屋上は風が強かった
放課後のチャイムが鳴ったあと、俺は階段を上がっていた。なんとなく、今日は教室じゃなくて、別の場所に行きたくなった。
屋上の鍵はいつも閉まってるはずなんだけど、なぜか今日は開いていた。
ドアを押すと、夕方の光が差し込んできて、風が頬を撫でた。
その瞬間、目が合った。
「……あれ?」
「ともくん?」
風に髪を揺らしながら、みつきが立っていた。
「なんで、お前がここに……」
「それ、僕のセリフだよ」
お互いに少しだけ驚いたように、でも声のトーンは変わらなくて。
「……鍵、空いてたんだな」
「うん。珍しく」
みつきが柵に手をかけながら、空を見上げた。
「教室以外で会うの、なんか変な感じする」
「俺も。なんか、偶然すぎてちょっと笑うわ」
「運命、って言ってもいいんじゃない?」
「お前が言うと冗談に聞こえねえな……」
俺はみつきの隣に並んで、柵に肘を置いた。
「今日も10分な」
「うん。じゃあ、始める?」
「10分スタートの合図とかいる?」
「それはともくんの気分次第」
「……始まりは言ったくせに、終わりは任せるんだな」
「そうしないと、帰りそびれた理由ができなくなるから」
風の音が、少し強くなった。髪が揺れて、みつきの横顔がちらっと見えた。
「ここ、落ち着くな」
「うん。高いところって、ちょっとだけ特別な気分になる」
「俺、たぶん今日ここ来てなかったら、帰ってただろうな」
「僕も。今日誰とも喋ってなかったし、屋上開いてなかったら早退してたかも」
「……そういうとこ、たまに本気なのか冗談なのかわからん」
「本気半分、冗談半分」
「じゃあ、今日は来てよかったな」
「うん。来てよかった」
しばらくして、風の音に紛れて、みつきがぽつりと言った。
「ともくんって、なんで毎週ちゃんと来てくれるの?」
「……ん、なんでだろ」
本当は、自分でもわかってなかった。みつきと話すことで特別な何かを得てるわけじゃない。でも、会わないと気になるし、会えるとちょっとだけ安心する。
「なんか、お前と喋ってると、自分がちゃんとしてる気がする」
「ちゃんとしてる?」
「他人に興味あるやつっぽく見えるっていうか。……いや、うまく言えねえな」
「でも、わかる気がする。僕も、ともくんと喋ってると、少しだけ自分の形がわかる気がする」
「形?」
「うん。普段は、ぼんやりしてて曖昧で、あんまり輪郭ない感じ。でも、ともくんが隣にいると、“僕はこういうふうに喋るんだ”って、少しだけ実感できる」
「……俺、そんな役に立ってたんか」
「“役に立つ”って言い方は変だけど、でも、ともくんの存在はちゃんとそこにある感じがするよ」
その言葉が、思ったよりもちゃんと胸に残った。
10分は過ぎていた。でも俺たちは、まだそこにいた。
風が吹くたび、どこか遠くの街の音が聞こえてくるような気がした。




