一頁、鏡となる喫茶店・壱
ピリリリリリリ!!
とある日の朝方、とある家の2階で部屋内ではうるさく、家の中的にはそれほど不快でもない音が響き渡っている。音の根源となっている部屋には一人の男が音が耳に入るのを遮るかのようにベッドの布団を大きく被って眠っている。しかしいつまでたっても鳴り止まない。当然のごとく音の根源、目覚ましが鳴っているのだからスイッチを押さなければ鳴り止まない。寝ている人は目覚ましの音がサイクルを刻む度、もがき苦しむように寝返りをうっている。ベッドの端から端をごろごろ行ったり来たり。そして。
?「・・・いて!!」
ベッドから態勢そのままに落下した。そしてその衝撃で男は一気に目が覚めたらしい。
?「あれ?もう朝か。目覚ましうるさいな、もう起きたっての。」
重苦しそうな体を起こし、鳴り響いていた目覚ましを止めた。しかし時計で思うことが一つ。話をわかりやすくするために内容を説明。現在の目覚ましが刻む時刻、9時40分。これが何を意味するかというと
?「・・・遅刻だー!!何で例によって9時なんかにセットされてるんだ!?・・・ってボクか。それでも遅刻だー!!」
一人時計を見た瞬間、部屋の中でツッコミつつ、慌てて着替えている羽目になっている主人公の姿がそれである。そして、朝ご飯も食べず玄関に鍵をかけるのも忘れて主人公は一気に家を飛び出し出掛けて行った。
?「いそげいそげ!!」
ちなみに今現在
「遅刻遅刻ー!!」
と叫びながら全力疾走で走っている軽く童顔な高校生っぽい少年は、学校に遅刻するから走っているわけではない。とある仕事場に向かって走っているのだ。名前はその内わかることとして、とりあえず高校生ではないということだけ言える。その少年はある場所で働いているのだ。表平凡で少々の裏ありな店である。
「遅刻遅刻!!」と叫びながら走りども、時間は残酷というか無情に過ぎていってしまう。そして、約10分程走っていた少年は一つの何処にでもありそうな店らしき建物の前で立ち止まり、膝に手をのせ、どっと押し寄せてきた疲れに堪えている。
「はぁ・・・はぁ・・・はぁ」
そして数秒休むと、顔をあげ店を見つめた。するとつぶやきが一言。
「か、完璧に遅刻だ・・・右京さん許してくれないかな・・・」
自分で嘆いて、絶対に無理だとわかっていることをつぶやいていた。「右京さん」というのは簡単に言えば職場の先輩である。そして恐る恐る、店の入り口を開け開店間近の喫茶店「現鏡」に足を入れた。
ほんの少し扉を開け、ゆっくり店の中を覗く。店の中はテーブルと椅子が綺麗に整頓され、明かりもはっきりとついていた。ここに喫茶店に流れるBGMが入れば完璧にオープン状態の完成である。その中をなるべく音をたてず尚且つ、息を殺して歩いていた。
「遅刻してきた上に、コソコソと不法侵入の練習か?」
「!?・・・」
クールというか冷淡というか、そんな感じの響きのある声がかがみぎみの主人公の耳に入ってきた。
その瞬間、器用に体を硬直させ恐る恐る右京さんの方を見て。
「ぉ、ぉはよぅございます。」
発言の仕方が分からない発言をしていた。
「ふー。開店前に遅刻で呑気に俺と会話できると思ってんのか?特別室に贈ってやってもいいんだぞ。」
「なっ!?・・・すみませんすみません、生意気な口を叩きました。だから特別室はご勘弁を!」
店の真ん中で我を忘れて、必死に恐怖を解消させようとしている姿があった。その弁解を聞くと、
「ったく、そんなに叫ぶな。冗談が通じない奴だ。」
「まったく冗談に聞こえないから言ってるんですよ・・・」
朝からかなり息があがった状態で右京と開店前の雑談を話していた。
「とりあえずさっさと着替えてこい。今日はバックワークもあるらしいからな。」
「え?今日バックワークの予定入ったんですか?」
「ああ。だから仕事は早めにこなせよ。」
「わ、分かりました。」
そう言い、店の裏の更衣室に着替えに行った。
「今日の特別室行きは、お前だが。」
「一一一一一一!!!!」
叫びにならない叫び声が、店の入口周辺から聞こえてきた。そのあと急に静かになったと思うと、男子更衣室の向かいの部屋の扉が開き、すぐに閉じられる音がした。
そんな様子を、仕事用の服に着替え中の主人公・・・(名前を希汐御利斗というが)が聞いていた。
「(い、一体誰が贈られてしまったんだ・・・何て考えてる場合じゃない!早く行かないと。)」
御利斗は着替えのピッチを上げ、できたのを確認してすぐに更衣室をでた。
御利斗が店の奥からでてくると、まばらではあるが、すでに客が数人、およそ8人くらいが来店していた。
御利斗はすぐに自分の仕事につくことにした。
「(今日は朝から多いな、昨日の入り具合とは大違いだ。)」
ちなみに昨日の客の来店具合は2時間で平均2人だったので、昨日とみるととんだ違いである。
そんなことを考えつつ、御利斗は接客業を行っていた。
「いらっしゃいませ。ご注文はお決まりでしょうか?」
御利斗はお客さんに注文を取りに行っていた。御利斗が行ったテーブルには御利斗と同じくらい、おそらく高校生のカップルのように見える(御利斗視点)人が座っていた。マニュアルにしたがい、慣れた口調で注文を受け取る。ちなみにこの口調を御利斗はあまり自分では使いたくないらしい、というかいつもは違う人の担当なのだが、その人は現在ある個室の中である。
「じゃあブレンドを一つ。」
「俺はカフェオレを。」
話しかけた客から御利斗に注文をオーダーする。すると再び御利斗は「かしこまりました。」と、マニュアル通りに応対してカウンターの方に戻っていった。
これがいつもの、喫茶「現鏡」の現状というべきか、とりあえずこれが表向きな姿である。