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名前のない時間

教室には、誰もいなかった。

なのに、俺とみつきの間には、ちょっとだけ緊張感みたいなものが残ってて。


「……で、何すんの? 10分の“ともだち”って」


「別に何もしないよ」


「え、それだけ?」


「うん。喋りたいなら喋るし、黙りたいなら黙るし、ともくんが帰りたいなら帰ってもいい」


「だったら“ともだち”って言わなくてもよくね?」


「そういう名前があったほうが、ともくんがここにいてくれる気がしたから」


「俺、そんな適当なやつに見える?」


「見えない。でも、根拠はあったほうが、僕が落ち着く」


俺はちょっとだけ考えてから、机に腕をのせた。

みつきと同じ姿勢。目線が合う高さになる。


「落ち着くって、お前、なんか不安とかあんの?」


「……不安、っていうより。ともくんがいなかったら、たぶん今日は、そのまま流されて帰ってた」


「流されて?」


「うん。何も考えずに、ただいつも通りに。別に悪いことじゃないけど……少し疲れる日だったから」


「へぇ、そういう日もあるんだな、お前にも」


みつきの言葉には、棘がない。

でも、あえて本音を全部出してない感じもある。

まだ“友達”って言葉が似合うには、ちょっと距離がある気がした。


「ともくんは、放課後ってなにしてんの?」


「その質問、逆に新鮮だな……何してるってほどでもないけど、まあコンビニ寄ったり、家でだらけたり?」


「部活、入ってないの?」


「やめた。合わなかったから」


「ふーん。なんか、わかるかも」


「お前も?」


「僕、もともと“所属”するのが苦手」


「だから“ともだち”も10分限定なのか?」


「……うん。それもあるかも」


窓の外を見ると、空が少しずつ色を変え始めていた。

放課後が、夕方に変わる時間。


俺たちは、特別な話をしてるわけじゃない。

でも、なんでだろう。ずっとここにいたいって気持ちが、少しだけ湧いた。


「なあ、来週もこの時間、空いてる?」


「予定入ってなければ」


「その“予定”ってのは、俺との“ともだち”じゃダメ?」


みつきは目を細めて、少しだけ笑った。


「来週は、名前つけないでいい?」


「どうして?」


「そのほうが、たぶん、もっと自然にいられる気がするから」


「……お前、そういうとこ、ずるいよな」


「そう? 僕はわりと正直だよ」


この時間が終わったら、元に戻るんだろう。

でも“元”がどこだったのか、ちょっと曖昧になってきた。


みつきといると、静かすぎて、いろんなことを考えすぎる。

でもそれは、別に嫌じゃなかった。



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