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066話 総長、マッチポンプのラ・メール攻略【ゲーム世界編②:刺客:黒鬼との戦闘(前編)】

<イツキ・ルノワール サイド>


山に入ってからのイツキは、山脈を走り回って修行に励んでいた。

朝も昼も夜も、全ての時間を使って6日間、必死で体をいじめ抜く。

そして7日目には、のんびりと食事をしてぐっすりと熟睡する。

食べ物については【完全消費】のおかげで、その辺の雑草でも味さえ気にしなければ栄養になった。

ただ、毒物についてはそうもいかず、オーラルと二人で定番の「「げらげらげら!!」」笑い茸等々で苦しむこともあったが【完全消化】を覚えてからは毒物すらも栄養になった。

その苦行を、なんと1年も継続しているのだ。

これはもう強さを求める変た(や!殴らないで!)・・強さに恋する麗しき乙女であろう。


「黒王に雷帝、今日はあの村で勝負よ」

「ふー、ふー、がぁ!」

「ぶをぉぉぉ〜」


そして、今はロナシルア大帝国領内に居る。

時折、山から村に降りて強靭なロナシルア人と勝負などをしているのだ。

そして、オーラル以外に2体の魔獣と一緒にいる。

黒王は漆黒の熊型の魔獣で全長は5mで腕が4本あるのが特徴。

雷帝は焦げ茶のヘラジカ型の魔獣だ。全長は8mで常時角に帯電している。

こいつらとは数多の死闘の末、ようやく仲間に・・・

などという萌えるストーリーではなく、縄張り争いをしている2体を黒蛇女神のオーラルが仲裁して連れてきたのだ。


「だって、可愛いかったんだもの♡」

「お前の【可愛い】は、人族にとって【恐ろしい】だからね!」

この2体は『愛らしい黒蛇は私達が守る!』と使命に燃えており、私への嫌悪感など微塵もない。

それ以前に、私を黒蛇の従者(乗り物)と勘違いしているフシもある。

まあ、ちょうどいいので修行相手にしているが、手加減してもらっても連敗記録更新中だ。

スピードでは互角なのだがパワーで負ける。更に魔法まで使われると手も足も出ない。


「ははは、ようやく見つけたぞ!」


突然、後方から悪意が爆発的に湧き上がる感覚に、慌てて前方に飛んで距離を取る。

現れたのは踊り子のような姿をした鬼・・黒く輝く角、黒鬼だった。見た目は華奢だけど・・こいつ強い!

私より反応の早かった黒王と雷帝の2体は、オーラルを連れていち早く逃げ出していた。

感覚の鋭いあいつらが脇目もふらずに逃げたという事は・・・あいつらより強くて、この敵の狙いは私って事なのだろう。


「魔王軍直属【ナインガーディアン】筆頭、悪鬼ルクレイシア。魔王様からの命令だ。とっとと死ね」

おいおいおい、いきなり魔王軍?ゲームバランスひどすぎでしょ。

わたち5ちゃいなのよ!

・・・これは確かにデスモードね。


「私はイツキ・ルノワール。1つ質問いいかしら?」

「・・・何だ、言ってみろ」

「魔王軍での序列は?」

「魔王様の次に強いぞ」

・・・無理ゲー。でもさ、体の芯から湧き上がってくるものがある。

これは強い敵への歓喜と・・決意?何の決意だろうか?

それに負ける気が全くしないこの不思議な感覚。まあ、やるだけやってみましょう。


木々を縫いながら移動して撹乱してみるが「鬱陶しい!」その言葉が聞こえた瞬間、周囲の木々諸共爆発して吹き飛ばされる。

「あつつ、全く手加減無しね」

吹き飛ばされただけで怪我はないようだ。

今度は気配を消し、土埃に紛れて黒鬼に近づきボディに一発入れるがダメージ”0”

そして、ぼこ!っと膨らんだ腹筋に弾き飛ばされる。

ゴロゴロと転がりながら体勢を立て直そうとするものの、迫りくる黒鬼に蹴り飛ばされる。

咄嗟に【魂鎧こんがい】を展開して身を守ったが、後方の木に「がは!?」叩きつけられた。


「あら?潰れてないのね」

痛みで動けない私の左腕をガシッと掴んで「グァ!?」握りつぶされた。

「あれれ?さっきの蹴りでは潰れなかったのに?」

不思議がって動きが止まった黒鬼に右ストレートと右上段蹴りを叩き込むが、ダメージは皆無。


「・・・考えるのは苦手。もういいわ、死になさい」

お腹に拳を叩き込まれる。直前に【魂鎧こんがい】でガードするも数十メートル吹き飛ばされた。

木々にぶつかりながら吹き飛ばされた為、地面に叩きつけられた時にはあちこち骨折している。

既に満身創痍の状況だ。

手足に集中して、黒鬼が来るまでに動くようにしないと!

少し焦りながら体の状況を調整していると、どこからか声が聞こえてくる。


『力が欲しくないかい?』


そんな声が聞こえたので、周囲を探ると濃厚な瘴気?悪霊?が私に語りかけてきた。

『勝ちたいよね?なら私にすべてを委ねなさい』

「あ・・おねが・・い・・・しま・・す」

まあ、そんな都合のいい話はないだろう。

嬉々として私を乗っ取ろうと瘴気自身が密集した所で、残る体力を顔と首に集中して・・・その瘴気を『!?』口に入れて飲み込んだ。


「助力ありがとう!私の栄養になってね」

『おのれ〜〜〜〜っ、しゅわ〜〜〜、きも・・てぃー!』

【完全消化】で瘴気を力に変えて、潰された左手以外の骨折程度の治癒を行う。

力は持ってないけど、既にある力ならそれを使って精密な操作も出来るのよ。

よし、これから反「ぎゃ!?」・・土塊が降り注ぎ左半身を潰された。

「よし、あったり〜!」

やられたわ。私にはこの岩をどかす力も残ってない。

だけど・・こんな状況なのに・・冷静で思考はクリアだ。

諦めること無く反撃の一手を思考加速・並列思考で紡ぎ出す・・訳は無く、解は詰みの一択のみ。

それでも・・こんな状況でも・・負ける気が全くしない。私って不感症なのかしらね?


「あ!?なんだ貴様ら!・・逃げたんじゃないのか?」

黒鬼の怒声が聞こえたので、周囲の気配を探ると・・逃げたはずの黒王と雷帝が戻ってきたようだ。

「イツキを死なすな〜!」

あのブルってる声は、オーラルね。意外と義理堅いのね、あの娘。

彼女達が与えてくれた時間を使って、反撃の一手をフル稼働で考え続け・・あら?


あ!?これよ!この石、この世界にもあったんだ!

くくく、これで反撃できそうだわ。


とりあえず力を補充するために、自身を押しつぶす石を食べることにした。


<女神オーラル サイド>


「いい?イツキが死んだら私も死ぬの。生きるために協力して、お願い!」

「ぶぉぉぉっ!」「がうっ!」


私はゲーム世界に取り込まれてからすべてを諦めていたけど、ゲーム世界を楽しむイツキを見て興味が湧いた。

どうせ抜け出せない。ならば、ゲーム世界でイツキと一緒に暮らせれば面白いかも。

そう、身勝手な思考でイツキをゲームに誘ったのだ。

だけど、イツキはクリアする気満々で私にも色々と配慮してくれる。

そして、この一年をイツキと過ごすうちに『この世界から抜け出せる』という希望を得ることが出来た。


「ふふふ、私がイツキを大好き、ということはイツキもおぞましい生き物なのよね〜?」

半年経った頃に、そう冗談を言ってみたら体を止め結びにされて大変だった。

でも、こんな些細なことが・・イツキといると本当に楽しいのだ。

イツキと一緒ならきっと何でも出来る。


「そう、貴方にだって負けないんだから!」

そう、啖呵を切ったところで・・想定外の・・イツキからの横槍が入る。


「おーい、黒鬼。この石どこにあったの?」

「あ?・・お前まだ生きてるのかよ。しぶてーな。今、忙しんだよ。ほら、そこの崖にあるだろよ。なんか知らんが後少しの命だ。こいつら潰すまで楽しんでこい」

「ありがとーー!」

そういって元気に走っていった・・え!?さっき死にかけてたわよね?黒鬼さんもそれでいいの?標的でしょう?

イツキの元気な声を聞いて安心感からか、急造して建てた掘っ立て小屋程度の火事場の勇気がガラガラと霧散してしまったオーラルさん。早々に自身の保身に走る事にした。


「ね・・ねえ黒鬼さん?まずはイツキを攻撃したほうがいいんじゃないかしら?ほら、上からの命令なんでしょ。あんなに元気だから逃げるかもよ?それに・・私って慈愛系の女神だし、か弱いのよ〜」

すっかり素の状態に戻ったオーラルはイツキを最安値で叩き売る・・・だが、これが大失敗だった。


「な!?お前女神なのか・・・くくく、ついに神との戦闘か!楽しみだ、喰らい尽くしてやるぜ!」

嬉しそうに舌なめずりをする黒鬼さん。

まずったわ!これが墓穴というものなのね。

きゃーーー!神様イツキ様・・イツキ助けて〜!

その頃、オーラルの最後の希望であるイツキはというと・・・


「ヤバいわ、これマジウマ!体中に力がみなぎってきたーーー!」

崖の石を美味しそうに食べていたのだった。



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