017話 総長、マッチポンプのラ・メール攻略戦(決戦前日)③
<闇の神キュレィムサイド>
「ここまでに2年。ようやくです。やっとこの時が来ました」
森の中にある丸太小屋の中で、最高級の綿のような特殊な藁に包まれて惰眠を貪る闇の神キュレィム姿があった。
木の伐採はこの天界では禁忌なんですけど、これは問題有りません。
こちらは丸太小屋型の木なのですから活き活きしていますよ。
え?ご都合主義?知りませんよ、私は頂いただけですから。
思いもかけず、この時間、この場所に飛ばされてはや2年。
ようやく帰還の目処がたちました。
しかし、どうせ戻るなら盛大にしたほうがいい!
なんて思っていたところにこのお祭りです。
奮って襲撃戦に参加することにしました。
ふふふ、やるからには敵対勢力は全滅させますけど。
「キュレ様、起きておられますか?七冥魔将揃いました」
「キューレ、遊ぶ!」
「ミラ、だめ!」
外に出ると、私が2年間で1から育て上げた、新生:七冥魔将が勢揃いしていた。
え?旧七冥魔将?逆らったのですべて排除済みですね。
ヒューだけはアンデットとして生き残り、魔王再興なんてトチ狂っていましたけど教会勢力が殲滅してくれたようで何よりでした。
魔将に抑えられていた人々は部族単位で自由に過ごされておりますよ。
人族とは違い魔族はある程度の縄張りと自由を与え、適度な交流に制限するほうが問題がないようです。
「さあ、みなさんは明日の戦闘で有能さを披露して、女神マーキュリーの加護を得るのです」
みんな不満そうですね。
私の加護が欲しいのでしょうが出来ない理由があるのですよ。
「まずはヒドラ三姉妹、ジェーン、サーナ、ジョリー」
「「「はい!」」」
「貴方達はその不死性を生かして、縦横無尽に暴れまわりなさい。それこそ目に付く者を片っ端から弾き飛ばすの」
「マンティスホーリーソード、カジミール」
「はい」
「炎魔カマイタチ、ゲオルギー」
「はい!」
「二人はヒドラ三姉妹が跳ね飛ばした有象無象を切りなさい、でも殺してはダメよ。なるべく手足を狙うのです。失った手足は教会勢力が生やすので遠慮無用」
「拳聖ベアー、エミリー」
「おう!」
「あなたは弱そうな奴から場外にぶっ飛ばしなさい。弱者は戦場には不要です」
「オリハルコンスライム、ミラ」
「遊ぶの!?」
「違います。あなたは分裂してみなを守る盾になりなさい」
「ぶー!」
「最後に、ミミズ将軍、ガヴリーロ」
「主役の出番だな」
「ふう・・・あなたは非戦闘員でしょう。引き続き森の土壌改善に努めて下さい」
「・・・おう」
「あなたの部隊は世界樹を完全復活させるための鍵なのですから」
「流石俺様!」
数百匹の巨大ミミズが顔をだすと壮観ですね。
こら、ミラ!食べようとしないの。
「さあ、明日の決戦に備えて英気を養うわよ!」
「「「「おう!」」」」
魔物を狩って準備した、ずらりと並ぶ料理に目を輝かせる面々を優しく見つめる瘴気の塊。
「そういえばキュレ様ってどんなお顔をしているの?」
「そうですね、今日が最後ですから・・瘴気解除!」
瘴気を払ったその姿を見て驚く面々だったが・・
「臭くなかったんだ」
「そこ言う?」
ミラの一言で大笑いとなった。
その後、キュレィムは自身の真実を語り、改めて皆から協力を得るのだった。
<黒騎士サイド>
伊月ドッペル1号は悩んでいた。
「自分と戦いたいのはもちろんなんだけど、あの暗黒竜も魅力なんだよね。そして闇の神だっけ、どのご馳走から手をつけようか?」
内容はくだらないものだったが本人は真剣だ。
ちなみに暗黒竜が伊月でしかも本体だとは黒騎士は知らないのだ。
「黒騎士様。闇の神はぜひ私に!」
やつに殺されたことを思い出した百合香はやる気のようだけど、私の判断は・・
「だめ」
「お前は高貴なる闇の何たるかを暗黒竜との戦闘で学べ、後ろ向きな憎悪で戦闘する限りすぐに下卑た闇に落ちるぞ」
「・・・申し訳ありません」
謝りながらも薄っすら瘴気が纏わりついている、諦めてないな。
お前が下卑た闇に落ちた時点で私は見限るので、こいつの死が確定する。
どうしてもやりたければどうぞ!と冷たく告げておいた。
後悔なく生きるも滅ぶも自分次第、好きなようにすればいい。
「黒ゴブリン共、感じはどうだ?問題ないか。なら最終調整だ掛かってこい!」
群がる黒ゴブリン達を跳ね飛ばし、体術指導をしながら明日の決戦に備える。
<メリッササイド>
「女神様からの神託をお伝えします。明日、邪悪なる者共から我が国に襲撃がございます」
「くだらん!貴様らボロ雑巾教会の世話にはならん!私は英傑たる現人神ぞ!」
まあ、こいつはこう言いますよね。
メリッサは聖教皇の職務としてラ・メール王、つまりは馬鹿兄との謁見を行っている最中だ。
まあ、謁見後にこの国の実質的な指導者でもある宰相タオ兄様とお話するので全く問題がないのです。
通過儀礼みたいなものです。
言葉を聞くだけでも不快なのですが、しばしの我慢です。
ですが・・今日は【三聖人】が揃っています。
つまり、スルー出来ない者達も同行しているのです。
「くっさ〜!王の辺りから糞尿の臭いが漂って来ますわ〜!現人神様がお漏らしをされているのは?・・あのきたねー石像のようにwww」
「いえ、近衛騎士団長の淫獣父だと思います。実の娘を部屋に連れ込んで手籠めにしようとしましたからね。そんな鬼畜ですから腹の中から臭いのですよ」
・・・伊月、リサ。話が長引くのでここは大人しくして欲しいのです。
しばしの我慢ですよ、と事前に話していましたよね!
「き、貴様ら!・・まあ、いいだろう。実はなメリッサ、ようやく聖剣マキナの起動に成功したのだ」
「!?今までどの王が挑んでも起動しなかった聖剣マキナが・・ですか(この事態に・・なんでこいつこんなに運がいいのですか?)」
「そうだ、記録を遡ると千年は起動しなかった聖剣マキナが、だ。英傑たる現人神たる私の波動に反応したのだろう、わはははは!」
「たるたる、うるせー・・・でも、お前は使えないんだろ?英雄王様のぽっこり腹じゃな〜www」
伊月〜、スルーよ、スルー!
「ぐ!?・・私は指揮するものだ。駒が優秀であればこそ、私の神算鬼謀がより冴えるのだ!」
「その聖剣マキナは女神様から与えられたもの。結局女神様頼りなのに神託は無視なんですね」
リーサー!貴方まで。
「ぎぐがぎ・・やかましい!今すぐに出ていけーー!!!」
その怒号の瞬間に伊月がパチンと指を鳴らした。
何でしょうか?と思った瞬間
「ブリビリビリビッルブリブリrブイrブリリリイイイイ」
前方と天井、周囲の複数個所から・・ものすごい音が。
きゃ!王座の上から何か垂れていますわ。
「「うわ!・・くっさいので、失礼しまーーーす」」
ここは逃げ一手です。
やっぱり連れてくるんじゃなかったですわね。
でも、あのバカの真っ青で絶望した顔・・ふふふ、笑えます。
後で、何をしたのか伊月に事情を聞いてみたところ、伊月の召喚に立ち会った人達には例外なく神威に畏怖しており、伊月は潜在的な恐怖そのものらしいのです。
「あのパッチンでその緊張を一気に弛緩させたんだ。ぷぷっ、でもあの結末は想定外だよ。よっぽど怖かったんだね」
気が抜けて無様に気絶する姿を予想していたらしいのです・・実際にはあの大惨事でした。
「でもさ、この宰相。こいつだけは表向きの変化なし。なかなか見どころがあるね」
「お褒め頂きありがとうございます。ですが、今後あのような事はお控え頂けると助かります」
宰相タオ兄様からは召喚の時を含めた謝罪を、それこそ土下座での謝罪を伊月が受け入れたことで和解となりました。
「行動力のある馬鹿の世話は大変だよな」
あくまでタオ兄様個人との和解ですけどね。
「で、聖剣マキナとは?力の波動から本物と感じるけど、肝心の聖剣を使いこなせそうな人材が感知出来ないんだよね」
伊月の問いに、タオ兄様はまず剣について語りだす。
天地開闢時に他神より3振りの剣が女神マーキュリー様に送られたそうです。その剣とは・・
①宵闇剣デウス・・後に魔族最古の王国に与えられた魔剣。
②白炎剣エクス・・女神マーキュリー専用の天剣。
③神聖剣マキナ・・後に人族最古の王国に与えられた聖剣。
宵闇剣デウスは所在不明、白炎剣エクスは金竜戦時に消失、神聖剣マキナは使用者不在で永き時を眠りについていたそうです。
で、この国で保管されている聖剣マキナ(女神より下賜された際、神の名を取り聖剣となった)を伊月に対抗するための最終手段として活用することを思い立つ。
王の次男が聖騎士のスキル所持者だったので、ダメ元で与えたら起動したらしい。
なぜ、今起動したのか?という疑問には、神力を使って聖剣マキナとコンタクトを試みている伊月が回答をくれました。
「あ〜、こいつ聖属性吸収型だよ。王城で私が放った神威、それを吸い取って起動出来たのだと思う」
本当にクズ兄は・・どこまで運がいいのでしょうか?
「本当にあいつは・・今回の攻防前に無能な王として王座交代を計画していた。が、聖剣起動で王の権威が増してしまった・・さっき急落したが今回は間に合わない」
ですが、そんな状況をあっさりと覆してくれる存在、それはやっぱり伊月でした。
「ふーん、なるほどね〜・・・よし、繋がった!来い、聖剣マキナ。たっぷり力を与えてあげるよ。ほらゲート!ここをくぐって」
私は時空間操作のスキルを得ましたが、まだまだ修行段階のゲート。
それを既に使いこなしている伊月にちょっと嫉妬です。
「おい、アリス、タツキ、ムース、ラノベ定番の聖剣が見れるよ」
『楽しみ!』
空間が割れ、そこに出来た黒い穴から出てきたのは、金色に輝く短剣でした。
あれ?確かロングソードだったと記憶していましたが?
『うむ、我がマキナである!さあ、我のエネルギー源である男同士が組んずほぐれつの濃厚な『ぴー!』を見せよ!イカ臭い汁を浴びせよぉ!』
「「「・・・はあ?」」」
『これが聖剣・・R18指定剣では?』
『そこの髭達磨は・・じゅるり、いい尻だ・・受けだな。むほほ!四つん這いになり尻を出せ!・・む、相手がおらんではないか!これでは力が補充出来ぬ』
そんな剣を苦々しく見ていた伊月が聖剣を掴み力を与える。
返品するのですね、賛成です。
やはり力は枯渇していたようで神聖力を与えるとロングソードに成長しました。
剣身が白く美しく輝いています、これが聖剣。
・・・先ほどのやりとりがなければその御姿に感涙したことでしょう。
「キモいホモ剣はとっとと帰れ!あと私のワクワクを返せ!・・うりゃ!」
伊月が聖剣マキナをゲートにぶん投げると
『おおおぉぉぉっ!騙したなーー!!!!』
と叫びながら消え・・ませんでした。
ゲートに張り付き粘ってます、しつこい。
力はだいぶ戻ったのになんて恩知らずな剣でしょうか・・本当に我が国に天界神より遣わされ聖剣マキナ様なんですよね?