小さなトラブル
午後になり、教室は予想以上の賑わいを見せていた。
俺は入口で来場者の案内を手伝っていたが、ふとクラスの奥でざわつきが起きているのに気づいた。
「ちょっと!紙コップがもうない!」
「え、発注した数じゃ足りないの!?」
喫茶店の命ともいえる紙コップが尽きかけていた。
クラス中が慌てている中、彩花が俺の腕を軽く引っ張った。
「悠人、私と一緒に買いに行こう!」
「……俺が?」
「だって、こういうのって人数少ない方が早いし。ね?」
断る間もなく、俺は彩花と一緒に校外の模擬店通りを走っていた。
人混みをかき分け、出店で余っている紙コップを譲ってもらう。
「ありがとうございます!」と頭を下げる彩花の姿を横目で見ながら、妙に心が落ち着いていくのを感じた。
帰り道、二人で荷物を抱えながら歩いていると、彩花がふっと笑った。
「なんか、冒険みたいだったね」
「冒険?」
「うん。二人で協力して、ミッション成功!みたいな」
そう言って無邪気に笑う彼女に、胸がちくりとする。
俺はそんなに人付き合いが得意じゃないのに、彩花と一緒だと不思議と嫌じゃない。むしろ——。
「……ありがとな、悠人」
「え?」
「一緒に来てくれて。私、心強かった」
真剣な目でそう言われて、思わず視線を逸らす。
頬が熱い。こんなの、どうしてなんだ。
教室に戻り、無事に紙コップを渡すと、クラスメイトから「ナイス!」と拍手が起きた。
けれど俺の耳に残っているのは、その歓声じゃなく——。
彩花の「心強かった」という声だけだった。




