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ひとひらびより  作者: 追川雪乃(追兎電鉄広報部)
お嬢様も、いつもの駅で

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37/59

アリスも探検隊


 その日、追兎天神駅では少しだけ静かな時間が流れていた。


 物置の近くで、マリーとみこがひそひそ声で話している。


「前に行ったあの物置の中、ちょっとすごかったんだよ」


 マリーが声をひそめる。


「地下通路、ちゃんとあったよね!」


 みこもこくこくとうなずいた。


「最初はただの物置だと思ったのに」

「でも中に入ったら、道が続いてて……」

「で、進んでいったら、もっと通路がどんどん広がってて…」

「不思議だった!」


 二人が盛り上がっていると、


「……なにを話しているの?」


 後ろから声がした。


 振り向くと、アリスが立っていた。


「うわっ」

「アリスちゃん!?」


 みこがびくっと肩を揺らす。


 アリスは少しだけあきれた顔をした。


「そんなに驚かなくてもいいでしょう」

「いや、急にいたから……」

「それで?」


 アリスは二人を見た。


「地下通路って、なに?」


 マリーとみこが顔を見合わせる。


 そしてマリーが、ちょっと得意そうに言った。


「実はこの駅の物置の中に、探検したくなる場所があるのです」

「探検?」


 アリスの目が少し動く。


「物置の中に地下通路があるの」

「中に?」

「はい! その地下通路に入って、進んで、また戻ってくるんです!」

「戻ってくるの?」

「そう、それがいいんだよ」


 マリーがにやっと笑う。


「ちょっと秘密基地っぽくて」

「なるほど……」


 アリスはそう言いながら、ぜんぜん興味がなさそうな顔をしようとして、少し失敗していた。


「でも今回は違うよ」

「違います!」


 みこが胸を張る。


「今回はわたしも探検隊として行くんです!」

「探検隊……」


 その言葉をアリスは小さく繰り返す。


 マリーがさらに乗せる。


「隊長はもちろん、このアタシ」

「副隊長はみこです!」

「……二人しかいないのに?」


 アリスが言う。


「少数精鋭だからね」

「ほんとでしょうか……」


 みこは少し照れながらも嬉しそうだった。


 アリスはしばらく二人を見ていたが、やがて当然のように言った。


「わたしも行くわ」

「えっ」

「ホント!?」


 みこがぱっと顔を明るくする。


「ええ。そういう話なら、わたしも見てみたいもの」


 マリーがにっと笑った。


「いいじゃん、新メンバーだ!」

「三人です!」

「三人だね」


 アリスは少しだけ得意そうにうなずいた。


 その時だった。


「……何のお話ですか?」


 静かな声がして、三人が振り向く。

 しおんが立っていた。

 いつの間に来たのか、静かな顔でこちらを見ている。


「探検隊です!」


 みこが正直に答える。


「物置の中の秘密の地下通路を見に行くんです!」


 しおんの視線が、ゆっくりアリスへ向く。


「アリス様も?」

「そうよ」


 アリスはすぐに言った。


「わたしも行くわ」


 しおんは少しだけ間を置いてから、きっぱり言った。


「それは認められません」

「えー」

「どうしてよ」


 マリーとアリスの声が重なる。


「物置の中は暗いんでしょう、探検に行くっていうぐらいだから地下通路も安全じゃないでしょ」

「でも、みこちゃんたちは一度行ったんでしょ?」

「それは安全の保証にはなりません」


 しおんの声は静かだったけれど、まったく揺れなかった。


 マリーが言う。


「でもさ、今回は準備してるから」

「どのような準備ですか?」

「気持ちの準備」

「だめです」


 即答だった。


「早い!」


 みこもあわてて言う。


「みこ、一度行ったことあります!」

「なおさらです」

「なおさら!?」


 アリスがむっとする。


「子ども扱いしないで」

「そういうところが子供なんですよ」

「しおん!」


 しおんは表情を変えない。


「認められません」


 三人がそろってしょんぼりした顔になる。


 でもアリスだけは、すぐに引かなかった。


「……まだ行くって決めただけよ」

「それも認めておりません」

「横暴だわ」


 しおんは小さくため息をつく。


「そう思われても構いません」


 一瞬だけ沈黙が落ちた。


 それを破ったのはマリーだった。


「しおんちゃん、かたいなあ」

「安全が大事なんです」

「みこ、ちょっとだけ行きたい……」

「だめです」


 ぴしゃり。


 アリスはしおんを見上げて、少しだけ頬をふくらませた。


「……もういいわ」


 そう言って、ふいっと顔をそむける。


 でも、その目はまだ少しだけ窓の外にある物置のほうを見ていた。

 マリーも、みこも、なんとなくそちらを見る。


 物置の扉は、今日も変わらず閉まっているだろう。

 その向こうにある地下通路も、もちろんまだそこにある。


 でも。


「行っちゃだめです」


 しおんがもう一度、静かに言った。


 三人は何も言い返さなかった。

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