忘れ物の放課後
放課後。誰もいなくなった教室に、俺はひとり残っていた。
筆箱を机に置いたまま帰ろうとして、慌てて戻ってきたのだ。
(誰もいない教室って、こんなに静かなんだな…)
カバンに筆箱を入れようとしたそのとき、廊下から足音が近づいてきた。
扉が開き、顔を出したのは――彩花だった。
「……あれ? 悠人、まだいたんだ」
「お前こそ、どうしたんだよ」
「プリント取りに来たの。机に挟んだまま忘れちゃって」
彩花は笑いながら自分の席へ向かう。その自然な仕草に、俺はなんとなく視線を逸らした。
けれど、静かな教室に二人きり――という状況が、妙に落ち着かない。
窓の外から差し込む夕陽が彩花の横顔を照らして、どこか大人びて見えた。
「ねえ、悠人ってさ」
ふいに彩花が声を落とした。
「いつも静かだけど…実は勉強得意でしょ?」
「……なんだよ、急に」
「ノート、すごくわかりやすかったから」
彩花は俺の顔を見ずに言う。だが、その耳は少し赤く見えた。
(……なんでこっちまでドキドキしてんだよ)
「別に。普通だし」
そう返すのが精一杯だった。
教室を出ようとしたとき、彩花が俺を呼び止めた。
「今日、ありがとね。悠人ってさ、話してみると優しいんだね」
夕焼け色に染まった教室で、その言葉だけが心に残った。
俺は恋なんて興味ないはずなのに――彩花の笑顔を思い出すたび、胸の奥が小さく熱を持っていく。




