069話 総長、マッチポンプのラ・メール攻略【ゲーム世界編②:魔王を魔改造する】
<イツキ・ルノワール サイド>
「イツキーーーー!!!あんたなんてことしてるの!魔王さんにあやまりなさい!」
何故か?黒鬼に死の恐怖を与えられたはずのオーラルがその上司の魔王を庇っている。
「何言っているのよオーラル、こいつは貴方を殺そうとした敵の首魁よ」
そう話しながらも『オーラルは殺されかけたことを全く気にしていないようだ』と気付き、怒りが少し収まる。
敵をも救う優しいオーラルを抱えて優しく撫でていると、更に気分が落ち着いて心が鎮まる。
「オーラルが言うならやめておくわ。どうせ数日で死ぬし」
今回は神として先輩であるオーラルの権能【和御魂】が勝ったようだ。
神の権能である【荒御魂】と【和御魂】は、それぞれの権能に干渉する効果がある。
【荒御魂】が神の怒りである一方で【和御魂】とは神の慈愛である。
【和御魂】主体の神は概ね善人を好み、気に入ったものには神の慈しみを与える。
明確なご利益がある訳では無いが、常に心が平穏で暖かく満たされた人生を送る。
優しさだけではなく、危険を顧みずに戦闘で相手を屈服させる事もあるが、概ね平和的に事を収め世界を平穏に導く。
だからこそ特に罪を犯していない魔王(オーラル視点)の状態を見逃すことが出来なかった。
「魔王さん、もう助からないの?」
「放射能を排除しない限り治療しても無駄ね。私なら放射能を排除出来るけど、そこまでする義理はないわ」
これはイツキを説得せねば!とイツキの首に巻き付いて、可愛らしい目でしっかりとイツキを見つめてお願いをする。
「助けてあげられないかな?イツキもこんな事するより魔王さん達と力勝負のほうが楽しいでしょ?前のゲームでは生き生きしてたもの」
曇りなきつぶらな瞳から放たれる慈愛が、イツキに影響を与えて『助けてもいいかも?』と思考の変化をもたらす。
なお、慈愛系の神々の多くはこれを無意識で行っている。
突き抜けた怒りと同様に、真摯で強い突き抜けた慈愛でないと神々の心を動かすことは出来ないのだ。
「うーん、まあ、オーラルがいいなら別にいいよ。でも、ちゃんと躾けるんだよ」
「最後までしっかり面倒を見るわ!」
ちなみに、黒王と雷帝の時もこのような二人のやり取りの末に仲間になっている。
明治のおばあちゃん気質で意固地なイツキをも(無意識に)操る【和御魂】とは・・恐ろしき権能である。
「もちろん、それでも逆らうなら・・もう何も言わないわ」
流石に慈愛系の神とはいえど【荒御魂】に近しい意識は持っている。
そのため切り捨てるラインはしっかりしている。
仏は3度目までは許すらしいが、戦神系イツキなら猶予など無く(あっても代償要)、慈愛系オーラルといえども2度目は許さない。
仏と比べて神の許容量は著しく低いようだ。
さて、魔王ちゃんはどう出るかしらね。
実は私もちょっと惜しいな、とは思っていたのよね。
「さて、オーラルに感謝して仕えると誓える?それなら助けるわよ」
「・・まおう・・は・・屈しぬ・・神・・だろ・・うと・・・な」
あら意外?断ってきたわ。まあ、女神の慈悲が分からない輩を部下にするのは危険だし、さくっとあきらめましょう。
でも・・オーラルがしばらく落ち込みそうなので、もうひとつだけ試してみよう。
「あ、そ。じゃあ黒鬼と一緒に病気で死になさい」
「え!・・ま・・待って、ティムと・・シア・・まで・・も!?」
あらあらあら?黒鬼の名前を出したら急に慌てだしたわ・・弱点ゲッ〜ト!
どんな関係は知らないけど迂闊ね、ここで一気に陥落させましょう。
「だってあいつも貴方と同じ症状だもの(黒鬼は1年は持ちそうだけど)。でも、貴方が味方だと確約出来ないと黒鬼を呼ぶ事すら出来ないわ。じゃあね、余生を悔いて死んでね」
さっさと立ち去ろうとすると、魔王が渾身の力を振り絞り私の足にしがみついてきた。
「ま・・まって!・・わかり・・ました。め・・女神・・さま・・おつか・・え・・します・・だから!」
「ふふふ、始めからそういえば良いのよ。それに・・貴方を女性に戻すことも出来るわよ?」
「・・え!?」
あら?一番食いつきが良いわね。
強靭な魔王の心の壁が、あっけなく陥落した。
気配で魔王を女性だと思っていた件だけど、私が男女の気配を間違えるわけがない。
魔王を見てすぐに分かったけど、矮小な体に無理やり押し込められた魂。
ところどころ魂がはみ出しており、体の動きも微細におかしかった。
そう、こいつは自身の体さえ戻ればもっと強いのだ。
だからこそ、この世界の最強の一角をこんな事で壊すのはちょっと惜しい、と思っていた。
「どう?3つも願いを叶えるのよ・・いえ4つね。いい条件でしょ?」
「は・・はい!・・せいし・・ん・・せいい」
「あー、それはもういいわ。神オーラルとの契約は成立したから。早速体を準備するわ。確認だけど今の体は不要なのよね?」
「は・・はい」
ふむ、それならばこの体を素体に・・・魂・・遺伝子・・よし!これでいきましょう。
ただ、神の力が無い状態の私一人ですべてを成すことは無理だ。
「オーラル!やるわよ!貴方の【魂鎧】で私達を覆って」
オーラルが作ったかまくらは、いわばオーラルの神域で奇跡を行うには最適な場所なのだ。
魔王が陥落した際も、オーラルの【魂鎧】内に居たので契約はスムーズだった。
「OK!神力の提供は任せて!・・なによ?『それだけ?』って目で見ないでくれますかー!」
「いえ、期待してるわよ」
私の【魂鎧】で覆った手で、魔王の魂を「ちょ!?」掴み「ぐべ!」引っこ抜く。
「オーラル、確保」
素早く魂に巻きつくオーラル。
「ぐふふふ、我の封印から逃げられると思うなよ、魔王め!」
・・・そういうのはいいから。真面目にやりなさい。
「はいはい、今度は魔力を頂戴」
「へいらっしゃい!松・竹・梅・オーラル、どれにしやすか?」
「梅」「って、オーラルいわんのかーい!」
かまくらで就寝中、オーラルは時々私の記憶を覗いているのよね。
オーラルが作ったかまくらは、さっきも言ったけどオーラルの神域。
記憶を読むくらいのことは簡単・・・だけど何故か?変な知識ばかり覚えるのよ。
「あ、魔王を殺さなかったお礼に左手の回転でプラズマが発生するようにしたわ。こっちのほうが便利でしょ?」
そして、たまーに役に立つことをするのよね。たまーにだけど。
「・・・ありがと。じゃあオーラルで頼むわ」
「まいど!・・あ、すんません、売り切れっす!」
「(怒)・・は・や・く・し・な・さ・い」
オーラルが魔王の魂から読み取った遺伝子情報を魔力で再現。
不要な体にエネルギーを供給しながら、不要な遺伝子を乗っ取り書き換える。
その作業はわずか20分程度、やっぱり神の魔力は便利よね。
すっかり女性の体に変化した魔王素体の心臓にオーラルの魂と接続して【強制命令】の楔を仕込んでおく。
まあ、魂での契約は成っているので不要なんだけど、黒鬼が従わなかった際の示威にする予定。
最後に魔王の魂を「ぎゃ!」掴んで、新たな体に「ぎょべ!」叩き込む。
「オーラル、いいわよ!」
「我が従僕よ!チワワよ!目覚めなさい」
「ちなみに、地球のチワワって犬なのよね」
私の記憶からチワワの情報をオーラルに読み取らせる。
「この犬・・・可愛くない。震えながら『私は弱者です』って、あざとくない?それに比べて、このブルドック?かわいい〜♡」
また不要な情報を・・・貴方の美的感覚ならそうだよね。
さて、魔改造も終了して淡く光る魔王の体、徐々に光量が減り発光が収まると魔王が目を開けた。
「すごい、力が溢れている。これ、以前の私より強いのでは?」
「元々の体より3割は能力高いわ。私が作ったのよ、それ位当然でしょ」
素っ裸で体の隅々まで確認する魔王。すると、頭の耳に気づいて手が止まる。
「あの・・お二方?この頭の上のたれ耳は何でしょうか?」
「犬の耳ね。貴方が無意識に無いものとしているけど・・尻尾もあるわ」
「うわっ!?理解出来ずに無意識にスルーしてました。もふもふ・・これ、リスの尻尾じゃないですか!」
「私達の好きなものをそれぞれ追加したわ」
オーラルの希望で犬の耳、私の希望でもふもふの尻尾を選別した。夜はこれを抱いて眠れるわ。
嫌がられると困るので人の耳と犬耳、4つの耳で周囲の感知が向上している事。リスの尻尾は筋力が強く非常に便利なことをアピールする。
「はぁ・・・分かりました」
「まだあるのよ。【獣化】を使ってみて」
「獣化!あの身体能力が上がるやつですか!?すごい!【獣化】!」
フェンリルのようなかっこいい姿をイメージして獣化する魔王。
だが、犬種はオーラルの趣味なので・・ブルドックだった。
「ぎゃー!ブルちゃんかわいい〜♡」
全長2m、茶と白の斑模様のイングリッシュ・ブルドックにしてみました。
「うううっ、なんてことでしょう・・よだれが勝手に・・これが神の試練なのね」
「ごめんね、あいつ趣味悪くて。まあ、あいつの念がこもっている分【獣化】の能力値はすごいと思うわ」
「ええ、元の姿に戻れただけでも行幸ですから。文句など・・ええ、文句などは」
そうよね、文句言いたいでしょうね。まあ、ここで我慢出来るところは好印象ね。
その後、魔王に呼び出してもらった黒鬼の治療と、黒鬼父の体の再生も行った。
黒鬼は魔王の父の代からの忠臣らしいので、黒鬼父はアメリカンブルドックに、娘のほうはパグに、それぞれ【獣化】を付加した。
え、忠臣関係ない?それはオーラルに言ってよね。
「みんなブルちゃんにしないと可哀想」って言ってたんだから。
精神が未熟な黒鬼娘は予想通り「なんじゃこりゃ、ふざけんな!」と暴れたが、力を取り戻した黒鬼父にお仕置きされた。
この中で大喜びしたのは「かわいいがたくさん!」という、オーラル一人だけだった。




