、機嫌は直っていない模様。


 まったく、シャムは……。

 などと考えているうちに、四日連続の泊り込みという状況での疲れもあったのか、まだ早い時間だというのに、ぼくはすっかり眠りに就いてしまっていた。




 気づくと、アラームが鳴っていた。とすると、深夜二時前。

 ぼやけた頭で身を起こすと、他の部員たちもみんなそれぞれに身を起こし始めていた。

 だけど……。


 パタリ、パタリ、パタリ。

 次々と、再びテーブルに倒れ伏していく。


 あれ? どうしたんだろう……?


 と考えるぼくの頭も、なぜだかやけにぼやけていて。

 眠くて眠くてたまらない。

 まぶたが重くてどうしようもない。

 抗うすべもなく、今起きたばかりのはずのぼくは、すぐに眠りの世界へと舞い戻っていった――。


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