回想:故郷を離れる汽車の窓から
戦争が始まった。
帝国との軍事同盟が結ばれたその月、アドリアンにも召集令状が届いた。祖国は小さな国だったが、そこから逃れる術はなかった。
駅のホームには、たくさんの国旗と別れを惜しむ人々の姿があった。
アドリアンは、誰にも見送られることなく汽車に乗り込んだ。
汽車は、重く鈍い音を立てながらゆっくりと故郷の駅を離れた。
徴兵された兵士たちが、無言で揺れる車内に揃って座っている。まだどこか若さを残した顔ぶれもあれば、アドリアンのように多少人生の苦味を知る年齢の男もいた。
軍靴の音も、軍帽も、全てが異質な景色だった。
アドリアンは窓の外を見ていた。もう戻らないかもしれない故郷の景色を、焼きつけるように。
汽車がゆっくりと動き出す。鉄の車輪がレールを刻むたびに、心が締めつけられるようだった。
彼は窓の外をぼんやりと眺めていた。
見慣れた故郷の景色がだんだん流れ去っていく。
すると、向かいに座っていた若い兵士が、ふと外を指差した。
「おい、あの丘……誰か手を降ってるぞ」
アドリアンは反射的に顔を上げ、言われた方向へ視線を向けた。
遠く、丘の上に、小さな影が二つ立っていた。風に揺れるように並んだ二人の子ども。
少し距離があったが、その立ち姿に、胸が締めつけられるような感覚が走る。
窓を開けて、上半身を乗り出す。冷たい風が頬を打った。
そして、次の瞬間――
その二人が、自分の子どもたちだと気づいた。
レーネとルーカス。
彼らは無言で汽車を見つめていた。
レーネは小さく手を振っていた。弟のルーカスはじっと、こちらを見ていた。どこか、言葉にならない感情をその瞳に宿して。
アドリアンは顔を手で覆った。
口元から、震えるような嗚咽が漏れそうになった。
――許してくれ、と言いたい。お前たちになにもできなかった、しなかった。そのままこうしてなにも言わずに行ってしまう。
でも、それを口にすることも、聞くことも許されないまま、汽車は丘を通り過ぎていった。
音もなく、あの二人の姿が見えなくなるまで、彼はずっと手で顔を隠したままうつむいていた。




