027話 総長、マッチポンプのラ・メール攻略【ゲーム世界編:戦神教会設立】
<オーラル教会孤児院 マリナサイド>
「子供達のために頑張るわよ!シズク」
「ええ、ワガママで有名な公爵令嬢をいい気分にさせて・・たんまり巻き上げるわよ」
うっわ〜、笑顔が黒いわ。シズク本気ね・・これから来るお嬢様が少し可愛そうだ。
現在、この孤児院にはオーラル教会の関係者は居ない。
以前はシスターのリーズ様が孤児院を運営をされていたのです。
しかし、昨年リーズ様がお亡くなりなった際、オーラル教会へ報告に行くと驚愕の事実を知ったのです。
「リーズ?そのようなものは教会にはおりません」
「えっ!?そんなはずは・・」
「・・もう日が暮れます、女の子には危険な時間ですよ。送りますね」
孤児院までの移動中「教会でリーズの名前を出してはいけません」と、こっそり教えてくれたシスタースズナ様の話は10年程前に起きた大飢饉にさかのぼる。
その際に「せめて・・孤児達だけでも救いたい!」とリーズ様達が教会に訴え、積極的に行動を起こして孤児院を作ったそうだ。
だけど、オーラル教会上層部はそれが気に入らず、孤児院はリーズ様達の破門と引き換えだった。
その後は教会有志でこっそり支援していたけど、10年の間に教会内の支援者はスズナ様一人を残して教会を去った。
なぜなら・・・
「こっそり支援した方々は、冤罪を掛けられてみな破門にされたの」
「リーズが亡くなった事を知られたら・・孤児院自体が危ないわ」
「救済の女神様を奉るオーラル教会とは・・何なのでしょうね」
もう私達だけで頑張るしかないようです。ですがスズナ様は何故教会に残っているのでしょうか?
その後は15歳で孤児院の年長者だった私とシズクでリーズ様の仕事を引き継いだ。
寄付を募る際には、路地裏に連れ込まれ襲われそうになることも何度かあるし、娼館に強引に入れられそうにもなっけど、シズクと二人で乗り越えてなんとか運営をしてきた。
きっと、それはこれからも変わらないのだろうと思っていた。
だけど、その居場所を打ち砕くものが現れてしまった。カモだと思っていた存在に。
「この土地はオーラル教会に売り払ったわ。この孤児院は即刻破棄。更地にするからさっさと引っ越しの準備をしなさい」
私達の暮らしを潰す存在、それは戦神の聖女、イツキ・ヴィシャール・エッセリウ公爵令嬢だった。
ちょろい令嬢かと思っていましたが、どうやら考えが甘かったようです。
「あなたにそんな権限はないでしょう」
「ここは公爵の土地よ。リーズには貸していただけ。ふふふ、でも心配ないわよ。貴方達にはお似合いの土地を用意しているから」
こんな町外れの大した価値もない土地をわざわざ取り上げて別の土地?
・・・絶対ろくな土地じゃない。
もしかしたら魔物の森に放置されるとか!?
シズクも悔しげだが理は公爵側にある。でも言いたい!
やっぱり権力者はクソだ!
くそーーー!!!!騙された〜!!!
なにが寄付よ!なにが神よ!戦神だっけ?あのやろーーーー!!!!絶対殺してやるからな!
・・・って、先程は怒りをぶちまけて申し訳ありませんでした、戦神様、イツキお嬢様。
代わりの土地は、なんと公爵家の敷地内、公爵領で一番安全な土地でした。
しかも、建物をイツキお嬢様とソフィアお嬢様の二人であっという間に作り上げたのでした。
「どう?良い修行でしょ、ソフィア」
「はい!身体強化の発氣の使い方がだいぶ理解出来ました」
建物自体は簡素な丸太小屋なのですが、食堂や皆がくつろげる本邸、男女別々の就寝邸、料理や洗濯をする家事邸、お風呂?なるものがある風呂邸。
五棟の大きな丸太小屋が、しかも100人は生活出来る規模の建物でした。公爵邸広すぎ。
しかもその作り方が豪快、数キロ先の森の方から丸太が次々に飛んできて、それをソフィア様がキャッチしていき、その後はよく分からない速度と動きで組み上がっていきました。
それがわずか2時間ほど。魔法のごとく家が出来上がっていく様を、子供達がキラッキラの目で見ていた。
「イツキ様、ソフィア様、すっごーーい!」
「そうでしょ、特にお姉様はすごいのです!」
そして現在、私達はソフィア様とぜんざいなる甘味?を頂いている。
これが甘味・・めっちゃ美味!まさに至福の味だ。
この至高の味にシズクが落ちた。さっきまでの憎しみの顔など微塵も消えて、蕩けきった顔でぜんざいを食べている。
しかし、私の緊張はまだ解けない。
何故なら眼の前に全長3m程の魔物、シルバーファングが8体も居るから。
イツキ様が孤児院の護衛として連れてきたけど、シルバーファング達の子供達を見つめる目が餌を見る目なのです。
「・・・群れの仲間をそんな目で見るの?」
それに気づいたイツキ様がファング達を見ながら言葉を紡ぐと、何故かファング達はガクブル状態に。
背を向けるイツキ様の向こう側はAランクの魔物も恐れる死地のようです。お陰で窮地は脱しました。
「そもそも、その汚い体で子供達に近づかない。洗ってからね」
「ん?そういえば子供達も汚いね。みんなで風呂に行くよ」
「「「「はーーい(お風呂って何?)」」」」
ちなみに、うちの孤児院には女の子だけが6名、労働力になる男の子は引き取り手があるが、女の子は稀なのです。
女の子も12歳位になると引く手数多になりますが・・皆さんのお察しの通りなので、そちらの話は却下してます。
さて、イツキ様に連れてこられたお風呂なる場所・・そこは天国でした。
お湯に浸かるだけなのに、なんでこんなに心地良のでしょうか。
そして、お風呂でシルバーファング達と子供達を芋でも洗うように、慣れた手付きでじゃぶじゃぶと手荒く扱っているイツキ様は本当に深窓のご令嬢なのでしょうか?
私?いえ、もう洗いましたので「この垢は?」「・・・(泣)」
ぎゃあー!痛い痛い!皮がむける、ヒリヒリします!
シズク助け、あ・・もう被害にあった後でしたか。
既に全身真っ赤になって、全裸をさらしてぐったりしているシズクを見て・・諦めました。
体がヒリヒリして私達を含めて子供達も半泣き・・あ、シルバーファング達も涙目ですね。
ですが貴族であるソフィア様は流石に・・・
「貴族が汚いとかないわよ〜ソフィア?」
「うぅ・・」ソフィア様も半泣きで洗われています・・芋のように・・手荒く・・ガシガシと。
ですが、この手荒い洗礼を受けてしみる湯船に浸かった私達は魔物達とも仲良くなることが出来ました。
イツキ様いわく「裸の付き合いで絆が生まれる」なんだそうですが、絶対に違うと思います・・被害者の会的なものかと。
唯一、ナターシェ様だけが、しみる湯船でにっこにこなのが印象的でした。
「体の汚れは心の汚れにつながるの。明日から毎日風呂に入り汗を洗い流しなさい。命令を破れば食事抜きの上、私が垢の一つも残さずに念入りに洗ってあげるわ・・ソフィアもね!」
「「「はい!」」」「「「くぉ〜ん」」」「・・・はい」
絶対遵守の命令ですね、はい!絶対に逆らいません!
後に知ったのだけど【オールクリーナー】というイツキ様が開発した清潔魔法で体の不浄をすべて取り除けるらしい。
でも、知ったのはお風呂が大好きになった後だったので今更でした。
「さあ、身も清めましたので、戦神様に祈りを捧げましょう」
「「「はい!」」」
ふふふ、神は違えどお祈りなら毎日していましたし手慣れたものです。
Aランクの魔物達が守る安全な場所に住めて、食事の心配もない、身ぎれいに生活出来る、そして信頼出来るみんなとの生活、幸せな日々が始まるのです!
・・・と、言うようなうまい話がこの世にある訳がない。
脳筋イツキが考える戦神へのお祈りなど決まっている、それは強くなるための鍛錬!
そして神に捧げるものは、血の滲むような努力、飽くなき戦意と闘争心!
そして・・強くなったという結果だ!
「では、シズクと子供達はとりあえず腕立て100回、シルバーファング共はソフィア、マリナを襲え!」
「「「・・・へ?」」」
突然舞い降りた予想外の言葉に呆けている面々だが、恐怖の存在からの命令に魔物達の始動は早かった。
「「「がぁぁぁぁぁぁっ」」」
「ファングちゃん!お風呂での友情は?」
「うきゃー!お姉様〜!」
「「ぎゃ〜!!!!!」」
戦神教会孤児院という名のスパルタ戦士養成所が開校したのだった。




