②「出会いと安心」
何かが、触れている。
あたたかい。
どこかに。
そして——
冷たいものが、唇に。
喉に、何かが流れ込んできた。
ドロッとした。
「……様!」
聞こえる。
声が。
遠くから。
「……リア様っ!」
意識が、戻ってくる。
かすかに。
でも——
喉に、まだ何かが。
吐き出したい。
この、喉の奥の。
まずいもの。
「…っ!!!」
息ができない、苦しい、まずい。その一心で
私は飛び起きた。
口の中の何かを、吐き出すために。
だが、それは叶わなかった。男が、咄嗟に私の口を押さえた。
「吐き出さないでください」
何で!?
吐き出したいのに。喉の奥から、別の何かが出てきそう。
頬を伝う何かが流れる。
「そのままゆっくり飲み込んでください」
飲み込む? こんなにも体が否定しているものを?
喉に、意識を向ける。
私の考えとは裏腹に、体は当たり前のように実行に移した。
液体が、体の奥へと消えていく。
「……げほっ!」
苦しかった。でも、飲んだと同時に、体の痛みが、段々と引いていく。
少しクラっと来たがいつの間にか、抑えていた傷から赤い液体は流れていなかった。
治った…?
体を見渡し、困惑していると、男が——
私を見つめながら、口を開いた。
「取り敢えずは無事でよかった」
ほっとしたような、声。
心配そうな顔。
眉をひそめた、優しい顔。
「……」
男が、ずっと私を見ている。
私の、顔を。
正確には——
私の視線の、左半分。
「布も外れてはいませんね」
「……布」
私は左手で、左目の位置にある布を触った。
ここで気づく。
視界の半分が何かで遮られていることに。
そして、左目は——布で、覆われている。
男が、小さく息を吐いた。
安堵、だろうか。
「ミモリア様」
まっすぐに、私を見つめる。
そうして、また呼ばれた。
ミモリア、という言葉。
聞き慣れない。
でも——
体は、知っている気がする。
「今回ばかりは肝を冷やしました」
「見つけたのが私でよかった…」
見つけた?
この人が、私を探していた。
なぜ?
「取り敢えずは、今すぐにここを離れましょう」
「お城のほうへ」
「話は移動の際に」
「言いたいことは多くありますが、ここでは見つかる可能性が…」
見つかる?
誰に?
私は何も知らない。
何がどうなっているのか。
そして私は何なのかさえ、分からない。
でも——
私が何者なのか、この人が知っている気がする。
「申し訳ないですが、無礼承知で失礼します」
そう言って、男は私を抱き上げた。
男の、腕の中。
「暴れないでくださいね」
男の声は優しかったが、どこか焦りが見えていた。
だが、その腕は——
しっかりと、優しく私を支えていた。
私は彼のローブで顔を隠され、抱きかかえられた。
暗い。
けど、何も見えないわけではない。
ローブの隙間から、何かが見える。
建物の、一部。
空の、欠片。
「最短の道で安全な場所に向かいます」
「見つかった場合、状況においては戦闘を避けられないかもしれません」
「ですが、なるべく穏便に済ませます」
「そして、布だけはしっかり着用してください」
「これは約束です」
何が何だか分からない。
でも、彼は真剣だった。
さっきの、あのまなざしが、私に刺さる。
だから——
「……」
黙って、首を縦に振った。
精一杯の、私の分かったの合図。
正直、私は聞きたかった。
私は誰?
ここはどこ?
何が起きているの?
聞きたいことは、たくさんある。
でも——
今は聞く状況ではない。
それは、分かった。
言葉にはできない。
でも——感じる。
喉の奥で飲み込んだ。
男は、ただ黙って。
私を抱えたまま、歩き出した。
「フィデリウス…」
ふと、口から洩れた。
——あれ?
この人の、名前。
私は、知らない。
でも——
口が、知っていた。
体が、覚えていた。




