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幻の妖怪飯  作者: Vasy
3/33

3話 南へ。

茶髪のショートボブは活発さを物語るように外側に跳ね、その快活な印象を一層引き立てている。

23歳という若さが弾けるような、明るく可愛らしい顔立ちには見る者を和ませる不思議な魅力があった。

身長は156cmと小柄で首からは愛用の一眼レフカメラがぶら下がっている。


暖かそうなニットの上にモコモコとした上着を羽織り、その下にはブラがうっすらと透けて見えている。

足元はショートパンツに黒いストッキングを合わせていた。

活動的ながらも、その服の隙間からはしなやかな体のラインが覗き、特にCカップの胸元は彼女が持つ女性らしい魅力を控えめに主張していた。


(あの光は、一体……?)


雪女の集落跡から外れた場所にある崩れかけた社の影に身を潜めていたサエは、遠く離れた場所から放たれた強烈な輝きに目を奪われていた。


フリーライターとしてオカルトや伝承、怪奇現象を追いかける彼女にとって、それはまさに千載一遇のスクープだった。


眼鏡の奥の瞳を輝かせ、双眼鏡を覗く。

しかし、雪と距離が邪魔をして光の源を正確に捉えることはできない。

それでも、ただならぬ何かが起こったことは確信できた。


「行くしかない!」


サエは逸る気持ちを抑えきれず、雪が深く積もる中を駆け出した。

活発な性格の彼女だが、この雪の中を進むのは容易ではない。

それでも、この謎を解き明かしたいという好奇心が彼女の体を突き動かした。


息を切らし、ようやく光の元と思われる場所にたどり着いた時、そこにはもう何もなかった。

光の痕跡も、人の気配も、何一つ残ってはいない。

まるで、最初から何もなかったかのように。


「くっ……間に合わなかったか……」


悔しさに唇を噛み締めるサエだが、その表情にはむしろ、新たな謎を見つけたことへの興奮が色濃く浮かんでいた。


(でも、確かに光はあった。あれは一体何だったの? まさか、本当に噂通り雪女が……? これは、絶対に追うべきテーマだわ!)


サエの胸は高鳴っていた。

この北の果てで見た、幻のような輝き。

彼女はリュックからカメラを取り出し、誰もいない崩れかけた建物をシャッターに収めた。


北海道での雪女との出会いを終え、ヒナタとユズは南下を続けていた。


現在は、岩手と青森の県境に位置する、どこか懐かしい雰囲気の小さな町に滞在している。

宿の部屋で、ヒナタは地図を広げて次の目的地を思案していた。


「しかし、雪女の妖怪飯もすごかったな。あのシズクって人も、見た目はあんなに綺麗なのに、クマを一瞬で氷漬けにしちゃうんだから、妖怪って本当に規格外だな……」


ヒナタは、まだ出会ったばかりの雪女シズクの姿を思い出し、感心するようにつぶやいた。


ユズはそんなヒナタの隣にちょこんと座り、地図を覗き込む。


「次の妖怪飯は、どんなものでしょうか。わくわくいたしますね」


ユズは目を輝かせている。

彼女は旅の開始当初よりも明らかにヒナタに懐いている様子だった。


「どこに行っても、美味しいものに出会えるのは間違いないだろうな」


ヒナタがそう言うとユズはふと、ヒナタの腕に自分の頭を擦りつけた。


「ヒナタ様は、本当に素敵な方でございます。料理は美味しく、お優しい。そして、格好いい」


「はは……そうか、ありがとうな」


ヒナタは照れくさそうに笑い、ユズの頭をそっと撫でた。

ユズは嬉しそうに目を細める。


「わたくし、ヒナタ様のことが、とても好きでございます」


ユズはストレートに好意を口にした。

ヒナタは幼い見た目のユズの純粋な言葉に少し戸惑いながらも、その可愛らしさに頬を緩める。


「ユズは可愛いな。」


「可愛いですか?襲ってもよいのですよ?」


ユズが、悪戯っぽくヒナタの顔を覗き込む。


「だから、襲うわけないだろ!10歳くらいの女の子を!っていうか、そんなこと言うなって!」


ヒナタは思わず大声で反論しユズは楽しそうにクスクスと笑った。


「ヒナタさんの反応は飽きないです。10歳ではありませんが。」


そんなやり取りをしながらも二人の間には確かな信頼関係と、温かい絆が築かれ始めていた。

妖怪飯を巡る旅は、彼らの心にも新たな光をもたらしつつあった。


ヒナタは次の妖怪飯について思案していた。

地図を広げ、スマートフォンで情報を検索する。


「なるほど……岩手って、座敷童子の伝承が多いんだな」


ヒナタは画面に表示された情報を読み上げながらつぶやいた。


「そういえば、最初に出会った時に作った座敷童子の妖怪飯、あの時は完璧に再現できなかったけど、もし本当の食材を見つけられたら、雪女の時みたいにもっと輝く妖怪飯を作れるかもしれないな」


ヒナタは初めてユズに作った妖怪飯のかすかな輝きを思い出した。

あの時、代用した食材ではなく本物の「星屑の実」を見つけられれば、きっともっと素晴らしいものができるはずだ。


ユズはヒナタの言葉に、ぱっと顔を輝かせた。


「では、岩手で座敷童子の妖怪飯の食材を探すのでございますね!そういえば、この近くに妖怪が出ると噂の森があるそうでございますよ」


「妖怪が出る森か。

よし、行ってみるか!準備しよう!」


ヒナタとユズは新たな妖怪飯の食材を求めて、森へと向かう準備を始めた。


数時間後、二人は噂の森の入り口に立っていた。


鬱蒼と茂る木々が、昼間だというのに薄暗い影を落としている。


「この森、何の妖怪が出るんだろうな?」


ヒナタが周りを見回しながら尋ねる。

ユズは首を傾げた。


「モノの声は聞こえるのですが、何の妖怪が出るのかまでは分かりません」


二人は森の奥へと足を踏み入れた。


しばらく歩くと木々の合間から、きらきらと光る水面が見えてきた。

小川が流れ、そのほとりには見たこともないような鮮やかな緑色の実をつけた植物が生えている。


「お、これ、何かの実っぽいな。もしかして、この森は座敷童子の妖怪飯の食材がある場所なのかもな!」


ヒナタは興奮して実を指差した。

少し歩き疲れたこともあり、二人はその水辺で休憩をとることにした。


ヒナタはリュックを下ろし、簡易調理道具を取り出す。


「ちょっと早いけど、お昼ご飯にするか。温かいもの食べよう」


ヒナタはそう言って、お湯を沸かし始めた。


鍋から湯気が立ち上り食欲をそそる香りが森の中に漂い始めた、その時だった。


「危ない!」


ユズが鋭い声で叫んだ。

ヒナタが振り返る間もなく水面が大きく波打ち、そこから何かが飛び出してきた。


「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!」


鳥獣戯画に描かれたような長く伸びた手足と、水かきのある指、そして頭の皿。

顔には醜悪な笑みが浮かび、その全身は苔むし、どこかおぞましい雰囲気を漂わせている。


河童だ。


河童はヒナタめがけて鋭い爪を振り下ろしてきた。


「結界術! 守護障壁!」


とっさにユズがヒナタと河童の間に透明な障壁を張り巡らせた。

河童の爪が障壁にぶつかり、キン、と甲高い音が響く。


ヒナタは突然のことに驚き、尻もちをついた。

その際、沸かしていたお湯の入った鍋をひっくり返してしまう。


熱い湯が障壁に阻まれた河童の体に勢いよくかかった。


「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」


熱湯を浴びた河童は悲鳴を上げながら水の中へと逃げ去っていった。

水面には、わずかに湯気が立ち上っている。


「な、何だったんだ、今のは!?」


ヒナタは呆然と尋ねた。

ユズは冷静に答える。


「河童でございますね」


ユズはヒナタの無事を確認すると、手を差し伸べて彼を立たせた。


「ありがとう、ユズ。助かったよ……」


ヒナタは、改めて妖怪という存在について考えさせられた。


雪女のシズクは友好的だったが、この河童のように人間を襲う妖怪もいるのだ。


「友好的な妖怪ばかりじゃないんだな……」


ヒナタは気を引き締め、再びご飯を作り始めた。

先ほどの襲撃で、鍋はひっくり返ってしまったが食材は無事だった。


彼は、改めて座敷童子の妖怪飯の材料を鍋に入れ調理を再開する。

今度こそ、完璧な座敷童子の妖怪飯を。


そう願いながら、ヒナタは慎重に調理を進めた。

完成した妖怪飯は、前回同様、ごくわずかに淡い光を放った。


しかし、その輝きはすぐに消え失せてしまう。


「やっぱり、まだ違うのか……」


ヒナタは残念そうにつぶやいた。

本物の「星屑の実」は、まだ見つかっていない。

その時だった。


「パシャッ」


森の奥から何かが写真を撮ったような音が響いた。

ユズは即座に音の方へ振り向き警戒の眼差しを向けた。

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