065話 総長、マッチポンプのラ・メール攻略【ゲーム世界編②:いよいよ修行の旅に】
<イツキ・ルノワール サイド>
メイドのウランが私の仲間に加わった。
何故かこの娘だけ私を避けることなくお世話をしてくれていた。
先程、本人からその理由を聞き、ようやく納得出来た。
予想だけど、私への好感度がオートで発する嫌悪感を上回ることで打ち消されたのでは無いだろうか?
ウランが感じるという匂い(魂との接続を最小限にしてみた)を消しても好感度は継続した。
ただ、ウランから『一瞬でも私の癒やしを奪うなんて!』と、めっちゃ怒られた。理不尽すぎる。
そうそう、魂の話だけど私の謎空間にいたんだよね。
まだ一方的だけど魂への語りかけを続けている。
その効果なのか、僅かだけどコントロールが出来るようになってきているので、これからが楽しみだ。
さて嫌悪感の考察を、この屋敷唯一の侍女でメイドを束ねるロアで試してみようかしらね。
彼女、ロアは20台で私の実母の実家(子爵家)から一緒にやってきた。どこかの男爵令嬢だとか。
学園でいじめられていて、唯一彼女を守った(最終的に伯爵令嬢に一緒にいじめられた)のが実母で、それ以来実母への忠誠心が高い。
そして、実母への死に際のクズ父の仕打ちで、私以外のゴミ家族とは仲が悪い。
比較的私への嫌悪の度合いが低いと思われるので試す対象として丁度良いだろう。
<侍女ロア サイド>
イツキ様を子爵家当主に!との思いがあるのですが、どうしても嫌悪感を抱いてしまう。
そのイツキ様が子爵家を飛び出してしまった。
ああ、リーズ。貴方の大切な娘を守れなかったわ。
あのクソからイツキ様を守るために子爵家にしがみついてきましたが・・何故お顔を見ると嫌悪を抱いてしまうのか。
自室で悶々としていると・・・
「ロア様、少しよろしいでしょうか?」
新人メイドのウランが訪れてきた。
そういえば、彼女はイツキ様への嫌悪感を微塵も感じていないようなの。
いい機会だわ、コツのようなものがあれば!と期待して室内に招き入れる。
「ロア、久しぶりね」
だが、室内に入ってきたのはイツキ様だった。
「い、イツキ様!?何故こんな場所に・・汚らわしい!は、早く出ていってください!」
意に反したこの嫌悪感、私は・・いったいどうすればいいのかしら?
「あら、主人の家族に対して随分なものいいね」
「く!・・申し訳ありませんが気分が優れません。お話はいずれ」
「貴方に秘訣を教えるわ。それは嫌悪感を上回る感情よ!」
「・・・は?」
こいつ・・いえ、イツキ様は何を言ってるのだろうか?うっとしいので早く出ていって・・ああ、またこんな思考が。
「詳細はウランに聞きなさい、じゃあね」
イツキ様が去り、落ち着いた所でウランから聞いた内容、嫌悪感を乗り越えるためにはそれを上回る強き想いを会得すればいい、という事を知る。
「つまり、ロア様の奥様に対する忠誠心はカス程度だったという事なんです」
「うきーーっ!!!なんですって!!!!」
「ひゃ!・・・と、イツキ様が言っておられました。本当ですよ!」
でも、確かに私の忠誠が低いということは間違いない。
奥様・・リーズを失ってからその悲しみと、瀕死のリーズの前に浮気相手とその子供を披露した子爵に対する憎しみが私のすべてだったから。
「ウラン、貴方の実家の商会を使ってイツキ様をサポートしなさい。金銭はすべて子爵家でいいから」
私が疎まれながらもクビにならないのは、財政管理もしているからだ。
その権限を使ってイツキ様を裏からサポートしましょう。
「はい!・・うひひ、家族にはイツキ様は『金のなる木』としてサポートさせますよ。うちの家族は『金儲け』に勝る感情などは持ち合わせていませんから。食事の時も『ウランよ、それを食べると銅貨5枚が消失・・ああ、罪深い』とか。もう全然美味しく感じないんですよ〜、私が生まれたのって、さる大商会から『取扱品の魔核を安売りしろ!』って脅されている時らしくて、だから『売らん』って名付けたって。可愛い末娘に対してですよ!本当にプンスカですよ〜!それにですね〜・・・」
「・・・凄い家族なのね(あと話しが長い)」
よし!目標が出来たわ。そしてイツキ様を子爵家の正統後継者にする事がリーズへの手向けであり子爵への復讐にもなる。これからツテを総動員して色々と動こうと思う。
まずは・・私達をいじめ抜いたフランソリ侯爵夫人ね。
フランソリ侯爵は軍部の筆頭格で清廉潔白で有名なお方だ。
彼女は今も侯爵にベタ惚れらしいので、過去のいじめを詳細に記した手紙をしたためれば言う事の一つや二つは聞いてくれるでしょう。
後日、フランソリ侯爵夫人ことマルリア・フランソリは、この手紙を見て恐怖に震える事になる。
<イツキ・ルノワール サイド>
ロアについては自力で克服するしか無いので放置ね。
私はウランの部屋に潜伏して、周辺地域の勉強を始める。
山狩が終了したところで北の山々に長期修行に出る予定だ。
ふむふむ、ルノワール子爵領は平野部の端に位置するのね。
東西南は平野で農耕が盛んだが、北側一体は山脈が連なっており、その先は未知。秘境扱いになっている。
一説には大陸の中央部を隔てる大山脈(裏山含む)があり、東西を分断しているとか。
山脈東側の地域には現在3つの国があり、北部一帯はロナシルア大帝国が戦争の末、支配している。
西側には子爵家が所属するキラルビーラ王国があり、東側にはリヴァイラ共和国が存在する。
ロナシルア大帝国はバリバリの軍事国家で、ロナシルア人は平均身長3m超の巨人族、身体能力が高く魔法も効きづらい戦闘民族だ。
幸いにも獰猛なロナシルア人同士でずっと戦争をしていたが、最近統一されたらしい。
次の目標はうちかリヴァイラ共和国か?はたまた内乱になるのかは不明。
リヴァイラ共和国は大陸の一部と周辺の島々からなる海洋国だ。
ロナシルア大帝国とキラルビーラ王国との境界に巨大なテーブルマウンテンがあり、そこから国内へ数多の川が流れ、湿地帯も多く農業には適さない、漁業中心の国である。
国民全員が魚人族で人魚に変化することが出来るため、敵に侵略されると身ひとつで海や川に逃げる。
そして、昼夜問わず水中からのゲリラ戦を展開、そのままネチネチと続けて敵を辟易させるのだ。
戦争が始まると数年単位で住まいに帰ってこないので、海の中に都市があるのでは?と言われている。
国民全員が水魔法が得意なのだが、使い方が非常に残念。
就寝中の敵将軍の股間部に臭い液でシミを付けたりと、戦闘より相手が羞恥に染まるような嫌がらせが大好物なのだ。
そのため、ロナシルア人からは「あいつらと戦っても面白くない」と、とても嫌われている。
キラルビーラ王国は人族の国で、女神様からのスキル授与の恩恵と魔道具製造に長けている国だ。
ロナシルア人は魔物同様に魔核を体内に持つのだが、ロナシルア大帝国とはその魔核を交易品として取引している。
キラルビーラ王国は温暖な気候で穀物も不作知らず、文化レベルも非常に高い。
ただ、兵士も魔道具とスキルに依存しているので、次に狙われるのはうちの国では?と言われている。
ふふふ、屈強なロナシルア人にリヴァイラの人魚、楽しみだな〜
スキル授与までの間は、ロナシルア大帝国に潜伏するのもいいかも・・その前にしっかり修行しないと。
結局、山狩が終了するまで1ヶ月掛かった。
あのクソ父は便器にこびりついたう◯この如くしつこかったな。
私はと言うと1日で情報収集が終了したので、明るいうちは魂や肉体との対話を行い、深夜は子爵領都内を修行場として縦横無尽に駆け回っていた。
体は普通の人族らしいけど鍛えればそれだけ身につく素晴らしい肉体だ。
魂との会話では【魂鎧】という技を得た。
今のところはちっちゃな盾を出すのが限界だけど、いずれは全身を包む鎧を作りたい。
肉体との対話では、必要な筋肉を鍛え体の動きを最小限に、更には力の流動をスムーズに出来るようになど、色々行った。
特に【完全消費】で排泄をしない体を作ることが出来たのが嬉しかった。
戦闘中にトイレは弱点になるからね。
「え!?排泄しない・・・ですか?私も会得したい!」
ウランにねだられたので、厳しく鍛えていたら【完全消費】だけでなく発氣まで会得してしまった。こいつ・・逸材じゃね?
もちろん(力の会得に制限はあるだろうけど)黒蛇オーラルもしっかり鍛えている。
だけど、すんなり発氣を会得して、【魂鎧】までも会得してしまった。
現時点で私より強いオーラルを戦闘時の前衛にしたかったけど・・・
「ひゃ〜!こわい!こわい!戦闘なんてとんでもありません!」
悪神のくせに、こいつは慈愛系の神だった。
しかも、心根が優しすぎて模擬戦時に相手に一撃をいれてしまうと「だ、大丈夫!?」とオロオロと心配して戦闘どころでは無くなるのだ。
「私は、皆が嫌うような生き物達に慈愛を与えていて・・いつしか悪神って呼ばれるようになったんです」
まあ、おぞましい者たちが女神の周りを固めていたら、悪神と思われるのも無理はないかな。
そのうち、女神を慕ってGやムカデ、毛虫やトカゲ等がウランの部屋を徘徊するようになった。
その御蔭で誰も近寄らなくなったので私は助かったけどね。
え!?ウラン?あいつは・・G達からの金貨の差し入れにご満悦だったよ。
<兵士A サイド>
就寝中、突然の足の激痛で飛び起きる。
ち、ムカデに噛まれたか。薬を塗らないとな。
ムカデの毒を放置すると、一週間ほど患部がしびれて動きが悪くなるので早めの対処が必要なのだ。
生活魔法でランプに火を付けると、その先の壁をカサカサとGが徘徊していたが、私の視線に気づき停止する。
さて・・・この状況をどう切り抜けるか、だ。
目を逸らせばこいつは逃げる。G は相手の動きを確認しながら自分の最善を決める「後の先」のスペシャリストだ。
そして逃げられると、いずれ部屋にある私物すべてを齧られる。
この世界のG は、日本の台所に現れるチャバネゴキブリと同じ容姿だが、食性が違う。
気に入った人族の匂いがこびりついた物、すべてが食料なのだ。その嗜好は剣などの金属までに及ぶ。
この部屋で見つけた、という事はこいつに気に入られたという事だ。
逃がせば時間を掛けて私物すべて齧られる、それはとても困る。
「誰か!Gが出たぞ!代わりに殺してくれ!」
目が逸らせないので応援を呼ぶことにしたが・・誰も来ない。いや隣の部屋からも・・女性の悲鳴まで聞こえる。あちこちから救援要請が聞こえるのだった。
G の大発生か!?俺はこれから・・どうしたらいいのだ!
<イツキ・ルノワール サイド>
「オーラル、なかなかやるじゃない」
「これくらいはね」
オーラルのお願いに答えた虫達の活躍で深夜の子爵邸は大混乱、夜警の兵士もいない。
ちなみに、ロアからの要望で姉のチョリンナには100匹の腹ペコG 軍団が、クズ父には30匹の毒撃ムカデ隊が、それぞれ派遣されたらしい。ちょっと見てみたかった。
「じゃあね、修行は欠かさずよ!ウラン・・それとロアも元気でね」
「「お気をつけて。お帰りをお待ちしております」」
二人に見送られながら、重い荷物を背負って裏山に向かって出発するのだった。




