068話 総長、マッチポンプのラ・メール攻略【ゲーム世界編②:女神オーラル、イツキと対峙する】
<女神オーラル サイド>
「【魂鎧】かまくらでは自分自身だけ守れって言ったでしょ!こんな大きい奴らも入れたら膜が薄くなる。弱体は当然でしょ!」
私は今、イツキにがっつりと叱られている最中だ。
イツキと合流後にお互いの状況を話したのですが、その際に「黒鬼父にかまくらを壊された」という話をしたらイツキに激怒された。
でも、きつい言葉の端々に私を心配する心根が感じられるので、怒られていても心がぽかぽかと温かい。
「聞いてるの?オーラル。こいつらには発氣を付与して逃がす!貴方は私が来るまで一人でかまくらで待機!いいわね?」
「ふふふ、以後気をつけマッスル〜!」「あ?」
黒鬼の筋肉見てたから・・つい。
ぎゃ!?他愛もない冗談なのに枝に止め結びにされた。さらには・・・
「やめて火であぶらないで!」
「ほらほら、自分用のかまくら作らないと蒲焼になるわよ〜?」
こんな状況でもイツキといると本当に楽し・・くないわよ!イツキ〜!謝るからゆるして〜!
「まったく。優しさは美徳ではあるけど・・このゲームでは自分を最優先にしなさい」
「・・・分かりました。イツキに心配かけないようにします」
イツキの癖なのか?怒った後は非常に優しくなる。
黒蛇姿の私は、イツキに優しく撫でられてご満悦だ。
そして、イツキが心の底から真剣に私の事を心配している感情がこの身に染みてくる・・これからは間違いなく大切なものをしっかり守っていこう!
そう、心に誓うのだが・・イツキの方は真逆の思考をしていた。
<イツキ・ルノワール サイド>
『しかし、ゲームプレイヤーではないオーラル(他2体)を狙うとは・・・許すまじゲームマスター!』
オーラルたちに向ける慈しみとは別に、イツキの内面では怒りの暴風雨が荒れ狂っていた。
この一年の間、オーラルと共に過ごして、その心根をすっかり気に入っている。今では大切な仲間と認識している。
私を強敵に狙わせたのは身勝手に介入したゲームマスター、スキル自身だろう。
私だけなら問題ないが、私の大切な領域に土足で踏み込んだゲームマスターにはもう遠慮することなどない。
そう考えると【賢者の石】で新たに得た力は最適だ。私の枷は『戦闘で殺さない』なので、戦闘後に病気で死ぬ分には問題ない。
今後は必要な人材と、その他滅する人材をしっかりと選別していこう。
そう、仄暗い思考を巡らせていると『あら?』賢者の石たる左腕の蛍光色が黒く濁っていく。
逆に女神たる慈愛に満ちた思考をすると蛍光色が昼白色よりに変化する。
『へー、これって私の心象に影響されるのね?女神バージョンなら再生も出来そうね・・・ふふふ、これでオーラル達を魔改造出来そうだわ』
先程はオーラルを害そうとした黒鬼に怒髪天だったが、オーラル達を自分の実験台にする分には心の痛みはないようだ。
「さて、オーラルも反省した事だし・・そろそろ出てきなさい」
「???」「がう?」「ぶお?」
「や〜ん!せっかく幼女と戯れる獣達を楽しんでいたのに!イツキちゃんはいじわるね〜♡」
現れたのは、ゴスロリ衣装・靴・帽子すべてをショッキングピンクで揃えた、水色髪をツインテールにしている身長180cm程のマッチョなおっさんだった。
それを見た私は『女性の気配だと思っていたのに・・おっさん!?うそでしょ』と驚いた。
だが、のほほん女神のオーラルの感想は全く違っていた。
「!?やば!めっちゃかわいいわ♡史上最高の超絶美人きたー!」
おぞましいもの達がオーラルを慕う理由がこれだ。
あいつの顔、劇画調のゴ◯ゴだよ?ゴ◯ゴがツインテでゴスロリなのよ?
ほんと、美的感覚が最悪なのよね、この娘は。
「や〜ん!あなた分かってるわね。私が!美!の最先端なのよ!」
「ビシッとポーズを決めるその姿も素晴らしい!人族でこんなに美に溢れた存在がいるなんて」
ゴスロリ変態おっさんと黒蛇がきゃっきゃうふふと戯れるその光景を、しばし冷めた目で見ていた。
「で・・・あんたが魔王なの?」
「そうね、黒鬼の主であるのは間違いないわ。そう、美の魔王である私の名は【チワワ・デ・アルソーネ】よ!よろしくね!」
その瞬間、溜め込んだ怒りが爆発した!左腕の一部分の回転は超高速となり、イツキの体から3体の雷獣が現れる。
「黒雷龍、紫雷蜘蛛、黃雷虎 行け!」
黒雷龍はスピード主体、紫雷蜘蛛は絡めて主体、黃雷虎はパワー主体で戦闘を行う。ただし、オートではなくイツキが操作する。
「あら?魔法ではないようね。だけど・・貧弱〜」
黒雷龍が目にも止まらぬスピードで魔王に迫るが、動きを補足されてその首を掴まれて握りつぶされ霧散した。
黃雷虎がそのパワーで襲いかかるもワンパンで消滅した。
紫雷蜘蛛に至っては、からめ手を出す前に魔王の蹴りで霧散する。
だがこれは、イツキが仕掛けた罠だった。
霧散したと思われた電気エネルギーは魔王の周りに留まったままだ。それを一気に放電する!
「【フルバースト】!」
「きゃああ!」
電熱の嵐にさすがの魔王にもダメージがあったようだ。
「く!?・・面白い技をつかうのね」
「これからが本番だよ」
左腕の賢者の石を活性化させて、身体強化魔法の代用として体の全細胞を最大活性化させる。
「さあ、次で最後よ!死刑執行!」
足元がピカッ!と光ると同時に爆音がドーン!と響き渡る。
光でイツキを見失った魔王だが、そこは気配を辿って場所を特定する。
「光は上に飛ぶための子供だまし?」
「そうだといいわね」
イツキはというと、左の手の平を魔王に向けている。
何か来る?と警戒した魔王だが、左の手のひらをかざしたまま、魔王を飛び越えてそのまま着地した。
「???何なのですか?」
「これが、貴方達が死神の石という石の力よ」
その言葉を聞いた瞬間、ガクンと全身の力が抜けて膝をつき地面に転がる。
そして、胃からせり上がるものを遮ることが出来ず、地面に転がりながら嘔吐する。
「あ・・なに?・・これ」
「これが死神の石の正体。放射線よ」
「ほ・・・せ・・・ん?」
「あなたは徐々に体を蝕まれて1ヶ月後には死ぬのよ。最強を誇っていたあなたと黒鬼は病気で弱る、情けなくね。その前に暗殺されるかも?・・・オーラルを標的にした罰よ、惨めに死になさい」
イツキが賢者の石と言っていたのは、地球にあるウラン鉱石だったのだ。
強烈な放射線を浴びせられた魔王と、未完成の【破魔の雷光】を浴びた黒鬼はもう助かる見込みはない。まさに死神の力と言えるものだ。
本来なら、この世界では放射線は自身に吸収してエネルギーとしてのみ使うつもりだったが、仲間を害する有象無象にそんなブレーキなど必要ない。
「あははは!私の大切なものを攻撃するゲームに遠慮などしないわ。この力で・・私の怒りで・・すべて滅ぼす!スキルごとね」
世界を崩壊を厭わない突き抜けた怒りと、それをためらいなく実行出来る強靭な意思。
仲間一人が被害にあっただけで代償として世界を、すべての生き物の命をゴミのように抹殺出来る。そういうイカれた天秤・・それが神の怒りなのだ。
それに伴い前回の天界太神との戦闘で密かに芽吹いたきっかけが、神の力の一つが今回の怒りで開花した。
そして、これに反応したのか?魂の空間にいるはずの闇幼女【シャノワール】がイツキの前に姿を表した。
『お姉ちゃん、早くも【荒御魂】に目覚めたね。さあ【荒御魂の化身】である私を取り込んで・・・あと、魂に負けないでね。お姉ちゃんはお姉ちゃんのままであるべきだよ』
「ふふふ、分かっているわよシャノワール。でも、魔法研究はいいの?」
『分体を残して意思を共有するから大丈夫、あそこで楽しく過ごすよ・・・でも、まさか力でしかない私に意思が芽生えるなんてね!ある意味アリスちゃんのおかげだよ』
シャノワールと握手をすると、その手にすべてが吸い込まれていく。
だが、これでイツキに力が増えるわけではない。
膨大な暗黒属性の魔力は魂の空間に居るシャノワールに譲渡したままだ。
何が変わったか?それはシャノワールを取り込んだ瞬間に理解出来た。
「これでまた手加減の精度が上がったわね」
100の力を使えば済む天罰を、怒りに任せて1万の力で行使すれば周囲への被害が甚大になる。それでは世界の管理者たる神として失格だ。
ブチギレても冷静に相手の力量を計算して、その威力を発揮しても周囲は安全な状況に調整する存在こそが真の神なのである。
世界神が忠告した『周囲への配慮』とは、つまりは【荒御魂】の会得の事だったのだ。
【荒御魂】とは世界の管理者たる神の怒り、すべての生命に対する神罰執行の権能、そしてその許可証なのだ。
この力は、逆らうことの出来ない自然の暴威と同等かそれ以上のものである。
たとえそれが理不尽な内容でも、神の怒りを妨げる理由にはならないのだ。
まあ『どうなろうと俺知らね』と自由に力を使う神や、【荒御魂】を持たずに暴れ回る迷惑な神もいる。それが悪神と言われる存在である。
だが・・この【荒御魂】、神の怒りに対抗する権能も存在するのである。
それが【和御魂】である。
【荒御魂】が動的権能とするならば、その対局である【和御魂】は静的権能なのである。
「イツキーーーー!!!あんたなんてことしてるの!魔王さんにあやまりなさい!」
いきなり戦闘が始まり呆然としていたオーラルが魔王の危機を見て、慌てて魔王を【魂鎧】で守りながらイツキを制止する。
【和御魂】持つ慈愛系女神オーラルが【荒御魂】の暴威を行使するイツキの前に、毅然と立ち塞がるのだった。




