隣の席の静けさ
昼休み。教室のざわめきの中、俺はひとり机に突っ伏していた。
相変わらず女子と話すことなんてないし、男子グループに混ざることもない。俺の居場所は、この机の上だけ――そう思っていた。
「悠人、ノート貸してくれる?」
ふと声をかけてきたのは、隣の席の彩花だった。
俺は驚いて顔を上げる。
「え、ノート?」
「うん。さっきの数学、ちょっと聞き逃しちゃって」
そう言いながら、彩花は俺の机に身を寄せる。髪の香りがふわりと漂い、心臓が変に早くなる。
(べつに、ただノートを借りたいだけだろ…なのに、なんでこんなにドキドキしてんだよ)
「……ほら」
俺は無言でノートを差し出す。
彩花は小さく笑って、「ありがと」と言った。その笑顔はまっすぐで、俺の胸の奥を軽く叩いていくようだった。
授業が始まるまでの間、彩花は俺のノートに目を通していた。ペン先を走らせながら、時々「ここわかりやすいね」と呟く。
そんな風に褒められるのは初めてで、顔が熱くなるのを必死で隠した。
(俺なんかの字を見て、何がわかりやすいんだよ…)
チャイムが鳴り、彩花はノートを返してくれた。
「本当に助かったよ。悠人って、意外と頼りになるんだね」
その言葉が耳に残ったまま、午後の授業が始まった。
黒板の文字は頭に入らない。代わりに、彩花が微笑んだ横顔ばかりが浮かんでしまう。
俺は恋なんて興味ないはずなのに。
ただ隣にいるだけで、どうしてこんなに落ち着かないんだろう。




