077話 総長、マッチポンプのラ・メール攻略【ゲーム世界編②:イツキの楽しくない力、発動】
<美の魔王 チワワ・デ・アルソーネ サイド>
我が国の正門前にイツキ殿の配下と思われる数多の魔物達が集合している。
その数、数千体は居るのではないだろうか。
現在は王の登場を待つように大人しく整列して待機している。
これは・・すごい光景だな。
すべての魔物が威風堂々とした佇まいで、ゴブリンすらも屈強な魔物に感じられる。
この魔物達が我が国を攻撃したら・・・国を守り抜く自信がない。
いや、この眼の前の魔物達、数千体だけならば被害は出るだろうが撃退は問題無く出来る。
今まさに、こちらに近づいてくるネームドとイツキ達を見るまではそう思っていた。
その面々の中で特に恐ろしく感じる存在は・・・
「なあ、ティム。あの【古老】に勝てるか?」
イツキ達の中で、ネームド【古老】からのオーラが強烈に、まるで肌を焼くように感じられる。
見た目も以前とはだいぶ違う。
以前は、貧弱な見た目とは異なり流麗で苛烈な攻撃をする魔物だった。
何度か戦ったことがあるが、実力は私のほうが上回っていて苦戦すれども撃退は出来た。
そう、出来たのは討伐ではなく撃退だ。
【古老】はとても知能が高く引き時も完璧で退治することは出来なかったのだ。
だが今は・・全身の筋肉がはちきれんばかりに躍動しているし、垂れ流されるだけの覇気も相当なものだ。
「・・・分からんな。それに娘にも苦戦しそうだ。親としては急成長はうれしいが・・・敵としては最悪だな」
む!?言われてみれば・・確かにシアが以前とは見違えている。
魔王軍直属【ナインガーディアン】内で、シアの戦闘力は序列7位程度だ。
前魔王の娘としての優遇は否定しないが、その秘めた素質はピカイチ。
あくまでも数十年後を見越しての序列だった。
それが僅か数日で・・今なら序列2位のバリボも相手にならなそうだ。
ネームドの【黒の裂虎】は黒い毛が艶やかに虹色に輝いているし【幻想のオロチ】は存在が希薄なのか、視点が朧げになり気を抜くと見失いそうだ。
それに、初見のあの女性騎士も普通ではない。
本人はもちろんだが武具からも危険な感じがする。
だが、それ程の猛者を率いるイツキと女神オーラルの二人(オーラルは元々感じなかった)は何も感じないのだ。
「おかしいわね?イツキ殿に強者の風格が感じられないわ。以前は本能に訴えてくるような危険な雰囲気があったのに」
「確かに・・もしや、他者への力の譲渡か?それなら魔物達の急激な強化も納得できるが」
「うーん、そんな感じでも無さそうだわ。駄目ね、もう少し様子を見ましょう」
友のために、ようやく本気モードになったイツキ。美の魔王達はまだそれを知らないのだ。
そして、その危険度をこれから体感することになる。
「遅れてごめんね。皆を鍛えていたら遅くなってしまったわ」
「いえ、私共もつつがなく(前魔王の殺害者達を)一掃出来ましたので。この姿も好評なのですよ」
やはり何も感じないわ。このまま攻撃したら簡単に首を取れそうだわ。
今すぐにでもイツキの首をはねて、女神オーラルをお救いしたい!
その衝動に駆られるが、焦っては駄目よ。
これから色々な角度から探りをいれていきましょう。
もちろん、そんな余裕を与えてくれるほど今のイツキは優しくない。
「で・・・様子見はどのくらいまで続けるのかしら?敵対するなら今すぐにでも屈服させるわよ?」
「「!?」」
バレてる!?え!?どうしてバレたの?・・そうだわ!
イツキ達に密かに接触する可能性のある存在が、一人居るじゃない。
イツキの動向を確認しに向かった【密偵】ティエス!あなた・・また寝返ったのね!
思わず本気の怒気を発してしまうが、イツキ達は涼やかに流しており気にもしていないようだ。
「ふふふ、迎えに来た彼女じゃないわよ。うちにも優れた密偵がいるの・・リボン!」
イツキが名前を呼ぶと【黒の裂虎】の尾に巻き付いていた【幻想のオロチ】が、イツキの右手に移動して巻き付く。
「はい、イツキ様。秘蔵映像集のお風呂①とトイレ①、どちらにしますか?」
イツキの声に答えた【幻想のオロチ】ことリボンちゃん(オーラル命名)が問いかける。
なに?お風呂?トイレ?脈略のない言葉だが、なにかいやな予感が・・今すぐ止めなきゃいけない気が?
「・・・流石にトイレ①のあれは可哀そうね。だからお風呂にしなさい。謎光線はしっかりつけるのよ」
「はい、では『シーン:お風呂①』・・スタート!」
リボンはイツキに返事を返すと、その頭の透明魔石から中空に映像を映し出した。
その映像には、私が全裸で体を洗っている(大事な部分は光で隠されている)映像だった。
あれ?これ、昨日の・・やば!
『ふんふ、ふっふ〜!今日は私の胸を・・』
即座に動いた魔王は、いきなり左側に居たティムの腹部に強烈な右蹴りを叩き込み「ごふっ!?」遠方に吹き飛ばしたのだ。
何故、突然そんな行動をしたのか?それは・・・
『ふんふ、ふっふ〜!今日は私の胸をさり気なくティムの腕に押し付けたわ!何度もね。その時のティムの焦った顔ったら、ふふふ可愛いわ・・これはイケるわね、なら明日はもっと・・』
美の魔王チワワ・デ・アルソーネにとって、裸を見られても美しき我が体を誇りこそすれ、恥ずかしがる事はない。
だが、こんな言葉を愛するティムに聞かれる訳にはいかなかった。だって恥ずかしいもの。
自分の美しさが全てだった魔王が、初めての恋する女子の感情に色々と振り回されているようだ。
まあ・・蹴り飛ばされたティムにしてみれば、実害以外何もないのだが。
「い・・イツキ殿!なんてものを見せるのですか!?あやうくティムにバレることろだったじゃないですか!それにトイレって言ってましたよね・・もしかして!?あの時の!?」
半狂乱になる魔王様・・あなたはトイレで何をしていたのでしょうか?
「気にするところそこなの?まずは『どうやって撮影したの』かを聞きなさいよ。教えないけどね」
ハッ!?そうだわ。私に気づかれずこの距離で・・こんな芸当は【密偵】ティエスには無理。
順当に考えれば、密偵はこの映像を放映している【幻想のオロチ】リボンの仕業でしょうけど。
【幻想のオロチ】の名の通り以前は幻影で敵を惑わして民を襲っていたのだ。
おそらくはその応用、もしくは進化系の能力なのでしょう。
これは危険ね。この底の見えない勢力には、もはや様子見すらも手遅れになる。
私の直感も『従順』一択。ここは諦めてすべて正直に話すべきね。
「分かりました。すべてをお話します。ですがその前に民の保護を確約していただけますか?特に【幻想のオロチ】は我が民を好んで襲っていましたので」
流石に、魔物達が100%従うことはないだろうが、ある程度被害は抑えられる。
そして、問題発生時はイツキ側で処分してくれるだろう。
その程度の認識だったのだが・・・
「あんた、そんなことしてたの?」
「美味しくはないけど、サイズもちょうど良くて飲み込みやすかったの。でも、苦しまないように瞬殺してから飲み込んでたよ(暴れられたら内蔵痛めるし)」
「ま、お腹が空くのは仕方がないわね。でも、これからは食べちゃ駄目よ」
「はーい!もう、あんなまずいのいらないもん!」
あれ?【幻想のオロチ】の行動にイツキ殿が驚いているわね。
なら、数日とはいえオロチの今までの食事はどうしていたのだろうか?
「その辺りは安心しなさい。私の配下に居る分には食事は不要だから」
そう言ったイツキは、魔物達に宣言する。
「あなた達!もうすぐ私の配下になるここの民達に悪さしちゃ駄目よ・・背いたら全体責任よ!全員への食事を止めるからね!」
「「「ひぇ!?絶対に守ります!」」」
「お前らもいいな!」
「げぎゃギャギャ(もう人間なんて食う気無いよ)」
「きゃええええええ(ここより美味しいものなどない)」
「だそうよ。さあ、話しなさい魔王・・内容次第では潰すわよ?」
いやいやいや、魔物達がただの一言で!?おかしいでしょ!
ここまで従順に従っているとは・・逆に危険すぎるわ。
約束などといっても、この方の気分次第で容易く覆されてしまうのではないか?
もはや直感が!などと不確かなことなど言ってられない。
民を守るためにも・・・ここで殺っておくべきだわ。
「・・・分かりました。これが答えです!」
瞬時に全身に魔力を巡らせ、右手の手刀に全魔力を収束させた渾身の紫紺の一撃をイツキの首にめがけて繰り出す。
イツキは全く反応出来ていない、いける!
必勝を確信した我が手刀は・・いつの間にか移動したのか?
ネームド【古老】により、その手首を掴まれた。
「あなたは・・とんでもない事をしてくれましたね」
・・・終わった。私の最高の一撃を・・容易く・・終わったわ・・ごめんねみんな。
だが、予想とは別の意味で現場は騒然となった。
「ど〜り〜?私の楽しみを奪った意味、分かってるわよね?」
イツキからは何も感じられないのに、私の最高の一撃を防いだ程の【古老】が、恐怖で震え汗だくになっている。
「で、ですが!?イツキ様が力を発揮されると言うことは・・あれなのですよね?また、あれなのですよね?」
「そうね、まだうまく収束出来ないからね。でも、これも修行よ」
そして、殺害を企てた私を糾弾する訳でもなく、なぜかシア達までイツキに対して騒ぎ出したのだ。
「おい!あれをやるつもりか!?勘弁してくれよイツキ!今朝も軽いの付き合っただろうが!そろそろ死ぬぞ?俺達」
「がるるるる〜っ!イツキ様・・あれ嫌い!だめ、やめて!」
「やると、ここの民達にも嫌われるよ〜」
「・・・そうね、みんなの気持ち分かったわ」
その言葉で、ほっとした空気が流れる。
え?私の反逆行為は?もしかして、どうでもいい攻撃?その程度の認識なの?
しかし、その直後に私の迷走している思考は、綺麗サッパリ消し飛んでしまった。
「だが断る!さあ、魔王!本気の勝負よーーーー!!!!」
その声を最後に・・そう、私達の全員の意識も消し飛んだのだった。




