転んだ先に
文化祭準備もいよいよ大詰め。
教室の床には画用紙やハサミが散らばり、慌ただしい空気が広がっていた。
俺は装飾用のパネルを持ち上げて移動していた。大きくて前が見づらい。
そのとき、足元に置かれていたペンケースにつまずいた。
「——うわっ!」
バランスを崩した俺の体が傾く。
支えを求めて手を伸ばした先には、彩花の姿。
「きゃっ!」
気づけば俺は彩花を抱きかかえるような形で倒れ込んでいた。
至近距離で見える彩花の瞳。驚いた表情と、少し赤い頬。
「ご、ごめん!」
慌てて体を起こすと、周りからクラスメイトの笑い声が聞こえてきた。
「おーい、ラブコメかよ〜!」
「文化祭前にカップル誕生か?」
彩花は「ち、違うから!」と必死に否定していたけれど、その声はどこか上ずっている。
俺も顔が熱くなって、どう返せばいいかわからなかった。
結局その後も何事もなかったかのように作業を続けたが、彩花と目が合うたびにお互い気まずくて視線をそらす。
放課後。二人きりになった帰り道。
「さっきのこと……ほんとに気にしなくていいから」
彩花が笑って言う。けれど、その笑顔は少し照れくさそうだった。
俺は無言でうなずいた。
けれど心臓の鼓動はまだ落ち着かない。
事故だったはずなのに、あの一瞬を思い出すと胸が苦しくなる。
「……ねぇ悠人」
「ん?」
「文化祭、頑張ろうね。二人で」
彩花はそう言って笑った。
夕暮れの光に照らされた横顔が、俺には眩しすぎた。
——気のせいじゃない。
俺は、少しずつ彩花のことを意識し始めている。




