008話 総長、冒険者デビューと女神にお仕置きを
<伊月サイド>
「ラ・メール王国王都の冒険者ギルドへようこそ!」
くー!ついにラノベ定番の!憧れの!冒険者ギルドに来たーーーーー!!!
色々な定番イベントをやりたいところだけど【世界の正常】が最優先だよね、我慢我慢。
手っ取り早く強さを誇示してギルドマスターを下し、単純な冒険者共から女神を信仰させる。
そのために存在レベルの低い順から受付を済ませ、教会勢の存在レベルの高さを見せつける作戦だ。
うちの信者達は【教会に引き籠もったしなびたもやし】なんて言われているらしいからな、初手から存在レベル10以上を披露すれば強くなった秘訣に興味津々だろう。
幸いにも冒険者カードに血を垂らすと、名前と存在レベルが表示されるのだ。
さあ、周囲の者たちよ!驚け!そして女神の威光にひれ伏すのだ!
早速カード作成が始まると、ケイン、サラサ、セラ辺りでも
「初心者でこのレベルですか?教会の信者が!?」
と顔を引き攣らせている受付嬢。
さて、次からは30超えだ、ショック死するなよ。
「ひぎゃ!?しゃしゃじゅういいいいいいいちゃーーー!!!」
ゲンツの存在レベル31を見て、発狂した受付嬢。
「35!?35!?35!?35!?35!?・・・」
リサの存在レベル35を見て、リサの顔とギルドカードに交互に視線を動かし続ける受付嬢。
「・・・・・4・・・・・・・1・・・・・ぶくぶくぶく」
あ、メリッサの存在レベル41を見て受付嬢が気絶した。
「きゃ!メラン!?これは手に負えないわ、誰か!ギルマス連れてきてー!」
40台って確か英雄レベルだもんね。だけどギルマスも来るみたいだし目的は果たせそう。
「私はギルドマスターのシャイナと申します。これはこれはメリッサ様、未だに廃れた教会活動などに従事しているのですか?既に行き遅れですが国のためにも早く嫁に・・えっ!?41!年齢ではなくて存在レベルが、ですか?何をすればこのようなレベルに?」
こいつがギルマスか。どれどれ・・・
<ステータス>
名前:シャイナ(隠蔽:シャイネリア・レオンハル)
年齢:91歳
性別:メス
種族:竜王族
存在値:レベル33(隠蔽:レベル57)
スキル:竜化【劣化版】、波動拳:餓狼
称号:レオンハル王国10の強者
レオンハル王国?あ、こいつ隣国のスパイか?あとでじっくりと聞いてみよう。
容姿はオレンジの髪で背は155cm程、小太りの女性で可愛らしい顔をしている。
さあ、最後の締めは私だ。でもさすがに存在レベル10のままだとカッコ悪い。
少し力を開放して・・・存在レベル1000、盛りすぎかな?
まいいや、くくく、ギルマスよ腰を抜かせ!
「・・000?死者?あの、イツキ様は魔道具で隠蔽を?ならば一旦解除をお願いします」
はあ?0だ〜?不思議に思い冒険者カードを見ると
【山本伊月 存在レベル:000】って、三桁しかねーのかい!
「私の存在レベルは1000だよ『1000!?』だからゼロ3つなんだよ『それで000・・いえ流石にそれは冗談』シャイネリア『!?』・・部屋で話そうか?」
「・・・はい、ではこちらに」
隠蔽情報を暴いたので警戒心マックスだね。
ギルマスの室内に入った瞬間に「!?」ギルマスの顔を右手でガッチリと掴む。
「グダグダ話すよりこのほうが強さが分かり易いだろ?ほら、存在レベル57の腕自慢で解いてみ?」
「く!・・そこまで知って・・ならば!はあっ!竜王氣!」
ギルマスから赤黒い氣の奔流が沸き起こり、頭からは角、尻からは尾が生えてきた・・隠蔽の解除?それとは違うようだ。あ、これは竜化か。
【竜王氣】は発氣と違う、中途半端な竜化だ。それでも存在レベルが60になった。
これなら教会メンバーに発氣を教えたら存在レベルが更に10は上がりそう。
「はぁ!せい!だらぁ!ダダダダダダダダダッ!・・く、やあ!くそ!この!離せ!でやーーーーー!!!」
うーん、みな存在レベルが10以上になったので、森での修行より先に発氣を叩き込むか?
「何故だ!何故開放されない・・・こうなったら!死んでも知りませんよ!うぉぉぉぉぉぉっ、波動拳:餓狼!その体を喰い破り!・・・え!?効果なし?ば、馬鹿な!?」
でもな〜、強くなり過ぎてから戦闘訓練すると慢心が出そうだし・・やっぱりここは森の探索を優先するか。挫折も必要だよね。
「・・・ぜい・ぜい、はあ・・はあ・・・こ・・この・・あ・・(がく)」
「思考から戻って来て伊月・・・ギルドマスター失神してますよ?」
「あ!?忘れてた」
メリッサの指摘で我に返った。存在レベル1000 vs 60 こんなものかな。
「とりあえず、これで縛っておいて。隣国の王族みたいだから」
私の発氣を練り込んだ縄を生成、これならこいつにも切れんでしょう。
「分かりましたわ。目覚めたら女神の使徒にするために・・・調教ですね!腕がなりますわ〜!」
なんてメリッサは期待していたけど、そんなことにはならなかった。
目覚めた早々に下記の一行で話が済んだからだ。
「イツキ様!師匠と呼ばせてください!・・えっ!?女神様の聖女?神徒?強くなれるのでしたら喜んで神徒になります!」
こいつは竜族の王族で3女だそう。
10年以上前にレオンハル王国の武闘大会で【10の強者】になったが、10名の中でダントツの最下位だったそうだ。
悔しくて武者修行の旅に出て数年、体を鍛えまくったが全く強くなれず。
数年前から強くなるコツを得る為に冒険者が集うギルドの頂点になったそうだ。
ふむふむ、私が鍛えればレベル80は軽く超えそうだ。
ん?レベル80以上が聖人の域なのか?意外とチョロいな、聖人って。
そもそも、存在レベル=強さ、ではない。そこからみっちり仕込まないと駄目だね。
ふふふ、レディース設立当時もそんな感じでみんなと一緒に修行したっけ、懐かしいな。
注:あくまでも伊月個人の感想です。当時のメンバーは意図的に記憶から消し去る程のトラウマでした。
その後、冒険者ギルドでは女神教の連中が登録初日にギルマスを舎弟にしたと大騒ぎになったらしい。
今後、冒険者たちの間で恐怖と羨望の対象になる、冒険者集団【女神の忠臣】のデビューだった。
あ、もう存在レベル1000もいらないね。
戻してもいいけど・・女神にあげちゃおうか。
ほい!シャクティ!・・え?神獣達にも分けるの?
なら丁度いい、それならあれを実行してバカ女神を〆ようか、プールも構わないよな?
<女神マーキュリーサイド>
『今日のエネルギー補給はこれです!』
10日目からは衣装によるエネルギー補給となり、シャクティから渡された衣装はゴスロリというフリフリな衣装。私は未知の衣装にごきげんだ。
「いつもは白ですが、たまには黒の衣装もいいですね」
「お似合いです。美しいお肌が更に美しく見えますよ女神様」
「ほー、いいじゃねえか?今までマスクやキモいお面、股間に角とか変なの多かったしな」
フリフリひらひらな感じがとっても気にい・・
「ひゃ!」
「な、何だこのプレッシャーは?」
「こわい!」「敵か!?」
人族の住まう離島から超神クラスの波動が溢れている、びっくりしたけどけど怖いものではない・・これは伊月の力ね。
「心配無用よ。これは伊月の力・・やはり全部の力を渡してくれた訳ではないみたいですね。私とシャクティやプール、すべてを騙すなんて・・」
『にょほ!すごいすごい!見てくるね〜!』
シャクティが確認に行ってくれたので後で報告を聞きましょう。
この力、世界神に近いかな?確かにこちらの世界神は修行で長らく留守と聞いていますが、直接お会いしたことがあるので伊月ではないことは確かです。
そもそも世界神となると数百の天界を束ねる存在で、他の世界には行けません。
それに神たる情報を知らなかった伊月が世界神ではないのは間違いないでしょう。
これほど上位の神がいきなり生まれるとは考えづらいのですが・・・思い込みは厳禁。
格上とは言え伊月とは対等に是々非々でお付き合いするのが一番でしょう。
力の波動がようやく収まり皆で安堵していると、戻ってきたシャクティの中からねっとりした何かが溢れ出し・・ナニコレ!?
「ぐあ!」
「なにこれ!」
「「マーキュリー様〜!」」
「くそ!なんだコレは!」
ねっとりと現れたスライムのような物体達が私の友達、神獣達を取り込んでいく。
『にゅふふふ、神獣達、それは伊月からのプレゼント。受け取って女神様をがっつりと叱ってね、にゃはは』
・・・ん?叱って?どゆことシャクティさん?
きゃーー!!!いつの間にか私もスライムに!?
ここは7割方回復している神力で・・え、無効!?
『存在レベル990のスライムだよ、マーキュリーごときが振り払えるわけないじゃん、ぎゅほほほほ!』
「「「「「「990!?」」」」」」
拘束後はスライムが私達に力を与え続け、そのすべてを使い果たすまでスライムの体内で過剰な力を与えられ続けた。過剰な力の供給に皆はぐったりと疲れ切っていた。
しかし神獣達はその疲労をものともせずに、怒りと不信を隠さぬままに女神を取り囲んでいる。
力の供給と同時に、ある事を神獣達に伝えたのだ。
「先程の話・・本当なのですか?」
「事前に眷属契約していたら・・・金竜に互角に戦えたかもしれない?」
「おい!マーキュリー!伊月とシャクティの話は本当なのか!?」
「うぅっ・・・言われて見れば、確かにもう少し軽微な状況になってたかも?」
「ならなんで眷属契約をしなかったのですか?」
「そうだよ!」
神の眷属契約とは、一方通行で力を与えて従える事も出来るけど、信頼で結ばれていれば主従間で力の循環・増幅が可能になります。だけど・・・だけど・・・
「でもでも!だって!だって!みなと上下を決めるなんて駄目だよ!みんなとは対等のお友達でいたかったのーー!!!」
この期に及んでの女神の一方的な思い込みの主張が、女神をすべての災厄から守り抜くと決意している面々の矜持を傷つけ、ついに神獣達の怒りが爆発した!
「「「「「こんの、バカ女神がーーーー!!!!」」」」」
「対等に、と言われるのでしたらそれこそ!力をより発揮できる眷属契約をして欲しかったです」
「ゔ」
「あんなだせー負け方して俺の矜持は今もズダボロだぜ!」
「ぐ」
「眷属でも女神様が私達を友達と思ってくれていれば力の循環が潤沢に出来たのでしょ?なら女神様は私達を愛玩動物的に認識していたって事?」
「え!?・・それはちが・・わないのかな?・・結果的に自分本位だったのかも?」
しおれる女神に神獣達はトドメの言葉を突き刺した。
「「「友達ならばこそ、皆のすべてを一つにして戦いたかったです!」」」
「はうっ・・・!みんなごめんなさい!」
その後、一日掛けてこってりと絞られた女神様でしたが、その表情はどこか嬉しそうでもありました。