076話 総長、マッチポンプのラ・メール攻略【ゲーム世界編②:美の魔王、足掻いてみる】
<美の魔王 チワワ・デ・アルソーネ サイド>
魔王国に転移で戻り、まずは前魔王シュティームを暗殺した者達の捕縛を行う。
まさかシュティームの魂が娘に憑依して敵の掃討の機会を狙っていたとは思わなかったけど、これは僥倖だった。
シュティーム・・・ティムの証言から魔王軍直属【ナインガーディアン】の内、5名が関与していることが判明したからだ。
知らなければ、きっと私とルクレイシアも油断して殺されていただろう。
帰還早々に、有無を言わさずティムと私の魔王コンビで下記の犯罪者5名を捕縛した。
序列2位 豪鬼:グルジア・バリボ(白鬼) 女 312歳
序列3位 聖星:エルメシアリユムギュポンメナスウムドパンプメーナコレスナスントス(ハイエルフ) 男 60歳
序列5位 閻魔:アロ(リザードマン) 男 7歳
序列6位 斬鬼:ゴドウィン(阿修羅)男 46歳
序列8位 密偵:ティエス(イタチ獣人) 女 32歳
犯行理由は、序列2位と3位の二人が、魔王座の簒奪を狙って行ったようだ。
バリボは300歳を超えるババアだ。前頭葉が老いて我慢が出来なくなったのだろう。
そう言うと、真っ赤になって怒り狂っていたので、ちょっとスッキリした。
残りの3名は、成り行きでお零れを狙ったようだ。嘆かわしい。
なお、残りの魔王軍直属【ナインガーディアン】4名は下記の通りだ。
序列1位 姫鬼:ルクレイシア(悪鬼) 女 16歳
序列4位 建魔:モリソン(ドワーフ) 女 79歳
序列7位 盾聖:ペリン(ロナシルア人) 男 15歳
序列9位 宰相:ロッラシエータ(子供族) 女 122歳
「みなのもの!姿は変わったが、私が【美の魔王 チワワ・デ・アルソーネ】の真の姿!ようやく【美】という言葉通りの姿に戻れたのだ!」
「「「おおーー!!!」」」
「ついに、あの忌まわしき姿からお変わりに!?」
「魔王の戯言だと思ってたのに・・惚れたぜ!」
「お美しい!もし偽物だとしても歓迎いたしますぞ」
「後ろに亡くなられたはずのシュティーム様が!?どういうことだ?」
その後。ナインガーディアンを捕縛した事情と女神オーラルに姿を戻して頂き、その配下になった話をする。
「女神オーラルは、今はヘビの姿だが人格者なので後悔はない。だが・・仲間のイツキ殿は危険だ。なぜなら隣国の獣人国を滅ぼせと命令されたからだ」
「なんですと!?」「ふざけんな!」
あの強者思想と放射能だったか?あの方は非常に危険だ。
だが、放射能を除けば力はそれ程ではない。ナインガーディアンでも十分に対抗出来る。
ならば・・この犯罪者達を差し向け、放射能の盾として使い、別部隊でイツキ殿を倒す。
そして、女神オーラルを我らの主神として祭り上げればいい。
ゲーム世界という話は気にはなるけど、私の前世の記憶にも悪魔に殺された記憶などない。
そもそも、スキル程度の力でこれほどの世界を瞬時に作り、それを維持出するなど納得出来る訳がない。
「そこでだ!犯罪者達に恩赦の機会を与える。お前達でイツキ殿を葬り、女神オーラルをお救いするのだ!」
「あ・・いいのか?話を聞くに5歳児だろ?そんな条件で魔王殺しを許されるのか?」
「こいつがそんな簡単な仕事を任せるわけがない。だが・・勝機なくば我らを使うわけもない」
「生き残るために、私はやるわよ!」「そうだな!」
よし、失っても惜しくない盾は準備出来た。
ならば・・・
「これからイツキ殿殺害計画の細部を詰めようぞ!」
「「「魔王様と共に!」」」
だが、約束の3日を過ぎてもイツキ殿達は現れず、それから更に3日が過ぎた。
「何かあったのでしょうか?不気味ですので【密偵】ティエスを向かわせます」
「そうだな。まさか魔物達に殺されたとも思えないからな。【宰相】ロッラ頼んだよ」
「はい、ですがある意味幸いです。【建魔】モリソンの王壁が間に合いそうですし。(おとりを使った)急襲作戦も練度は万全です」
「怖いのはあの放射能だけだからね。それもこの壁と(犯罪者の)盾で軽減できるはず」
全くもって無駄な足掻きを続ける魔王であったが・・・幸いにもイツキが喜ぶ方向に突き進んでいた。
一方で姿を現さないイツキ達は、というと・・・
<イツキ・ルノワール サイド>
「ねえイツキ、なんでこんな事になっているの?」
「さあ?私は何もしていないけど」
オーラルを含めた黒ブサ達を48時間みっちりしごいて最低限慣らすことが出来たので、その後はぐっすりと就寝。
爽やかに起床して、いざ魔王国へ!というところで数多の魔物達に囲まれていたのだ。
ゴブリン、コボルト、オーク、ミノタウルス、オーガの定番魔物以外にも無も知らぬ数多の魔物達に囲まれている。
森の中なので全容は不明だが、索敵するとその数は数千体に及ぶ。
その中で、ボス格と思われる黒王達と同格の魔物が3体存在した。
そのボス格達がこちらに近づいてくるが敵意は無い。
その姿は・・・
1体目は、2m程の黒地に白の模様のある黒虎。
皮膚の各所に色とりどりの魔石が輝いている。
2体目は、5m程の白いヘビ。
額には透明な魔石が輝いている。
3体目は、1.5m程の年老いた緑色のゴリラ。
普通のゴリラに見えるが、こいつが最強格。魔王も苦戦しそうだ。
そのゴリラタイプの魔物がこちらに話しかけてくる。
『強者様、我ら貴方様に服従いたします。その力の内にお加えください』
「なに?ここに入りたいの?」
『加われば、我らは更なる格と強さを得られます。必ずやお役に立ちますので・・何卒』
「はわゎ〜♡イツキ!イツキ!いいよね?仲間に!いいよね!?」
あ、オーラルの残念な美的感覚に合致したようだ。
「まあ・・・別にいいよ。でも許可なく生き物を殺しちゃ駄目だよ」
『ここ・・食べ物不要・・居るだけ・・元気・・楽園』
おおっ!ヘビも喋った!黒王達すら喋れないのに、この子も格が高そうだ。
オーラルもキラキラした目でヘビを見つめている。
あれ?ということは、この魔物達は私の謎空間に住むことになるのかな?
まあいいか。それに、これだけ居れば示威行為に使えそうだ。
ふむ、オーラルのペットになるなら貧弱な魔物といえど簡単に死なせる訳にはいかないね。
「じゃあ、まずは簡単に死なないように全員に発氣をレクチャーするからね!さあ、修行開始だー!!!」
「「「「がぁーーーーーー!!!」」」」
「(・・・ありがと)」
その気遣いに気がついたオーラルは、ますますイツキのことが大好きになるのだった。
そして、魔物達はイツキ謹製の発氣を得たことで、短期間で強靭な軍隊に育つのだった。
そう、遅刻の理由は・・・
打てば響くように強くなる魔物達を鍛えることに夢中になり、日程を大幅にオーバーしてしまったのだった。
<美の魔王 チワワ・デ・アルソーネ サイド>
「は!?・・・魔物が数千体!?しかも、ネームドも居るだと!?」
慌てて帰還した【密偵】ティエスの報告を聞き、絶句する魔王達だった。
「はい、魔王国周辺のネームド【黒の裂虎】【幻想オロチ】【古老】の3体を確認。イツキ殿と女神オーラルと思われる個体は魔物の王さながらでした。更には数百メートル離れていた私を知覚し『あ、出迎え?明日には行くよ』と思念波を送られました・・・あれと本当に戦うのですか?」
甘かった・・わずか1週間足らずでそこまで状況が変わるとは。
我らなら、有象無象の魔物など数が多くても敵ではない。
だが、短期間で強者を含めた魔物達が集まった状況が異常自体だ。
経緯と詳細が分からない状態で、無闇に手を出すのは危険だ。
ここの一手を間違うと魔王国自体が消滅するだろう。
「作戦を変更します。犯罪者5名はイツキ殿に模擬戦を申し込む。そこで全力で戦い皆を納得させる事で汚名をそそぎなさい!」
「「「はい!」」」「・・死なないで済むのなら」
「【宰相】ロッラ!襲撃は中止よ。歓待の方向にチェンジしなさい。『まずは様子見』これを国民に徹底しなさい!」
「はい、分かりました・・あの、私も模擬戦に参加しても大丈夫でしょうか?」
「え・・ロッラ戦えるの?なら希望者を募って欲しい。私も参加するからね」
「分かりました」
へえ、文官のロッラも興味深々なんだ。
これが吉と出るか凶と出るか?賭けにはなるけど、直感では正解を選んだと思う。
明朝、王壁の上からイツキ殿達の来訪を見守っていると、森の中から魔物達が軍隊のごとく整然と現れる。
「ねえティム。あれ本当にゴブリン?コボルトもなにか違う・・もしや特殊個体?」
いや・・あれだけの数の特殊個体が居るわけがない。
ということは・・・
「いえ、ただのゴブリンですが・・これは相当に練度が高い個体ですね」
やっぱり・・でも、それだとおかしい。
あの鍛え上げられた下級魔物達はどこから来たのだろうか?
私がイツキ殿達に会った際には黒王と雷帝はいましたが、他の魔物の影はなかった。
それと、私も手こずるネームド【古老】をどうやって配下にしたのか?
ただただ疑問しかない。
我らと別れた後にイツキ殿が力を示して仲間にしたのなら・・・私はイツキ殿の実力を見誤ったのだろうか?
だとすれば危なかったわね。でも、まあいいわ。
まだ敵ではないのだから、直接イツキ殿に聞いてみましょう。
その興味から、王壁を急ぎ足で降りてイツキ達を出迎えるのだった。




