020話 総長、マッチポンプのラ・メール攻略戦②(東都ザラデタン襲撃、後編)
<暗黒竜(伊月本体)サイド>
まったく・・発氣を覚えて少しは期待したんだが、あの紙装甲では女神の使徒には程遠い。
今度鎧でも作ってやるか。
さあ、次は騎士共だな。
ん?ミリエールも居るな。
侯爵の決意も嬉しい誤算だったし、基本こいつらは女神信仰厚き者たちなので適当にあしらっておくか。
更なる誤算は200名ほどの民達が
「女神様今まで申し訳有りません!せめて死んでお詫びを!」
と涙を流しながら武器を手に邸宅から出てきて騎士達と揉めている事だ。
信仰の芽が再び芽生えている。
ここは、この心意気を生かすべきだろう。
・・・シャクティ、プール。上手く出来るか?
『にょほほほ!私の出番はまだ先』
『そうだね』
ん?どゆこと?
お、そういう事か。空から・・女神の神獣が来るのね。
なら少し演技をして王都に逃げるか。
直上から黒鷲が超高速で降下してくる。
気づかぬ振りをしていると、その爪で私の皮膚をガリガリ削り、置き土産を残して再度上昇していく。
背中に乗っていたのは猿公か。
「私は女神様の神獣ムンバ!暗黒竜よ、これ以上の狼藉は我が主が許さぬぞ!」
思わぬ女神からの助力に侯爵邸宅の面々は大興奮だ。
いいね!女神信仰が大きく膨れ上がるのが分かる。
<女神マーキュリーサイド>
シャクティから
「面白イベントが明日あります、絶対見てね。きゅふふふ」
と言われていました。
御力も少し余裕が出てきたので(満タンに補充しても加護や天界への修復でガンガン消費される)ワクワクしながら下界を覗く。
すると・・金竜など比較にならない強大な竜がいたのです。
驚きすぎて一瞬全機能が停止しました。
しかも何処かの街を攻撃しだしたではありませんか。これは2度めの天界の危機!
「大変!すぐに救援にいかないと!シャクティ!伊月にも応援を要請して!」
ですが、慌てて下界に行こうとするも体が動かない。なんで!?
「にゃはは!伊月からの命令【私が許可するまで待機】しかと見ろ!だってさ」
え!?なんで伊月の命令が私を拘束でき・・あ!力を譲渡された際に何かされた?
・・・いえ違いますね。
受けた恩義が大きすぎるせいで逆らえないのです。
だから他神からの貸しはタブーなのです。
まあ、本当に危険値でしたので今回は仕方がありませんでしたが。
せめて・・せめて・・街が滅ぼされる前に救援を!
「ムンバ!みんな!私の代わりに・・守って!お願いします!」
泣きべそをかきながら懇願する私に、ムンバ達はにっこりと笑い頷く。
「心安らかに私達の活躍をご照覧下さいませ」
ああ・・私は素晴らしい友達を持ちました。
その時、胸がぽかぽかと暖かくなった。
初めての現象に疑問に思うが、今はそれどころではない。
「でも、危うくなったら逃げて下さいね!絶対ですよ!」
最悪、この友達を守るためなら天界を捨ててもいいかもしれませんね。
そんな気持ちになった・・・え!?
天界とは一心同体なので絶対に出来ないことなのに?
おかしなことを考えた私自身に失笑ですね。
生きとし生けるものすべてを平等に愛してきた天界神マーキュリーに変化が訪れている事に、本人はまだ気づいていない。
<暗黒竜(伊月本体)サイド>
猿公ムンバか、なかなか鍛えがいのありそうな神獣だね。どれどれ?
<ステータス>
名前:ムンバ(女神の従者)
年齢:なし
性別:オス
種族:神獣:猿公
存在値:レベル147(下級神の資格者)
スキル:超暴力
称号:女神マーキュリーの愛子
うふふふ、こいつは楽しそうだ。
ご馳走を前にまだ逃げるわけにはいかない。
「格上が相手。初手から全開だ!【超暴力】うっぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」
ムンバの毛が逆立ち赤く染まっていく。
まさに大爆発直前って感じで存在値も177まで上がってる。
バーサーカーみたいなスキルだけど、ギリギリ意志は保っているようだ。
その振るわれる拳、大気を断ち切りそうな蹴り。
一撃を浴びたら私でもダメージがありそうだ。
だけど、いくら強くなっても、強力な力でも、やはり動きが大きく荒い。
黒鷲はサポートで急降下攻撃をしてくるけど、私の皮膚に傷すら付けられない。
うむ、周囲の温度が上昇しているので、もう少しスキルが成長すれば全身に炎でも纏いそうだね。
そうなると軽々と避けることは難しいだろうけど、まだ未熟。
黒鷲については戦闘向きではないみたい。
タイミングを図ってノールックで発氣の腕で首を掴んで終わりだ。
そのまま腹部をぶん殴って吹き飛ばす。
ついでに発氣を与えておいたので、次頑張ってね。
「ジェルエ!?く、こ、このーーー!!!」
『だめだな、怒りで動きが更に悪い。もっとシャープに力強く・・こう!こうだ!』
粗いパンチにはカウンター気味に超高速ジャブを合わせてこいつの体力を削っていく。かなり頑丈だったけど、ようやくムンバがグラついたところでリバーブローを食らわせる。
「ぐあ・・ぎゃ!」
苦痛にゆがむムンバ、追い打ちでムチのようにしなった左足に雷属性を付与した蹴りを右脇腹に叩き込む。
蹴りの衝撃と雷魔法のスパークで大きく吹き飛ばした。
一瞬の静寂・・ふふふ、救世主の神獣が負けた、どうするお前ら。
「し・・神獣様を守れーーー!!!」
「これ以上女神様を裏切るな!」
騎士達が切りつけ、魔法を飛ばしてくる。
ミリエールは見違えたような動きをしている。
侯爵の【3重詠唱】は秀逸だった。
どれどれ、やり方は理解した。
並列思考を4重に操作して数多の魔法を、もちろん死なない程度に放っていく。
そういえば、ついに私も魔法を飛ばせるようになったよ。私を離れないエネルギー達に2つの命令を与えたんだよね。
①役立たずは不要。使えないやつは永久追放。
②戻りたいなら自分で戻って来ること。ついでに仲間も引き連れて来てね。
それでも動こうとしない奴らについては、エネルギーイーターで再吸収して風精霊に無造作に与えていったら、みんな素直になったよ。
もちろん後輩の指導もお願いしている。
風精霊は大喜び!私は魔法が使えて大満足!エネルギーは仲間は増えて出番が減る。
まさにウィン・ウィンだよね。
攻撃については民達も躊躇なしで攻めてくる。
だいぶ危なっかしいがいい目で攻めてくるし、なおも侯爵邸から次々と民の増援が現れる。
うむ、合格。なら、ここが引き時かな。
『ぐ・・・なんだ!?こ・・これは女神の加護か!?何故だ!こいつらを見捨てたのではないのか!マーキュリーよ、答えよ!』
はいシャクティ、任せた!
私と騎士達の間に、世界樹の根が複数伸び、騎士達を守るように配置される。
そしてシャクティが降臨
『にゅふふふ!信仰厚き民を女神様が見捨てることはない!』
周囲からは大歓声だ。決まったね!
『ぐむむ、シャクティまで。ここは分が悪い。王都攻略を優先しよう・・・さらばだ!』
逃げるように飛び立つと、後方で大歓声が上がっている。
・・・調子のいいやつらだ。
調子に乗らないように、最後っ屁で邸宅周囲に小規模の【殲滅光】を数発ぶち込んでから王都に移動した。
ふふふ、誰も死なせていないが、後方は阿鼻叫喚だったぜ。
<ザラデタン侯爵サイド>
ふぅ・・どうやら許されたようだな。
ギリギリ及第点というところだろうか?
攻撃に参加してくれた民達のおかげだろう。
みなボロボロだが死者はごく少数だ。
「神獣様、世界樹様、シャクティ様。女神様のお力をお示しくださりありがとうございます!」
『うむ、女神が今にも飛び出しそうでな』
「なんと!?不信心な我らにまでご慈愛を・・感謝申し上げます」
ぐぐぐ、阿呆な我らに対してここまで支援頂けるとは。
ここは女神様の心意気に応えねば、俺はもう獣以下の存在だ!
「皆様、私達は今までの不信心の贖罪のため王都に向かい戦います。ご助力ありがとうございました!さあ、みな行くぞ、暗黒竜を追うのだ!」
レオンハル様に頂いたオーブをかざすと、王都へのゲートが開く。
「最後の決戦だ!今度こそ・・女神様の戦士としてすべてを終わらせるぞ!」
「「「「「おおーーー!!!」」」」」
暗黒竜を追い払ったザラデタンの騎士達が主戦場へ向かう。
その後に大勢の民達数千の大群があとに続く。
民の中には、冒険者を始め、老若男女混合で戦地に向かう。
残った民達は、新たな魔物襲撃に備え、または崩壊した東都の修繕に向かうのだった。
<神獣ムンバサイド>
『ジェルエ、無事か?』
吹き飛ばされたジェルエを抱き起こすと、顔を苦痛に歪めていた。
『これはまずい、お二方、私は早々に引き上げます』
『ぴゅぱぱぱ、お疲れ様、送ってあげるね〜』
『ふう、全部終わったら女神様、しばらく口を聞いてくれないかも・・ふひゅひゅ』
『誰もかも等しく愛するなんて歪だよ、今回は考えを見直すいい機会』
女神側でも意見の相違があるようですね。




