放課後の小さな約束
授業が終わり、教室に人が減っていく。悠人はいつものように机に突っ伏していた。隣の席には彩花がすでに座っていて、少し微笑んでいる。
「悠人、今日は図書室に行かない?」
突然の誘いに、悠人は軽くびくっとなる。
「え、あ、図書室…?」
「うん。静かだし、少し勉強もできるでしょ?」
彩花はにっこり笑う。悠人は、思わずその笑顔に心をざわつかせた。
二人で廊下を歩きながら、彩花はふと立ち止まり、窓の外を指差した。
「見て、桜がきれいだね。春って、やっぱりいいな」
悠人は何気なく窓の外を見る。淡い桜色が風に揺れて、いつもより鮮やかに見える。彩花の一言で、なんでもない風景が特別なものに感じられた。
図書室では、二人だけの静かな時間が流れる。彩花は小さなノートを取り出して勉強を始め、悠人も本を開く。互いに声をかけずとも、ただ隣にいるだけで落ち着く。
ふと彩花が手元のペンを落とした。悠人はすぐに手を伸ばして拾う。
「ありがとう…」
「ううん、いいよ」
そのやり取りだけで、悠人の胸が少し高鳴った。彼女の笑顔は、やっぱり不思議と心を温かくする。
時間が経つのも忘れてしまいそうになり、悠人はふと口を開いた。
「…また、来てもいい?」
「もちろん!」
彩花の答えは自然で、笑顔がやわらかい。その笑顔を見ているだけで、悠人はなんだか恥ずかしくなる。自分でもよくわからない感情だが、確かに心が軽くなった。
放課後の小さな約束。それは、悠人にとって初めての少し特別な時間。
帰り道、背中に差し込む夕日が二人を照らす。悠人は心の中で思った。
「…次の放課後も、彩花と一緒にいられたらいいな」
陽が沈みかける教室を後にして、二人は笑いながら廊下を歩いた。陰キャの悠人にとって、放課後の彩花とのひとときは、少しずつ、けれど確かに特別になっていくのだった。




